最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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80 寮母トリカ視点

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私はサーリャ男爵家の三女として生を受けた。
サーリャ男爵家は武門の家系で、家門の者全てが何らかの形で王宮を護る職に就いている。
母や姉たちも、騎士や戦士であった。
私もザイバガイト学園を卒業した後、騎士として王宮に勤めていた。

しかし、私の騎士としての期間は短かった。
騎士としての力量が足りなかったのだ。
どれだけ身体を鍛えても、努力しても、どうしてもレベルアップしない。
学園在学中から、そのことで悩んでいたが、卒業すると、武門として名をせていたサース男爵家の娘だということで王宮の騎士になることは出来た。

そのことを喜ぶべきではなかった。そこで現実を目の当たりにすることになったのだから。
同僚達は次々とレベルアップして、より高度な技や技術を習得していく。
戦場に出ても、王宮に賊が侵入しても、素早い対応と的確な処理をしていく。
私は付いて行くことが出来なかった……。

騎士の職を辞するしかなかった。
どうしても上がることのないレベル。どうしても足りない実力。私のステータスでは、王宮の騎士でいることは無理だったのだ。
だが実家に帰ることは出来なかった。
父や母、兄弟たちにののしられることが怖かった。
そんな時に在学中にお世話になった学園長様から、声をかけてもらえた。
私の在学中の勉学への真摯な取り組みを評価してくださって、学園の寮母として働かないかと言っていただけたのだ。

私には学園長様への恩義がある。
だから、学園長様から直接ティナの護衛をするようにとの下命を受けた時、恩返しが出来るのならばと張り切った。
できるだけ護衛をされていることをティナには知られないようにとのことだったので、寮母として接することにした。

護衛だと分からないよう、色々な話をして送り迎えも了承させた。
学園の外へと出かける時は、もちろん付いて行くつもりだった。
だがティナは真面目というか、息抜きという意味を知らないような生活を送っていた。
寮と教室、共同棟。その往復だけだ。
習熟組の授業があるので、自由時間が少ないことは分かる。だが全く休みが無いというわけではない。
それなのに、町に遊びに行くことや、買い物に行くことなど、まるでしないのだ。
休みの日は大人しく寮で掃除や洗濯をしている。娯楽というものを知らないのだろうか?

ティナはテイマー用の戸建ての獣舎付きの寮に住んでいるためルームメイトはいない。それに女子のテイマーはティナだけなので、テイマー用の寮はティナ以外、全て男子が使っている。そのため共同棟までいかないと女子はいない。
寮に帰ってしまうと、おしゃべりどころか挨拶する相手もいないのだ。

寂しくはないのだろうか?
田舎から一人で出てきたと言っていた。親元から遠く離れているのに。
だがティナはいつも楽しそうだ。
連れている従魔に話しかけ、一緒に食事をし、暇を見つけては裁縫をしている。
従魔もよく懐いており大人しい。いつも主人の足元に控えている。

最初は妖精を連れているのを見て驚いた。
妖精を従魔にしているテイマーの入学は、学園始まって以来と学園長様が言っていた。妖精はとても貴重だ。
そのために私はティナの護衛を任されたのだろ。
ティナのもう一匹の従魔はスライムでしかなく、なんの役にも立たない魔獣というのもおこがましい最弱な種だ。いくら妖精の特性が優れているとはいえ、スライム相手では、宝の持ち腐れにしかならない。自分の主人のことを護ることも出来ない雑魚だ。
スライムなど捨てて、もっと有益な魔獣をテイムすればいいのに。
もしかしたらティナは妖精をテイムできたのは偶然で、テイマーとしてのレベルは、とても低いのかもしれない。
私の任務はティナの護衛と言われてはいるが、貴重な妖精を奪われないようにするためのものなのだろう。

私は一人での任務だが、夜間は寮の周辺を徹夜で警備している。ティナは寮に帰ると出てくることはないので、その点は助かっている。
朝、ティナを教室まで送って行き、そこからは先生方へとバトンタッチすることで、私は休息を取ることができる。

今日もいつもの通りにティナを寮へと迎えに行く。
扉に取り付けてある木槌を手に取ろうとすると、声をかけられた。
振り返るとそこには国王陛下。

なぜこんな所に!
慌てて膝を着き騎士の礼を取る。

「ああ、堅苦しい挨拶は必要ない。今日はティナに用事があって来ている。ティナを教室に送る必要はない」
「はっ!」
どうしてなのか、なぜなのか、国王陛下に聞くどころか、疑問を持つことすら不敬だ。
ただ頭を下げ、その場から退く。

ティナがクライブ殿下とお茶会をしているのは知っていた。
クライブ殿下が妖精を見たいからなのだと聞いている。
妖精は、見ることすらなかなかできない希少種だ。だから殿下が興味を持ち、テイマーであるティナを呼びつけているのは分かる。
もしかしたらクライブ殿下は神獣の加護持ちだが、妖精のことも手に入れようと思っているのかもしれない。

だが、なぜ国王陛下がティナに会いに来るのか。
どんな理由があるというのか。
ご自身でこんな学園の端にある獣舎に来るよりも、ティナを王宮に呼び付ければいいだけのことなのに。

そして、国王陛下の隣には、クライブ殿下もだが、神獣グリファス様がいた。
王宮で騎士をしている時に、遠くから一度だけ見かけたことがあった。神獣様は人型になることが出来るのだと、その時に知った。

きっとお忍びなのだ。
三人の周りには騎士達の姿がない。
いくら神獣様と一緒にいるとはいえ、護衛騎士を伴わないことなど、あってはならないのに。
それほどまでして、国王陛下がティナに合わなければならない、どんな理由が有ると言うのか。
やはり妖精なのか? 妖精とは、それほどまでに貴重なのだろうか。
学園に続く迷いの森には、妖精の里があると聞いている。国が保護しているので、行くことは禁じられているが、ある程度の魔力持ちならば、妖精を捕らえることは可能だろう。
国王陛下ほどの高い能力を持った方なら、妖精を捕まえるどころか、使役することもできるだろうに。
分からない。

もしかしたら……。
私は、いつの間にか自分の白茶けた髪を無意識に触っていた。
私には1つだけ、思い当たるふしがある。
ティナを最初に見た時から疑問に思っていた。
なぜならティナは黒髪に黒い瞳をしているのだ。
この国には。いや、この大陸に黒髪に黒い瞳は存在しない。いないのだ。
最初に見た時は驚いた。こんな色味の人族がいるのかと、二度見してしまった。

そしてもっと驚いたことは、周りの者達の反応だった。
ティナの容姿に誰も何も感じていないのだ。
明らかに異形なのに。
まるでそれが当たり前のように周りの者達はティナに接している。
ティナ本人も、何も気にしていない。

ありえない。
ティナは田舎の村から王都へとやって来たと言っていたが、ティナのいた村は、この大陸ではなかったのか? 遥か遠くの別大陸にある国なのだろうか。
どれ程の道のりをティナはやって来たというのか。

もしかして、その奇異なことに王族の方達は気づいたのかもしれない。
ティナの部屋へと入って行く王族達の後姿を遠くに見ながら、そう思ったのだった。

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