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55.結婚式の日
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ようやく祭壇までたどり着くと、お父様が軽くため息をついている。
今日は心配させないつもりだったのだけどな……。
貴族たちが見ているし、これ以上失敗しないようにしないと。
教会の音楽が鳴り響き、式の開始が宣言される。
緊張する中、お父様が式を執り行う。
「両者、前へ」
「はい」
「はっ」
「アントシュ国王太子ルーチェ・アントシュとベルコヴァ国第二王子アルフレッド。
二人の婚姻をアントシュ国王ダニエルが認める」
教会中に響くお父様の声。
これでアルフレッド様が私の夫となった。
実際に私が女王になるのはまだ先のことなので、
アルフレッド様の身分は王配予定者もしくは王太子の配偶者と呼ばれる。
お父様に渡された薄紅色の花束をアルフレッド様と二人で持ち、
教会の祭壇へと捧げに行く。
これは王族の一員となったアルフレッド様が精霊に挨拶にいくという儀式だ。
アントシュの王族になるには結婚するだけではなく、
精霊に認められなければならない。
と言っても、今は精霊をきちんと認識できるものは少ない。
形だけの儀式だと思われている。
祭壇の泉にはたくさんの精霊たち。
この花は精霊が好むと言われている花。
本当に好きらしく、泉に入れこむと精霊が喜んで飛び回っている。
ふいにゆるやかな風が吹いた。
教会の扉はしまっていたのに突然開いて、外からたくさんの花びらが入り込んで来る。
その花びらは教会中をひらりひらりと舞って、降り注ぐように落ちて来る。
「花が……」
「精霊が花びらを持ってきてくれたようです」
「これは精霊の祝福か……」
お父様が祝福と言ったことで、教会中から歓声が聞こえる。
「皆に伝えておきたいことがある。
今、見てわかったようにルーチェは精霊に愛されている。
この国はますます栄えていくだろう」
あちこちから驚きの声があがっている。
銀色の髪の伝説を思い出したものが本当だったのかとつぶやいた。
「だが、女王になれば過酷な仕事が待っている。
耐えられないこともあるだろう。
そんな時にアルフレッドだけではなく、家臣もルーチェを支えてやってほしい」
その言葉に誰からともなく頭を下げていく。
あっという間に、教会内の貴族がすべて恭順の意を示した。
「大丈夫だ、これからは俺だけじゃなく、みんないる」
「ええ、はい。そうですね、ありがとうございます……」
気がついたら頬を涙が伝っていた。
それを見たアルフレッド様が指で拭ってくれる。
ようやく王太子として認められた気がした。
夕方から結婚を祝う夜会が開かれ、アルフレッド様と私も出席した。
だが、高位貴族からのお祝いの言葉を聞いた時点で私だけ追い出される。
もう十八歳になったし、学園も卒業したのに、
いつまでも子ども扱いなのだろうかと思っていたら、
王太子の部屋にはリマをはじめとした専属侍女たちがそろっていた。
「え?どうしたの?」
「どうしたのじゃありません。ルーチェ様、初夜ですよ」
「初夜?」
「そうです。ですので、その前にお身体を磨かせていただきます」
「え?え?」
驚いているうちに浴室に連れて行かれ、どこもかしこもピカピカに磨かれる。
このままではのぼせそうだと思ったけれど、
皆の真剣な表情にもういいよとも言えずにいた。
そのせいか湯から上がった時にはふらついていて、
カリナが慌てて果実水を持ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「うん、ちょっとのぼせちゃったみたい?」
「すみません、やりすぎました。
つい、力が入ってしまって」
「うん、みんなが頑張ってくれたのはわかっているからいいわよ」
別に怒っているわけではない。
ただ、少し湯につかりすぎてしまっただけで、座っていればすぐに治る。
「では、夜着にお着替えいたしましょう」
「いつものとは違うのね?」
「今日は特別な日ですから」
「ふうん」
そんなものなのかと渡された夜着を開いてみれば生地が薄くて透けて見える。
「これ、役に立つの?」
「そういうものではないのです」
「そうなんだ」
どこか呆れた様子のみんなに、それ以上は何も言わずに着替える。
やっぱり薄くて寒い気がしたし、丈が短くて足も隠せていない。
「寒いですか?アルフレッド様が来られるまではガウンを羽織っていてください」
「ありがとう」
ガウンを羽織るとようやく落ち着いた気がした。
だが、もう準備は終わったと、全員が部屋から出て行ってしまう。
一人取り残されて、することがなくなってしまう。
ベッドにぽすんと寝転がったけれど、一人では眠れない。
「……アルフレッド様、早く来てくれないかな」
どのくらいたったのか、ようやくドアが開いた。
王太子の部屋に入って来られるのは専属侍女の他はアルフレッド様だけ。
どちらだろうと思って起き上がったら、
ガウン姿のアルフレッド様が寝室に入った来たところだった。
「良かった。一人で待ちくたびれていました」
「そんなに待たせたのか?」
