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名前も戸籍もない男たち
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暗闇の中から現れる二つの怪しい影。
よく目を凝らすと黒装束だった。まるで忍者だな。
「哲くん、ここは人通りがあります。そこの裏道へ」
北上さんの指さす方向には、更に薄暗い通路があった。建物と建物の間の狭い道だった。こんなところに入って大丈夫なのか? 行き止まりだったらアウトだが……銃撃戦を見られるわけにはいかない。
Beretta 21A Bobcatを北上さんから受け取った。まさかこんなモノを持っていたとは。しかも、手のひらサイズしかなくて、スマホ並みにコンパクト。なるほど、これなら隠し持てるワケだ。
「二丁も所持していたのか。……ん、なんか生温かくないか?」
「そちらは、あたしのブラホスルターに仕込んでいたものですからね」
「――は!? ブラ……なんだって?」
「ブラジャーホルスターです。実在するホルスターで、銃を隠すには最高のアイテムですよ」
そうじゃねえ!
まさか、そんなところに隠していたのを俺に渡すとは。てことは、この肌のぬくもりは北上さんの……。
ああ、チクショウ。ありがとう!
もう片方の自分の分はガーターホルスターから取り出したようだ。
「た、助かったよ」
「はい、サイレンサー」
「マジか。こんな小さいハンドガンなのにサイレンサーつけれるのかよ」
銃を受け取り、構えながら通路に後退していく。
黒装束はこちらに向かってきた。
ここでヤツ等を止める。そして、可能なら情報を引き出す。
「ベレッタの弾は十発しかないので慎重に」
「予備マガジンなしか」
「さすがにそこまで持ち歩く余裕はなかったのです」
「分かった」
向こうも懐から銃を抜いてこっちへ向けてきた。あれはなんだ!? ずいぶんと古い拳銃だな。
「………………」
顔はよく見えないが、黒装束は静かに歩いてくる。
「北上さんあの銃って」
「九四式拳銃ですね」
「え……それって」
「ええ。大日本帝国陸軍が採用していた拳銃です」
「そんなのが現存しているのか」
驚いている間にも乾いた銃声がして、銃弾が横切っていった。撃たれたからには容赦はしない。
ベレッタの銃口を敵の足に向け、俺は迷いなく反撃。
しかし敵は上手く避け、物凄い勢いでこちらに向かってきた。……素早い。しかも足音がしない。マジで忍者みたいな動きじゃないか!
後退しつつ撃ち続けていく。
三発、四発と。
マズい。もう弾が……。
敵も弾を打ち尽くしたのか、今度はクナイを投げつけてきた。おいおい、やっぱり忍者じゃないのか、コイツ等。
「…………!」
北上さんは余裕で躱し、黒装束の一人に突撃。掌底を食らわせていた。
おぉ、見事にアゴにヒットしたな。
「がふぅ!?」
青酸カリを飲み込もうとしていたが、北上さんは阻止していた。
よし、今度は俺の方だ。
「おのれ……!」
もう片方の黒装束がそんな声を漏らしながら、手裏剣を投げてきた。そんなものまで! 銃を使ってきたから分からなかったが、ホテルのアレも今のコイツ等も“忍者”かもしれない。
細かいことは後だな。
飛んできた手裏剣が辛うじてベレッタが受け止めた。……っぶねえ。
ベレッタは壊れちまったが、おかげで助かった。銃を捨て、俺は敵に接近して蹴りを放った。
「てやッ!」
「――――ごほおおぉぉぉ…………!」
ゴロゴロと転がっていく黒装束。俺はフードを脱がせたが、しかし男は“カリッ”と何かを噛んだ。次には泡を吹いていた。コイツ、青酸カリを!
