86 / 109
84 第三の事件
しおりを挟むティナが襲われた。
矢が部屋に打ち込まれたのだ。
スー達は犯人を捜したいが、それは不可能だった。
凶器が矢だったからだ。
魔法や魔素が一切使われていない、力によって放たれたものだった。
もし少しでも魔素が使われていたら、それを辿って犯人を捜すことができるし、ティナが襲われる前に、そのことに気づけたはずだ。
学園の中では、授業や学園が必要と認めた時以外の魔法の使用は禁止されている。
だから矢を使ったのだろう。
矢が放たれた方角を探ろうと意識を飛ばしても、学園の中には生徒や教師などが複数いる。特定できない。
「一体なんのために」
手に矢を持ったままカイが呟いている。
スーは、うすうす気がついていた。事故が多すぎる。
結界が壊れた時も、照明が落ちて来た時も、ご主人様のことを狙ったといわんばかりだった。
同一犯だろうか?
ご主人様に仇成すものは、誰だろうと容赦はしない。必ず見つけ出してやる。
ティナは自分を狙う者がこの世に存在するなんて思ってもいないし、考えたことすらない。
田舎の百姓の娘には何の価値もない。そう思っている。
だからこの矢は、きっと弓道部(?)の流れ弾だろうと思ったのだ。この学園は部活動が盛んらしいから。
カイは、この事態を学園に知らせるべきだと言ったが、ティナは止めた。
黙っていてくれと頼みこみ、カイはしぶしぶ了承してくれた。
ティナは寮が気に入っている。だから波風立てずに、ずっとここに住みたい。
矢が入って来たことにより安全が考慮され、寮から出されることが嫌だ。国王から、また王宮に来いといわれたら、今度は断れないかもしれない。
窓が壊れたから修理をしてもらわなければならないから、学園へ連絡はした。ただペット達が騒いだために窓が壊れてしまったということにした。スー達は冤罪をかけられてしまったが、それでいいと文句など言わなかった。
この寮に居る方が自分達でご主人様を護ることができる。へたに寮から出されて、自分達が近くにいることが出来なくなったら、その方が困る。
すぐに寮母のトリカが駆け付けてくれ、窓を修理してくれるように手配してくれた。自分が休んでいたからと、悔しがっていた。
窓の修理は立ち合う必要があったから、結局ティナは授業を受けることはできなかった。カイも付き添うと言ってくれたが、トリカから授業を受けるようにと言われて、しぶしぶ教室へと向かっていった。
因みにトリカやカイは、みかんの存在を知らない。みかんは二人の視線からうまく隠れていた。神獣の存在を知られるのが嫌なのではなくて、ただ単に騒がれるのが嫌だったのだ。
(ということで、協力を頼みたい)
ティナが寝てしまった深夜、グリファスを念話で呼び出した。
「またティナが狙われたのか……」
矢が部屋に撃ち込まれたことを話し、協力を依頼する。
やはりグリファスも、ご主人様が狙われているのではと思っていたようだ。
「で、我に何をしろと?」
(ご主人様を狙う犯人は保身が強い。ご主人様を亡き者にした後も、のうのうと生活を続けたいのだろう。そのために手間暇をかけて事故に見せかけているし、自分では直接手を下してはいない)
実行犯の者達を、どうやって仲間にしたのかは分からないが、自分は遠い場所にいて、事件には関係ない顔をしているのだ。
(今までは手掛かりが一切なかった。というか手掛かりを見つけることが出来なかった)
スーは魔獣だから、聞き込みをしようにも人族とは話が通じない。
それにスーが近づけば、魔獣だと忌避されるだろう。
(一回目、二回目共に、ご主人様は無事だったが、そのことで犯人は焦ってきたのだろう。今までのように事故に見せかけないで、直接行動を起こしてきた。だから粗が出た。手掛かりを見つけたんだ。そこから犯人を見つけ出す。手助けをしてほしい)
グリファスに頭(?)を下げる。
グリファスに、どんな手掛かりがあったのかを説明し、どうしてほしいのかを話す。
神獣が表立って動くことはできないから、クライブにも手を貸してもらうことにする。
お茶会の時に、みかんをコンパニオン代わりに媚びでも売らせれば、クライブは良く働くだろう。スーは黒い顔をして嗤う。
残念なことに現時点では手掛かりがあったとはいえ、犯人の目星すらついてはいない。
犯人がご主人様に、また手を出して来るかもしれない。
ご主人様の安全確保をしなければならない。
そのためには、まず寮の防御を強化だ。
なにしろ寮は戸建てだから、襲うには最適な場所だといえる。
さて、どうしたものか。
スーには魔法が使えない。レベルアップして攻撃力は上がったが、防御面はイマイチだ。ご主人様から離れてしまえば護れない。
「なあなあ、目くらましの魔法なんてどうだ?」
今まで大人しくスーの頭の上にいたちょうちょが提案する。
妖精の里が人族に襲われた時、もう二度と襲われることがないようにと、森全体に目くらましの魔法をかけ、森を『迷いの森』にした。
魔法自体は、それほど強いものではないが、広範囲の常時発動魔法だ。
敵を寮に近づけないのはいい考えだ。
まあ、敵のレベルがある程度高ければ、役には立たないのだが。
(そうなると敵以外も寮に近づけなくなるから、それだとご主人様が困るんじゃないか?)
