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1995年7月のとある事件
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桃枝はベロンベロンに酔っているように見えた。
「というか、未成年が飲むな!」
「飲むわけないじゃん」
「酔っているようにしか見えないけどな」
「こういうテンションなの! だから、てっちゃぁぁん」
甘えるような声で抱きついてくる桃枝。
こうなっては、もう雰囲気もなにもない。
天音はちょっと落ち込んでいたが――しかし、負けじと俺を引っ張る。
「ダメだよ、桃枝ちゃん。早坂くんは……その、わたしに話があるから」
「え~、そうなの? そんな感じに見えないけどなー」
桃枝は小柄ながらも、肌がスベスベで柔らかい感触だった。こんなハリがあるとは……!
しかし、このままではケンカになりかねん。
今は仲間同士で争っている場合ではない。
「桃枝、あとで話があるからさ」
「ほんとー! ならいいけどねっ」
あっさり引き下がる桃枝は、そのまま部屋から出ていった。ああいう性格なんだろうな。素直でいい子だ。
「……その、早坂くん」
「ん、ああ……。俺は天音が傍にいてくれるだけで十分さ」
「うれしい。いつもありがとね」
ぎゅっと包むようにしてくれる天音。本当にこうしてくれるだけで、俺は生きる活力を得られた。
大切な人が生きて俺の隣にいてくれる、なんて幸せなことなんだ。
この笑顔を守り続けたい。
みんなの笑顔もな。
◆
――約束通り、俺は桃枝に会いに。
木下さんの家は『地下』もあるようで、そこでのんびりしているようだった。
「ここだよ、早坂くん」
「おぉ……。俺、地下のある家なんて初めて見ました」
「私の趣味でね。本当は書斎にしようと思ったんだが、今回の騒動でそうもいかなくなった」
木下さんは残念そうにしていた。
そうだな、俺たちと関わりがなければ本来なら幸せな家庭を築いていたはずだ。なのに、申し訳ないな。
「どうして俺たちに力を貸してくれるんです?」
「理由を知りたいんだな」
「はい、よければ」
「……実は、絆の御父上に救われてね」
「北上さんの……!?」
静かにうなずく木下さんは、懐かしいような複雑そうな表情を浮かべていた。いろいろワケあり感じだな。
そもそも、刑事が俺たちなんかに力を貸すメリットがなさすぎる。
警察は俺たちを探しているしな。
古森さんだってそうだった。
「ああ。ある“未解決事件”を追っていた時さ」
「未解決事件……ですか」
「君は『八王子コンビニ強盗殺人事件』を知っているかな」
「……ん~、なんとなくですけど。結構昔ですよね」
「1995年7月に発生した事件でね。女性店員と女子高生二人が射殺された事件さ」
ヨーチューブの解説動画で見たことがあるな。
犯人は現金には手をつけなかったという。
つまり“怨恨”の可能性が高いと見られている。
その時に助けられたってことか。
「事件を担当していたんですか?」
「たまたま東京へ出張する機会があってね。事件を捜査してみないかと話が来たのさ」
どうやら、木下さんには他の刑事にはない嗅覚があるようだった。確かに、今までも俺たちと共に行動して生存しているし、勘が鋭いように思える。
「北上さんのお父さんとはどこで?」
「うん。実は事件の犯人らしき人物を追っていたんだ」
「え、発見できたんですか?」
「ある男から押収された拳銃の線条痕が酷似していたのさ」
「じゃあ、その男が!」
木下さんは首を横に振った。違うらしい。
「残念だが、その男はあくまで銃を購入したと供述しただけで証拠はない」
「そうなんですか……」
「だから、私は購入先を洗おうとしたんだ」
「なるほど!」
「そこで“深い闇”に触れた」
と、木下さんは深刻な表情で、それも小さな声でつぶやくように言った。……これは、ヤバそうだな。
そして、続けてこう言った。
「プチデビル事件のような、かなり深い闇だ」
「……! それ、めっちゃ有名じゃないですか。それこそ、触れたらヤバいヤツです」
「ああ、その闇が問題なんだ。私はそこで消されかけたんだからね」
「……まさか」
「そうだ。八咫烏のメンバーだ。軍事訓練を受けている彼らは、圧倒的な力で制圧してきた。だが、アメリカの特殊部隊が私を守ってくれたんだ。その時に出会ったのが絆の御父上――ライバックだった。ちなみに、コードネームだ」
日本の事件に『八咫烏』と『アメリカ』が関わっていたとはな……。未解決事件の裏には、とんでもない組織との繋がりがあるのか……それに驚愕したよ、俺は。
「なぜ、アメリカは日本に干渉を?」
「悪の組織『八咫烏』撲滅の為さ」
「……裏で動いていたんですね」
「その通り。今も多くのスパイが活動しているようだ。詳しいことはこれくらいだが」
日本はスパイ天国らしいからなぁ。スパイなんてそこら中にいるだろうな。取り締まる法律すら整備されてないと聞く。そんなでいいのか、日本よ。
……いや、わざとなのか?
