クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗

文字の大きさ
14 / 287

グイグイくる天音さん

しおりを挟む
 あれから少し時は経ち――俺は晩飯を作る北上を見学していた。

「イノシシ肉、鮮度はもうだいぶ落ちたよなぁ。燻製くんせいにでもするか」
「でも、どうやって燻製にするのですか?」

「そうだな。針金か丈夫な枝が十本……それに板だな。鉄板が望ましいけど、木板でもいいや。自作の燻製器を作るんだよ」

「それで出来ちゃうんですね?」

「けど、その前に下準備だな。それまで時間があるし、塩はないから肉を海水につけて塩分で満たす。あとは綺麗な水につけて塩抜き。
 で、それから肉を乾燥させる。
 その作業が終わったら、次に燻煙くんえんだ。燻製器の中にぶちこんでスモークする。それから肉を熟成させるんだ。すると干し肉が完成する」


 これは、俺のサバイバル知識だ。
 覚えておいて良かった。

 説明を終えると、北上は驚いていた。

「早坂くん、よく知ってますね。さすがのあたしもそれは知りませんでした」
「ただ、燻製器を作るのに材料が必要だけどね」

「それなら、あたしが作りますよ。木製にはなっちゃいますが」
「それで十分さ」

 ナイフがあって良かった。
 時間は掛かるだろうけど、北上ならやれるはず。

 俺は、燻製器の組み立て方を北上に伝授した。


「――分かりました、早めに作っておきますね」

「頼む。それじゃ、晩御飯はイノシシ肉とヤマモモってところかな。一応、蛇もあるけど」

「それは却下です。早坂くんが責任をもって食べてください」
「そんなに嫌か」

「好き嫌いを言っている場合ではないですけどね。それでもです」


 頑なに拒否する北上。
 無理強いは出来ない。
 俺が食うしかないか。

 人生初の蛇の肉か。
 ……調理するの嫌だけど、これも経験だ。

 近い将来、人類は食糧問題に直面するらしい。
 そうなれば、いずれは昆虫食を頼ることになるんだとか。

 今の俺はその前段階にいる。
 しかし、まだ虫は避けておきたい。

 プロの冒険家は、当たり前のようにバッタや幼虫……クモやムカデすら食うが。

 尊敬しかない。


 * * *


 全員で焚火を囲い、焼いたイノシシ肉を味わった。
 まだまだジューシーで中々イケる。

「ところでさ、お肉って、どうやって保存してるの? 冷蔵庫とかないじゃん」

 天音が疑問を投げた。
 答えられる者は、俺か北上しかいないだろう。

 北上が答えてくれた。

「当然、そのままだと腐ってしまいます。なので、適正なサイズに切り取ったブルーシートに包んで流水に浸しているんです」

「え、流水って……川とかあったっけ」
「もちろん、海です。ここから距離がありますが、北側に海岸があるんです。網をバラした紐を使って垂らしてあるんですよ。それで少しだけ日持ちします」

「おぉ、さすが北上さんね」


 おや、天音は北上をライバル視していると思ったんだが。これは意外だ。
 こうして仲良くしてくれれば俺は苦労しないんだがな。


 それから、静かな時間が流れていく。


 食事を終えて、少し経過した頃。
 ほぼ全員がベッドへ寝転んだ。
 みんな疲れているんだろうな。


 俺はというと、ラジオを作れないか模索していた。
 廃材で作れないかな。

「どうしたの、早坂くん」
「天音……寝なくていいのか。疲れたろ」
「ううん、大丈夫。隣いいかな」

「構わないよ。焚火を眺めなら、ない脳をフル回転させていただけだからな」
「なにを考えていたの? ……まさか、えっちなこと?」

「そんなわけないって。ラジオだよ」
「ラジオ?」

「電話回線やネットが繋がらない以上、ラジオしかないかなって」
「でも、電池ないよ?」

「戦時中、電池不要のラジオが活用されていたんだ。その名も『塹壕ラジオ』と言ってな。カッターの刃とエンピツで作れたんだ」

「え、そんな簡単な材料で?」


 他には、セラミックイヤホンと銅線が必要だ。
 欲を言えば『ゲルマニウムダイオード』があれば良いんだが、それだと塹壕ラジオではなく、ゲルマニウム・ラジオになるけどな。