「うーん、そっかぁ」
真剣な顔で魔法を提案しているちょうちょだが、魔法は使えない。
「じゃあ僕、僕がやるよ!」
みかんは触手を出せないが『はい先生!』と挙手のノリでピョンと跳ねる。
(みかんが? 出来るのか?)
「うん、できるよ! 防御の魔法陣を作れるよ」
みかんは一つ頷くと身体に力を入れる。
「見ててね!」
金色の輝きが増していく。
身体も少し大きくなったように見える。
身体全体からエネルギーが溢れ出し、辺りに波動のように広がっていく。
スーとちょうちょはエネルギーの圧力に吹き飛ばされそうだ。
「待て待て待て!」
グリファスが鈎爪の前足を使って、みかんを捕まえる。
「あ、ジジイ、放せっ」
「一体何をやろうとしているのだ。このままエネルギーを放てば、この学園、いや王都ごと吹き飛んでしまうぞ!」
「違うもん。防御魔法をしようとしていただけだもん」
首根っこを掴まれたみかんが、ジタバタともがきながら言い訳をしている。
(し、神獣こえー)
「俺ら消し炭になる所だった」
スーの放つ威圧など、子ども騙しと思えるほどに、強いエネルギーが感じられた。
いくら小さくて幼く見えていても、みかんは神獣だった。
「まったく。ちゃんと神獣としての自覚を持て。自分の力を知り、それを使うための修行をしなければ駄目だ。いいか、神獣の力を暴走させてしまえば、この国ごと壊してしまうことになるぞ。だいたいみかんは……くどくどくどくど」
グリファスの説教が始まってしまった。
みかんへの説教だが、スーとちょうちょも巻き込まれで傾聴させられている。
(年寄りは話が長い)
「だな、このまま朝になっちまうぞ」
最初は正座(?)だったペット達も、だんだんと態度が悪くなってきている。
スーは、わざわざ触手を出して、鼻ホジをしているし(スライムに鼻は無い)、ちょうちょはスーの頭の上でヤンキー座りをしている。
二匹はコンビニ前にたむろしている若者を彷彿とさせている。
「お説教なんて聞きたくない!」
みかんはグリファスの説教に反発して、フンと横を向く。
この小さなスライムは反抗期なのか?
説教を途中で中断させられたグリファスは、ツンな対応のみかんを見て思ったのだが、ハッと気づいた。
反抗期ではなく “イヤイヤ期” なのだ!
人族の幼児が生まれて一歳を過ぎた頃に、そんな状態になると聞いた。
「みかんは成長しているのだな」
思わず親戚の年寄りの心境になってしまうグリファスだった。
「まあ、しょうがない。我が少し手をかしてやろう」
結局、寮の防御をどうするかという問題が残ってしまった。
このままだと、またみかんが暴走するかもしれないので。グリファスが簡単な結界を寮にかけてくれることになった。
みかんに説教をしていたグリファスだが、自分こそ己の威力を忘れていた。
王宮にグリファスは防御魔法をかけているが、そのノリでシステムを構築してしまったのだ。
ティナの生活しているテイマー用最小単身寮は、あり得ない程の強固な守護魔法で守られることになってしまったのだった。
135
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる