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ドイツの暗号機『エニグマ』
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白髪をオールバックに決め、白髭も凛々しく整えている。豪華な装飾が添えられている杖を突き、その老体は満面の笑みを浮かべて俺の前に立った。
かつて俺たちに莫大な支援をしてくれた組織『櫛 千国』だ。
「元気そうだな、哲」
「ま、まあな。黒服をこんなに連れ歩いて観光か?」
「これが観光に見えるか小僧」
直後、拳銃を向けられる俺。おいおい、この銃規制の厳しい日本で堂々と銃を向けてくるとは……正気じゃないな。
しかも、この近くには対馬警察署もあるんだぞ。あの女刑事もいるはずだ。もしこんな現場を目撃されれば、俺も爺さんたちも無事では済まない。それとも……承知の上というわけか。
しかも、千国の爺さんは俺ではなく――千年世に明らかな殺意を向けていた。
「…………っ!」
一方の千年世もそれを感じ取っているようで非常に焦っていた。
だよな。千年世は万由里さんを殺害した張本人。だが、俺は庇った。
「爺さん。万由里さんのことなら俺の責任だ」
「……ほう。この千年世という娘の命がそんなに惜しいか」
「当たり前だ。彼女は大切な仲間だからな」
「だが、その千年世という女は我が娘を殺した。その罪はあまりに重すぎる……。この意味、分かるな?」
銃口が一斉に千年世へ向けられる。……クソッ! 最初からそのつもりかよ、このジジイ。
しかし、分が悪すぎるな。こっちは俺含め四人。
武器も十分ではない。
この場を乗り切る方法は正直ない。だけど諦めつもりもないし、誰も死なせない。
「まて、爺さん。千年世はやっていない。最終的な決断を下したのは俺だ」
「無駄だ。直接手を下したのはそこの娘だ。我々の監視ドローンが見ていたのだからな。証拠の録画映像も残っている」
あの時、俺たちをドローンで見ていたのか。その後も追っていたんだろうな。でなければ、潜伏先が対馬だって分からないはずだ。
「そうかよ。それでも千年世じゃない。俺を殺れ!」
「ハハハッ! 哲。無駄だ。この娘はもう助からん。貴様の目の前で犯し、殺してやるッ」
邪悪に笑うジジイ。この野郎……言ってはならんことを! 俺を怒らせたな、千国。いくら極道とは言え、こっちだって容赦はせんぞ。
俺は黒服から銃を奪うことを検討した。しかし、命を落とす可能性があまりにも高い。
どうしようかと悩んでいると桃枝が耳打ちしてきた。
「てっちゃん。今、緊急用の小型送信機のボタンを押した。これは絆ちゃんに緊急を知らせるんだ。きっと気づいてくれるはず」
「ナイス、桃枝! あとでたっぷり可愛がってやる」
ほんの少し、希望が見えてきた。
この危機的状況を乗り越えられるかもしれん。いや、乗り越えて見せる。北上さんたちが駆けつけてくれるまで繋いでやる。この俺がな。
「なにをコソコソやっている!」
「爺さん」
「なんだ? 命乞いか?」
「あんたは時価80億の『ピンクダイヤモンド』が欲しかったはずだ」
「ああ、そうだ。それで手を打てというのか?」
「その選択肢もあるということだ。80億が手に入るんだ、悪い話じゃないだろ」
「…………ムム」
千国の爺さんはアゴをしゃくり、難しそうに考えた。娘の命が奪われたとはいえ、この男にとって金も大切だ。金があればなんでもできるからな。組織の維持も向こう数十年は可能だろう。だからこそ、この男は天秤にかけるはず。俺はそう判断した。
「俺もしくは仲間を殺せばダイヤモンドの在処は二度と分からなくなる」
「その言い草、脅しても無駄ということか?」
「そうだ。俺たち一人一人に“暗号”がある。その暗号を集めてはじめてピンクダイヤモンドの場所が分かるようになっている」
「ほう、面白い。よかろう、今のところは殺さず生かしておいてやろう。……だが、少しでも妙なマネをしてみろ。その時は真っ先に千年世を殺す」
俺は条件を飲んだ。今はこれで上手く繋ぐしか方法がない。
おかげで延命できたがな。
「これから順に番号を教えていく。つまり座標と暗証番号だ」
「そこまで複雑にしていたとはな」
「爺さん、第二次世界大戦で使われたドイツの暗号機エニグマを知っているか?」
「むろんだ。あれは映画にもなったからな。少し前に鑑賞した」
「そうか。なら都合がいい」
「まさか、そのエニグマを使っているとかほざくのではなかろうな」
「近い感じだ。だから、暗号を解くには単に数字を教えただけでは解けないというわけだ」
エニグマには主に『回転盤《ローター》』、『接続盤』の仕組みがある。これが暗号化のプロセスであり、メッセージを入力すると内部でローターとプラグボードを通過して文字が変換。暗号化された文字が出力される。
例えば『HELLO』と入力したとする。これが『MQYJX』とかそんな暗号文となるのだ。
普通に見たら意味不明な文となる。
なので、エニグマを送信側と受信側が同じ設定を用いればメッセージを解読できるわけだ。
そんな仕組みを疑似的に使っているわけだ。
「ややこしいことを……! そのエニグマ機はどこにある?」
「エニグマではないんだが、桃枝の開発した端末さ」
