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新たな生存者とチョコレート
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「む……?」
「どうしたの、早坂くん」
「いや、なんか気配がしたような」
「そ、そうなの!? 誰かいるってこと?」
「さあ、分からん。中を覗いて見ないことには……」
そもそも、大伊たちはテントなんて使わず、このトーチカを使えば良かったのでは。それとも、別の事情があったのか。
「入ってみましょう」
冷静に進んでいく北上。相変わらず、恐れを知らないな。少しは恐怖とかないのだろうか。
裏側に回ると出入口があった。
雨雲のせいで視界が悪い。
俺はバッグから懐中電灯を取り出して点灯させた。これは、ジョン・スミスが落としたものだ。まだ電池残量も残っていて、使えた。
通路を照らし、中へ入っていく。
トーチカの中はカビ臭くて、地面とか壁の苔の浸食も酷かった。ずっと放置されていたのだろう、廃墟状態だ。
「そうか、このカビの臭いに耐え切れずテント生活を選んだんだ」
「み、みたいだね。これはキツイよ」
天音も不快そうにしていた。
だが、外は大嵐だし……ここに留まるしかない。
――さて、奥だが。
物陰から“コトン”と音がして、なにかが動き出した。
小動物?
いや、違う。これは“人間”だ!
「……それ以上、近づくな!」
なにかが威嚇してきて、ナイフを向けてきた。女子だ。
この制服……ウチの高校と同じだ。
そうか、生存者がいたんだ。
「落ち着け。俺たちは同じ仲間だ」
「……そうなのか。って、絆……」
絆?
誰だっけ――と、思ったら北上の名前であったことを俺は思い出した。そういえば、そんな可愛い名前だったな。
「琴吹 楓さん、ここにいらしたのですね。生きていたとは」
「絆、これはどういうこと! なんで船が転覆したんだよ。この島はなんだ」
北上は、琴吹という女子に説明をした。終始驚いて――とりあえず、武器は下ろしてくれた。
「――というわけなのです。脱出し損ねました」
「な……なんてこと。でも、仲間がいて良かった……私、ずっと、ひとりぼっちで……うぅ」
泣き出す琴吹を北上がなだめていた。へえ、北上ってそういう優しいところもあるんだな。
「ねえねえ、早坂くん」
「どうした、天音」
「あの子、ずっとここにいたのかな」
「いや、大伊たちが俺らと合流してからじゃないか。タイミング的にはそこだろ」
「なるほどね。入れ違ったのかなあ」
大方そんなところだろう。
しかし、まだ生存者がいたとは……いや、ここは喜ぶべきところだ。喜ぶべきところなのだが……また女子なのか。
男は、今のところゼロだな。まあ倉島がいたけど、ヤツは今回の事件の首謀者のひとりでもあったしな。ヤツは除外だ。
落ち着いたところを見計らって、俺は琴吹に話しかけた。
「ちょっといいかな、琴吹さん」
「な、なに。ていうか、君は誰」
「あー…そうだった。俺は早坂。早坂 啓だ。よろしく」
「早坂くんね。私は琴吹 楓。絆とはサバゲー仲間だ」
そういうことか。名前で呼び合う仲ということは、友達か。北上にも友達が――そりゃ、いるか。悲しいかな、ぼっちなのは俺だけなんだなぁ。
「で、君は今までどこで何をしていたんだい?」
「この島に流れ着いてから、いろいろあっちこっち回った。でも、誰とも遭遇できなくて……この建物を発見した。カビ臭かったけど、我慢して寝床にしたんだよ」
「水とか食糧とかどうしていたんだ?」
「雨水で凌いだよ。もう底を尽きる寸前……。食料は、草を食べてなんとか。昔、絆に教えて貰ったから」