「――というわけだ」
「うひゃ~…そんなの普通知らないよ。早坂くんって本当、知識の宝庫だよね。一緒にいて退屈しないもん」

 なぜか手を握られ、俺はビクッとした。
 ……な、なんか距離も近いような。

「あ、天音……」
「わたしね……今、ドキドキしてる」

 手をにぎにぎしてきて、凄く気持ちがいい。
 天音の指、細すぎ。

「いいのか、アイドルがこんなダメ男と手を握って」
「ダメ男なんかじゃない。それに、握手会とか普通にするし」

 それもそうか。
 なんか普通に納得してしまった。

「なんか歌ったりするの?」
「もちろん、オリジナルソングとかね。踊りもやる」
「へえ、聞いてみたいな」

「恥ずかしいから、また今度ね」


 今度は頭を預けてくる天音。
 なんか距離感が異様に近い。
 今晩の天音は……どうしたんだろう。


「そ、そうか。それにしても、救助とか来る気配がないな」
「島っていっぱいあるんだよね。探すの大変なのかも」
「時間は掛かっているんだろうなあ」

「このまま見つからなくてもいいかもね」
「え……」

「だって、早坂くんがいれば……いいかなって」
「そ、それってどういう意味……」


 聞き返すと、天音は頬を紅潮させた。
 恥ずかしそうに視線を夜空に向けて、誤魔化している風にも見えた。

「わたし、こんな島に流れ着いてサバイバルすることになるなんて思わなかったよ」
「俺もだよ。いつも退屈な授業を受けて、毎日適当に過ごしていた」


「「でも……」」


 俺と天音の言葉が重なった。
 視線すらも合わさって、時が止まった。

 夜の穏やかな風が頬を撫でる。

 高鳴る鼓動。
 心の奥底から押し上げてくる緊張感とマグマのような熱。


「……早坂くん、わたし……今まで絶望しかないと思ったけど、目の前に希望があった」

 月明かりで反射する目尻の雫。
 天音はそっとまぶたを閉じ、キスを求めてきたのかと思った――けれど。

 抱擁ほうようを求めた。

 俺は天音の華奢な体を受け止め、安心させた。
 ずっと怖かったのかもしれない。

 こんなワケのわからない島に流れ着いて、みんなや家族と離れ離れになってしまって……平常でいられるはずがないよな。

「安心しろ、天音。いつかきっと迎えがくる。それまでは俺が天音を守ってやる」

「……うん。信じてるからね」
「俺も天音のことを信じてる」

「嬉しいな。男の子で信用できる人ってゼロに等しかったから」
「なぜだ? アイドルならモテるだろうに」
「アイドルだからこそだよ。難しいんだ、いろいろと」

 それもそうか。人気アイドルなら悩みは尽きないだろうし、異性の問題となると尚更だろう。

「今、この島には男は俺だけだ。……あ、でも倉島ってヤツがいるんだっけ。潜伏しているのかな」
「うーん、でも同じ生徒だから乱暴は止めて欲しいな」

 天音は優しいな。
 でも、船が転覆したあの日、救命ボートを奪取して逃げ出したらしいからな。極悪人だぞ。

 何かしてくるようなら、俺が天音を――いや、みんなを守るさ。


「承知した。ところで天音……ずっとこのままでいいのか?」
「……っ! そ、そうだった。早坂くんと抱き合ったままだった……うぅ」

 元々赤かった顔を、更に真っ赤にする天音さん。

 やっぱり恥ずかしかったのか、俺から慌てて離れてきびすを返す。

 両手で顔を覆うと、洞窟の方へ走って行ってしまった。

 可愛すぎかっ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...