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ルーチェはエリアスを後ろに引き連れて、客室へと向かう廊下を歩いている。小さな宝石があしらわれたミュールはとても可愛らしいが、やはり少し足が痛くなってきたから早めに戻って正解だったとルーチェは思う。
「肩、貸そうか?」
若干歩き方があやしくなってきたルーチェに、エリアスはささやいた。
「いえ。私はそこまで貧弱ではありませんので」
ルーチェが速度を速めてもエリアスとは股下の長さが違うから、彼はなんなくついてくる。
──結構、遠いのよね。
歩きながら、ルーチェはそんなことを考えていた。どうでもいいことで頭をいっぱいにしておかないと、すぐエリアスの言動が気に掛かってしまうから、ここ数日はずっと頭の中が忙しい。
「あら……?」
スイートルームへ繋がる階段はこっちだったかしら? とルーチェが立ち止まると、後ろからひょいと抱き抱えられた。
「ひゃっ!?」
エリアスはルーチェを抱えて、スタスタと廊下を進んでいく。
「ちょ、ちょ、ちょっと! なんですかこれ!」
「足が痛いのを我慢する必要はない」
「痛くて立ち止まった訳では……!」
ちょっとばかり道には迷っていましたけれど。ええ、だって船の中って同じドアがずっと続くのですもの……。
と言い訳をしようとすると、エリアスが階段をのぼりはじめたので、ルーチェは慌ててエリアスの首にしがみついた。
自分の香水とは違う甘い香りがして、ルーチェの胸はぎゅうっと締め付けられるように苦しくなる。
「お、降ろしてください……」
「もう到着するよ」
宣言通り、見覚えのある部屋番号の扉が目の前にはあった。
「はい、お嬢様」
「ど、どうも……」
ルーチェはふわりとソファーの上に降ろされた。そこまではいいのだが、エリアスに微笑まれると、どうしていいかわからなくて、クッションを抱えて顔を隠した。
そのままドレスの裾がくしゃりとなるのも構わず、足首を振ってミュールを床に落としてソファーに転がった。
エリアスの婚約者だったころなら、こんなみっともない姿は絶対に見せられなかった。
けど今はもう違うのだ。
──ほら、エリアス様。これが私の本性です。幻滅してくださって結構ですのよ!
ルーチェは目を閉じて、エリアスが苦言を呈するのを待った。しかし言葉はないどころが、どこか遠くでエリアスが動き回っている気配がする。
「……?」
ルーチェがそっと目を開けて様子を窺うと、エリアスがなにやら黙々と作業をしている。
お湯を入れた洗面器、清潔なタオル、香油の小瓶が小さなテーブルの前に整然と並べられていく。
「……何をしてるんですか?」
我慢できず、ルーチェは身を起こして尋ねてしまった。
「見ての通り。足湯の準備を」
「なるほど」
エリアス様も足が疲れたのね。ルーチェは特に疑問を感じることもなく、体をずらしてエリアスの座る場所を作ろうとした。
けれど彼はそこのスペースにはまることはなく、床にひざまずいた。
「はい、ルーチェ。足を出して」
「足湯って私のですか!?」
エリアスの言動に、ルーチェは青ざめた。どこの世界に王子に向かって素足を放り出して足を洗えなんてことが出来る女がいるというのか。
「そうだよ、疲れてるだろう。足は大事にしないと」
エリアスはさあ、と手を差し出すがとてもそこに足を乗せる勇気はない。
「む、むむむ無理です!」
ルーチェはエリアスに捕まらないように、ソファーの上で足を抱えて丸くなった。
「無理です!」
「そんなこと言わずに。お願い」
「お願い!?」
「そう。僕が勝手にルーチェの足に触りたいだけだから」
頼まれては、ルーチェは断ることができない。
「……わ、わかりました。でも、そんな、私ごときの足にそんな好待遇をしていただかなくても……」
「ごときじゃない。僕にとっては宝物だ」
「え……?」
