クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗

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嬉しかった

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 再び海へ潜り、海の底へ消えゆく古森刑事を救出。
 まさか二度も海の中へ入ることになるとはな。

 快晴であること、海が穏やかだったことなど奇跡的な条件が重なったな。

 もし、悪天候だったのなら天音も古森刑事も助けられなかったし……。そもそも、泳いで種子島に来るだなんて無謀むぼうなことはできなかった。
 これが海外なら尚更だ。サメとかいるだろうし。

 下着姿で意識を失っている古森刑事を浜に上げた。しかし、息がない。俺はすぐに応急処置――しようとしたが、天音が止めてきた。


「ダ、ダメ! 今の時代、知らない人の女性に触れると簡単に訴えられるんだからさ……」

 天音の言うことは正しいだろうな。
 AED問題とか度々話題になってるし。

「確かにな。後々、古森刑事に殺されるかもしれん」

 俺は、天音に応急処置を任せることに。
 やり方は北上さんから教わっているので、適格に進んだ。

 海水を吐き出す古森刑事。
 とりあえず、息を吹き返した。

 このまま見つめるのも悪いと思い、俺は宇宙センターの方を向いておいた。


「早坂くん、服ない?」
「え? どうして?」

「古森刑事の服、流されたみたいで……」

「マジか。下着姿のままJAXAに入らなきゃならないのか」

 あんな美人刑事が下着姿で現れたら、まず大騒ぎだろうな。さすがにネットニュースや新聞の記事になりかねん。それはマズい。

「ちょっと、早坂くん。なにを妄想してるの!?」
「あ、いや、未来のリスクを思考しただけだ。……このままでは警察のお世話になるな。俺のシャツを使ってくれ」

「でも、いいの?」

「構わん。男の俺なら半裸でも自然さ。泳いでいたとか誤魔化す」
「な、なるほど」


 俺はシャツを脱いで天音に手渡した。
 あとは古森刑事が目を覚ますのを待つだけだ。

 どのみち、服を乾かさなくちゃいけないが。

 三十分ほどして、古森刑事はようやく意識を取り戻した。


「…………」


 周囲を見渡し、俺と天音をぼうっとした表情で見つめた。まさに、意識朦朧いしきもうろうといった感じ。まだおぼつかない。


「あ、古森刑事。大丈夫ですか?」
「天音さん……ここは」
「種子島ですよ。無事についたんです」

「……そっか。警視庁ではなかったのね」


 夢でも見ていたのだろうか、古森刑事は現実を受け入れられずにいた。それより、その大胆な姿を早くなんとかしていただきたい。


「……」
「なによ、早坂 哲!」

 俺の視線に気づいたのか、古森刑事は警戒心を露わに。まだ気づかない。


「自分の姿を確認してくれ」

「…………え。きゃ!?」


 ようやく気付いた古森刑事は、刹那で赤面。自身を抱えるようにして伏せていた。……な、なんだこの乙女な反応。
 もっとブチギレられると俺は思ったんだがな。


「早坂くん!」
「わ、悪いって天音。あっち向いてるよ」

「うん。そうしないと今夜は、わたしが襲っちゃうからね!」


 それはそれで嬉しいっていうか……。天音が俺を襲ってくれるの!? ならば、大人しくしていよう。

 少し待つと、振り向いてよいと許可が出た。


「……お」
「くっ、屈辱だわ」


 俺のシャツを着る古森刑事。今にも異世界の女騎士のように“くっ、殺せ!”みたいなことを言いだしそうな勢いだった。

 なんだろう、妙な罪悪感というか背徳感。


「シャツ一枚とか……エロいな」
「……バカじゃないの!」

 と、相変わらず古森刑事は攻撃的だったが――。


「溺れていた古森刑事を助けたのは、早坂くんですよ」

「……な。……そ、そうだったの」


 申し訳ないと、ありがとうと小さな声で俺に礼を言ってきた。素直なのか、そうでないのか微妙なところだが。
 ひとまず、殺される心配はなさそうだな。


「いくぞ」


 俺は背を向け、先を目指す。
 スマホによれば、この先には『JAXA種子島宇宙センター 竹崎展望台』がある。つまり、文明がそこにある。

 助かる見込みがグンと上がる。
 きっとこの先に、いつもクールな北上さんや千年世たちがいるはず。小さくて可愛い桃枝にも会いたいな……。
 ああ、艾の淹れてくれる渋いお茶も飲みたい。
 俺を笑顔で見つめてくれるリコも忘れちゃいけない。

 アイツ等、全員無事だといいが。


 しばらく歩くと古森刑事が声を掛けてきた。


「あ、あの……早坂くん」
「なんだい、古森刑事」

「あー…。その、刑事って堅苦しいでしょ。普通に呼んでいいわ」
「え?」

「古森さんとか、呼び捨てで碧海あおみでもいいわ」

「ね、熱でもあるのか?」
「ちゃうわ! 早坂くん、あのさ……改めて助けてくれてありがと」
「やっぱり熱が」

「だから違うって。命を救ってくれたからさ、嬉しかった」
「…………!」


 なんて柔らかい表情を。
 古森刑事ってこんな少女みたいな笑顔ができたんだ。
 不覚にも、古森刑事にドキドキしてしまう日が来るとは。てか、警戒心が解かれるとここまで変わるものなのか……!

 こうしてみると、可愛い女性にしか見えなくなってきた。刑事という意識が薄れてきた。

 そうだな、今だけでも協力してもらう方が得策だ。
 種子島を脱出する為にも――。
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