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明日への希望 - Tomorrow Never Dies Side:北上
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「北上さん」
慣れない名を耳にして、けれど、自分はハッとなった。
そうだ、それが今の自分の名前。
アメリカの証人保護プログラムを受け、幾度となく名や住所さえも変えてきた。
父が特殊部隊の人間だからだ。
けれど、その組織名、構成など何もかもが極秘とされている。アメリカもその組織を認めていない。
そんな父に連れられ、気づけば日本という国にいた。
あれからもう三年。
穏やかな高校生活を送るようになり、不慣れだった日本語も流暢に話せるようになった。
「――北上 絆さん」
「はい」
メニエール病を患っている自分は、病院に通っていた。健診後、処方箋を受け取り、帰った。
そんな自分を気遣ってくれるのか、父は迎えにきてくれた。
「絆、眩暈はどうだ?」
「いつもよりは良い。それより、アメリカに戻りたい」
「ダメだ、もう戻れん」
「どうして」
「ホワイトウォーターの動きが活発になっているからだ」
またそれだ。
父は、ホワイトウォーターを警戒していた。同じアメリカの組織なのに、なぜか敵対していた。詳細は分からないけど。
「名前も、なにもかも変わったのだから大丈夫だよ」
「そうはいかん。お前を死なせたら、母さんに顔向けできんからな。それに、高校生活もようやく落ち着いたのだろう。難しい日本語だってやっとマスターしたところだ。もったいないだろう」
「母さんが日本人だったから、なんとなく覚えてたから……別に関係ない」
自分の母親は日本人。だから、自分はアメリカと日本のハーフ。そのせいか、驚くほど日本に馴染んだ。
金髪だから少々目立つけど、その程度。
「今は世界一安全と言われている日本で暮らすしかない」
「そうかな。近頃の日本も物騒だよ。治安も悪化してきている」
「口答えするな。ほら、またお前の好きなエアガンを買ってやるから」
「……そ、それはずるい」
最近、自分がサバイバルゲームにハマっていることを父は知っていた。
休日は、女子限定の有料サバイバルフィールドへ赴き、ストレスを発散していた。そのせいか、エアガンのコレクションが増え続けていた。
共通の趣味をもった女子友達も増えたけど。
同じ高校に通う……琴吹 楓。
ボーイッシュでエネルギッシュな彼女は、日本で唯一できた友達かもしれない。
「だからもう少し我慢しなさい」
「分かった。今度、実銃も買ってよ。パパの権限なら可能でしょ? ほら、アメリカの大使館に顔が利くって言っていたし」
「不可能ではないがダメだ。リスクが高すぎる」
「……むぅ」
向こうでは散々実銃を撃った。
たくさんの訓練を行い、そのうえで銃器の扱い方も学んだ。傭兵として、アフガンなどで実戦も何度か経験済みだ。
だから、この平和な日本では体が鈍ってしまう。
まるで死んでいるみたいだ。
だから一刻も早く日本を脱出したかった。
自分の居場所は『戦場』しかない。
でも父の命令には逆らえない。
軍人は命令が絶対だから……そう教育を受けているから。
「時はそのうち来る。今は耐えろ」
「そうかな」
「拗ねるな。それより、男でも見つけて遊べばいい」
「そこは普通、心配するところでしょ」
「そうでもないさ。パパは若い頃に母さんと……全ては言うまい」
「別に聞きたくない」
そうして退屈な日々がまた始まった。
けれど。
ある日、修学旅行が決まった。
どこかの島へ向かうとか何とか。正直、興味はあまりなかった。船内では、ただひたすら筋トレなど鍛練を怠らず体を鍛えていた。
「わぁ、北上さん……指一本で腕立て伏せしてる!?」
「琴吹 楓さんではないですか」
「楓でいいよ。それより、なんか船が揺れてない? 外も夜みたいに真っ暗だし」
「そうですね。外は嵐みたいです」
嫌な予感がしていた。
こんな大嵐では船が転覆し、沈没するのではないかと。
その予感は的中した。
どこかで爆発音が響き――そして、船は沈んだ。
『――――』
意識を失い、気づけば知らない島にいた。
太陽がまぶしい。
ここはどこ。
自分はなぜ、こんなところに。
……ああ、そうか。
船がいきなり沈んで……。
それで奇跡的にも流されたんだ。
遠くで声がする。
あれは同じクラスの早坂 啓。
それと現役アイドルの天音 愛。
何度か話したことがあった。
そうか、彼等も流されて……。
それから、あたしは早坂 啓の魅力に気づいた。彼は勇敢で素晴らしい。こんな男子が日本にいたなんて知らなかった。
