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「エリアス様、そんなこと言わないでください!」
ルーチェは駆け寄って、布団の上からエリアスの肩を揺さぶる。
「言うさ。僕はこのまま、不摂生で自堕落な男になって、そのうち酒浸りにでもなる」
「もう、そんなわがままを……」
「わがままなんかじゃないさ。今まで、わがままを一度も言わなかった結果がこれだ。だからこそ、今回だけは……最後のわがままのつもりだった。それが失敗したなら……もう僕は、だめだ」
「駄目なんかじゃないですよ!」
「いや、だめなんだ。ルーチェがいなければ、僕はだめなんだ。エリアスでいる必要も……もうない」
その言葉に、ルーチェはぴたりと動きを止めた。
──あれ……なんか……このセリフも、聞いたことがあるような……。
『エリアス王子でいる必要もなくなったけれど、自分にはそれしかないからもう、それなら自分はもうどうでもいい』みたいなの。
ルーチェは考えをめぐらせる。ルーチェはエリアスをずっと想っていた。それは自分自身分かっているし、ゲームの設定でもそうだろう。けれど、ストーリーではお互いに「立派な人間であろうとした」結果、エリアスはルーチェのことを冷たい、形式にこだわる窮屈な婚約者としか見ることができなくなってしまった。すれ違いの末、そこにヒロインが登場し、エリアスはヒロインに心を引かれる。しかしそれを許せなかったルーチェは──
──ん?
「え、えーと、ということは……」
「『ということは』?」
エリアスがふと、布団の中からその言葉を繰り返した。ルーチェはしまったと思ったが、もう思考は溢れて止まらなかった。
──もしかして、エリアス様の病は本当に仮病というか……「ルーチェ」との恋煩いとかストレスのようなもの?
本来のルーチェは“悪役令嬢”。でも、いま目の前にいるエリアス様は、私と一緒にいたいとすねて布団に籠もっていて――あら、じゃあ、私こそがエリアス様ルートの攻略者?
「また僕の知らないことを考えているね」
エリアスの言葉で、ルーチェの思考は中断された。
「えっ、違います! 私はいつもエリアス様のことを考えてますよ!」
エリアスはすっぽりと頭まで布団をかぶってしまった。
「嘘じゃないですってば!」
焦ったルーチェが布団をめくろうとすると、エリアスのぼやきが聞こえてきた。
「君の考えていることは本当に、何もわからない」
ルーチェは目を伏せた。
──今の私は自分から全部投げ出して逃げた逃亡者。エリアス様が『いい』と言ったとしても……令嬢の身分を放り出した無責任な私を、王家が受け入れてくれるとは思えない……でも、公爵令嬢のルーチェ・エドマンズではなくて、ただのルーチェでもいいと言ってくれたら?
「……エリアス様。私は、ずっと、エリアス様のことを想っていました。いまでも、です。だからちゃんとお元気になってください。でないと……私も困りますから」
「……本当に?」
「はい。本当に、です」
「……なら、抱きしめて、よしよししてくれる?」
一瞬の静寂ののち、エリアスが発言した言葉にルーチェは目を瞬いた。
「抱きしめて……よしよし?」
「そう」
思わず聞き返すと、エリアスは軽く頷いた。どこか拗ねたような表情に、ルーチェの中の何かがちくりと疼いた。
──もしここが分岐点だったら。
このまま、もしかして、エリアス様ルートに入れるのだとしたら。
その考えがよぎった瞬間、心臓が跳ねた。
「……嫌ならいいよ」
エリアスがベッドの中に潜り込もうとするのを、ルーチェは慌てて止めた。
「や、やります! やりますとも! やらせてください! やりたいです!」
「……本当に?」
「本当に本当ですってば。何故疑うんです?」
エリアスはくすりと笑った。
「だって僕、ルーチェのこと、まだよくわからないもの」
どこか悔しそうに、でも確かにそう口にして、ルーチェは小さく唇を噛んだ。
──悪役令嬢根性が、まだ抜けきれてない。
……これは、あくまで看病。そう、応急処置。
「……ルーチェ?」
低く穏やかな声で名を呼ばれ、ルーチェはこくりと頷いた。
視線は合わせられないまま、震える指で彼の胸元にそっと触れる。
「わ、わかりました……これは、あくまで、治療ですからね」
「うん。とてもありがたい『お薬』です」
「皮肉に聞こえますけど……っ」
そう言いつつ、ルーチェはベッドの端に腰を下ろした。
きしり、と布が軋む音。
ベッドに手をついて身を乗り出すと、少し身体を起こしたエリアスと自然と視線が合う。
「それで……なにからすれば、よろしいでしょうか……?」
「上に乗って」
「……え?」
指示通り、彼の身体の上に跨る。馬乗りの格好で、膝がシーツに沈む。
は、恥ずかしい……!