さっきのはあくまで例えだ。
さすがに第二次世界大戦でとっくに解読されて筒抜けになった暗号機を使うわけにはいかんだろ。
かつて俺たちに莫大な支援をしてくれた組織『櫛 千国』だ。
「元気そうだな、哲」
「ま、まあな。黒服をこんなに連れ歩いて観光か?」
「これが観光に見えるか小僧」
直後、拳銃を向けられる俺。おいおい、この銃規制の厳しい日本で堂々と銃を向けてくるとは……正気じゃないな。
しかも、この近くには対馬警察署もあるんだぞ。あの女刑事もいるはずだ。もしこんな現場を目撃されれば、俺も爺さんたちも無事では済まない。それとも……承知の上というわけか。
しかも、千国の爺さんは俺ではなく――千年世に明らかな殺意を向けていた。
「…………っ!」
一方の千年世もそれを感じ取っているようで非常に焦っていた。
だよな。千年世は万由里さんを殺害した張本人。だが、俺は庇った。
「爺さん。万由里さんのことなら俺の責任だ」
「……ほう。この千年世という娘の命がそんなに惜しいか」
「当たり前だ。彼女は大切な仲間だからな」
「だが、その千年世という女は我が娘を殺した。その罪はあまりに重すぎる……。この意味、分かるな?」
銃口が一斉に千年世へ向けられる。……クソッ! 最初からそのつもりかよ、このジジイ。
しかし、分が悪すぎるな。こっちは俺含め四人。
武器も十分ではない。
この場を乗り切る方法は正直ない。だけど諦めつもりもないし、誰も死なせない。
「まて、爺さん。千年世はやっていない。最終的な決断を下したのは俺だ」
「無駄だ。直接手を下したのはそこの娘だ。我々の監視ドローンが見ていたのだからな。証拠の録画映像も残っている」
あの時、俺たちをドローンで見ていたのか。その後も追っていたんだろうな。でなければ、潜伏先が対馬だって分からないはずだ。
「そうかよ。それでも千年世じゃない。俺を殺れ!」
「ハハハッ! 哲。無駄だ。この娘はもう助からん。貴様の目の前で犯し、殺してやるッ」
邪悪に笑うジジイ。この野郎……言ってはならんことを! 俺を怒らせたな、千国。いくら極道とは言え、こっちだって容赦はせんぞ。
俺は黒服から銃を奪うことを検討した。しかし、命を落とす可能性があまりにも高い。
どうしようかと悩んでいると桃枝が耳打ちしてきた。
「てっちゃん。今、緊急用の小型送信機のボタンを押した。これは絆ちゃんに緊急を知らせるんだ。きっと気づいてくれるはず」
「ナイス、桃枝! あとでたっぷり可愛がってやる」
ほんの少し、希望が見えてきた。
この危機的状況を乗り越えられるかもしれん。いや、乗り越えて見せる。北上さんたちが駆けつけてくれるまで繋いでやる。この俺がな。
「なにをコソコソやっている!」
「爺さん」
「なんだ? 命乞いか?」
「あんたは時価80億の『ピンクダイヤモンド』が欲しかったはずだ」
「ああ、そうだ。それで手を打てというのか?」
「その選択肢もあるということだ。80億が手に入るんだ、悪い話じゃないだろ」
「…………ムム」
千国の爺さんはアゴをしゃくり、難しそうに考えた。娘の命が奪われたとはいえ、この男にとって金も大切だ。金があればなんでもできるからな。組織の維持も向こう数十年は可能だろう。だからこそ、この男は天秤にかけるはず。俺はそう判断した。
「俺もしくは仲間を殺せばダイヤモンドの在処は二度と分からなくなる」
「その言い草、脅しても無駄ということか?」
「そうだ。俺たち一人一人に“暗号”がある。その暗号を集めてはじめてピンクダイヤモンドの場所が分かるようになっている」
「ほう、面白い。よかろう、今のところは殺さず生かしておいてやろう。……だが、少しでも妙なマネをしてみろ。その時は真っ先に千年世を殺す」
俺は条件を飲んだ。今はこれで上手く繋ぐしか方法がない。
おかげで延命できたがな。
「これから順に番号を教えていく。つまり座標と暗証番号だ」
「そこまで複雑にしていたとはな」
「爺さん、第二次世界大戦で使われたドイツの暗号機エニグマを知っているか?」
「むろんだ。あれは映画にもなったからな。少し前に鑑賞した」
「そうか。なら都合がいい」
「まさか、そのエニグマを使っているとかほざくのではなかろうな」
「近い感じだ。だから、暗号を解くには単に数字を教えただけでは解けないというわけだ」
エニグマには主に『回転盤《ローター》』、『接続盤』の仕組みがある。これが暗号化のプロセスであり、メッセージを入力すると内部でローターとプラグボードを通過して文字が変換。暗号化された文字が出力される。
例えば『HELLO』と入力したとする。これが『MQYJX』とかそんな暗号文となるのだ。
普通に見たら意味不明な文となる。
なので、エニグマを送信側と受信側が同じ設定を用いればメッセージを解読できるわけだ。
そんな仕組みを疑似的に使っているわけだ。
「ややこしいことを……! そのエニグマ機はどこにある?」
「エニグマではないんだが、桃枝の開発した端末さ」
さっきのはあくまで例えだ。
さすがに第二次世界大戦でとっくに解読されて筒抜けになった暗号機を使うわけにはいかんだろ。
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