今まで戦場ばかりを追いかけていたけど、今はもう違う。
あたしにも守るものが出来てしまった――。
慣れない名を耳にして、けれど、自分はハッとなった。
そうだ、それが今の自分の名前。
アメリカの証人保護プログラムを受け、幾度となく名や住所さえも変えてきた。
父が特殊部隊の人間だからだ。
けれど、その組織名、構成など何もかもが極秘とされている。アメリカもその組織を認めていない。
そんな父に連れられ、気づけば日本という国にいた。
あれからもう三年。
穏やかな高校生活を送るようになり、不慣れだった日本語も流暢に話せるようになった。
「――北上 絆さん」
「はい」
メニエール病を患っている自分は、病院に通っていた。健診後、処方箋を受け取り、帰った。
そんな自分を気遣ってくれるのか、父は迎えにきてくれた。
「絆、眩暈はどうだ?」
「いつもよりは良い。それより、アメリカに戻りたい」
「ダメだ、もう戻れん」
「どうして」
「ホワイトウォーターの動きが活発になっているからだ」
またそれだ。
父は、ホワイトウォーターを警戒していた。同じアメリカの組織なのに、なぜか敵対していた。詳細は分からないけど。
「名前も、なにもかも変わったのだから大丈夫だよ」
「そうはいかん。お前を死なせたら、母さんに顔向けできんからな。それに、高校生活もようやく落ち着いたのだろう。難しい日本語だってやっとマスターしたところだ。もったいないだろう」
「母さんが日本人だったから、なんとなく覚えてたから……別に関係ない」
自分の母親は日本人。だから、自分はアメリカと日本のハーフ。そのせいか、驚くほど日本に馴染んだ。
金髪だから少々目立つけど、その程度。
「今は世界一安全と言われている日本で暮らすしかない」
「そうかな。近頃の日本も物騒だよ。治安も悪化してきている」
「口答えするな。ほら、またお前の好きなエアガンを買ってやるから」
「……そ、それはずるい」
最近、自分がサバイバルゲームにハマっていることを父は知っていた。
休日は、女子限定の有料サバイバルフィールドへ赴き、ストレスを発散していた。そのせいか、エアガンのコレクションが増え続けていた。
共通の趣味をもった女子友達も増えたけど。
同じ高校に通う……琴吹 楓。
ボーイッシュでエネルギッシュな彼女は、日本で唯一できた友達かもしれない。
「だからもう少し我慢しなさい」
「分かった。今度、実銃も買ってよ。パパの権限なら可能でしょ? ほら、アメリカの大使館に顔が利くって言っていたし」
「不可能ではないがダメだ。リスクが高すぎる」
「……むぅ」
向こうでは散々実銃を撃った。
たくさんの訓練を行い、そのうえで銃器の扱い方も学んだ。傭兵として、アフガンなどで実戦も何度か経験済みだ。
だから、この平和な日本では体が鈍ってしまう。
まるで死んでいるみたいだ。
だから一刻も早く日本を脱出したかった。
自分の居場所は『戦場』しかない。
でも父の命令には逆らえない。
軍人は命令が絶対だから……そう教育を受けているから。
「時はそのうち来る。今は耐えろ」
「そうかな」
「拗ねるな。それより、男でも見つけて遊べばいい」
「そこは普通、心配するところでしょ」
「そうでもないさ。パパは若い頃に母さんと……全ては言うまい」
「別に聞きたくない」
そうして退屈な日々がまた始まった。
けれど。
ある日、修学旅行が決まった。
どこかの島へ向かうとか何とか。正直、興味はあまりなかった。船内では、ただひたすら筋トレなど鍛練を怠らず体を鍛えていた。
「わぁ、北上さん……指一本で腕立て伏せしてる!?」
「琴吹 楓さんではないですか」
「楓でいいよ。それより、なんか船が揺れてない? 外も夜みたいに真っ暗だし」
「そうですね。外は嵐みたいです」
嫌な予感がしていた。
こんな大嵐では船が転覆し、沈没するのではないかと。
その予感は的中した。
どこかで爆発音が響き――そして、船は沈んだ。
『――――』
意識を失い、気づけば知らない島にいた。
太陽がまぶしい。
ここはどこ。
自分はなぜ、こんなところに。
……ああ、そうか。
船がいきなり沈んで……。
それで奇跡的にも流されたんだ。
遠くで声がする。
あれは同じクラスの早坂 啓。
それと現役アイドルの天音 愛。
何度か話したことがあった。
そうか、彼等も流されて……。
それから、あたしは早坂 啓の魅力に気づいた。彼は勇敢で素晴らしい。こんな男子が日本にいたなんて知らなかった。
今まで戦場ばかりを追いかけていたけど、今はもう違う。
あたしにも守るものが出来てしまった――。
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