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54.二人だけの時間
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最後の三日間は本当にシリウス様と会うことができず、
同じ屋敷にいるはずなのにと歯がゆい思いをすることになった。
ミリアや女性使用人たちと話すことで紛らわせようとしても、
シリウス様の不在を埋めるのは難しく、
それだけ私の心を占めているのはシリウス様なのだと理解できた。
ようやく準備が終わり、初夜を迎える部屋に通される。
最後にミリアたちが退出する時に手紙を一通渡された。
誰からの手紙かと思えばクラデル侯爵からだった。
” 残念だが、初夜の準備が調った後のナディアに会うことは難しいだろう。
シリウスがそんな状態のナディアを男に見せようとしないだろうからね。
俺もシリウスに殺されたくないからそんな真似はできない。
そのため、当主としての許可は手紙にすることにした。
クラデル侯爵家長女ナディアの婿として、
シリウス・クラデルを迎えることを許可しよう。
落ち着いた頃にまた二人で報告に来なさい。”
……これは結婚の許可ということなのだろうか。
そういえば、初夜を認めるのは当主の責任。
本来ならこれはシリウス様が受け取る物だろうけど、
婿入りという形になるので私に寄越したのかもしれない。
これはシリウス様に見せたらいいのかなと思っていたら、
シリウス様が部屋に入って来た。
たった三日だけど、三日も離れていた。
久しぶりに会うシリウス様に駆け寄ったら、
すぐに抱きしめられる。
その胸に抱き着いたら、もう離れる気になれない。
まるで吸い付いているように肌が馴染んでいく。
「……会いたかった」
「私もです」
シリウス様が求めてくれているのがうれしくて、
手紙のことなんて忘れてしまっていた。
抱き上げられて、そのままベッドまで連れて行かれる。
夜着代わりに着せられた薄衣は透けていて、
はしたない姿だということを思い出した。
肌を見られていると思ったら恥ずかしくて、
ついシリウス様に見られないように隠そうとしてしまう。
「どうした?」
「……えっと、あの。少し恥ずかしくて」
「ああ、この姿か。……どうせ脱がせるんだが」
「え、あ……そうですよね」
これからすることを考えたら、
こんなことで恥ずかしがっていたらダメなのかもしれないけれど、
閨ごとに慣れていない私はどうしていいかわからなくなる。
「恥ずかしがらなくていい。ナディアは綺麗だ」
「……シリウス様」
あんなにも醜いと言われていた私が綺麗だなんて、
シリウス様じゃなかったら信じなかったかもしれない。
だけど、シリウス様は私を見つけてくれた。
醜かった時から手を差し伸べてくれた人だから、
もっと綺麗になってシリウス様に見てほしいと願ってしまう。
ずっと私を見てくれる人が欲しかった。
たった一人でいいから、私を愛してくれる人が欲しかった。
その願いが、こんなにも最高の形で叶うなんて。
あの頃の自分に言っても信じないだろう。
「愛しています。シリウス様、私を全部もらってくれますか?」
「ああ。もちろんだ。ナディアのすべては俺がもらう」
「うれしい……」
前に足を撫でられた時は怖かったのに、今は早くふれてほしいと願う。
私が持てるすべてを受け取ってほしくて、心も身体も差し出したくて仕方ない。
シリウス様はそんな焦る私を落ち着かせるように頬や髪を優しく撫でる。
ふれる場所が増えていくのに、もっとふれていたい。
ほんの少しも離れたくなくて必死にしがみつく。
「大丈夫だ……ちゃんと息を吸って」
泣き止まない子をあやすようなシリウス様に、
すべてを受け取ってもらった後、ようやく心から落ち着くことができる。
もう誰にも奪われることはない。
だって、私のすべてはシリウス様に預けたのだから。
生れてはじめて、居場所ができた気がして、
気がついたらシリウス様の腕の中で眠っていた。
目が覚めたらまだ薄暗くて、
顔をあげたらシリウス様と目が合った。
「起きたのか?」
「……シリウス様は寝てなかったのですか?」
「いや、寝ていたよ。ナディアが起きた気配がしたから」
「起こしてしまいました?」
「そうじゃないよ。ナディアが起きるのを待っていただけだ」
「ん……」
唇がふれたと思ったら、また強く抱きしめられる。
初夜は終わっていなかったのか、口づけが深くなる。
朝になったのにも気がつかないくらいシリウス様のことしか考えられず、
落ち着いて話せるようになったのは一週間が過ぎてからだった。
「……そろそろミリアが心配しているかもしれませんね?」
「屋敷のものが話してあるだろう。こういうものだと」
「そうなんですか?」
「……そうだ。俺はもう少し二人だけでいたい。
外に出ればうるさい奴がいるからな」
「ふふ……」
うるさいってクラデル侯爵や次期当主様のことかな。
そろそろシリウス様に仕事が来ているかもしれない。
だけど、こうしてシリウス様を独占できるのがうれしくて、
私も積極的に外に出ようとはしていない。
服を着ることもなく、シリウス様の腕の中にいるのが心地よくて、
もう少しだけこうしていたい。
「ナディアが望むなら、ずっとこのままでよい」
「はい……」
ずっとなんて望まないけど、シリウス様は嘘をつかない。
私が本当に望めばそうしてくれると思う。
だからこそ、私は望んだりしない。
