聖女が落ちてきたので、私は王太子妃を辞退いたしますね?

gacchi(がっち)

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17.呼び出し

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ルカスとの婚約が調い、うきうきした気持ちを抑えるようにして王宮に向かう。
まだ聖女への教育は終わっていない。
無事に結婚式を終え、王太子妃になるまで続けられる予定だ。

「本当についてくるつもりなの?」

「専属護衛になりましたから」

「そうだけど、あかり様にも会わなくてはいけないのよ?」

「何を言われても、セレスティナ様の婚約者になったのですから。
 聞き流せば済むだけの話です。
 それに聖女は俺に執着していたわけではないと思います。
 マルセル様が相手をしてくれないので、あてつけだったのでしょう」

「それはそうかもしれないけど」

馬車の行き帰りや、王宮内で何かあってはいけないと、
ルカスはどういっても王宮までついてくるつもりらしい。
そばにいてくれてうれしい気持ちもあるし、
ルカスの熱意に説得され、護衛としてついてきてもらうことにする。

いつもどおり王宮内で馬車を降りたら、女官が待ち構えていた。
何か問題でも起きたのだろうか。

「セレスティナ様、マルセル様がお待ちです」

「マルセル様が?」

これから聖女の教育なのに呼び出しだなんてどういうことだろう。
仕方なく呼び出された中庭に向かうと、そこにはジュリアン様もいた。
さきほどまで何をしていたのか聞く必要もないほど二人は密着している。

「マルセル様、お呼びでしょうか?」

「ああ、セレスティナか。あかりとの婚約はやめた」

「はい?」

「あかりとの婚約は解消して、お前に戻す」

「……え?」

何を言っているのかと思ったが、隣にいるジュリアン様まで頷いている。

「ジュリアン様、何があったのですか?」

「今日は私がマルセル様と過ごす順番でしたのに、
 あかり様が急に押しかけてきて、愛妾すべてと別れろと言ったのです。
 別れなかったら婚約はやめると。それでマルセル様は私たちを選びました」

「そういう理由……では、あかり様に確認してきますね」

「確認?しなくていいだろう」

もう聖女のことはどうでもいいというようにマルセル様は言うけれど、
本当にそうだろうか。

「あかり様と婚約解消してどうするおつもりですか?」

「どうするって、セレスティナが王太子妃になればいいだろう?」

「いえ、聖女規定により、マルセル様は王太子ではなくなります」

「なっ!?どうしてだ!」

やはりちゃんと勉強していないから、簡単に聖女を捨てようとするのか。

「あかり様に重大な過失がないまま見捨てるようなことがあれば、
 マルセル様は王太子ではなくなります」

「……それでも、セレスティナと結婚すれば、
 俺は公爵家を継ぐことができるだろう」

「あら、王太子でなくなるのは問題ないと?
 愛妾を持つ権利もなくなりますよ?」

「ええ?マルセル様、そんなのは嫌です!」

「あ、ああ……わかっている。ジュリアンを離すことはない」

ジュリアン様もようやくまずいことに気がついたようで、
マルセル様にしがみついて身体を揺さぶる。

「それに公爵家を継ぐのは私です。これは陛下にお約束いただきました。
 婿入りする者が愛人を持つことは許されません」

「そんな……では、王太子で居続ければいいのだろう?」

「ですから、あかり様を説得しなければならないのですよ。
 おわかりですね?」

「……なぁ、本当はあかりがいなくても大丈夫だろう?
 セレスティナならいつもどうにかしてくれていた。
 今回だって、どうにかできるんじゃないのか?」

それはできるかもしれない。議会にかけあって、聖女規定そのものを変えれば。
だが、それをする必要があるだろうか。

「そうですね、できるかもしれません」

「では、そのように」

「お断りします」

「は?どうしてだ。セレスティナは王太子妃になれるんだぞ?」

「いえ、なりたいと思ったこともないので、けっこうです。
 私がマルセル様の婚約者だったのは、聖女が落ちてくる可能性が高かったから。
 最初から婚約解消されることを前提に結ばれたものです」

「そ、うだったか?言われてみれば……」

私が婚約を嫌がっていたのを思い出したのか、渋い顔になる。
あの時は私も幼かったから、嫌そうな顔をしてしまっていて、
マルセル様にも嫌われていた。

「だが、その後セレスティナは俺のことを愛したのだろう?
 だから、愛妾の世話もきちんとしてくれていたし、
 王太子の仕事もきちんとこなしてくれていた。
 だったら、俺と結婚できるのだから頑張ってくれても……」

「マルセル様と結婚するなんて、絶対に嫌です」

「……は?」

「いずれ聖女が落ちてくると思っていたから耐えられたのです。
 愛妾を世話していたのは、私に手を出されたくなかったから。
 王太子の仕事をこなしていたのは、公爵になるための勉強でした」

「うそだろう……俺を愛していないと?」

「どうしたらそんな誤解できるのですか?
 マルセル様も私との婚約は嫌だって騒いでいたと思うんですけど。
 そんな相手を好きになったりします?」

「いや、だが……」

どうしても私がマルセル様を好きだったことにさせたいのか、
いろんな言い訳をしてくるけれど、そんなことはどうでもいい。

急がなければ、聖女は追い出されてしまうかもしれない。

「マルセル様、私はあかり様と話してきます。
 いいですか?マルセル様がジュリアン様たちと幸せに暮らすには、
 あかり様に王太子妃になってもらわなくては困るのです。
 ジュリアン様、マルセル様に言い聞かせておいてください!
 それでは、失礼します!」

「あ、おい!」

呼び止められたけれど、無視して聖女の部屋へ向かう。
予想通り、女官たちが片づけを始めていたので𠮟りつける。

「陛下の許可も取らないで何を勝手なことをしているのですか!」

「私たちはセレスティナ様のためにっ!!」

「あかり様と結婚しなかったら、マルセル様は王太子ではなくなるのですよ。
 私はもう、何があっても王太子妃にはなれません!」

「そんな……」

泣き崩れた女官たちは放っておいて、聖女の部屋に入る。
薄暗い部屋の奥で、聖女がぐすぐすと泣いているのが見えた。


「あかり様、話はできますか?」

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