そういえば、北上は食べられる草に詳しかったな。彼女にも教えていたんだろう。
「そうでしたか。無事でなによりですが、この嵐です。しばらくはトーチカで過ごすしかないようです」
「脱出はできないのか、絆」
「無理です。船は出発してしまいましたし……無事に出航できたのかも分かりません」
そうなんだよな。八重樫に頼んだけど、果たして船を操縦して島を出られたのかどうか……。
最悪、転覆なんてことも。
考えたくもないが。
「そうか……。ところで、その、なにか食べる物はない? お腹が減って死にそうなんだ……」
ぐぅ~~~とお腹を鳴らす琴吹。
そうだな、俺も腹が減った。
天音や北上も言わないだけで、空腹のようだった。丁度良い。
「スクールバッグにあった、チョコレートを食べよう。かなり貴重な品だけど、今こそだと思う」
「チョ、チョコレート! そんなお菓子があるなんて……」
目を輝かせる琴吹は、今にも飛びついてきそうだった。
正直、これを食べるかどうか悩んだ。
貴重な甘味だからな。
だけど、大嵐の今、いつ何が起きるか分からない。今、栄養をつけておかないと、なにかあった時に困るのだ。
俺は板チョコを四等分をした。
それをみんなに配った。
「ゆっくり味わえ、天音」
「ありがとう、早坂くん。わたし、チョコレートは大好物なの!」
嬉しそうにする天音の笑顔に、俺は癒された。……可愛すぎる。
「あたしにも?」
「当然だろ。北上さんには常に力をつけてもらわないと」
「ありがとうございます。ちなみに、あたしもチョコレートは大好物です」
北上は笑顔っていうか、殺人ピエロの狂気――って、なんで俺を睨むのぉ!? あの目つきは怖いからヤメテ欲しい。
最後に琴吹にも分け与えた。
「ありがとう、早坂くん」
「おう。飲み物も必要ならあるぞ」
「凄いね。どこでそんな調達したの?」
「流れ着いた物とか、この島の自然から入手した物も多いよ」
「ガチのサバイバルしてるじゃん。すごっ」
「そうしないと生き残れないからね」
俺はチョコレートを口に入れる。
甘くて深い味わいが口内に広がって、久しぶりの糖分に脳がバグりそうになった。
わぁ……美味ぁ。
天音も北上も、琴吹も全員がチョコレートの味に感動していた。こんな何気ないものが、こんなに極上に思えるなんてな。
「どうしたの、早坂くん」
「いや、なんか気配がしたような」
「そ、そうなの!? 誰かいるってこと?」
「さあ、分からん。中を覗いて見ないことには……」
そもそも、大伊たちはテントなんて使わず、このトーチカを使えば良かったのでは。それとも、別の事情があったのか。
「入ってみましょう」
冷静に進んでいく北上。相変わらず、恐れを知らないな。少しは恐怖とかないのだろうか。
裏側に回ると出入口があった。
雨雲のせいで視界が悪い。
俺はバッグから懐中電灯を取り出して点灯させた。これは、ジョン・スミスが落としたものだ。まだ電池残量も残っていて、使えた。
通路を照らし、中へ入っていく。
トーチカの中はカビ臭くて、地面とか壁の苔の浸食も酷かった。ずっと放置されていたのだろう、廃墟状態だ。
「そうか、このカビの臭いに耐え切れずテント生活を選んだんだ」
「み、みたいだね。これはキツイよ」
天音も不快そうにしていた。
だが、外は大嵐だし……ここに留まるしかない。
――さて、奥だが。
物陰から“コトン”と音がして、なにかが動き出した。
小動物?
いや、違う。これは“人間”だ!
「……それ以上、近づくな!」
なにかが威嚇してきて、ナイフを向けてきた。女子だ。
この制服……ウチの高校と同じだ。
そうか、生存者がいたんだ。
「落ち着け。俺たちは同じ仲間だ」
「……そうなのか。って、絆……」
絆?