あともう少しだけ二人でいられたら、それで満足しよう。
結局、私たちが外に出たのは二十一日目のことだった。
同じ屋敷にいるはずなのにと歯がゆい思いをすることになった。
ミリアや女性使用人たちと話すことで紛らわせようとしても、
シリウス様の不在を埋めるのは難しく、
それだけ私の心を占めているのはシリウス様なのだと理解できた。
ようやく準備が終わり、初夜を迎える部屋に通される。
最後にミリアたちが退出する時に手紙を一通渡された。
誰からの手紙かと思えばクラデル侯爵からだった。
” 残念だが、初夜の準備が調った後のナディアに会うことは難しいだろう。
シリウスがそんな状態のナディアを男に見せようとしないだろうからね。
俺もシリウスに殺されたくないからそんな真似はできない。
そのため、当主としての許可は手紙にすることにした。
クラデル侯爵家長女ナディアの婿として、
シリウス・クラデルを迎えることを許可しよう。
落ち着いた頃にまた二人で報告に来なさい。”
……これは結婚の許可ということなのだろうか。
そういえば、初夜を認めるのは当主の責任。
本来ならこれはシリウス様が受け取る物だろうけど、
婿入りという形になるので私に寄越したのかもしれない。
これはシリウス様に見せたらいいのかなと思っていたら、
シリウス様が部屋に入って来た。
たった三日だけど、三日も離れていた。
久しぶりに会うシリウス様に駆け寄ったら、
すぐに抱きしめられる。
その胸に抱き着いたら、もう離れる気になれない。
まるで吸い付いているように肌が馴染んでいく。
「……会いたかった」
「私もです」
シリウス様が求めてくれているのがうれしくて、
手紙のことなんて忘れてしまっていた。
抱き上げられて、そのままベッドまで連れて行かれる。
夜着代わりに着せられた薄衣は透けていて、
はしたない姿だということを思い出した。
肌を見られていると思ったら恥ずかしくて、
ついシリウス様に見られないように隠そうとしてしまう。
「どうした?」
「……えっと、あの。少し恥ずかしくて」
「ああ、この姿か。……どうせ脱がせるんだが」
「え、あ……そうですよね」
これからすることを考えたら、
こんなことで恥ずかしがっていたらダメなのかもしれないけれど、
閨ごとに慣れていない私はどうしていいかわからなくなる。
「恥ずかしがらなくていい。ナディアは綺麗だ」
「……シリウス様」
あんなにも醜いと言われていた私が綺麗だなんて、
シリウス様じゃなかったら信じなかったかもしれない。
だけど、シリウス様は私を見つけてくれた。
醜かった時から手を差し伸べてくれた人だから、
もっと綺麗になってシリウス様に見てほしいと願ってしまう。
ずっと私を見てくれる人が欲しかった。
たった一人でいいから、私を愛してくれる人が欲しかった。
その願いが、こんなにも最高の形で叶うなんて。
あの頃の自分に言っても信じないだろう。
「愛しています。シリウス様、私を全部もらってくれますか?」
「ああ。もちろんだ。ナディアのすべては俺がもらう」
「うれしい……」
前に足を撫でられた時は怖かったのに、今は早くふれてほしいと願う。
私が持てるすべてを受け取ってほしくて、心も身体も差し出したくて仕方ない。
シリウス様はそんな焦る私を落ち着かせるように頬や髪を優しく撫でる。
ふれる場所が増えていくのに、もっとふれていたい。
ほんの少しも離れたくなくて必死にしがみつく。
「大丈夫だ……ちゃんと息を吸って」
泣き止まない子をあやすようなシリウス様に、
すべてを受け取ってもらった後、ようやく心から落ち着くことができる。
もう誰にも奪われることはない。
だって、私のすべてはシリウス様に預けたのだから。
生れてはじめて、居場所ができた気がして、
気がついたらシリウス様の腕の中で眠っていた。
目が覚めたらまだ薄暗くて、
顔をあげたらシリウス様と目が合った。
「起きたのか?」
「……シリウス様は寝てなかったのですか?」
「いや、寝ていたよ。ナディアが起きた気配がしたから」
「起こしてしまいました?」
「そうじゃないよ。ナディアが起きるのを待っていただけだ」
「ん……」
唇がふれたと思ったら、また強く抱きしめられる。
初夜は終わっていなかったのか、口づけが深くなる。
朝になったのにも気がつかないくらいシリウス様のことしか考えられず、
落ち着いて話せるようになったのは一週間が過ぎてからだった。
「……そろそろミリアが心配しているかもしれませんね?」
「屋敷のものが話してあるだろう。こういうものだと」
「そうなんですか?」
「……そうだ。俺はもう少し二人だけでいたい。
外に出ればうるさい奴がいるからな」
「ふふ……」
うるさいってクラデル侯爵や次期当主様のことかな。
そろそろシリウス様に仕事が来ているかもしれない。
だけど、こうしてシリウス様を独占できるのがうれしくて、
私も積極的に外に出ようとはしていない。
服を着ることもなく、シリウス様の腕の中にいるのが心地よくて、
もう少しだけこうしていたい。
「ナディアが望むなら、ずっとこのままでよい」
「はい……」
ずっとなんて望まないけど、シリウス様は嘘をつかない。
私が本当に望めばそうしてくれると思う。
だからこそ、私は望んだりしない。
あともう少しだけ二人でいられたら、それで満足しよう。
結局、私たちが外に出たのは二十一日目のことだった。
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