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「え、な、何故ですか」
ルーチェは仰天した。今までそんなことをエリアスから言われたことはなかったからだ。
ゲームの中でエリアスが子供時代の思い出を話すエピソードはない。だから彼が何を語るのか、ルーチェは自分自身の記憶をたぐり寄せながらエリアスの話を聞くことにした。
「昔は、よく川に行ったのを覚えている?」
「はい」
子供の頃は毎年避暑のために、ルーチェはエドマンズ公爵家の所有する別荘で過ごしていて、エリアスも何回か訪れたことがある。
ルーチェはとにかく行動的でおてんばな女の子だったから、よくエリアスの手を引いて森へ遊びに行った。木の実を拾ったり、登れもしないのに木にしがみついてみたり、小川を飛び越えたり──そんなことばかりしていた。
エリアスもそれなりに楽しんでいたようにルーチェの目には映っていたが、そのうちに彼は帝王教育が始まって忙しいからと、避暑地にはやってこなくなった。
「あの夏はひどく暑くて、君は薄着ばかりしていつもばあやに怒られていた」
「そ、そうでしたっけ……」
「ばあやは『そんな格好をして、はしたない』とよく言っていたよ。僕も同じことを思っていた……」
「えっ」
「だから、僕はいつも君をあまり人のいない場所へ誘導するようにしていた。その時までは、どうして自分がそう思うのか──正直、よく分かっていなかった。ただ、君をどこかへ隠さなければ、それだけを考えていた」
その頃のルーチェには前世の記憶が蘇っていなかったが、いつも「なんでこんな服ばっかり着なきゃいけないのかしら!」とぶつくさ文句を言って、よく村の女の子が着ているような服がいいのだとごねていたのを思い出した。
「そ、それは大変ご迷惑を……」
ルーチェはエリアスにそんなに気を遣わせていたのかと思いながらも、それと足に触りたいことがどう繋がるのだろうと、息を殺してじっとエリアスの様子を窺った。
エリアスの方は口に出す言葉を選んでいるのか、ルーチェの足を持ったまま、目を伏せている。
「だから僕たちはよく、森のすぐ入口の小川で遊んだね」
「はい……」
「ルーチェはいつも僕を楽しませてくれたから、僕は常に黙って君が何かするのを待っていればよかった。あの日も、君は僕の手を取って出かけようと言ってくれた。でも、その日、僕はなぜだか、とても気分が乗らなかったんだ。君に手を握られるのが無性に恥ずかしくて……」
けれどエリアスはルーチェの手を振り解けなくて、しぶしぶ森に引きずられて行ったのだと言う。
■■■
ルーチェは麦わら帽子を手で押さえながら、ひょいと小川を覗き込んだ。
『エリアス様~、お魚がいますよ~』
『そう』
ルーチェが森の中をあちこち見て回るのを、エリアスは木陰に座って見ていた。
『捕まえられそうなのに、逃げちゃいました!』
『……そうだろうね』
木陰に座り込んでじっと膝を抱えているエリアスは、ルーチェの目からはとても具合が悪そうに見えた。
『エリアス様、暑くないですか?』
『……あつい』
体はだるくなかったが、エリアスは妙な胸のざわつきを覚えていて、とても遊ぶ気になれなくて嘘をついた。
『まあ、それは大変。私、ばあやに飲み物を持っていくように言われていましたの! 蜂蜜とレモン水に塩を混ぜたものでちょっと変わった味がするんですが、おいしいんです!』
ルーチェは地面に置いてあった籠を手に取って、エリアスに近づいた。
『エリアス様、顔が赤いですよ。熱があるのではないですか?』
『ないよ』
そう言いながらも、ルーチェに見つめられて顔が赤くなっているのをエリアスは自覚していた。
『これを飲んでください!』
ルーチェはカゴから黄色の液体が入った瓶を取り出してきゅぽんと栓を抜き、瓶に口をつけて一口飲んでからエリアスに差し出した。
『毒味もちゃんとしました!』
『……いらない。喉は乾いていない』
エリアスはますます赤くなって、顔を背けた。
『でも、エリアス様、絶対に変だと思います』
『……僕も、そう思うよ』
『大変です、きっとこれは家庭教師の先生が言っていた『熱中症』です』
『え』
