83 / 109
81 ティナ泣く
しおりを挟む国王達が、いきなり部屋へと入って来て、ペット達と向き合っていた。
ペット達は言葉など喋れないのに、まるで話し合いをしているような雰囲気だ。
時々、国王やクライブが『まさか……』とか『そんなことが……』と、呟いて顔を青くしていると思ったら、いきなりみかんに対して頭を下げて謝りだしたのだ。
何が起こっているのかティナは驚く。
小さなスライムに対して、一国の王様が取る態度じゃない。
そして、かなりの時間が過ぎた後に、国王はティナへと顔を向けた。
「ティナ、今日から王宮で生活してもらいたい」
「えっ……」
国王から思いもしない言葉をかけられ、ティナは言葉が出ない。
国としては、何とか神獣を王宮に囲い込みたい、それも早急にだ。
しかしみかんだけを王宮に呼んだところで来てはくれないだろう。
みかんは自分を救ってくれたスーを慕っている。
ではスーとみかんをと言ったところで、ご主人様至上主義のスーがご主人様と離れることがないのは分かり切っている。
だったら、ティナごと王宮へ連れて行くのが一番だ。
ティナは年頃の女の子だから、美しい王宮に住み、綺麗なドレスを着て、美味しいお菓子に囲まれて過ごすことを喜ぶだろう。
そうシルベストは思った。思ってしまったのだ。
ティナは驚きに固まってしまっている。
国王陛下から、やんわりとした言葉使いだが、命令された。
生活しろと言われたから、寮から出て王宮に住めということだ。
どうして王宮に行かなければならないのかと、質問することは許されない。身分が違いすぎる。ティナは百姓の娘でしかないのだから。
国王の言葉に逆らうことなど出来ない。ただ従うしかないのだ。
ティナが最初に思ったことは、嫌だということ。
昨日、王子宮にお茶会のために呼ばれた。ほんの数時間のことだったがティナはこりごりしたのだ。
ドレスは苦しくて動きにくい。ハイヒールは痛い。化粧をされ、髪も結い上げられたから、顔が突っ張ったみたいで、表情を動かすのにも違和感があった。
そして何より、使用人が大勢いて、まるで監視されているみたいだった。一挙一動に注目され、気が休まる暇がなかった。
昨日着たドレスは、そのままティナの物になった。固辞したが、こちらの都合にティナを付き合わせたのだから、業務上の支給品と思ってくれとハロルドに言われた。
部屋のドレッサーにかかっているが、もう二度と着る機会はない。というか、着たくなかった。それに、もう王宮に行くことはないと思っていたのだ。
それなのに、そんな場所で生活しろと命令されてしまった。
ティナは学園の食堂で下働きをするために村を出た。
村を出る時は、本当に辿り着くことができるのか不安が大きかった。
王都までは、とても遠くて、何カ月もかかったし、その間には、怖いことも辛いことも、色々なことがあった。それでも頑張って何とか王都に着くことができた。
なぜか学園の生徒になってしまったけど、それでも念願の住む場所が出来た。
食事も摂ることができるし、ペット達と安心して眠るベッドもある。
やっと幸せに暮らしていけると思ったのに。
それなのに……。
自分には嫌だということすら許されない。
俯いたまま、ギュッと両手を握りしめる。
ポタリ。
ティナの手の甲に涙が落ちる。
(ご主人様?)
大人しくご主人様の隣にいたスーが、ご主人様の様子がおかしいことに気づき、慌ててティナを覗き込む。
そして、ティナが泣いていることを知る。
(てんめぇー、ご主人様に何をしたぁぁぁぁぁ!!)
スーの憤りが怒髪天を衝いた。
今までティナは、どんな辛いことがあっても、ポジティブに過ごしてきた。
凹むことはもちろんあったし、悔しがることもあった。
それでも笑っていたのだ。
そんなご主人様を泣かせたのだ。許せることではない。
スーの全身から威圧が放たれる。
自分自身ですらコントロールのできない強い感情が溢れ出す。
窓がカタカタと揺れだし、部屋全体の明るさが増したようにすら感じられる。
たぶん寮からも威圧は溢れ出し、近くに繋がれている従魔達を怯えさせているだろう。
「キャフッ」
スーの横にいたみかんが威圧に当てられ、なんとか耐えようとして身を低くする。
いくら神獣とはいえ、みかんは生まれたばかりだ。
「スー落ち着け」
グリファスが止めようとするが、スーには届かない。
シルベストとクライブは神獣グリファスの加護を受けている。
だから何とかスーの威圧に耐えることができているが、それでもピリピリとした波動を感じる。
シルベストは目の前にいるスライムのことを軽んじていた。
色々と話は聞いていたし、つい今しがたスーが神獣を助けたということも聞いた。
だが、それは全てが耳で聞く話でしかなかった。理解はしていたが、実感していなかったのだ。
それに従魔ではなくペットだと言われたが、違いなど分かっていなかった。どちらにせよ、主人からの命令に従うことしか出来ないのだと高を括っていたのだ。
目の前にいるスーのことを、他よりは大きいが、スライムでしかないと思ってしまっていたのだ。
(ご主人様を苦しめる奴は生かしてはおかない。今すぐ殺してやる!)
