その手をとって、反撃を

gacchi(がっち)

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12.いろんな事情

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「さて、こんなおデブちゃんを相手にするのは気が乗らないんだけどさ」

「俺も。だけど、頼まれたからにはちゃんとしないとね」

「俺は意外と平気かも。少しやせた気がするし」

「そうだよな。平民になってろくなもん食べてないからじゃないか」

好き勝手なことをいいながら近づいてくる令息たちに、
さすがに自分ではどうすることもできない。

これ以上は無理だと思い、左右の指輪をコツンとぶつける。

「うわ!なんだ!この光!」

「まぶしくて何も見えない!」

指輪から発した光で令息たちが見えなくなっているその瞬間、
私の後ろから手が伸びてくる。

「ナディア、これはどういう状況だ?」

「この令息たちに無理やり連れて来られました。
 私を平民だと思っているようです」

「ふうん?ああ、この令息たちは見覚えがあるな。
 夜会の時に部屋に待機していた令息たちだ」

「あの時の!」

ということは、今回のこともロドルフ様かレベッカ様がしたこと?

「なんだよ、お前!どこから入って来た!」

「そのフードをおろせ!」

目が見えるようになった令息たちが騒ぎ出す。
本当にフードをおろしていいのかなと思っていると、
シリウス様がフードをおろしてしまった。

「お前たちは俺の弟子に何をしようとしていたんだ?」

「え……もしかして」

「うそだろう……この方って魔術師の塔の!?」

顔を見てシリウス様だとわかった令息たちは青ざめていく。
もう倒れそうなほど顔色を悪くした令息たちは一斉に言い訳を始める。

「いえ、違うんです!」

「ええ、令嬢の相談に乗ろうとしただけで!」

「そうです!話をしようとしていただけで!」

あまりにも同時に話すから、これ以上は何を言っているのか聞き取れない。
シリウス様ははなから聞く気がないようだ。

「ナディア、俺が戻って来るまで部屋で待っていろ。
 一人では訓練しないようにな」

「わかりました」

うなずいたら、令息たちが悲鳴をあげて宙に浮く。
シリウス様は令息たちをひとまとめにして押すようにしながら出て行った。


シリウス様と令息たちが出ていった後、私も廊下に出る。
いつのまにかたくさんの学生たちが集まってきていた。

私が令息たちに何かされそうなのがわかっていたのに、
助けることなく楽しんでいたのだと思う。
私が無事に出てきたのを見て、つまらなそうな顔で去っていく。

味方がいないのはいつものことだなと思っていると、
誰もいなくなった後で声をかけられる。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「え?」

「令息に連れて行かれたって……助けてもらえたんですよね?」

興味本位で聞いたわけではなく心配して無事を確認してくれているようだ。
めずらしいこともあるものだと、その令嬢の顔を見る。
見覚えがあると思ったら、私が婚約解消したのかと聞きに来た令嬢だ。

「ええ、大丈夫だったわ。先生に助けてもらったの」

「あれは先生でしたか」

「シリウス先生っていうんだけど、知らない?」

「はい。そんな先生もいらっしゃるのですね」

名前を出したのに気づいていない。
シリウス先生の正体を知らないのかもしれない。

「あなた、この前の夜会には出席しなかったの?」

「……はい。ドレスを用意できなくて」

「名前は?」

「ミリア・ポワズと申します」

ポワズ家は子爵家だっただろうか。
だから、爵位が上の誰かに命じられて私に聞きに来たのだろうけど、
今は誰かに命じられたわけではなさそうだ。

気を許すことはないけれど、名前を覚えておいてもいいかもしれない。

「心配してくれてありがとう。どうして心配してくれたの?」

「……あの、私も先妻の子で……ナディア様のことは他人ごとに思えなくて」

「ああ、そういうことなのね」

話を聞けばミリアも苦労していた。
子爵家の先妻の子ではあるが、母親の生家でもあるらしい。
母親だけでなく、祖父母まで早くに亡くなっているために味方がなく、
婿養子のはずの父親が子爵家を乗っ取ってしまっている。
再婚した後妻には連れ子がいるが実子らしく、父親は義妹だけを可愛がり、
ミリアは寮に入っているが義妹のルーミアは屋敷から通っている。

話を聞けば私に共感するのもわからなくはない。
ミリアも学園で孤立しているらしく、
私に話しているうちにぽろぽろと泣き出してしまった。

「申し訳ありません。こんな恥ずかしい話を聞かせてしまって」

「ううん、いいの。似たような境遇だものね。話したい気持ちわかるわ」

今は解放されているからそれほどでもないけれど、
あのままアンペール侯爵家にいたならば、同じように話をしていたに違いない。

ひとしきり話して泣いたせいか、ミリアは冷静になったようだ。

「あ、授業がありますよね。邪魔をしてしまって申し訳ありません」

「ううん、まだ先生戻ってていないから大丈夫」

「そうですか……話を聞いてくださってありがとうございます。
 それでは、失礼いたします」

「うん」

おそらくミリアも授業に遅刻している。
慌てて去っていくのを見送ってから奥の個別訓練室に向かう。
少し待っていたら、シリウス様が転移して戻って来た。

「待たせたな」

「シリウス様、さきほどはありがとうございました。
 自分ではどうにもならなくて」

「いい。そういう時に呼べと言ったんだ。
 何もなくてよかった」

「あの令息たちはどうなりましたか?」

「学園長に突き出して説明してきた。
 全員、三か月の謹慎にして家に帰した」

「謹慎ですか……」

これが重いのか軽いのかわからない。
だが、シリウス先生が学園長に届け出なければ、
令息たちは処分されなかったかもしれない。

「夜会の時も今回も未遂だからな。
 すべてを明かして処分すると、ナディアの評判にも影響する」

「私の評判なんてどうでも」

「ダメだ。自分の価値を自分でおとしめるな」

「……はい」

本当に自分の価値なんてどうでもいいと思っているけれど、
シリウス様が本気で怒っているのがわかって黙った。

「学園からの処分は軽いように見えるかもしれないが、
 クラデル侯爵家から令息たちの家に抗議する。
 全員が自主的に退学して、貴族から外れるだろう」

「え?……貴族から外れるんですか?」

「クラデル侯爵家に抗議されるような家は、どこからも付き合いを遠慮される。
 令息を切り捨てなければ、家そのものが終わる」

「そう……ですか」

やろうとしていたことを考えれば妥当な処分なのかもしれない。
だけど、クラデル侯爵家の権力のすごさを目の当たりにして、
本当に私が養女になってよかったのかと思ってしまった。

「もうナディアは気にしなくていい。
 邪魔なものがいなくなって訓練に集中できるな」

「はい」

そうだ。今の私がやらなくてはいけないことは訓練だった。
その日も時間いっぱい放出したけれど、赤三のまま。
それでも満足して訓練を終えた。



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