その手をとって、反撃を

gacchi(がっち)

文字の大きさ
19 / 55

19.からまれる

しおりを挟む
どうやらレベッカ様は王子妃教育を終え、ロドルフ様の私室に向かおうとしている。
逃げようにも、部屋の中に勝手に入ってしまったら咎められる。
仕方ない。挨拶してささっと通り過ぎよう。

「あー本当に腹が立つ。カナディル語なんて話せなくてもいいじゃない!」

いや、同盟国の中でも重要な国なのに話せないなんてありえない。
やはり語学で苦戦していたのか……。
ロドルフ様と結婚したかったのなら、バラチエ侯爵家で家庭教師を雇えばよかったのに。
私と無理やり婚約破棄させた後はどうするつもりだったんだろう。

そんな風に思っていたら、私がいることにレベッカ様が気がついた。
ただでさえ吊り上がっていた目が、さらに上がったように見える。

「どうしてあなたがここにいるのよ!」

「どうしてって……」

マルセル様とのお茶会だったなんて話したら、誤解されるかもしれない。
王族の居住区から出てきているし、私室だったことが知られたら、
側妃にと打診されたこともバレてしまいかねない。

「まさか、ロドルフに会いに来たんじゃないでしょうね!?」

「ええ?違うわ!」

「じゃあ、どうしてこんなところにいるのよ!」

「少し用事があって来ただけで、ロドルフ様は関係ないわ」

「用事?婚約者からおろされたあなたが?
 しかも休みの日なのに制服って、他に着るものがないの?
 そんな恰好で王宮をうろつくなんてみっともないわ」

「……」

マルセル様とのお茶会だというのに、私は制服で着ていた。
ロドルフ様の婚約者だった時に王宮から支給されていたドレスは、
アンペール侯爵家を出る時にすべて置いて来ている。

マルセル様はそれを知っていたようで、
招待状にも制服でかまわないと書かれていた。
だから制服で来ても問題はないのだが、それを説明することもできない。

レベッカ様は王宮から支給されたと思われるドレスを、
見せつけるように前に出る。

「最近、シリウス様に迷惑をかけているようだけど、
 クラデル侯爵家の血筋だからってわがまま言わないほうがいいんじゃない?
 父親にも見捨てられた、ただの役立たずのくせに」

「お父様に見捨てられてなんかいないわ」

「嘘よ。アンペール侯爵家を追い出されたくせに」

アンペール侯爵家の籍を抜いたのはシリウス様だからお父様は関係ない。
たしかにこれまで義母とジネットに虐げられても助けてもらえなかったけれど。
それもモフロワ公爵家の手の者のせいで、
お父様は領地から出られないようにされていただけ。

今はクラデル侯爵家に保護されているが、
お義母様やジネットたちには知られないようにしているので、
レベッカ様もわかっていない。

「まさかわざわざ王宮まで来たのは、
 ロドルフの婚約者に戻ろうとしているんじゃないでしょうね!
 教師たちが厳しいのも、あなたが何かしたんでしょう!」

「教師たちは私にも厳しかったわ。
 それに婚約解消をお願いしたのは私の方よ。
 だから婚約者に戻りたいなんて絶対に言わない」

「は?ナディアからお願いした?ふざけないで。
 あんたなんかがそんな生意気なことしていいわけないでしょう!」

しまった。よけいに怒らせてしまった。
でも、言わずにはいられなかった。
ロドルフ様との再婚約を求めているなんて噂になったら困る。

「レベッカ様はロドルフ様と結婚したいのでしょう?
 邪魔な私がいなくなって喜べばいいじゃない。
 もう二度と関わったりしないから安心していいわ」

「その態度がむかつくのよ。
 役立たずなんだから、おとなしくしていればいいのよ!」

レベッカ様が手を振り上げるのを見て、両腕で顔を庇おうとする。
令嬢の力だとしても頬を叩かれるのは痛い。
衝撃にそなえていたら、後ろからぐいっと引っ張られた。

「え?」

「叩かれていないな?」

「あ、はい」

レベッカ様が振り下ろした手は私に届かなかった。
シリウス様が後ろに引いてくれたからだ。

そのせいで抱き寄せられているような形になって、
シリウス様を振り返るように見上げる。

「どうしてここに」

「危険が迫っているとミリアが判断した。
 何かあったら俺を呼ぶように魔術具を持たせておいた」

「ミリアがシリウス様を呼んだのですか」

ミリアが満面の笑みを浮かべている。
絶対に私から離れるなと言われていたのはこのせいか。

「え?……どうしてここにシリウス様が」

上ずったようなレベッカ様の声。
見れば、真っ赤になってシリウス様を見つめている。
そういえば夜会の時もシリウス様に見惚れていたのを思い出した。

ロドルフ様がいるのに、シリウス様の顔に魅かれるらしい。
たしかに整った顔立ちだと思うので理解はできるが。

シリウス様はレベッカ様が真っ赤になっていても興味はなさそう。
冷たい目というよりか、にらんでいるに近い目でレベッカ様を見ているのに、
レベッカ様は気がつかないようでシリウス様に微笑んだ。

「シリウス様にお会いできてうれしいです。
 これから休憩するのですが、ぜひシリウス様もご一緒に」

「俺はナディアを迎えに来ただけだ。お前に用はない」

にべもなく断られて、レベッカ様の微笑が消える。

「シリウス様、どうしてそのようなものを庇うのですか!」

「それは弟子なのだから当然だろう」

「どうしてナディアなどを弟子に。ただの役立たずなのですよ!」

「ナディアが役立たず?それはないな」

あっさりと否定されて胸が温かくなる。
役立たずじゃないと当然のようにシリウス様が言ってくれるのがうれしい。

「シリウス様、ナディアではなく私を弟子にしてください!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...