背筋がぞくりとするほどの羞恥。だけど、引くわけにはいかない。これは、看病だから。治療だから。ぎこちなく背筋を伸ばしたまま、ルーチェはそっと手を伸ばし、エリアスの頭をなでた。
右手で、そして左手で、ゆっくりと、丁寧に。
「……よし、よし……です」
恥ずかしさに声が震えた。けれど、エリアスは目を閉じ、穏やかな顔でその動きを受け入れていた。額のあたり、こめかみ、耳のうしろ……どこを撫でても、彼はとても静かだった。
エリアスのぬくもりに触れていると、胸の奥に、ふんわりとしたやさしい灯がともるようだった。
「ルーチェ。……こっちを見て?」
「……ん」
声をかけられて、恥ずかしさに顔を背けそうになるのを堪え、ルーチェはそっと目を閉じた。
そして──
柔らかな感触が、そっと唇に触れた。
ルーチェは駆け寄って、布団の上からエリアスの肩を揺さぶる。
「言うさ。僕はこのまま、不摂生で自堕落な男になって、そのうち酒浸りにでもなる」
「もう、そんなわがままを……」
「わがままなんかじゃないさ。今まで、わがままを一度も言わなかった結果がこれだ。だからこそ、今回だけは……最後のわがままのつもりだった。それが失敗したなら……もう僕は、だめだ」
「駄目なんかじゃないですよ!」
「いや、だめなんだ。ルーチェがいなければ、僕はだめなんだ。エリアスでいる必要も……もうない」
その言葉に、ルーチェはぴたりと動きを止めた。
──あれ……なんか……このセリフも、聞いたことがあるような……。
『エリアス王子でいる必要もなくなったけれど、自分にはそれしかないからもう、それなら自分はもうどうでもいい』みたいなの。
ルーチェは考えをめぐらせる。ルーチェはエリアスをずっと想っていた。それは自分自身分かっているし、ゲームの設定でもそうだろう。けれど、ストーリーではお互いに「立派な人間であろうとした」結果、エリアスはルーチェのことを冷たい、形式にこだわる窮屈な婚約者としか見ることができなくなってしまった。すれ違いの末、そこにヒロインが登場し、エリアスはヒロインに心を引かれる。しかしそれを許せなかったルーチェは──
──ん?
「え、えーと、ということは……」
「『ということは』?」
エリアスがふと、布団の中からその言葉を繰り返した。ルーチェはしまったと思ったが、もう思考は溢れて止まらなかった。
──もしかして、エリアス様の病は本当に仮病というか……「ルーチェ」との恋煩いとかストレスのようなもの?
本来のルーチェは“悪役令嬢”。でも、いま目の前にいるエリアス様は、私と一緒にいたいとすねて布団に籠もっていて――あら、じゃあ、私こそがエリアス様ルートの攻略者?
「また僕の知らないことを考えているね」
エリアスの言葉で、ルーチェの思考は中断された。
「えっ、違います! 私はいつもエリアス様のことを考えてますよ!」
エリアスはすっぽりと頭まで布団をかぶってしまった。
「嘘じゃないですってば!」
焦ったルーチェが布団をめくろうとすると、エリアスのぼやきが聞こえてきた。
「君の考えていることは本当に、何もわからない」
ルーチェは目を伏せた。
──今の私は自分から全部投げ出して逃げた逃亡者。エリアス様が『いい』と言ったとしても……令嬢の身分を放り出した無責任な私を、王家が受け入れてくれるとは思えない……でも、公爵令嬢のルーチェ・エドマンズではなくて、ただのルーチェでもいいと言ってくれたら?
「……エリアス様。私は、ずっと、エリアス様のことを想っていました。いまでも、です。だからちゃんとお元気になってください。でないと……私も困りますから」
「……本当に?」
「はい。本当に、です」
「……なら、抱きしめて、よしよししてくれる?」
一瞬の静寂ののち、エリアスが発言した言葉にルーチェは目を瞬いた。
「抱きしめて……よしよし?」
「そう」
思わず聞き返すと、エリアスは軽く頷いた。どこか拗ねたような表情に、ルーチェの中の何かがちくりと疼いた。
──もしここが分岐点だったら。
このまま、もしかして、エリアス様ルートに入れるのだとしたら。
その考えがよぎった瞬間、心臓が跳ねた。
「……嫌ならいいよ」
エリアスがベッドの中に潜り込もうとするのを、ルーチェは慌てて止めた。
「や、やります! やりますとも! やらせてください! やりたいです!」
「……本当に?」
「本当に本当ですってば。何故疑うんです?」
エリアスはくすりと笑った。
「だって僕、ルーチェのこと、まだよくわからないもの」
どこか悔しそうに、でも確かにそう口にして、ルーチェは小さく唇を噛んだ。
──悪役令嬢根性が、まだ抜けきれてない。
……これは、あくまで看病。そう、応急処置。
「……ルーチェ?」
低く穏やかな声で名を呼ばれ、ルーチェはこくりと頷いた。
視線は合わせられないまま、震える指で彼の胸元にそっと触れる。
「わ、わかりました……これは、あくまで、治療ですからね」
「うん。とてもありがたい『お薬』です」
「皮肉に聞こえますけど……っ」
そう言いつつ、ルーチェはベッドの端に腰を下ろした。
きしり、と布が軋む音。
ベッドに手をついて身を乗り出すと、少し身体を起こしたエリアスと自然と視線が合う。
「それで……なにからすれば、よろしいでしょうか……?」
「上に乗って」
「……え?」
指示通り、彼の身体の上に跨る。馬乗りの格好で、膝がシーツに沈む。
は、恥ずかしい……!
背筋がぞくりとするほどの羞恥。だけど、引くわけにはいかない。これは、看病だから。治療だから。ぎこちなく背筋を伸ばしたまま、ルーチェはそっと手を伸ばし、エリアスの頭をなでた。
右手で、そして左手で、ゆっくりと、丁寧に。
「……よし、よし……です」
恥ずかしさに声が震えた。けれど、エリアスは目を閉じ、穏やかな顔でその動きを受け入れていた。額のあたり、こめかみ、耳のうしろ……どこを撫でても、彼はとても静かだった。
エリアスのぬくもりに触れていると、胸の奥に、ふんわりとしたやさしい灯がともるようだった。
「ルーチェ。……こっちを見て?」
「……ん」
声をかけられて、恥ずかしさに顔を背けそうになるのを堪え、ルーチェはそっと目を閉じた。
そして──
柔らかな感触が、そっと唇に触れた。
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