60 / 109
58 地獄の補習開始
しおりを挟むティナの地獄の日々が始まった。
何もせずに住居費、食費がタダで、手当まで貰えると思っていたティナだが、世の中そんなに甘くはなかった。
アール教頭からも、生徒として一生懸命頑張りなさいといわれていたが、そこにはピンときていなかった。
入学式までの一カ月間、ティナは『基礎学力習熟組』に入れられ、毎日勉強漬けの日々になっている。
基礎学力には文字の読み書きはもちろん、四則演算、テーブルマナーや言葉遣いなど、内容は多岐にわたる。
だいたい長時間椅子に座って勉強するなんてこと自体が初めてなのに、それ以外にも様々なことを習わなければならない。
ティナの頭は爆発している。
だが、ティナと同じ部屋にいる全員、頭が爆発していた。
今年度入学の基礎学力習熟組は全部で四名。
ティナとカイ。それとリーナとフロックだ。
同じCブロックのカイは、田舎で猟師をしていたそうで、ティナの一歳年上。テイマーでブルーウルフのトムを連れている。
リーナは少女というよりはお姉さんという雰囲気の女性で十九歳。
フロックは習熟組の最年少で、ティナよりも一歳年下の少年だ。
リーナ、フロック共にAブロックの攻撃魔法タイプだ。
毎年数名の文字の読み書きができない生徒が入学してくるそうで、学園も慣れたものだ。
入学までのカリキュラムは出来上がっている。それに、たった一ヶ月で基礎学力が身に着くわけがなく、入学後も特別授業が続くのだが、生徒達は、まだ知らない。
(おっ、見てみろちょうちょ、俺ってば才能あるじゃないか)
ティナの書き損じの裏紙に、スーが文字を書いている。
両脇から触手を出して、左の触手で紙を押さえ、右の触手でペンを持ち、ティナの教本を盗み見ながら自習に励んでいる。
テイマーは基本、どこにでも従魔を連れて来てよい。
他の生徒が嫌がったり、従魔がいることにより不都合が生じる場合は、同行を拒否されるが、魔法学校なだけあって、従魔には寛容だ。
今は習熟組の授業中だが、スーとちょうちょはティナの隣にいる。なんなら一緒に授業を受けている。
「見てみて、こんなことできるよ。凄い? すごい?」
(うるせー、毛玉は黙ってろ)
「お前、身体中、汚れてるぞ」
カイの従魔であるブルーウルフのトムも同じ教室内にいるが、じっとしているのが苦手なのか、腹を上にして、クネクネと身体を捻っている。
スーとちょうちょは相手にしていない。
レベルが上がり、知能も上昇したスーは、ティナと一緒に授業を受けることにより、読み書き計算ができるようになっていった。
だが、ちょうちょとトムは、勉強というか知識を受け付けない。
勉強を嫌っているとか、なまけているとかではない。根本的に憶えることができないのだ。
レベルが高い魔獣は知能も高いが、文明を持たないのはそこなのかもしれない。
勉強が身についているのはスーだけだ。
なぜスーだけなのかは、スー自身も分からないのだが、スーは勉強が好きだし、知識が身に着くのに喜びを感じている。
もっともっと勉強がしたい。スーには目標があるのだ。
文字がスラスラ書けるようになって、ご主人様と筆談したい。
これで自分の溢れるご主人様愛を、やっと伝えることができる! ペンを持つ触手にも力が入るというものだ。
(ご主人様、それは “あ” ですよ。赤いリンゴの絵が描いてあるでしょう)
ティナがガリガリと羽ペンで、紙を破く勢いで文字を書いているのを、スーが横でフォローしている。
いかんせん言葉は通じていないが。
ティナは勉強が苦手らしい。
他の生徒達よりも、進みが随分と遅い。なんならスーの方が、よっぽど先取り学習をしている。
入学式までの一カ月で、できるかぎり勉強を進めておかないと、後の苦労が大きくなってしまうのだが、出来ないものは出来ない。
本人は真面目に前向きに取り組んでいるので、教師達から叱責されるようなことはないが、やはり落ち込んでいるようだ。
「こんなの、やってらんないわよっ。昼食べにいくわよ、昼っ」
朝から始まった授業が、やっとひと段落して昼休みになった。
教師が部屋から出て行った瞬間に、習熟組の一人、リーナがペンを放り出して叫ぶ。
毎日の勉強に、嫌気がさしているのだ。
「ティナ、食堂に行こう!」
「ごめんなさい。私はスーさん達と一緒だから、お弁当なんです」
リーナの誘いを断る。
食堂は魔獣禁止で、スー達は入ることができない。ティナはお弁当を貰って、スー達と一緒に食事をしているのだ。
「ティナ、俺も弁当だから一緒に食べよう」
「なにサラっとナンパしてんのよ」
「油断も隙もありませんね」
「ナンパなんかしてねーよ」
従魔は獣舎に入れて、世話係に任せっぱなしのテイマーも多いが、カイも従魔と一緒に食事をするタイプのようだ。
ティナを誘ったことを、リーナとフロックに揶揄われている。
「それじゃあ、皆で一緒に中庭でお昼にしましょうか。今日は天気もいいから、気持ちいいわよ」
リーナの提案に全員が賛成する。
現在の学園は、新入生は入学前、在校生は長期休暇中だ。学園内は閑散としている。
ほとんどの生徒は帰省中のようだが、帰省しない生徒もいるため食堂は営業している。
食堂でお弁当を貰うと、中庭へと行く。
中庭は、さすが王立学園というだけあって、広々と美しく整えてある。
入学説明会の前なので、皆は中庭の使い方を知らない。一部の場所には入らないようにとの立て看板も立ててあるのだが、習熟組の目には入っていないし、入っていても読めない。
「今日は日差しがあったかくて、ピクニック日和だねぇ」
「学園の中庭でピクニックはちょっと」
「いいの、こういうのは気分なんだから」
リーナとフロックの言い合いを見ながらティナは思う。
今まで学校というものにティナは通ったことはなかった。
だから同級生や友人の存在を知らなかった。
対等に親しく話せる相手がいるのが、どれほど嬉しいことか、ティナは実感する。
バババババッ!
はしゃいだトムが庭に穴を掘っている。
(これだから躾けのなってない毛玉は)
「飼い主、止めろよ」
ペット組は冷ややかな目線を送っている。
今日のお弁当は、細長いパンに切れ目を入れて、甘辛い味を付けた野菜炒めが詰められている。
なかなかボリュームがあるし、もちろん美味しい。
「こら、待てっ、これはお前が食べていいもんじゃない。待てってば」
魔獣は人と同じ物を食べると、体調を崩すことがあるらしい。
カイが持っているパンを食べようとしているトムを、カイが止めている。
スーやちょうちょはティナと同じ物を食べているので、ティナは不思議そうにその光景を見ている。
(まったく、毛玉は落ち着いて食事もできないのか)
「だな。おっ、今日のパンは、まあまあいけるな」
ティナからパンをちぎってもらっているが、それでも随分と大きなパンに、ちょうちょは噛り付いている。
スーは大きなパンを一口というか、一飲みだ。
「まあ、ちょうちょさん、具合が悪いの?」
ティナは何かに気づいたのか、スーと並んで芝生に座っているちょうちょに顔を近づける。
「え、いや、あの……」
なぜかちょうちょは、焦ったのか手に持っていたパンを落としてしまったのだった。
180
あなたにおすすめの小説
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる