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32.クラデル侯爵家からの手紙(シリウス)
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試験の結果発表から二日後。
いつものように草原でナディアに訓練させていたら、
青い紙鳥が飛んできた。
急に現れた鳥が俺の肩に止まったのを見て、
ナディアは大きな目を見開いて驚いている。
「シリウス様、その鳥は飼いならされているのですか?」
「紙鳥といって、連絡用の魔術だ。
クラデル侯爵家から連絡が来るときはこれでよこす」
「この鳥が魔術なのですか?」
「普通の鳥のように見えるだろう。
だが、こうして受け取り側が魔力を流すと手紙に戻る」
紙鳥に魔力を流すとぱっと手紙に変形する。
「わぁ、手紙になりました……すごい」
「これはクラデル侯爵家と魔術師の塔の管理人の間でしか使わない。
赤は緊急、白は通常の仕事の依頼。
他の色で来る場合は緊急ではないが重要な場合だ」
「青ということは重要なんですね」
「おそらくな」
手紙を読んで大きく息を吐いた。
どうやらめんどくさいことになっていそうだ。
「何か困ったことでも?」
「王宮とバラチエ侯爵家から連絡が来ているそうだ。
おそらく学園の退学についてだろう」
「退学を取り消してほしいということですか?」
「多分な。だが、王子の方は取り消すことも可能だが、
バラチエ侯爵家のほうは俺に言われても無理だ。
だが、直接会って説明しなければ納得しないということなんだろう」
負けたほうが退学だなんて言い出したのは自分たちの方なのに、
実際に負ければこうやって取り消そうとする。
本当に愚かなことだと思うがナディアに直接何かされるのも困る。
仕方がない、一度行って話を聞いて来るか。
「今日の授業はこれで終わりだ。
クラデル侯爵家に顔を出してくる」
「わかりました」
「何かあればすぐに呼び出せ。いいな?」
「はい」
俺の身体に抱き着いてくるナディアの背に手を回す。
身体のどこかにふれていれば転移はできるが、
万が一、途中で手を離されると危ない。
いつも通りに転移して寮の部屋にナディアを送る。
授業が終わるのがつまらないのか、
さみしそうにしているナディアの頭を撫でるとうれしそうに微笑む。
また身体が一回り小さくなった気がする。
そろそろ魔力だまりも解消されて落ち着くとは思うが、
これ以上小さくなったら消えてしまうんじゃないかと心配になる。
本来の姿を取り戻したナディアは、
ロドルフ王子だけでなく、他の令息たちにも狙われている。
魔術は使えても無敵というわけではない。
油断しているところを狙われたら連れ去られることだってありえる。
弟子の心配は尽きないなと思いながら、
クラデル侯爵家の玄関先に転移する。
中に入ると使用人ではなく、次期当主アルフォンスが迎えに出てきた。
「叔父上、お待ちしていました」
「わざわざお前が出て来なくてもいいだろうに」
「たまたま近くにいたんです。義父上が待っていますよ」
「わかった」
アルフォンスは俺の弟子、今の魔術師の塔の管理人オディロンの兄だ。
どちらも甥だが、アルフォンスの方が社交的だ。
クラデル侯爵家の仕事は、魔術師の塔への仕事依頼を受けること。
魔術師の塔にいる魔術師への仕事依頼は世界中から来る。
だが、魔術師の塔は異空間にあるため手紙は届かない。
クラデル侯爵家は世界中から来る依頼を受け付けるためにここにいる。
どこの国、どこの領地に行っても問題はないのだが、
魔術師の塔の窓口として屋敷の場所を公表している。
おかげでめんどくさい依頼も多いのだが、
それを仕分けて断るのもクラデル侯爵家の役割になっている。
アルフォンスの後ろをついていくと、中庭に向かっているようだ。
中庭に出ると、魔術が失敗した時の波動が伝わって来る。
「うわ……」
「失敗したようだな」
「そのようですね……」
魔力をたどって行けば、当主のリンデルがボロボロになって座っていた。
「何を失敗したんだ?」
「いくつまで同時に発動できるか試してみたんだが、
十二で重なった場所がおかしくなった」
「そこまで重ねたら、それはおかしくなるだろう」
「できるだけずらせばいいと思ったんだがなぁ」
アルフォンスが持ってきた濡れた布で顔を拭うリンデルに、
こんなことをしている場合じゃなかったと思う。
「重要な用事があったから呼んだんだろう?」
「ああ。手紙で簡単に説明したが、
王家からの依頼はシリウスとナディアと話がしたいから王宮にきてほしいと」
「ナディアも?」
「そのようだ。国王からの依頼だが、どうする?」
ロドルフ王子の言動からすれば想像がつくが。
一度はっきり話させた方がいいだろう。
「それはわかった。三日後に連れて行くと伝えておけ」
「わかった。もう一つはバラチエ侯爵からの依頼だが、
シリウスと会って謝罪したいと言っている。
侯爵令嬢は学園からの退学処分だろう?
