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三章 食堂付きの宿にて(2)
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宿の一階部分の、扉が設置されていない大きな入口をくぐると、見通せる程度の大きさをした開けた食堂があった。旅の道中の団体客の利用が多いのか、木材質の大きめの円系テーブル席には、入れる分だけたっぷりに椅子が収まっている。
遅い時間も関係しているのか、それともこの時間帯は食事というよりも、外の店で楽しむ者が多いのか、食堂内は数組の客だけでひっそりとしていた。カウンター席の内側は狭い厨房スペースになっていて、そこにはビール瓶や樽なども並んでいた。
入ってすぐ右手には宿泊客向けの小さな窓口が一つあり、ふてくされた顔をした十代前半くらいの一人の少年が座っていた。ラビは、足を踏み入れてすぐに声を掛けられた。
「あんた、名前は?」
実は最後の一人の客を待ってんだ、と少年はむっつりと言葉を続けた。
「父ちゃんがキッチン入ってる間は、俺が鍵番やんなきゃなんねぇの。――で、あんたは宿泊客か?」
なるほど、それで不機嫌であるらしいと察して、ラビは名前を告げた。そんな事ならもう少し早めに来れば良かったな、と思いながら部屋の鍵を受け取ると、少年はすぐに窓口のカーテンを締めてしまった。
『多分、寝るんだろうな』
「家族経営みたいだね」
ラビは、部屋の鍵をポケットにしまいながら、小さな声でノエルに答え返した。
改めて食堂内を見回してみたところで、カウンター席の奥の方に、見慣れた蒼灰色の綺麗な髪が目に留まった。騎士服をローブで隠したセドリックが、うつらうつらと頭を揺らして腰かけている。
カウンターにいた薄着の大きな中年男が、こちらを見て、ああ来たかというような安堵と戸惑いの表情を見せた。恐らく金髪の獣師が共に宿泊する旨を聞かされていたか、彼らと似た衣装とローブに身を包んでいる事もあって、すぐに連れだと分かったのだろう。
他の少ない客達が、こちらを盗み見ながら、何食わぬ顔でそろりと席を立っていくのが見えた。迷信を恐れているタイプなのだろう。露骨に嫌悪感を出した態度を取らないところを見ると、大人しい客達ばかりなのかもしれない。
セドリックは座ったまま眠っているようなので、その間に少しでもアルコールが抜けてくれる事も期待して、ラビは先に腹ごしらえを済ませる事にした。先程の窓口の少年の事を考えると、もしかしたら食事に関しても、自分が最後の客である可能性もあると思ったからだ。
カウンター内に入っている男は少年の父親で、宿をみている店主であるのかもしれない。そう推測しながら歩み寄ってみると、目尻に薄い皺があるたくましい身体をしたその中年男が、戸惑いがちにカウンターにメニュー表を置いた。
手渡しではない事は予想済みだった。ラビは、それを手に取りながら「ありがとう」と言って、適当に上から五番目の定食メニューを伝えた。どれも聞き慣れない料理名だったが、相手が嫌に思うかもしれない可能性を考えると、尋ねてみるという選択は浮かばなかった。
奥の席に座ったまま眠るセドリック一人を残し、他の客はいなくなってしまった。ラビはカウンター席の中央の椅子に腰かけて、料理を待ちながら、ビールジョッキを握り締めたまま俯いている幼馴染を眺めた。
店主らしきその男が、こちらに背を向けて料理を始めたタイミングで、ラビは近くに腰を降ろしたノエルに尋ねた。
「…………あいつが煙草を吸いに外に出たのって、どのくらい前なんだろう?」
ヴァンの話の中には、セドリックがすっかり寝てしまっているという情報は含まれていなかった。説教モードに入られたらたまらない、と言っていたくらいだから、多分彼がいる時は起きていたのだろうとは思うのだ。