ルーチェはなにやら覚悟を決めた様子で、ぐいっと瓶の中身を口に含んだ。それから両手でエリアスの顔をつかんで、思いっきり口と口をくっつけた。
『~~~!!!!!!』
突然のファーストキスに、エリアスは目を見開いて硬直するしかなかった。
『ぷはっ! 飲めましたか!?』
ルーチェとしては、本で読んだ『気絶している人に水分を摂らせる』方法を実践しただけだった。
『……』
『エリアス様! 飲めましたか!?』
『え……あ……うん』
エリアスは突然唇を奪われた衝撃で、視界が歪み、脳の中では血がめぐる音がぐわんぐわんと鳴っていた。
■■■
「え、その話だと、私がエリアス様の唇を無理矢理奪っていませんか!?」
「うん」
「も、申し訳ありませんでした……!」
ルーチェは両の手で赤くなった頬を押さえたり、髪の毛をかきむしったりした。
──それで、エリアス様は私に愛想をつかして、一緒に夏を過ごしてくださらなくなったんだわ。それからエリアス様はとてもよそよそしくなって──それなのに、王子としての責務に駆られて、こんなにも必死になって私を連れ戻そうとしている。
■■■
『えーと、熱中症の時は、水分と塩分を取って、日陰で横になるんです!』
ルーチェは衝撃でふらふらとしているエリアスを木陰に横にさせた。
『人を呼んできます!』
『いい。……ここに、いてくれる? 少し休んだら元気になるから』
エリアスとしては、今の出来事を人に説明されたくはなかった。それをしたら、ルーチェと引き離されてしまう、そんな気がしたからだ。
『では、エリアス様。私の膝枕でお休みくださいな。お父様はお母様にこれをされると元気になるとおっしゃってました』
『い、いいいいいいいいよ。だいぶ元気になってきた。大丈夫』
『元気になってよかったです! では、遊びましょう!』
ルーチェはにっこりと笑って、靴と靴下を脱いで、素足を水に浸した。
■■■
「僕はその時、君を見上げたまま、目を離すことができなかった。そして思ったんだ──ああ、きれいだ。きっと僕はあの時、君への恋心を自覚した」
「えっ」
突然恋だなんて言われて、ルーチェは非常に動揺した。
ルーチェは仰天した。今までそんなことをエリアスから言われたことはなかったからだ。
ゲームの中でエリアスが子供時代の思い出を話すエピソードはない。だから彼が何を語るのか、ルーチェは自分自身の記憶をたぐり寄せながらエリアスの話を聞くことにした。
「昔は、よく川に行ったのを覚えている?」
「はい」
子供の頃は毎年避暑のために、ルーチェはエドマンズ公爵家の所有する別荘で過ごしていて、エリアスも何回か訪れたことがある。
ルーチェはとにかく行動的でおてんばな女の子だったから、よくエリアスの手を引いて森へ遊びに行った。木の実を拾ったり、登れもしないのに木にしがみついてみたり、小川を飛び越えたり──そんなことばかりしていた。
エリアスもそれなりに楽しんでいたようにルーチェの目には映っていたが、そのうちに彼は帝王教育が始まって忙しいからと、避暑地にはやってこなくなった。
「あの夏はひどく暑くて、君は薄着ばかりしていつもばあやに怒られていた」
「そ、そうでしたっけ……」
「ばあやは『そんな格好をして、はしたない』とよく言っていたよ。僕も同じことを思っていた……」
「えっ」
「だから、僕はいつも君をあまり人のいない場所へ誘導するようにしていた。その時までは、どうして自分がそう思うのか──正直、よく分かっていなかった。ただ、君をどこかへ隠さなければ、それだけを考えていた」
その頃のルーチェには前世の記憶が蘇っていなかったが、いつも「なんでこんな服ばっかり着なきゃいけないのかしら!」とぶつくさ文句を言って、よく村の女の子が着ているような服がいいのだとごねていたのを思い出した。
「そ、それは大変ご迷惑を……」
ルーチェはエリアスにそんなに気を遣わせていたのかと思いながらも、それと足に触りたいことがどう繋がるのだろうと、息を殺してじっとエリアスの様子を窺った。
エリアスの方は口に出す言葉を選んでいるのか、ルーチェの足を持ったまま、目を伏せている。
「だから僕たちはよく、森のすぐ入口の小川で遊んだね」
「はい……」
「ルーチェはいつも僕を楽しませてくれたから、僕は常に黙って君が何かするのを待っていればよかった。あの日も、君は僕の手を取って出かけようと言ってくれた。でも、その日、僕はなぜだか、とても気分が乗らなかったんだ。君に手を握られるのが無性に恥ずかしくて……」
けれどエリアスはルーチェの手を振り解けなくて、しぶしぶ森に引きずられて行ったのだと言う。
■■■
ルーチェは麦わら帽子を手で押さえながら、ひょいと小川を覗き込んだ。
『エリアス様~、お魚がいますよ~』
『そう』
ルーチェが森の中をあちこち見て回るのを、エリアスは木陰に座って見ていた。
『捕まえられそうなのに、逃げちゃいました!』
『……そうだろうね』
木陰に座り込んでじっと膝を抱えているエリアスは、ルーチェの目からはとても具合が悪そうに見えた。
『エリアス様、暑くないですか?』
『……あつい』
体はだるくなかったが、エリアスは妙な胸のざわつきを覚えていて、とても遊ぶ気になれなくて嘘をついた。
『まあ、それは大変。私、ばあやに飲み物を持っていくように言われていましたの! 蜂蜜とレモン水に塩を混ぜたものでちょっと変わった味がするんですが、おいしいんです!』
ルーチェは地面に置いてあった籠を手に取って、エリアスに近づいた。
『エリアス様、顔が赤いですよ。熱があるのではないですか?』
『ないよ』
そう言いながらも、ルーチェに見つめられて顔が赤くなっているのをエリアスは自覚していた。
『これを飲んでください!』
ルーチェはカゴから黄色の液体が入った瓶を取り出してきゅぽんと栓を抜き、瓶に口をつけて一口飲んでからエリアスに差し出した。
『毒味もちゃんとしました!』
『……いらない。喉は乾いていない』
エリアスはますます赤くなって、顔を背けた。
『でも、エリアス様、絶対に変だと思います』
『……僕も、そう思うよ』
『大変です、きっとこれは家庭教師の先生が言っていた『熱中症』です』
『え』
ルーチェはなにやら覚悟を決めた様子で、ぐいっと瓶の中身を口に含んだ。それから両手でエリアスの顔をつかんで、思いっきり口と口をくっつけた。
『~~~!!!!!!』
突然のファーストキスに、エリアスは目を見開いて硬直するしかなかった。
『ぷはっ! 飲めましたか!?』
ルーチェとしては、本で読んだ『気絶している人に水分を摂らせる』方法を実践しただけだった。
『……』
『エリアス様! 飲めましたか!?』
『え……あ……うん』
エリアスは突然唇を奪われた衝撃で、視界が歪み、脳の中では血がめぐる音がぐわんぐわんと鳴っていた。
■■■
「え、その話だと、私がエリアス様の唇を無理矢理奪っていませんか!?」
「うん」
「も、申し訳ありませんでした……!」
ルーチェは両の手で赤くなった頬を押さえたり、髪の毛をかきむしったりした。
──それで、エリアス様は私に愛想をつかして、一緒に夏を過ごしてくださらなくなったんだわ。それからエリアス様はとてもよそよそしくなって──それなのに、王子としての責務に駆られて、こんなにも必死になって私を連れ戻そうとしている。
■■■
『えーと、熱中症の時は、水分と塩分を取って、日陰で横になるんです!』
ルーチェは衝撃でふらふらとしているエリアスを木陰に横にさせた。
『人を呼んできます!』
『いい。……ここに、いてくれる? 少し休んだら元気になるから』
エリアスとしては、今の出来事を人に説明されたくはなかった。それをしたら、ルーチェと引き離されてしまう、そんな気がしたからだ。
『では、エリアス様。私の膝枕でお休みくださいな。お父様はお母様にこれをされると元気になるとおっしゃってました』
『い、いいいいいいいいよ。だいぶ元気になってきた。大丈夫』
『元気になってよかったです! では、遊びましょう!』
ルーチェはにっこりと笑って、靴と靴下を脱いで、素足を水に浸した。
■■■
「僕はその時、君を見上げたまま、目を離すことができなかった。そして思ったんだ──ああ、きれいだ。きっと僕はあの時、君への恋心を自覚した」
「えっ」
突然恋だなんて言われて、ルーチェは非常に動揺した。
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