聖女が落ちてきたので、私は王太子妃を辞退いたしますね?

gacchi(がっち)

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11.発覚

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聖女様が男好きという噂は学園だけでなく社交界に広まってしまったけれど、
決定的に何かをしでかしたわけではない。

ただ、マルセル様がいなくなった後の学園に通わせるのは許可できないと、
聖女様も今年で卒業させてしまって、結婚式をあげることになった。

それを知った聖女様は嫌がっていたけれど、
結婚式は形だけのものだと聞いて渋々承諾してくれた。

「結婚式を先にあげるというだけのことですよ?
 それに、マルセル様は気が長いほうではありませんから、
 卒業して二年も待たせてしまうのはよくないかもしれません」

「ええ!そうなの!?……じゃあ、わかった。
 結婚式は形だけなのよね?」

「ええ」

「じゃあ、いいわ」

結婚式をしても二年間は白い結婚になる。
それでも王太子妃になることには変わらない。
聖女様と離婚して、違う令嬢を正妃にということはできない。

あと数か月このまま待っていれば問題ない。


そう思っていたのだが、二か月後。
昼休憩をマルセル様と一緒に取っているはずの聖女様が、
私の個室へと飛び込んできた。

「セレスティナ様!聞いて!」

「ど、どうしたんですか?」

「マルセル様の女だっていう令嬢が私に会いにきたんだけど!!」

「マルセル様の女?」

「ああ、こっちじゃそういう言い方はしないのね。
 マルセル様と身体の関係があるっていう令嬢がきたの!」

「どなたですか?」

「えっと……ジュリアンって言ってた」

「ああ、ジュリアン様ですか。本当ですよ」

「は?」

嘘を言うわけにもいかないので、そうだと答える。
伯爵令嬢のジュリアン様はマルセル様の愛妾だ。

「い、いま、本当だって言った?」

「はい。マルセル様の愛妾の方ですね」

「あいしょうって何?」

「妃ではないけれど、身体の関係がある令嬢のことです」

「はぁぁぁぁああああ?どういうことなのよ!」

聖女様のいた異世界には愛妾はいないと聞いている。
王族であっても妻になるのは一人だけだと。
だが、ここは違う。

「マルセル様は国王になる方ですので、妃以外にも愛妾を持つことが許されています」

「なんで!!」

「なんでと言われても、そう決まっていますので」

「……許さない。別れさせてやる」

低い声でうなるようにつぶやくと、聖女様は部屋から出て行った。

そのまま戻ってこなかったのでどうなったのかと思えば、
その日の夕方、王太子妃の部屋に入ったら聖女様が泣いている。

「あかり様……大丈夫ですか?」

「聞いて!マルセル様にあの女と別れてって言ったら、
 笑顔で無理だなって言ったのよ!」

「そうでしたか」

「少しも悪いと思っていないみたいなの!
 どういうことなの!?」

「……この国の王族は愛妾がいるのが当然ですので」

「私は嫌なの!別れてもらって!!」

「私に言われても無理です」

わぁぁあんと泣き出した聖女様に何を言えばいいのかもわからず、
その日は授業をせずに帰ることにした。

廊下に出た瞬間、こちらを見ていたルカスと目が合う。

「セレスティナ様、大丈夫でしたか?
 廊下にも聞こえてましたけど」

「ああ、ごめんなさいね。心配させてしまった?」 

「セレスティナ様に危害を加えるんじゃないかと……心配で」

「私の心配?」

「はい」

聖女様付きの護衛になったのに、相変わらず私の心配ばかりしてくれる。

「私は大丈夫よ。でも、聖女様はしばらく落ち込むかもしれないわ。
 マルセル様に愛妾がいることに気がついたみたい」

「ようやくですか」

そう言われるのも無理はない。
マルセル様は悪いことだとは思っていないから、少しも隠していなかった。

王宮からの行き帰りと昼休憩は聖女様と一緒だったが、
マルセル様は授業には出てこないで、午前と午後は違う女性と遊んでいる。

いつ気がついてしまうだろうかと心配していたけれど、
聖女様はヴェルナー様に夢中になっていたし、他の令息を追いかけていた。

だから、もしかしたら似た者同士で、
愛妾を知っても揉めないかもしれないと期待していた。

だが、残念ながら自分はいいけれど、マルセル様が浮気するのは許せないらしい。
知ってしまった以上、きちんと紹介しておいたほうがよさそうだ。

次の日、王太子妃の部屋に令嬢を八人連れて行く。

「何よ、この人たち。あ!この前のマルセル様の愛人がいる!!」

「あかり様に紹介しておいた方がいいと思いまして」

「紹介!?なんで?」

「この方たちがマルセル様の愛妾です」

「…………は?」

連れて来た八人が順番に挨拶を述べていく。
この者たちの代表がジュリアン伯爵令嬢なのだ。

聖女様に会ったのも、代表して挨拶に行っただけのようだ。
それを聖女様は喧嘩を売られたと思って怒っていたけれど、
ジュリアン様にそんなつもりは一切ない。

なぜなら、愛妾の世話をするのも王太子妃の仕事だからだ。

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