ノエルも同じ事を考えていたようで、『直前までは意識もあったとは思うんだが』と、自信がなさそうに語尾を弱めた。
『酒が弱いとはいえ、聞いた話の情報が少な過ぎてなんとも言えねぇな』
「セドリックって、外であんまり眠りこけた事もないから、なんだか変な感じ」
彼が騎士学校に行ってしまう前までは、一緒に過ごす事もたびたびあった。木の下で涼んでいた際も、うっかり眠ってしまうのはいつも自分の方で、セドリックは隣でじっと本を読んでいたのを覚えている。
「さすがに、オレがセドリックを運ぶのは無理だし。自分の足で部屋に行ってもらわないといけないんだけど」
眠ったばかりなら難しいかな、とラビは眼差しでノエルに問い掛けた。彼は、想像力を働かせるように頭を右へと傾げて、『少し寝ればどうにかなるんじゃね?』と簡単に考えて言った。
『泥酔しているわけでもねぇんだし、ちょっと休ませればいけると思うぜ?』
その時、注文していた定食が目の前に出された。一つの大きな皿に、一度揚げられた後に煮込まれた大きな鳥の丸焼料理とサラダ、一口サイズにカットされた見慣れない野菜が香辛料で軽く混ぜられて盛られた料理のそばには、大きなパンが二つ乗せられていた。
予想以上の量である。まず皿の大きさからして、ラビの家には存在していない特大級のサイズだった。なんだかラオルテの町で騎士団が寝泊まりしていた、あの食堂の大盛り料理を彷彿とさせる光景である。
中年男がカウンターに戻って、鍋などを洗うべくこちらに背を向けたタイミングで、ラビは「あのさ」と白状するように言った。
「…………コレ、見覚えある感がすごい」
『鳥の丸々一羽焼きってのも贅沢だな。骨が細かい部位は俺が食ってやるよ、骨までバリバリいける』
火を通せばどんなものでも美食という台詞を、彼はよく口にする。多分サンドイッチだけでは物足りなかったのだろうなと思って、ラビは先に鳥肉を切り分けて、一部をこっそりノエルに分けてあげた。
ラビは、男がこちらに背を向けているのをいい事に、ノエルと一緒に料理を食べ進めた。自分の口に食べ物を入れた後、咀嚼している間に、口を開けたノエルの方にも入れてやる。
メイン料理となっている鳥肉は、油が乗ってとても美味しかった。噛んだ際に口の中に溢れる肉汁は、臭みを取るために詰められた香辛料の匂いも良くて、つい唇に付いた油とタレを舐め取ってしまう。
『この野菜料理も美味いな。バターみたいに柔らかいやつも、癖がない』
「なんの野菜なんだろうね、もしかしたらフルーツの一種なのかな?」
『フルーツってよりは、サラダでもイケる感じだな』
ノエルは最後の一口を食べ終わると、自称グルメらしい台詞を口にして、満足そうに胸を張った。
空になった大皿をカウンター上の配膳棚に置くと、男がこちらと皿に視線を往復させて、もう食ったのかと言わんばかりに目を丸くした。ラビが礼が言いたくて、チラリと目を合わせた。
「美味しかったです、ありがとう」
続いては、世話がかかる幼馴染をどうにかしなければならない。そう考えて視線をそらそうとしたラビは、ふと、カウンター内にいる男の何か言いたそうな表情に気付いた。
中年男の目が、迷うようにセドリックの方へ向けられたかと思うと、すぐこちらに戻ってくる。どうやら、セドリックに関わる何かを伝えたいらしい。
ノエルが『どうする?』と訊いてきたので、ラビは話し掛けてみるよと応えるように、背中の後ろに手を回して合図した。
「こんばんは。お料理、本当に美味しかったです。オレに何か用ですか?」
ぎこちない愛想笑いを浮かべて、控えめに声を掛けてみると、男が少し拍子抜けしたような顔で「こんばんは」と返して、まじまじと見つめてきた。
もしや不快にさせたのかと思って、ラビは出来るだけ目の色がハッキリしないよう、帽子の唾をつまんでギリギリまで下げた。すると、それを見た男が唐突に「すまない」と謝った。
どうして謝られたのか分からなくて、ラビは首を傾げた。一度視線を逃がした彼が、申し訳なさそうに「気分を悪くさせたのならゴメンよ、坊や」と小さな声で言った。
「宿の予約受ける時に聞かされていたんだが、金髪や金目を見たのは初めてで……。その、子供なのに空気を読んで無理させて、俺は父親として情けないよ」
なんだか、これまでにあまりない反応で、ラビは戸惑ってしまった。彼は自分の目や直感を信じていて、まるで感じた事を日頃からそのまま口にしているようだとも思えたから、その言葉が嘘ではないと分かった。
村の外には、こんな大人もいるんだな……。
ラビは涙腺が緩んでしまう気配を覚えて、少しだけ言葉が詰まってしまった。人間なんて嫌いで、彼らに関わってやるもんかと幼い頃は苛立ったものだ。
でも本当は、拒絶される事になんて慣れるはずがないのだとも知っていた。目と髪の色が違うというだけで、受け入れられないのは、とても悲しい。だから、物心分からない幼い頃は、よく泣いた。
でも、どうか苦労を勘繰らないで欲しいのだ。胸に残された弱い頃の自分が揺さぶり起こされて、泣きそうになってしまう。
同情させたくないし、心配だってされたくない。あの頃よりも強く逞しくなったはずで、言われ慣れた文句や拒絶であれば、いつもの喧嘩っ早い自分のままに返す事が出来るのに、どうしてか優しさの前では自分が弱くなってしまうのを感じる。
ラビは空気を変えるように、込み上げる感情を抑えて、いつも通りの自分を意識してセドリックの方を指差した。
「もしかして、あいつの事で何か? ここに入る前に連れの一人に面倒を頼まれたんですけど、まさか眠っちゃっているとは思わなかったんで。いつ寝たのかなと思って」
話題を変えるようにそう告げると、話が早いとばかりに男が「そうなんだよ」と吐息混じりに言った。
「さっきまで起きていたんだが、隣にいた最後の一人が出たあと、緊張の糸が切れたみたいに眠ってしまってね。うちの食堂は宿泊客向けで、一旦閉めてフロアを消灯するんだ。部屋の鍵は開けてくるから、起こして連れていってもらえないか?」
これから片付け作業のため、まずは奥の厨房側の掃除に取りかかる予定であるというその男に、ラビは任せて下さいと頷き返して、セドリックのもとへ向かった。
遅い時間も関係しているのか、それともこの時間帯は食事というよりも、外の店で楽しむ者が多いのか、食堂内は数組の客だけでひっそりとしていた。カウンター席の内側は狭い厨房スペースになっていて、そこにはビール瓶や樽なども並んでいた。
入ってすぐ右手には宿泊客向けの小さな窓口が一つあり、ふてくされた顔をした十代前半くらいの一人の少年が座っていた。ラビは、足を踏み入れてすぐに声を掛けられた。
「あんた、名前は?」
実は最後の一人の客を待ってんだ、と少年はむっつりと言葉を続けた。
「父ちゃんがキッチン入ってる間は、俺が鍵番やんなきゃなんねぇの。――で、あんたは宿泊客か?」
なるほど、それで不機嫌であるらしいと察して、ラビは名前を告げた。そんな事ならもう少し早めに来れば良かったな、と思いながら部屋の鍵を受け取ると、少年はすぐに窓口のカーテンを締めてしまった。
『多分、寝るんだろうな』
「家族経営みたいだね」
ラビは、部屋の鍵をポケットにしまいながら、小さな声でノエルに答え返した。
改めて食堂内を見回してみたところで、カウンター席の奥の方に、見慣れた蒼灰色の綺麗な髪が目に留まった。騎士服をローブで隠したセドリックが、うつらうつらと頭を揺らして腰かけている。
カウンターにいた薄着の大きな中年男が、こちらを見て、ああ来たかというような安堵と戸惑いの表情を見せた。恐らく金髪の獣師が共に宿泊する旨を聞かされていたか、彼らと似た衣装とローブに身を包んでいる事もあって、すぐに連れだと分かったのだろう。
他の少ない客達が、こちらを盗み見ながら、何食わぬ顔でそろりと席を立っていくのが見えた。迷信を恐れているタイプなのだろう。露骨に嫌悪感を出した態度を取らないところを見ると、大人しい客達ばかりなのかもしれない。
セドリックは座ったまま眠っているようなので、その間に少しでもアルコールが抜けてくれる事も期待して、ラビは先に腹ごしらえを済ませる事にした。先程の窓口の少年の事を考えると、もしかしたら食事に関しても、自分が最後の客である可能性もあると思ったからだ。
カウンター内に入っている男は少年の父親で、宿をみている店主であるのかもしれない。そう推測しながら歩み寄ってみると、目尻に薄い皺があるたくましい身体をしたその中年男が、戸惑いがちにカウンターにメニュー表を置いた。
手渡しではない事は予想済みだった。ラビは、それを手に取りながら「ありがとう」と言って、適当に上から五番目の定食メニューを伝えた。どれも聞き慣れない料理名だったが、相手が嫌に思うかもしれない可能性を考えると、尋ねてみるという選択は浮かばなかった。
奥の席に座ったまま眠るセドリック一人を残し、他の客はいなくなってしまった。ラビはカウンター席の中央の椅子に腰かけて、料理を待ちながら、ビールジョッキを握り締めたまま俯いている幼馴染を眺めた。
店主らしきその男が、こちらに背を向けて料理を始めたタイミングで、ラビは近くに腰を降ろしたノエルに尋ねた。
「…………あいつが煙草を吸いに外に出たのって、どのくらい前なんだろう?」
ヴァンの話の中には、セドリックがすっかり寝てしまっているという情報は含まれていなかった。説教モードに入られたらたまらない、と言っていたくらいだから、多分彼がいる時は起きていたのだろうとは思うのだ。
ノエルも同じ事を考えていたようで、『直前までは意識もあったとは思うんだが』と、自信がなさそうに語尾を弱めた。
『酒が弱いとはいえ、聞いた話の情報が少な過ぎてなんとも言えねぇな』
「セドリックって、外であんまり眠りこけた事もないから、なんだか変な感じ」
彼が騎士学校に行ってしまう前までは、一緒に過ごす事もたびたびあった。木の下で涼んでいた際も、うっかり眠ってしまうのはいつも自分の方で、セドリックは隣でじっと本を読んでいたのを覚えている。
「さすがに、オレがセドリックを運ぶのは無理だし。自分の足で部屋に行ってもらわないといけないんだけど」
眠ったばかりなら難しいかな、とラビは眼差しでノエルに問い掛けた。彼は、想像力を働かせるように頭を右へと傾げて、『少し寝ればどうにかなるんじゃね?』と簡単に考えて言った。
『泥酔しているわけでもねぇんだし、ちょっと休ませればいけると思うぜ?』
その時、注文していた定食が目の前に出された。一つの大きな皿に、一度揚げられた後に煮込まれた大きな鳥の丸焼料理とサラダ、一口サイズにカットされた見慣れない野菜が香辛料で軽く混ぜられて盛られた料理のそばには、大きなパンが二つ乗せられていた。
予想以上の量である。まず皿の大きさからして、ラビの家には存在していない特大級のサイズだった。なんだかラオルテの町で騎士団が寝泊まりしていた、あの食堂の大盛り料理を彷彿とさせる光景である。
中年男がカウンターに戻って、鍋などを洗うべくこちらに背を向けたタイミングで、ラビは「あのさ」と白状するように言った。
「…………コレ、見覚えある感がすごい」
『鳥の丸々一羽焼きってのも贅沢だな。骨が細かい部位は俺が食ってやるよ、骨までバリバリいける』
火を通せばどんなものでも美食という台詞を、彼はよく口にする。多分サンドイッチだけでは物足りなかったのだろうなと思って、ラビは先に鳥肉を切り分けて、一部をこっそりノエルに分けてあげた。
ラビは、男がこちらに背を向けているのをいい事に、ノエルと一緒に料理を食べ進めた。自分の口に食べ物を入れた後、咀嚼している間に、口を開けたノエルの方にも入れてやる。