スーはシルベストへと今にも飛びかかりそうな勢いだ。
今までのスーはご主人様の前では愛らしいペットでいたし、そうあろうと努力していた。
だからご主人様の前で、荒々しいことを絶対にしなかった。
だが、ご主人様を泣かせたヤツを許してはおけない。
初めてスーはご主人様の前で、人族に攻撃をしようとしていた。
「大丈夫だスー。瞬殺して、詰め所の井戸に放り込めばバレはしないさ」
スーの頭の上から、ちょうちょが物騒な提案をしてくる。
ちょうちょもティナが泣かされたことに激怒しているのだ。柳眉を逆立てている。
(ジジイ、邪魔をするならテメェから殺るぞ!)
「殺ったれ、殺ったれ。思う存分加護を授けてやるぜ。レベル30の妖精なめんな!」
ちょうちょの身体から魔素が溢れ出す。
「どういうことだ……」
グリファスは二匹から向けられる敵意に驚きを隠せない。
この強さは何だ?
模擬試験の時とはまるで違うではないか、けた違いに強い。
まさか模擬試験の時は本気ではなかったというのか?
グリファスはスーとちょうちょがレベルアップしたことを知らない。
スーはレベル6になり、ちょうちょは一気にレベル30になっているのだ。
いくら二匹がレベルアップしようとも、神獣のグリファスに勝つことはできない。
だが、今のグリファスは人型だ。元の姿に戻るには、寮の部屋は狭すぎる。
それに身動きもままならない場所で、二人の人族を護らなければならない。
ティナを背中に隠すようにスーは前に進み出る。
ちょうちょの加護がスーの攻撃力をみるみる爆上げしていく。
いつもは可愛らしい黒い瞳は、強い光を湛え、身体の両側から触手が出てきた。
どうする、このまま戦闘するのはまずい。
グリファスは焦る。
「すまなかったぁっ! どうか許してくれっ!!」
いきなりシルベストがティナへと向かい土下座する。
クライブも正座して頭を下げる。
俯いていたティナは、大きな声に驚いて顔を上げ、目の前の国王を見て、腰を抜かしそうになってしまった。
「ど、ど、どうしたんですかっ。頭を上げてください」
「ティナのことを考えず、こちらの都合を押し付けてしまい、申し訳なかった。許してくれ」
「そんな、許すだなんて、恐れ多いです」
「ティナの嫌なことはしない! 思ったことを言ってくれ。ティナの望み通りにすると約束するっ!」
国王は必死だ。
生まれて初めて神獣が焦っているのを感じた。至上の存在の神獣が、取るに足らないスライムと妖精に対して、本気で困っているのだ。
国王は自分が重大な失態を犯してしまったことに気が付いたのだ。
シルベストは国王であり、国の頂点に立つ立場にある。だが今はそんなことに拘っている場合ではない。相手が平民の少女だろうと、頭を下げる。速攻で土下座だ。
頭ぐらい何度でも下げる。下げ続ける。
そんな国王を前に、ティナはどうしたらいいのか、オロオロと狼狽えている。
(ふん。ジジイ、命拾いしたな)
「まったくだ。これに懲りたらティナにちょっかいかけるんじゃねーぞ」
ペット達の戦闘態勢は一旦は収まったようだ。
だが、警戒心は残っているようで、国王へ向ける視線は厳しい。
「キュウ……」
(ん?)
隣から小さな鳴き声が聞こえて来て、スーはそちらへと視線を向ける。
「うわぁ、みかんがスーの威圧にやられちまってるぞ!」
スーの横にいたみかんは、スーが出した威圧をもろに受けてしまっていた。
つぶれた饅頭のような形になっている。
(おい、だいじょうぶか?)
スーは触手でみかんを突く。
「え?」
(は?)
「こんなことが……」
ゆっくりと元の形へと戻っていったみかんを見て、周りにいた者達全てが驚きに声を上げた。
スーの威圧を受けたからなのか、みかんは変わってしまっていたのだった。
121
あなたにおすすめの小説
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる