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本編
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一夜の過ちを犯してしまった。
昨日、私は恋人の浮気が発覚したショックから、行きつけのバーでヤケ酒をした。その時たまたま隣にいた男性が慰めてくれて、大量に酒を飲んだ私の分の会計を支払ってくれた。
飲みの席の赤裸々な話で、彼は恥ずかしそうに、「恋人がいたことがない」なんて言うもんだから、「お世話になったお礼に、貴方の童貞を卒業させてあげる」なんて言ってしまったのだ。
彼の顔が良かったのと、恋人に浮気されたんだから、私だって男遊びでもしてやる。なんてしょーもない意地で気が変になっていたのだ。
そこから記憶がない。でもここはラブホテルで、彼も私も裸でベッドにいるのだから、そういうことなのだろう。
思い出しただけで自己嫌悪に陥る。昨日の私は完全にただの痴女だった。
「はぁ……」
ため息をついて、眠ったまま私に抱きついてる彼をそっと引き剥がして服を着る。勢いに任せて、奥手そうな年下くんの童貞を奪ってしまった申し訳なさから、財布を漁って諭吉を数枚出す。
それらのお金と、「昨日は完全に酔っていました。お願いですから、一夜の過ちとして忘れてください。それから、嫌な思いをさせていたら本当に申し訳ございません。ホテル代と奢っていただいたバーの代金とお詫び金を置いておきます」と書いた手紙をテーブルに置いてそっとホテルを出る。
雲1つない青空。照りつける太陽。
そんな爽やかな真昼間に包まれていると、恋人に裏切られ、それから一夜の過ちを犯してしまった残念な自分が、余計に浮き彫りになるような気がする。
そのまま私は、昨日起こった辛いことや間違いを忘れるために、ATMでお金を下ろして、1人でカラオケやショッピングを楽しんだ。
それから家に帰った。
家のドアを開けると、そこには信じられない光景があった。
「おかえりなさい。どうして僕を置いて帰ったんですか?今日は特に予定とかなかったですよね?」
「えっ……?」
家の中に、彼がいた。昨日ホテルで過ちを犯してしまった相手である、彼が。
「ああ、すみません。そういえば、お金返さないとですよね。僕はやっと貴方と繋がれてすごく嬉しくて、むしろお礼代も払いたいくらいなのに、こんなの受け取れませんよ」
そう言って彼は、私が置いておいたお金を差し出してくる。
違う。私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「何で……うちにいるんですか……?」
「え?何でそんなに驚いてるんですか?もしかして、恋人が先に帰っちゃったら、家で待つのってそんなに変でしたか?すみません。僕、交際経験がないので、そこらへんの常識がなくて……」
もしかしたら、酔っていたから記憶がないだけで、私は彼に「付き合って」と言ったのかもしれない。彼は私の手紙に気付かなくて、そのまま私の告白を間に受けたままなのかも。
でも、もしそうだったとしても、昨日会ったばかりなのに、どうして私の家を知っているの?
酔って彼に家を教えたのだろうか。仮にそうだとしても、何で鍵を開けられたの?出かける前に戸締りができてなかったとか?
「あの……私、もしかして貴方に家を教えたんですか……?もしかして、鍵、閉め忘れてたんですかね……?」
「いえ。昔から貴方の家は知ってましたし、貴方が寝ている間に合鍵を作らせてもらったんですよ。だって、恋人同士は合鍵を持ってるのが普通でしょう?僕の家の合鍵も作ったので、今お渡ししますね」
彼は自分のバッグを漁りながら、「勇気を出して、バーまでついていってよかったなぁ……」なんてつぶやいている。
確信した。彼は私のストーカーだったのだ。一緒のバーにいたのも、ただの偶然なんかじゃなくて、私の跡をつけていたのだ。
「ごめんなさい……。その……昨日は本当に酔っていたんです……。だから……その……もしかしたら私は貴方に告白したのかもしれませんが……それは……その……間違いで……」
体が震える。彼を刺激しないよう、恐怖で動かない頭を必死に働かせて言葉を紡ぐ。
けれど、彼は信じられないという顔をして、私の肩を強く掴む。
「間違い……?何でそんな酷いこと言うんですか……!?あんなことまでしたのに……。責任を取ってくれないんですか!?もしかして……僕のこと……弄んだんですか……!?」
そのまま彼は私を抱き寄せてキスをしてくる。
「やめっ……!たすけ……!」
「ちょっと……『助けて』なんて言われたら、勘違いで警察呼ばれちゃうじゃないですか……」
彼のネクタイで口を塞がれて、そのままベッドに押し倒される。
「手紙見ましたよ。一夜の過ち……?違うでしょう?一夜で終わりじゃなくて、これからも毎晩しましょう♡それから、僕を選んだのは過ちなんかじゃなくて、大正解です♡だって僕は、貴方の元彼と違って浮気なんかしないですから♡」
「んっ……んむっ……」
否定しようとしてもネクタイで塞がれた口は、何も言葉を発せない。
「子供が出来たら、流石に貴方も認めてくれますかね?」
「んぅっ……んぅっ……」
「貴方は僕と一緒にいるのが大正解なんです♡これからは……毎晩大正解でいましょうね♡」
誰も助けてくれない。私はただ、彼にされるがままになるしかなかった。
たった一度の過ちが、人生を壊すこともあるのだ。
昨日、私は恋人の浮気が発覚したショックから、行きつけのバーでヤケ酒をした。その時たまたま隣にいた男性が慰めてくれて、大量に酒を飲んだ私の分の会計を支払ってくれた。
飲みの席の赤裸々な話で、彼は恥ずかしそうに、「恋人がいたことがない」なんて言うもんだから、「お世話になったお礼に、貴方の童貞を卒業させてあげる」なんて言ってしまったのだ。
彼の顔が良かったのと、恋人に浮気されたんだから、私だって男遊びでもしてやる。なんてしょーもない意地で気が変になっていたのだ。
そこから記憶がない。でもここはラブホテルで、彼も私も裸でベッドにいるのだから、そういうことなのだろう。
思い出しただけで自己嫌悪に陥る。昨日の私は完全にただの痴女だった。
「はぁ……」
ため息をついて、眠ったまま私に抱きついてる彼をそっと引き剥がして服を着る。勢いに任せて、奥手そうな年下くんの童貞を奪ってしまった申し訳なさから、財布を漁って諭吉を数枚出す。
それらのお金と、「昨日は完全に酔っていました。お願いですから、一夜の過ちとして忘れてください。それから、嫌な思いをさせていたら本当に申し訳ございません。ホテル代と奢っていただいたバーの代金とお詫び金を置いておきます」と書いた手紙をテーブルに置いてそっとホテルを出る。
雲1つない青空。照りつける太陽。
そんな爽やかな真昼間に包まれていると、恋人に裏切られ、それから一夜の過ちを犯してしまった残念な自分が、余計に浮き彫りになるような気がする。
そのまま私は、昨日起こった辛いことや間違いを忘れるために、ATMでお金を下ろして、1人でカラオケやショッピングを楽しんだ。
それから家に帰った。
家のドアを開けると、そこには信じられない光景があった。
「おかえりなさい。どうして僕を置いて帰ったんですか?今日は特に予定とかなかったですよね?」
「えっ……?」
家の中に、彼がいた。昨日ホテルで過ちを犯してしまった相手である、彼が。
「ああ、すみません。そういえば、お金返さないとですよね。僕はやっと貴方と繋がれてすごく嬉しくて、むしろお礼代も払いたいくらいなのに、こんなの受け取れませんよ」
そう言って彼は、私が置いておいたお金を差し出してくる。
違う。私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「何で……うちにいるんですか……?」
「え?何でそんなに驚いてるんですか?もしかして、恋人が先に帰っちゃったら、家で待つのってそんなに変でしたか?すみません。僕、交際経験がないので、そこらへんの常識がなくて……」
もしかしたら、酔っていたから記憶がないだけで、私は彼に「付き合って」と言ったのかもしれない。彼は私の手紙に気付かなくて、そのまま私の告白を間に受けたままなのかも。
でも、もしそうだったとしても、昨日会ったばかりなのに、どうして私の家を知っているの?
酔って彼に家を教えたのだろうか。仮にそうだとしても、何で鍵を開けられたの?出かける前に戸締りができてなかったとか?
「あの……私、もしかして貴方に家を教えたんですか……?もしかして、鍵、閉め忘れてたんですかね……?」
「いえ。昔から貴方の家は知ってましたし、貴方が寝ている間に合鍵を作らせてもらったんですよ。だって、恋人同士は合鍵を持ってるのが普通でしょう?僕の家の合鍵も作ったので、今お渡ししますね」
彼は自分のバッグを漁りながら、「勇気を出して、バーまでついていってよかったなぁ……」なんてつぶやいている。
確信した。彼は私のストーカーだったのだ。一緒のバーにいたのも、ただの偶然なんかじゃなくて、私の跡をつけていたのだ。
「ごめんなさい……。その……昨日は本当に酔っていたんです……。だから……その……もしかしたら私は貴方に告白したのかもしれませんが……それは……その……間違いで……」
体が震える。彼を刺激しないよう、恐怖で動かない頭を必死に働かせて言葉を紡ぐ。
けれど、彼は信じられないという顔をして、私の肩を強く掴む。
「間違い……?何でそんな酷いこと言うんですか……!?あんなことまでしたのに……。責任を取ってくれないんですか!?もしかして……僕のこと……弄んだんですか……!?」
そのまま彼は私を抱き寄せてキスをしてくる。
「やめっ……!たすけ……!」
「ちょっと……『助けて』なんて言われたら、勘違いで警察呼ばれちゃうじゃないですか……」
彼のネクタイで口を塞がれて、そのままベッドに押し倒される。
「手紙見ましたよ。一夜の過ち……?違うでしょう?一夜で終わりじゃなくて、これからも毎晩しましょう♡それから、僕を選んだのは過ちなんかじゃなくて、大正解です♡だって僕は、貴方の元彼と違って浮気なんかしないですから♡」
「んっ……んむっ……」
否定しようとしてもネクタイで塞がれた口は、何も言葉を発せない。
「子供が出来たら、流石に貴方も認めてくれますかね?」
「んぅっ……んぅっ……」
「貴方は僕と一緒にいるのが大正解なんです♡これからは……毎晩大正解でいましょうね♡」
誰も助けてくれない。私はただ、彼にされるがままになるしかなかった。
たった一度の過ちが、人生を壊すこともあるのだ。
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