メイン料理となっている鳥肉は、油が乗ってとても美味しかった。噛んだ際に口の中に溢れる肉汁は、臭みを取るために詰められた香辛料の匂いも良くて、つい唇に付いた油とタレを舐め取ってしまう。
『この野菜料理も美味いな。バターみたいに柔らかいやつも、癖がない』
「なんの野菜なんだろうね、もしかしたらフルーツの一種なのかな?」
『フルーツってよりは、サラダでもイケる感じだな』
ノエルは最後の一口を食べ終わると、自称グルメらしい台詞を口にして、満足そうに胸を張った。
空になった大皿をカウンター上の配膳棚に置くと、男がこちらと皿に視線を往復させて、もう食ったのかと言わんばかりに目を丸くした。ラビが礼が言いたくて、チラリと目を合わせた。
「美味しかったです、ありがとう」
続いては、世話がかかる幼馴染をどうにかしなければならない。そう考えて視線をそらそうとしたラビは、ふと、カウンター内にいる男の何か言いたそうな表情に気付いた。
中年男の目が、迷うようにセドリックの方へ向けられたかと思うと、すぐこちらに戻ってくる。どうやら、セドリックに関わる何かを伝えたいらしい。
ノエルが『どうする?』と訊いてきたので、ラビは話し掛けてみるよと応えるように、背中の後ろに手を回して合図した。
「こんばんは。お料理、本当に美味しかったです。オレに何か用ですか?」
ぎこちない愛想笑いを浮かべて、控えめに声を掛けてみると、男が少し拍子抜けしたような顔で「こんばんは」と返して、まじまじと見つめてきた。
もしや不快にさせたのかと思って、ラビは出来るだけ目の色がハッキリしないよう、帽子の唾をつまんでギリギリまで下げた。すると、それを見た男が唐突に「すまない」と謝った。
どうして謝られたのか分からなくて、ラビは首を傾げた。一度視線を逃がした彼が、申し訳なさそうに「気分を悪くさせたのならゴメンよ、坊や」と小さな声で言った。
「宿の予約受ける時に聞かされていたんだが、金髪や金目を見たのは初めてで……。その、子供なのに空気を読んで無理させて、俺は父親として情けないよ」
なんだか、これまでにあまりない反応で、ラビは戸惑ってしまった。彼は自分の目や直感を信じていて、まるで感じた事を日頃からそのまま口にしているようだとも思えたから、その言葉が嘘ではないと分かった。
村の外には、こんな大人もいるんだな……。
ラビは涙腺が緩んでしまう気配を覚えて、少しだけ言葉が詰まってしまった。人間なんて嫌いで、彼らに関わってやるもんかと幼い頃は苛立ったものだ。
でも本当は、拒絶される事になんて慣れるはずがないのだとも知っていた。目と髪の色が違うというだけで、受け入れられないのは、とても悲しい。だから、物心分からない幼い頃は、よく泣いた。
でも、どうか苦労を勘繰らないで欲しいのだ。胸に残された弱い頃の自分が揺さぶり起こされて、泣きそうになってしまう。
同情させたくないし、心配だってされたくない。あの頃よりも強く逞しくなったはずで、言われ慣れた文句や拒絶であれば、いつもの喧嘩っ早い自分のままに返す事が出来るのに、どうしてか優しさの前では自分が弱くなってしまうのを感じる。
ラビは空気を変えるように、込み上げる感情を抑えて、いつも通りの自分を意識してセドリックの方を指差した。
「もしかして、あいつの事で何か? ここに入る前に連れの一人に面倒を頼まれたんですけど、まさか眠っちゃっているとは思わなかったんで。いつ寝たのかなと思って」
話題を変えるようにそう告げると、話が早いとばかりに男が「そうなんだよ」と吐息混じりに言った。
「さっきまで起きていたんだが、隣にいた最後の一人が出たあと、緊張の糸が切れたみたいに眠ってしまってね。うちの食堂は宿泊客向けで、一旦閉めてフロアを消灯するんだ。部屋の鍵は開けてくるから、起こして連れていってもらえないか?」
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