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65 入学式
しおりを挟む本日は王立ザイバガイト学園の入学式だ。
基礎学力習熟組として、毎日授業を受けていたティナだが、今日からはクラス分けがあり、クラスメート達と一緒に授業を受けることになる。
もちろん、習熟組の勉強は通常授業後に続行される。
入学式は講堂で行われている。
講堂は流石王立学園というだけあって、広々としていて美しい。
壇上に一番近い所に新入生の席が並び、次に在校生、そして保護者席と続く。
新入生の席はAブロックから順に並んでいる。
Cブロックは、総勢3名プラス従魔なので、他のブロックに紛れてしまいそうなのだが、従魔のために列と列の間を広くとってあるので、変に目立ってしまっている。
クライブは一応Cブロック在籍だが、王家は別に席が設けてあり、ここにはいない。
ティナは今までの人生で、式典に参加することなどなかった。
真新しい制服に身を包み、緊張の面持ちで新入生用の椅子に座っている。
足元にはスーとちょうちょもちゃんと居る。
入学式の式次第は、ありきたりなものなのだが、ティナにすれば、初めての体験なので興味深い。
学園長先生の話には相槌を打ち、来賓あいさつにも一人一人、深々と頭を下げていた。
在校生代表のあいさつとしてハロルドが登壇し、次に新入生代表のあいさつとしてクライブが登壇したのだが、その都度、耳が痛くなるほどの黄色い声援が周りから上がっていた。まるでアイドルのコンサートのようだったのだが、ティナは理解していなかった。
一人耳を押さえ、なぜ皆が騒ぐのか不思議がっていた。
式も進んで行き、各ブロックの代表が壇上に上がり、学園長から激励の言葉を受けることになった。
Aブロックから順に代表が登壇していく。
Cブロックはカイが代表だ。
「Cブロック代表、前へ」
「はいっ」
司会に促され、カイが大きな声で返事をして起立する。そのまま壇上で待つ学園長の前へと進んで行く。
カイは猟をしている時に、怪我をしたトムを見つけ、偶然テイムしてしまったという、ほぼ素人のテイマーだ。
従魔に対しての正しい使役ができていない。だからこそ学園に入学して、使役の方法を基礎から習って、立派なテイマーになりたいと思っているのだが、今は思っているだけだ。
何が言いたいのかというと、カイはトムに “お座り” と “待て” を指示していなかった。
「主っ、待って!」
(うわっ、バカッ)
「こらっ、どこ行くんだよっ」
トムは主が自分を置いて行ってしまったと焦り、後を追いかけようとして立ち上がる。
スーとちょうちょが止めようと、トムの方へと向かいながら声をかけるが、聞いちゃいない。
そのままカイの元へと走り出した。
「駄目よ、ちゃんと待っていなきゃ」
「きゃんっ」
あと少しで壇の階段という所で、席を立ったティナに止められてしまった。
小柄なティナだが、叩き上げの百姓の娘だ、畑仕事で腕力は鍛えられている。トムは首根っこを押さえられて動けない。
(さすがはご主人様! あんな毛玉でも一応は魔獣だというのに、押さえ込んでしまっている)
「えぇぇ、バカでヘナチョコだけど、あれでもブルーウルフなんですけど……」
ペット達は自分のご主人様の腕っぷしに驚いている。
「ほら、お席に戻ろうね」
「きゅーん」
自分の主の元へと行けずに、トムは悲し気な鳴き声を上げているが、ティナに逆らわない。
少しでも逆らおうものなら、後ろに控えているペット達に何をされるか分かったものじゃない。
おつむが弱いと言われているトムにも生存本能はある。
ティナに連れられ、元居た場所へと戻されそうになった、その時。
ガッシャーン!!
いきなり大きな音が轟いた。
辺りは騒然となる。
何が起こったか分からない。辺りには埃が舞い、一瞬視界が遮られた。
辺りを見回せるようになると、大きな物体があった。いままでなかったものだ。
上から落ちてきたのか?
ほんのさっきまでティナが座っていた椅子が無残にも物体の下敷きになり、ひしゃげている。
(ご主人様!!)
「ティナ、大丈夫かっ!」
ペット達は慌ててご主人様の元へと駆け付ける。
ティナは何が起こったのか分からず、トムの首に手を回したまま固まってしまっている。
(無事でよかった……)
「よかった、大丈夫みたいだな」
いくらレベルアップしたスライムと能力を向上させる加護を持つ妖精だとしても、いきなりのことに対処できなかった。
もしティナが椅子に座ったままだったなら、二匹の目の前で大切なご主人様は最悪死んでしまっていたかもしれない。
二匹はその考えにゾッと身体を震わせる。
(よかった、本当によかった)
「ああ、ティナが席を立っていてくれたから難を逃れた」
スーとちょうちょはティナの元へと行くと、ティナに怪我がないかを入念に調べる。
自分達もトムを追っていなければ、下敷きになっている所だったのに、ご主人様のこと以外は考えていない。
そして安心すると、クルリとトムへと向き直る。
(おい、毛玉)
「トム」
「ワ、ワフ!?」
ティナからやっと解放されたトムは、今度は目の前にスーとちょうちょが迫って来て、焦ってしまう。
耳はイカ耳、尻尾は股の間だ。
(毛玉ッ、礼を言う。お前の浅はかで、ろくでもない行動のおかけでご主人様が救われた。ありがとう!)
「お前が無鉄砲なことをしたから、ティナが席を立つはめになったが、それがティナを救った。俺も礼を言わせてくれ、ありがとう!」
わざわざスーは触手を出すと、トムを抱きしめ、ちょうちょは身体全体で、トムの鼻先に抱き着いている。
色々と悪口のように聞こえるが、本心から礼を言っているのだ。
トムの行動がティナを救ったのだから。
「トムッ、大丈夫かっ」
壇上からカイが慌てて降りて来た。
ペット達に拘束され、泣きそうになっていたトムはホッとすると、大きく尻尾を振る。
落ちてきたのは照明器具。講堂を照らすために天井に並んで配置されていた魔道具だった。その中の一個が落ちてきたのだ。
とても大きな物で、ティナの座っていた椅子のひしゃげ具合から、その重さが分かる。
Cブロックは、他のブロックとの間を広く取っていたことや、ティナとカイ、ペットと従魔が席にいなかったことから、大事には至らず、死者や重傷者は出なかった。
最後尾に座っていたタイリーだけは、照明器具が落ちて壊れた破片により軽傷を負った。従魔のランダーは表皮が固い鱗に覆われているため、破片は飛んできたかもしれないが、怪我はしていない。
他に数名が飛んできた破片で怪我を負ったが、皆軽傷だった。
辺りは騒然となり、式は中止となり、入学生、在校生は、教室に戻ることとなった。
「また失敗した……」
何処からか聞こえてきた呟きは小さくて、誰にも届くことはなかった。
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