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恋人のふり
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「――わたしは柚。和泉 柚」
屋上に現れた女子は、三年の先輩だった。
黒髪で精巧な人形のような容姿。
制服が良く似合い、近寄りがたいほどに美人だった。
俺とは釣り合わない――そう思っていた。
でも、今は自己紹介されて俺はカチコチに固まっていた。
授業サボって屋上で寝そべってゲームしていたら……女子がやってきた。俺の顔を覗き込むような姿勢で視線を向けて。
「先輩、パンツ丸見えですよ」
「だよね。君の顔面を踏みつけてやりたいところだけど、今は困っているから」
「困っている?」
「自慢じゃないけど、わたしモテるんだよね。それで告白とかストーカーとかしつこくて……もう参っちゃった」
「でしょうね。先輩、アイドルみたいに可愛いし、巨乳だし……男子の中では超有名人ですよ」
「だよね。でも、もう男子の視線に耐えられない。いっそ、恋人でも作っちゃおうかなって……でも、そんな勇気もない。だから」
「だから?」
「君、恋人のふりをしてくれない?」
先輩の提案に俺は脳が震えた。
恋人のふり?
恋人になってくれ――ではなく、ふりなのか?
でも、それでも先輩と交流できるってことだ。これは奇跡だぞ。……いや、喜ぶな俺。もしかしたら、からかわれている可能性も。
「先輩、なんで俺なんですか。他にもイケメンはいるでしょう」
「顔とかどうでもいい。肝心なのは中身だよ」
先輩の眼差しはよどみなく、本気だった。嘘はない。これはドッキリでも罰ゲームでもないようだ。
「恋人のふりでいいんですね」
「うん。秋永 愁くん」
「――って、先輩。俺の名前、知っていたんですか」
「実は知ってた。君はもう少し自分が特別な人間だって自覚した方がいいよ」
俺が特別?
そんなわけない。
ずっとぼっちだし、趣味もゲームくらいだ。彼女なんていないし、無気力な毎日だ。
「特別だなんて思えないないですよ」
「じゃあ、わたしが特別にしてあげる」
「え……」
先輩がしゃがみ、手を伸ばしてくる。
俺の顔に触れ、ゆっくりと優しく撫でてきた。
……心臓の鼓動が恐ろしいほどに早くなっていく。
女子の手が頬に触れただけで……こんなにドキドキするのか。こんなに気分が――世界が変わるものなのか。……知らなかった。
撫でられただけなのに…………特別を感じた。
「恋人のふりをしてくれる?」
「…………喜んで」
「じゃあ、契約をしなきゃね」
先輩はそのまま顔を近づけてきた。
唇が目の前にあったような――もう気づいたときには重なっていた。
「――――」
頭が真っ白になった。
もう何も考えられなかった。
恋人のふりでは……なかったのか。
「今日からわたしと愁くんは恋人……のふりをする。毎日、毎日……卒業するまで」
「先輩がそこまでの覚悟なら分かりました。俺も恋人のふりをしますね」
「ありがと」
ひまわりのような笑みを向けられ、俺は脳が蕩けていた。
一目惚れだ。
人生ではじめて女の子を好きになった。
屋上に現れた女子は、三年の先輩だった。
黒髪で精巧な人形のような容姿。
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俺とは釣り合わない――そう思っていた。
でも、今は自己紹介されて俺はカチコチに固まっていた。
授業サボって屋上で寝そべってゲームしていたら……女子がやってきた。俺の顔を覗き込むような姿勢で視線を向けて。
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「困っている?」
「自慢じゃないけど、わたしモテるんだよね。それで告白とかストーカーとかしつこくて……もう参っちゃった」
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「だから?」
「君、恋人のふりをしてくれない?」
先輩の提案に俺は脳が震えた。
恋人のふり?
恋人になってくれ――ではなく、ふりなのか?
でも、それでも先輩と交流できるってことだ。これは奇跡だぞ。……いや、喜ぶな俺。もしかしたら、からかわれている可能性も。
「先輩、なんで俺なんですか。他にもイケメンはいるでしょう」
「顔とかどうでもいい。肝心なのは中身だよ」
先輩の眼差しはよどみなく、本気だった。嘘はない。これはドッキリでも罰ゲームでもないようだ。
「恋人のふりでいいんですね」
「うん。秋永 愁くん」
「――って、先輩。俺の名前、知っていたんですか」
「実は知ってた。君はもう少し自分が特別な人間だって自覚した方がいいよ」
俺が特別?
そんなわけない。
ずっとぼっちだし、趣味もゲームくらいだ。彼女なんていないし、無気力な毎日だ。
「特別だなんて思えないないですよ」
「じゃあ、わたしが特別にしてあげる」
「え……」
先輩がしゃがみ、手を伸ばしてくる。
俺の顔に触れ、ゆっくりと優しく撫でてきた。
……心臓の鼓動が恐ろしいほどに早くなっていく。
女子の手が頬に触れただけで……こんなにドキドキするのか。こんなに気分が――世界が変わるものなのか。……知らなかった。
撫でられただけなのに…………特別を感じた。
「恋人のふりをしてくれる?」
「…………喜んで」
「じゃあ、契約をしなきゃね」
先輩はそのまま顔を近づけてきた。
唇が目の前にあったような――もう気づいたときには重なっていた。
「――――」
頭が真っ白になった。
もう何も考えられなかった。
恋人のふりでは……なかったのか。
「今日からわたしと愁くんは恋人……のふりをする。毎日、毎日……卒業するまで」
「先輩がそこまでの覚悟なら分かりました。俺も恋人のふりをしますね」
「ありがと」
ひまわりのような笑みを向けられ、俺は脳が蕩けていた。
一目惚れだ。
人生ではじめて女の子を好きになった。
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