アメリカやらその他の国のスパイを消す為に。
とにかく、これで木下さんが俺たちの味方でいてくれる理由が分かった。彼はきっと裏切らずに最後まで一緒にいてくれるはずだと、俺は確信した。
「というか、未成年が飲むな!」
「飲むわけないじゃん」
「酔っているようにしか見えないけどな」
「こういうテンションなの! だから、てっちゃぁぁん」
甘えるような声で抱きついてくる桃枝。
こうなっては、もう雰囲気もなにもない。
天音はちょっと落ち込んでいたが――しかし、負けじと俺を引っ張る。
「ダメだよ、桃枝ちゃん。早坂くんは……その、わたしに話があるから」
「え~、そうなの? そんな感じに見えないけどなー」
桃枝は小柄ながらも、肌がスベスベで柔らかい感触だった。こんなハリがあるとは……!
しかし、このままではケンカになりかねん。
今は仲間同士で争っている場合ではない。
「桃枝、あとで話があるからさ」
「ほんとー! ならいいけどねっ」
あっさり引き下がる桃枝は、そのまま部屋から出ていった。ああいう性格なんだろうな。素直でいい子だ。
「……その、早坂くん」
「ん、ああ……。俺は天音が傍にいてくれるだけで十分さ」
「うれしい。いつもありがとね」
ぎゅっと包むようにしてくれる天音。本当にこうしてくれるだけで、俺は生きる活力を得られた。
大切な人が生きて俺の隣にいてくれる、なんて幸せなことなんだ。
この笑顔を守り続けたい。
みんなの笑顔もな。
◆
――約束通り、俺は桃枝に会いに。
木下さんの家は『地下』もあるようで、そこでのんびりしているようだった。
「ここだよ、早坂くん」
「おぉ……。俺、地下のある家なんて初めて見ました」
「私の趣味でね。本当は書斎にしようと思ったんだが、今回の騒動でそうもいかなくなった」
木下さんは残念そうにしていた。
そうだな、俺たちと関わりがなければ本来なら幸せな家庭を築いていたはずだ。なのに、申し訳ないな。
「どうして俺たちに力を貸してくれるんです?」
「理由を知りたいんだな」
「はい、よければ」
「……実は、絆の御父上に救われてね」
「北上さんの……!?」
静かにうなずく木下さんは、懐かしいような複雑そうな表情を浮かべていた。いろいろワケあり感じだな。
そもそも、刑事が俺たちなんかに力を貸すメリットがなさすぎる。
警察は俺たちを探しているしな。
古森さんだってそうだった。
「ああ。ある“未解決事件”を追っていた時さ」
「未解決事件……ですか」
「君は『八王子コンビニ強盗殺人事件』を知っているかな」
「……ん~、なんとなくですけど。結構昔ですよね」
「1995年7月に発生した事件でね。女性店員と女子高生二人が射殺された事件さ」
ヨーチューブの解説動画で見たことがあるな。
犯人は現金には手をつけなかったという。
つまり“怨恨”の可能性が高いと見られている。
その時に助けられたってことか。
「事件を担当していたんですか?」
「たまたま東京へ出張する機会があってね。事件を捜査してみないかと話が来たのさ」
どうやら、木下さんには他の刑事にはない嗅覚があるようだった。確かに、今までも俺たちと共に行動して生存しているし、勘が鋭いように思える。
「北上さんのお父さんとはどこで?」
「うん。実は事件の犯人らしき人物を追っていたんだ」
「え、発見できたんですか?」
「ある男から押収された拳銃の線条痕が酷似していたのさ」
「じゃあ、その男が!」
木下さんは首を横に振った。違うらしい。
「残念だが、その男はあくまで銃を購入したと供述しただけで証拠はない」
「そうなんですか……」
「だから、私は購入先を洗おうとしたんだ」
「なるほど!」
「そこで“深い闇”に触れた」
と、木下さんは深刻な表情で、それも小さな声でつぶやくように言った。……これは、ヤバそうだな。
そして、続けてこう言った。
「プチデビル事件のような、かなり深い闇だ」
「……! それ、めっちゃ有名じゃないですか。それこそ、触れたらヤバいヤツです」
「ああ、その闇が問題なんだ。私はそこで消されかけたんだからね」
「……まさか」
「そうだ。八咫烏のメンバーだ。軍事訓練を受けている彼らは、圧倒的な力で制圧してきた。だが、アメリカの特殊部隊が私を守ってくれたんだ。その時に出会ったのが絆の御父上――ライバックだった。ちなみに、コードネームだ」
日本の事件に『八咫烏』と『アメリカ』が関わっていたとはな……。未解決事件の裏には、とんでもない組織との繋がりがあるのか……それに驚愕したよ、俺は。
「なぜ、アメリカは日本に干渉を?」
「悪の組織『八咫烏』撲滅の為さ」
「……裏で動いていたんですね」
「その通り。今も多くのスパイが活動しているようだ。詳しいことはこれくらいだが」
日本はスパイ天国らしいからなぁ。スパイなんてそこら中にいるだろうな。取り締まる法律すら整備されてないと聞く。そんなでいいのか、日本よ。
……いや、わざとなのか?
アメリカやらその他の国のスパイを消す為に。
とにかく、これで木下さんが俺たちの味方でいてくれる理由が分かった。彼はきっと裏切らずに最後まで一緒にいてくれるはずだと、俺は確信した。
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