聖女が落ちてきたので、私は王太子妃を辞退いたしますね?

gacchi(がっち)

文字の大きさ
4 / 23

4.勝ち取る

しおりを挟む
「で、最後の一つは?」

「それも私が女公爵になることに関係します。
 当主として動くために、婿入りする人と揉めるのは避けたいのです。
 ですから、結婚相手は自分で見つけたいと思います。
 お願いしたいのは、王族から婚約の申し込みがあった場合に、
 断ってもいいという許可をいただけませんか?」

「王族からの婚約の申し込み?
 それは王弟や第二王子から申し込まれた場合か?」

陛下の弟クリストフ様は二十五歳。
第二王子のヴェルナー様は十六歳。
どちらも結婚しておらず、婚約者もいない。

私がマルセル様の婚約者でなくなったとわかれば、
婚約を申し込まれる可能性がある。

「聖女様が落ちてきたことで、政局が大きく変わっていくことでしょう。
 そんな時に筆頭公爵家である私と他の王族が結婚してしまえば、
 その方を次の王太子にという声も出てくることでしょう」

「それもそうか」

「聖女様の後ろ盾となっている上に私が他の王族と結婚すれば、
 権力がクリンダ公爵家に集中してしまいます。
 非難する声がでればお父様は宰相でいられなくなるかもしません」

「宰相を失うのは痛いし、一つの家に権力が集中するのも困るな。
 わかった。セレスティナの言うとおりだ。
 セレスティナには王族以外の婚約者を自分で探すことを許可しよう」

「ありがとうございます。
 陛下、これからも我が忠誠は王家に。感謝いたします」

「ああ、長年の役目、大儀であった。
 これからも次期公爵として頼んだぞ」

「はい」

深く深く礼をし執務室を出ようとすると、お父様が笑っているのが見えた。
おそらく陛下に見えないように顔を背けているのだろうけど、こちらからは丸見えだ。
と言っても、私も笑わないように必死なのだけど。

執務室から出て、すぐに耐えきれなくなって足早に中庭へと逃げた。
後ろから慌ててルカスがついてくるのがわかる。

中庭に出て、奥にある植物園まで急ぐ。
誰もいない場所まで行くと、ようやく足を止めた。

「セレスティナ様、どうしたのですか!?」

「ふふふふ。ごめんなさい、ルカスを置いてきたわけじゃないのよ?」

「……いえ、すぐに追いつきますから大丈夫です。
 ですが、セレスティナ様のそんな笑顔は初めて見ました。何かありましたか?」

怪訝そうな顔のルカスに、これ以上ないほどの笑顔で伝える。

「マルセル様との婚約を解消して、公爵家を継ぐことになったの」

「……それ、大っぴらに喜んでいいんですか?」

「喜んでいたのは内緒にしてもらえる?
 うれしすぎて、どうしても笑ってしまって我慢できなかったの」

「私は何も見ていません。護衛として一緒にいるだけです」

「ふふふ。ありがとう。
 聖女様の後見はクリンダ公爵家が務めることになったから、
 私が聖女様にいろいろと教えることになるわ。
 今後も定期的に王宮に来るからよろしくね。
 ああ、でも。私の護衛はルカスではなくなるのかしら」

ルカスが私の護衛だったのは、私が王太子の婚約者だったからだろう。
それならルカスは聖女様の護衛に変わるはず。

同じように想像したらしいルカスが苦虫を嚙み潰したような顔になった。

「人のことは言えないけれど、ルカスはそんな顔していいの?」

「……内緒にしてください。
 なんとなくですけど、あの聖女は苦手です」

「一瞬しか会っていないのにわかるの?」

「魔力の相性だと思います。
 聖女の服を乾かした時に、何か違和感がありました」

「あぁ、異世界の人だから魔力の流れが違うのかもしれないわね。
 わかったわ。お互いに今日のことは内緒にしましょう」

「はい」

これほどまで世界が美しいと感じたことはなかった。
咲き始めた紫陽花も躑躅もはっきりとした色合いが心に染み入るようだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

追放した私が求婚されたことを知り、急に焦り始めた元旦那様のお話

睡蓮
恋愛
クアン侯爵とレイナは婚約関係にあったが、公爵は自身の妹であるソフィアの事ばかりを気にかけ、レイナの事を放置していた。ある日の事、しきりにソフィアとレイナの事を比べる侯爵はレイナに対し「婚約破棄」を告げてしまう。これから先、誰もお前の事など愛する者はいないと断言する侯爵だったものの、その後レイナがある人物と再婚を果たしたという知らせを耳にする。その相手の名を聞いて、侯爵はその心の中を大いに焦られるのであった…。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...