誰だっけ――と、思ったら北上の名前であったことを俺は思い出した。そういえば、そんな可愛い名前だったな。
「琴吹 楓さん、ここにいらしたのですね。生きていたとは」
「絆、これはどういうこと! なんで船が転覆したんだよ。この島はなんだ」
北上は、琴吹という女子に説明をした。終始驚いて――とりあえず、武器は下ろしてくれた。
「――というわけなのです。脱出し損ねました」
「な……なんてこと。でも、仲間がいて良かった……私、ずっと、ひとりぼっちで……うぅ」
泣き出す琴吹を北上がなだめていた。へえ、北上ってそういう優しいところもあるんだな。
「ねえねえ、早坂くん」
「どうした、天音」
「あの子、ずっとここにいたのかな」
「いや、大伊たちが俺らと合流してからじゃないか。タイミング的にはそこだろ」
「なるほどね。入れ違ったのかなあ」
大方そんなところだろう。
しかし、まだ生存者がいたとは……いや、ここは喜ぶべきところだ。喜ぶべきところなのだが……また女子なのか。
男は、今のところゼロだな。まあ倉島がいたけど、ヤツは今回の事件の首謀者のひとりでもあったしな。ヤツは除外だ。
落ち着いたところを見計らって、俺は琴吹に話しかけた。
「ちょっといいかな、琴吹さん」
「な、なに。ていうか、君は誰」
「あー…そうだった。俺は早坂。早坂 啓だ。よろしく」
「早坂くんね。私は琴吹 楓。絆とはサバゲー仲間だ」
そういうことか。名前で呼び合う仲ということは、友達か。北上にも友達が――そりゃ、いるか。悲しいかな、ぼっちなのは俺だけなんだなぁ。
「で、君は今までどこで何をしていたんだい?」
「この島に流れ着いてから、いろいろあっちこっち回った。でも、誰とも遭遇できなくて……この建物を発見した。カビ臭かったけど、我慢して寝床にしたんだよ」
「水とか食糧とかどうしていたんだ?」
「雨水で凌いだよ。もう底を尽きる寸前……。食料は、草を食べてなんとか。昔、絆に教えて貰ったから」
そういえば、北上は食べられる草に詳しかったな。彼女にも教えていたんだろう。
「そうでしたか。無事でなによりですが、この嵐です。しばらくはトーチカで過ごすしかないようです」
「脱出はできないのか、絆」
「無理です。船は出発してしまいましたし……無事に出航できたのかも分かりません」
そうなんだよな。八重樫に頼んだけど、果たして船を操縦して島を出られたのかどうか……。
最悪、転覆なんてことも。
考えたくもないが。
「そうか……。ところで、その、なにか食べる物はない? お腹が減って死にそうなんだ……」
ぐぅ~~~とお腹を鳴らす琴吹。
そうだな、俺も腹が減った。
天音や北上も言わないだけで、空腹のようだった。丁度良い。
「スクールバッグにあった、チョコレートを食べよう。かなり貴重な品だけど、今こそだと思う」
「チョ、チョコレート! そんなお菓子があるなんて……」
目を輝かせる琴吹は、今にも飛びついてきそうだった。
正直、これを食べるかどうか悩んだ。
貴重な甘味だからな。
だけど、大嵐の今、いつ何が起きるか分からない。今、栄養をつけておかないと、なにかあった時に困るのだ。
俺は板チョコを四等分をした。
それをみんなに配った。
「ゆっくり味わえ、天音」
「ありがとう、早坂くん。わたし、チョコレートは大好物なの!」
嬉しそうにする天音の笑顔に、俺は癒された。……可愛すぎる。
「あたしにも?」
「当然だろ。北上さんには常に力をつけてもらわないと」
「ありがとうございます。ちなみに、あたしもチョコレートは大好物です」
北上は笑顔っていうか、殺人ピエロの狂気――って、なんで俺を睨むのぉ!? あの目つきは怖いからヤメテ欲しい。
最後に琴吹にも分け与えた。
「ありがとう、早坂くん」
「おう。飲み物も必要ならあるぞ」
「凄いね。どこでそんな調達したの?」
「流れ着いた物とか、この島の自然から入手した物も多いよ」
「ガチのサバイバルしてるじゃん。すごっ」
「そうしないと生き残れないからね」
俺はチョコレートを口に入れる。
甘くて深い味わいが口内に広がって、久しぶりの糖分に脳がバグりそうになった。
わぁ……美味ぁ。
天音も北上も、琴吹も全員がチョコレートの味に感動していた。こんな何気ないものが、こんなに極上に思えるなんてな。
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