いくらシリウスが許したとしても取り消せるとは思えないが」
「俺もそう思うな」
「どうする?」
「気は進まないが、一度会って話しておこう。
ナディアにかなり敵対心を持っていたからな。
このまま放置しておくとまずい気がする」
学園長もいた場所でナディアに攻撃したと聞いている。
そのような考えなしの令嬢を放っておいたら何をするかわからない。
ナディアにまた攻撃することがないように、
バラチエ侯爵にくぎを刺しておいた方が良さそうだ。
「本当に大事にしているんだなぁ。
シリウスが婚約するなんて予想していなかったよ」
「婚約?誰がだ?」
いつものように草原でナディアに訓練させていたら、
青い紙鳥が飛んできた。
急に現れた鳥が俺の肩に止まったのを見て、
ナディアは大きな目を見開いて驚いている。
「シリウス様、その鳥は飼いならされているのですか?」
「紙鳥といって、連絡用の魔術だ。
クラデル侯爵家から連絡が来るときはこれでよこす」
「この鳥が魔術なのですか?」
「普通の鳥のように見えるだろう。
だが、こうして受け取り側が魔力を流すと手紙に戻る」
紙鳥に魔力を流すとぱっと手紙に変形する。
「わぁ、手紙になりました……すごい」
「これはクラデル侯爵家と魔術師の塔の管理人の間でしか使わない。
赤は緊急、白は通常の仕事の依頼。
他の色で来る場合は緊急ではないが重要な場合だ」
「青ということは重要なんですね」
「おそらくな」
手紙を読んで大きく息を吐いた。
どうやらめんどくさいことになっていそうだ。
「何か困ったことでも?」
「王宮とバラチエ侯爵家から連絡が来ているそうだ。
おそらく学園の退学についてだろう」
「退学を取り消してほしいということですか?」
「多分な。だが、王子の方は取り消すことも可能だが、
バラチエ侯爵家のほうは俺に言われても無理だ。
だが、直接会って説明しなければ納得しないということなんだろう」
負けたほうが退学だなんて言い出したのは自分たちの方なのに、
実際に負ければこうやって取り消そうとする。
本当に愚かなことだと思うがナディアに直接何かされるのも困る。
仕方がない、一度行って話を聞いて来るか。
「今日の授業はこれで終わりだ。
クラデル侯爵家に顔を出してくる」
「わかりました」
「何かあればすぐに呼び出せ。いいな?」
「はい」
俺の身体に抱き着いてくるナディアの背に手を回す。
身体のどこかにふれていれば転移はできるが、
万が一、途中で手を離されると危ない。
いつも通りに転移して寮の部屋にナディアを送る。
授業が終わるのがつまらないのか、
さみしそうにしているナディアの頭を撫でるとうれしそうに微笑む。
また身体が一回り小さくなった気がする。
そろそろ魔力だまりも解消されて落ち着くとは思うが、
これ以上小さくなったら消えてしまうんじゃないかと心配になる。
本来の姿を取り戻したナディアは、
ロドルフ王子だけでなく、他の令息たちにも狙われている。
魔術は使えても無敵というわけではない。
油断しているところを狙われたら連れ去られることだってありえる。
弟子の心配は尽きないなと思いながら、
クラデル侯爵家の玄関先に転移する。
中に入ると使用人ではなく、次期当主アルフォンスが迎えに出てきた。
「叔父上、お待ちしていました」
「わざわざお前が出て来なくてもいいだろうに」
「たまたま近くにいたんです。義父上が待っていますよ」
「わかった」
アルフォンスは俺の弟子、今の魔術師の塔の管理人オディロンの兄だ。
どちらも甥だが、アルフォンスの方が社交的だ。
クラデル侯爵家の仕事は、魔術師の塔への仕事依頼を受けること。
魔術師の塔にいる魔術師への仕事依頼は世界中から来る。
だが、魔術師の塔は異空間にあるため手紙は届かない。
クラデル侯爵家は世界中から来る依頼を受け付けるためにここにいる。
どこの国、どこの領地に行っても問題はないのだが、
魔術師の塔の窓口として屋敷の場所を公表している。
おかげでめんどくさい依頼も多いのだが、
それを仕分けて断るのもクラデル侯爵家の役割になっている。
アルフォンスの後ろをついていくと、中庭に向かっているようだ。
中庭に出ると、魔術が失敗した時の波動が伝わって来る。
「うわ……」
「失敗したようだな」
「そのようですね……」
魔力をたどって行けば、当主のリンデルがボロボロになって座っていた。
「何を失敗したんだ?」
「いくつまで同時に発動できるか試してみたんだが、
十二で重なった場所がおかしくなった」
「そこまで重ねたら、それはおかしくなるだろう」
「できるだけずらせばいいと思ったんだがなぁ」
アルフォンスが持ってきた濡れた布で顔を拭うリンデルに、
こんなことをしている場合じゃなかったと思う。
「重要な用事があったから呼んだんだろう?」
「ああ。手紙で簡単に説明したが、
王家からの依頼はシリウスとナディアと話がしたいから王宮にきてほしいと」
「ナディアも?」
「そのようだ。国王からの依頼だが、どうする?」
ロドルフ王子の言動からすれば想像がつくが。
一度はっきり話させた方がいいだろう。
「それはわかった。三日後に連れて行くと伝えておけ」
「わかった。もう一つはバラチエ侯爵からの依頼だが、
シリウスと会って謝罪したいと言っている。
侯爵令嬢は学園からの退学処分だろう?
いくらシリウスが許したとしても取り消せるとは思えないが」
「俺もそう思うな」
「どうする?」
「気は進まないが、一度会って話しておこう。
ナディアにかなり敵対心を持っていたからな。
このまま放置しておくとまずい気がする」
学園長もいた場所でナディアに攻撃したと聞いている。
そのような考えなしの令嬢を放っておいたら何をするかわからない。
ナディアにまた攻撃することがないように、
バラチエ侯爵にくぎを刺しておいた方が良さそうだ。
「本当に大事にしているんだなぁ。
シリウスが婚約するなんて予想していなかったよ」
「婚約?誰がだ?」
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