なぜ、そんなあっさり命を投げ出せる。
八咫烏とは、そこまで恐ろしい組織なのか。
まあいい、もう一人が生きている。
「そっちはどうだ、北上さん」
「青酸カリのカプセルは取り上げたので、この方は無事です」
フードを取るとソイツは若い男だった。まてまて、俺たちと変わらない歳に見えるぞ。高校生かギリ大学生か……。なんでこんなことを。
「……くっ、殺せ」
「殺さねえよ。お前、八咫烏のメンバーか?」
「話す気はない!」
「話さないと痛い目に遭うぞ」
すでに北上さんが男の中指をへし折っていた。ベキリと嫌な音がした。
「ぎゃああああああああああああ!!」
「そんな拷問がはじまる。言っておくが、北上さんは容赦ないぞ。いいか、死ぬよりも辛いかもしれない。早く吐け……楽になるぞ」
「い……言うものか! あぎゃあああああああああああ!!」
また一本折れた。
北上さんに指を折ってもらえるなんてラッキーだぞ、お前。千年世なら、慈悲も与えず殺していたところだ。
「お前たちはなんだ?」
「…………が、がぁあぁぁ……」
まだ言わないか。俺は北上さんに合図した。
「では三本目を」
「わ、分かった!! 話す! 八咫烏のことを話す!!」
やっぱり『八咫烏』のメンバーだったか。
「で、どういう組織なんだ」
「お、俺たちは……『ニンジャ』と呼ばれる名前も戸籍もない使い捨ての駒なんだよ」
そんなのが実在するのか。確か、江戸時代とかで暗躍していた忍者は大名に仕え、暗殺だとか諜報活動だとかしていたようだが。
まさか現在のニンジャは、八咫烏に仕えているということなのか。
「暗殺依頼を受けて、俺たちを狙ったということか?」
「そうだ。お前たちはやりすぎたし、知りすぎたんだ……」
「今までのことか」
「ああ、全部だ。お前たちのせいでトップは怯えているようだ」
「怯えている?」
「詳しくは知らねえ。知りたくもねえ」
「そうか。他には?」
「だから、もうこれ以上は…………がはっ」
突然、男が頭から血を流して倒れた。こ、これは狙撃されたのか! 口封じってわけか。なんて奴らだ!
「北上さん!」
「ええ、どこかに狙撃兵が潜んでいるようです。これ以上は危険なので我々も博多駅へ向かいましょう」
「決まりだな」
そろそろ駅へ向かわねば、時間がギリギリだ。
時刻は【22:55】……あと5分しかない。走って向かう!
よく目を凝らすと黒装束だった。まるで忍者だな。
「哲くん、ここは人通りがあります。そこの裏道へ」
北上さんの指さす方向には、更に薄暗い通路があった。建物と建物の間の狭い道だった。こんなところに入って大丈夫なのか? 行き止まりだったらアウトだが……銃撃戦を見られるわけにはいかない。
Beretta 21A Bobcatを北上さんから受け取った。まさかこんなモノを持っていたとは。しかも、手のひらサイズしかなくて、スマホ並みにコンパクト。なるほど、これなら隠し持てるワケだ。
「二丁も所持していたのか。……ん、なんか生温かくないか?」
「そちらは、あたしのブラホスルターに仕込んでいたものですからね」
「――は!? ブラ……なんだって?」
「ブラジャーホルスターです。実在するホルスターで、銃を隠すには最高のアイテムですよ」
そうじゃねえ!
まさか、そんなところに隠していたのを俺に渡すとは。てことは、この肌のぬくもりは北上さんの……。
ああ、チクショウ。ありがとう!
もう片方の自分の分はガーターホルスターから取り出したようだ。
「た、助かったよ」
「はい、サイレンサー」
「マジか。こんな小さいハンドガンなのにサイレンサーつけれるのかよ」
銃を受け取り、構えながら通路に後退していく。
黒装束はこちらに向かってきた。
ここでヤツ等を止める。そして、可能なら情報を引き出す。
「ベレッタの弾は十発しかないので慎重に」
「予備マガジンなしか」
「さすがにそこまで持ち歩く余裕はなかったのです」
「分かった」
向こうも懐から銃を抜いてこっちへ向けてきた。あれはなんだ!? ずいぶんと古い拳銃だな。
「………………」
顔はよく見えないが、黒装束は静かに歩いてくる。
「北上さんあの銃って」
「九四式拳銃ですね」
「え……それって」
「ええ。大日本帝国陸軍が採用していた拳銃です」
「そんなのが現存しているのか」
驚いている間にも乾いた銃声がして、銃弾が横切っていった。撃たれたからには容赦はしない。
ベレッタの銃口を敵の足に向け、俺は迷いなく反撃。
しかし敵は上手く避け、物凄い勢いでこちらに向かってきた。……素早い。しかも足音がしない。マジで忍者みたいな動きじゃないか!