とても自然に、当たり前のように言ってのけたエリアスを、ルーチェはまじまじと見つめた。
──そんなこと、ゲームでだって言わないのに。本格的にバグってるのかしら……。
促されるまま、ルーチェはスカートの裾を気にしながら片足を差し出すことになった。
エリアスの骨張った手が、ルーチェの白く柔らかい肌に触れた。両手で壊れ物を扱うように優しく、そして肌の感触を確かめるように。
「……っ」
ルーチェは小さく息を吸ってからぎゅっと唇を引き結び、ソファの背にもたれかかる。心臓の音がうるさくて、まるで部屋じゅうに響いているみたいだとルーチェは思う。
そっと滑るように撫でる指先が、ルーチェの体に僅かな熱を残していく。
「っ、あの……」
今度はかかとからアキレス腱にかけて、大きな手のひらで形を確かめるように優しく握られて、びくりと体が反応してしまった。
「……く、く、くすぐったい、です」
たまらず口にすると、エリアスは手を止めて、真面目な顔で言った。
「ごめん。でも、まだ終わってない」
その顔はまさしく真剣そのもので、ふざけているようにはとても見えない。
エリアスはルーチェの足に香油を垂らして、足の指の間に自分の指を差し込んだ。
「ひゃん!」
ルーチェは思わず声を上げてしまうが、エリアスはお構いなしに指の腹でくにくにとルーチェの足を弄ぶ。
――なんか、手つきがやらしい……のは誤解じゃないわよね?
「も、もう、いいです。私、とっても元気……」
ルーチェはむず痒さから逃れたくて、ぎゅっとソファーの肘置きを握った。
「もう少し」
──このまま、ずっと触られてたら、私……。
「え……エリアス様が、そんなにマッサージがお上手だなんて、思いませんでした」
一体どこで練習したんでしょうかね、とルーチェは少しばかりの皮肉を込めて声を出した。
「ずっと妄想してたからね」
「も?」
「……ずっと、君の足をこうして触る機会を窺っていたから」
エリアスの突然の告白は、ルーチェにとって寝耳に水の話だった。
「肩、貸そうか?」
若干歩き方があやしくなってきたルーチェに、エリアスはささやいた。
「いえ。私はそこまで貧弱ではありませんので」
ルーチェが速度を速めてもエリアスとは股下の長さが違うから、彼はなんなくついてくる。
──結構、遠いのよね。
歩きながら、ルーチェはそんなことを考えていた。どうでもいいことで頭をいっぱいにしておかないと、すぐエリアスの言動が気に掛かってしまうから、ここ数日はずっと頭の中が忙しい。
「あら……?」
スイートルームへ繋がる階段はこっちだったかしら? とルーチェが立ち止まると、後ろからひょいと抱き抱えられた。
「ひゃっ!?」
エリアスはルーチェを抱えて、スタスタと廊下を進んでいく。
「ちょ、ちょ、ちょっと! なんですかこれ!」
「足が痛いのを我慢する必要はない」
「痛くて立ち止まった訳では……!」
ちょっとばかり道には迷っていましたけれど。ええ、だって船の中って同じドアがずっと続くのですもの……。
と言い訳をしようとすると、エリアスが階段をのぼりはじめたので、ルーチェは慌ててエリアスの首にしがみついた。
自分の香水とは違う甘い香りがして、ルーチェの胸はぎゅうっと締め付けられるように苦しくなる。
「お、降ろしてください……」
「もう到着するよ」
宣言通り、見覚えのある部屋番号の扉が目の前にはあった。
「はい、お嬢様」
「ど、どうも……」
ルーチェはふわりとソファーの上に降ろされた。そこまではいいのだが、エリアスに微笑まれると、どうしていいかわからなくて、クッションを抱えて顔を隠した。
そのままドレスの裾がくしゃりとなるのも構わず、足首を振ってミュールを床に落としてソファーに転がった。
エリアスの婚約者だったころなら、こんなみっともない姿は絶対に見せられなかった。
けど今はもう違うのだ。
──ほら、エリアス様。これが私の本性です。幻滅してくださって結構ですのよ!