「本なども全部取り上げられてしまって、何もすることがなかったんです」
「まぁ、そうだろうな……」
今日は心配させないつもりだったのだけどな……。
貴族たちが見ているし、これ以上失敗しないようにしないと。
教会の音楽が鳴り響き、式の開始が宣言される。
緊張する中、お父様が式を執り行う。
「両者、前へ」
「はい」
「はっ」
「アントシュ国王太子ルーチェ・アントシュとベルコヴァ国第二王子アルフレッド。
二人の婚姻をアントシュ国王ダニエルが認める」
教会中に響くお父様の声。
これでアルフレッド様が私の夫となった。
実際に私が女王になるのはまだ先のことなので、
アルフレッド様の身分は王配予定者もしくは王太子の配偶者と呼ばれる。
お父様に渡された薄紅色の花束をアルフレッド様と二人で持ち、
教会の祭壇へと捧げに行く。
これは王族の一員となったアルフレッド様が精霊に挨拶にいくという儀式だ。
アントシュの王族になるには結婚するだけではなく、
精霊に認められなければならない。
と言っても、今は精霊をきちんと認識できるものは少ない。
形だけの儀式だと思われている。
祭壇の泉にはたくさんの精霊たち。
この花は精霊が好むと言われている花。
本当に好きらしく、泉に入れこむと精霊が喜んで飛び回っている。
ふいにゆるやかな風が吹いた。
教会の扉はしまっていたのに突然開いて、外からたくさんの花びらが入り込んで来る。
その花びらは教会中をひらりひらりと舞って、降り注ぐように落ちて来る。
「花が……」
「精霊が花びらを持ってきてくれたようです」
「これは精霊の祝福か……」
お父様が祝福と言ったことで、教会中から歓声が聞こえる。
「皆に伝えておきたいことがある。
今、見てわかったようにルーチェは精霊に愛されている。
この国はますます栄えていくだろう」
あちこちから驚きの声があがっている。
銀色の髪の伝説を思い出したものが本当だったのかとつぶやいた。
「だが、女王になれば過酷な仕事が待っている。
耐えられないこともあるだろう。
そんな時にアルフレッドだけではなく、家臣もルーチェを支えてやってほしい」
その言葉に誰からともなく頭を下げていく。
あっという間に、教会内の貴族がすべて恭順の意を示した。
「大丈夫だ、これからは俺だけじゃなく、みんないる」
「ええ、はい。そうですね、ありがとうございます……」
気がついたら頬を涙が伝っていた。
それを見たアルフレッド様が指で拭ってくれる。
ようやく王太子として認められた気がした。
夕方から結婚を祝う夜会が開かれ、アルフレッド様と私も出席した。
だが、高位貴族からのお祝いの言葉を聞いた時点で私だけ追い出される。
もう十八歳になったし、学園も卒業したのに、
いつまでも子ども扱いなのだろうかと思っていたら、
王太子の部屋にはリマをはじめとした専属侍女たちがそろっていた。
「え?どうしたの?」
「どうしたのじゃありません。ルーチェ様、初夜ですよ」
「初夜?」
「そうです。ですので、その前にお身体を磨かせていただきます」
「え?え?」
驚いているうちに浴室に連れて行かれ、どこもかしこもピカピカに磨かれる。
このままではのぼせそうだと思ったけれど、
皆の真剣な表情にもういいよとも言えずにいた。
そのせいか湯から上がった時にはふらついていて、
カリナが慌てて果実水を持ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「うん、ちょっとのぼせちゃったみたい?」
「すみません、やりすぎました。
つい、力が入ってしまって」
「うん、みんなが頑張ってくれたのはわかっているからいいわよ」
別に怒っているわけではない。
ただ、少し湯につかりすぎてしまっただけで、座っていればすぐに治る。
「では、夜着にお着替えいたしましょう」
「いつものとは違うのね?」
「今日は特別な日ですから」
「ふうん」
そんなものなのかと渡された夜着を開いてみれば生地が薄くて透けて見える。
「これ、役に立つの?」
「そういうものではないのです」
「そうなんだ」
どこか呆れた様子のみんなに、それ以上は何も言わずに着替える。
やっぱり薄くて寒い気がしたし、丈が短くて足も隠せていない。
「寒いですか?アルフレッド様が来られるまではガウンを羽織っていてください」
「ありがとう」
ガウンを羽織るとようやく落ち着いた気がした。
だが、もう準備は終わったと、全員が部屋から出て行ってしまう。
一人取り残されて、することがなくなってしまう。
ベッドにぽすんと寝転がったけれど、一人では眠れない。
「……アルフレッド様、早く来てくれないかな」
どのくらいたったのか、ようやくドアが開いた。
王太子の部屋に入って来られるのは専属侍女の他はアルフレッド様だけ。
どちらだろうと思って起き上がったら、
ガウン姿のアルフレッド様が寝室に入った来たところだった。
「良かった。一人で待ちくたびれていました」
「そんなに待たせたのか?」
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「まぁ、そうだろうな……」
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