後退しつつ撃ち続けていく。
三発、四発と。
マズい。もう弾が……。
敵も弾を打ち尽くしたのか、今度はクナイを投げつけてきた。おいおい、やっぱり忍者じゃないのか、コイツ等。
「…………!」
北上さんは余裕で躱し、黒装束の一人に突撃。掌底を食らわせていた。
おぉ、見事にアゴにヒットしたな。
「がふぅ!?」
青酸カリを飲み込もうとしていたが、北上さんは阻止していた。
よし、今度は俺の方だ。
「おのれ……!」
もう片方の黒装束がそんな声を漏らしながら、手裏剣を投げてきた。そんなものまで! 銃を使ってきたから分からなかったが、ホテルのアレも今のコイツ等も“忍者”かもしれない。
細かいことは後だな。
飛んできた手裏剣が辛うじてベレッタが受け止めた。……っぶねえ。
ベレッタは壊れちまったが、おかげで助かった。銃を捨て、俺は敵に接近して蹴りを放った。
「てやッ!」
「――――ごほおおぉぉぉ…………!」
ゴロゴロと転がっていく黒装束。俺はフードを脱がせたが、しかし男は“カリッ”と何かを噛んだ。次には泡を吹いていた。コイツ、青酸カリを!
なぜ、そんなあっさり命を投げ出せる。
八咫烏とは、そこまで恐ろしい組織なのか。
まあいい、もう一人が生きている。
「そっちはどうだ、北上さん」
「青酸カリのカプセルは取り上げたので、この方は無事です」
フードを取るとソイツは若い男だった。まてまて、俺たちと変わらない歳に見えるぞ。高校生かギリ大学生か……。なんでこんなことを。
「……くっ、殺せ」
「殺さねえよ。お前、八咫烏のメンバーか?」
「話す気はない!」
「話さないと痛い目に遭うぞ」
すでに北上さんが男の中指をへし折っていた。ベキリと嫌な音がした。
「ぎゃああああああああああああ!!」
「そんな拷問がはじまる。言っておくが、北上さんは容赦ないぞ。いいか、死ぬよりも辛いかもしれない。早く吐け……楽になるぞ」
「い……言うものか! あぎゃあああああああああああ!!」
また一本折れた。
北上さんに指を折ってもらえるなんてラッキーだぞ、お前。千年世なら、慈悲も与えず殺していたところだ。
「お前たちはなんだ?」
「…………が、がぁあぁぁ……」
まだ言わないか。俺は北上さんに合図した。
「では三本目を」
「わ、分かった!! 話す! 八咫烏のことを話す!!」
やっぱり『八咫烏』のメンバーだったか。
「で、どういう組織なんだ」
「お、俺たちは……『ニンジャ』と呼ばれる名前も戸籍もない使い捨ての駒なんだよ」
そんなのが実在するのか。確か、江戸時代とかで暗躍していた忍者は大名に仕え、暗殺だとか諜報活動だとかしていたようだが。
まさか現在のニンジャは、八咫烏に仕えているということなのか。
「暗殺依頼を受けて、俺たちを狙ったということか?」
「そうだ。お前たちはやりすぎたし、知りすぎたんだ……」
「今までのことか」
「ああ、全部だ。お前たちのせいでトップは怯えているようだ」
「怯えている?」
「詳しくは知らねえ。知りたくもねえ」
「そうか。他には?」
「だから、もうこれ以上は…………がはっ」
突然、男が頭から血を流して倒れた。こ、これは狙撃されたのか! 口封じってわけか。なんて奴らだ!
「北上さん!」
「ええ、どこかに狙撃兵が潜んでいるようです。これ以上は危険なので我々も博多駅へ向かいましょう」
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