ルーチェは目を閉じて、エリアスが苦言を呈するのを待った。しかし言葉はないどころが、どこか遠くでエリアスが動き回っている気配がする。
「……?」
ルーチェがそっと目を開けて様子を窺うと、エリアスがなにやら黙々と作業をしている。
お湯を入れた洗面器、清潔なタオル、香油の小瓶が小さなテーブルの前に整然と並べられていく。
「……何をしてるんですか?」
我慢できず、ルーチェは身を起こして尋ねてしまった。
「見ての通り。足湯の準備を」
「なるほど」
エリアス様も足が疲れたのね。ルーチェは特に疑問を感じることもなく、体をずらしてエリアスの座る場所を作ろうとした。
けれど彼はそこのスペースにはまることはなく、床にひざまずいた。
「はい、ルーチェ。足を出して」
「足湯って私のですか!?」
エリアスの言動に、ルーチェは青ざめた。どこの世界に王子に向かって素足を放り出して足を洗えなんてことが出来る女がいるというのか。
「そうだよ、疲れてるだろう。足は大事にしないと」
エリアスはさあ、と手を差し出すがとてもそこに足を乗せる勇気はない。
「む、むむむ無理です!」
ルーチェはエリアスに捕まらないように、ソファーの上で足を抱えて丸くなった。
「無理です!」
「そんなこと言わずに。お願い」
「お願い!?」
「そう。僕が勝手にルーチェの足に触りたいだけだから」
頼まれては、ルーチェは断ることができない。
「……わ、わかりました。でも、そんな、私ごときの足にそんな好待遇をしていただかなくても……」
「ごときじゃない。僕にとっては宝物だ」
「え……?」
とても自然に、当たり前のように言ってのけたエリアスを、ルーチェはまじまじと見つめた。
──そんなこと、ゲームでだって言わないのに。本格的にバグってるのかしら……。
促されるまま、ルーチェはスカートの裾を気にしながら片足を差し出すことになった。
エリアスの骨張った手が、ルーチェの白く柔らかい肌に触れた。両手で壊れ物を扱うように優しく、そして肌の感触を確かめるように。
「……っ」
ルーチェは小さく息を吸ってからぎゅっと唇を引き結び、ソファの背にもたれかかる。心臓の音がうるさくて、まるで部屋じゅうに響いているみたいだとルーチェは思う。
そっと滑るように撫でる指先が、ルーチェの体に僅かな熱を残していく。
「っ、あの……」
今度はかかとからアキレス腱にかけて、大きな手のひらで形を確かめるように優しく握られて、びくりと体が反応してしまった。
「……く、く、くすぐったい、です」
たまらず口にすると、エリアスは手を止めて、真面目な顔で言った。
「ごめん。でも、まだ終わってない」
その顔はまさしく真剣そのもので、ふざけているようにはとても見えない。
エリアスはルーチェの足に香油を垂らして、足の指の間に自分の指を差し込んだ。
「ひゃん!」
ルーチェは思わず声を上げてしまうが、エリアスはお構いなしに指の腹でくにくにとルーチェの足を弄ぶ。
――なんか、手つきがやらしい……のは誤解じゃないわよね?
「も、もう、いいです。私、とっても元気……」
ルーチェはむず痒さから逃れたくて、ぎゅっとソファーの肘置きを握った。
「もう少し」
──このまま、ずっと触られてたら、私……。
「え……エリアス様が、そんなにマッサージがお上手だなんて、思いませんでした」
一体どこで練習したんでしょうかね、とルーチェは少しばかりの皮肉を込めて声を出した。
「ずっと妄想してたからね」
「も?」
「……ずっと、君の足をこうして触る機会を窺っていたから」
エリアスの突然の告白は、ルーチェにとって寝耳に水の話だった。
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