最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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99 答え合わせ③

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「きゃあっ」
剣を向けられティナは両手で自分を庇ってしゃがみ込む。

ガチッ。
剣が振り下ろされ、何かにぶつかる固い音が聞こえた。
だが、ティナは何とも無い。
斬られていない?
恐る恐る辺りを見回す。

「みかんちゃん!」
小さなみかんがティナと剣の間に挟まっていた。
みかんがティナへと振り下ろされた剣を身体で受け止めていたのだ。

「トリカさん止めてっ! みかんちゃん、大丈夫、怪我していない?」
みかんを両手で包み込み、怪我をしていないか確認する。
みかんに怪我は無いようだ。ティナはホッと息を吐く。

「スライムが剣を弾いた? そんなばかな……」
トリカはあり得ないことに、呆然としている。
小さなスライムなら、手で振り払っただけでも殺すことができるのに。

「ティナを虐める奴は許さないっ」
みかんの小さな瞳は怒りに吊り上がっている。

「ちくしょう、僕は何もできない。ティナをここから連れ出すことさえできない。じいちゃんの言うことを聞いて、修行しておけばよかった」
みかんは後悔しているが、遅すぎた。

神獣として覚醒したみかんは、強大な力を持っているが、使うことができない。
使えば力は暴走し、王都すら吹き飛ばしてしまうだろう。
グリファスの説教を途中で聞くのを止めたのが悔やまれる。

「王都が吹き飛んだって、人族が減ったって、どうでもいいんだ。でも、パパとちょうちょまで吹き飛ばしてしまう。そんなことは出来ない。どうすればいいんだ」
みかんはティナのてのひらの上で苦悩する。

「馬車の中に畜生は全部入れてこいって言ったのに。それよりもいつの間にもう一匹増えているのよ」
トリカはみかんの出現に驚いているようだ。

トリカはスー達の実力を知らない。
ただの雑魚スライムと非力な妖精だと思っている。
だが、トリカのことを可愛がっている学園長から、スー達は見かけとは違い、攻撃力と思考能力を持っていると聞いた。
話半分だし、信じちゃいない。だがティナを始末するのに邪魔になるだろうからと、カイに言って馬車に閉じ込めさせた。

あの馬車には魔法をかけてある。
指先から、ほんの小さな雷を出すことしかできないトリカだが、優秀な魔法を使う手駒がいる。
カイに馬車を盗ませ、魔法をかけさせた。
魔法は従属の首輪と同じで『内側に跳ね返る』というもの。
魔力も攻撃も全てが跳ね返る。内側からは、決して馬車を壊すことは出来ない。そして魔法の能力はそれだけではない。馬車の中で取った行動は、全て自分へと返される。壁に攻撃を加えれば、自分の身体に攻撃したのと同じダメージを受けるというものだ。それも気づかないうちに。
気が付いた時には、体力が削られ、動けなくなっているだろう。出ようともがけばもがくほど、死が迫ってくるのだ。

「酷いわっ。トリカさんは良い人で、私のことを気にかけてくれていると思っていたのに」
ティナは叫ぶ。
みかんは傷一つ負ってはいないが、死んでもおかしくはなかった。
手に剣を持っているトリカに反発しない方がいい、だが、みかんを思えば、そんなことどうでもよかった。

「酷い? 酷いですって、私がどんな目に合って来たのかを知りもしないくせにっ。よくもそんなことが言えたわねっ!!」
トリカは、ティナの言葉に反応すると、見る見る形相が変わっていく。

「みんなみんな、あのクソ天使のせいよっ。ううん違うわ、私から半分奪い取ったお姉ちゃんのせいよっ。もう半分あれば、私はこんな目に合わなかったわっ」
トリカはティナを睨む。
余りにも憎々し気なその形相に、ティナは後ずさりしたが、扉にぶつかり、それ以上動くことができなかった。

トリカは天使に頼んだ。頼んだというよりも命令した。
転生ではなく自我を持ったままの転移を。身分のある家に生まれ、チートを持っていることを。
順風満帆の人生を送るはずだったのだ。

「お姉ちゃんは転生したんでしょう。田舎の百姓の娘に生まれたって聞いたわ。私はねぇ、トリカ=サーリャ男爵令嬢に憑依したのよ」
12歳のトリカは病気で亡くなった。そのトリカに憑依したのだ。
同じ時期に転生したティナとは12歳差になる。

ちゃんと自我は残っていて、自分は自分として、この世界に転移した。
トリカの記憶を引き継いだから言葉も喋れるし文字の読み書きもできる。12歳だから、そこまで高度なことはできないが、十分だった。
それに天使に注文を付けた通り、貴族令嬢だった。
サーリャ男爵家は裕福な家だったし、両親は子どもの教育に熱心な保護者だった。

「あのクソ天使、絶対に私に悪意があったのよっ」
トリカは持っている剣に力を入れる。
もし目の前に天使がいたら、即座に斬りつけていただろう。

「見て、この身体を。女の子だなんて思えない、恥ずかしい身体だわ」
憑依してすぐにトリカは愕然がくぜんとした。
12歳と聞いた少女は、すでに身体が大きかった。
大きいなんてものではなかった。同じ年頃の少女達どころか、男の子達よりも頭一つ大きい。その上、体格がしっかりしているのだ。

サーリャ男爵家は武門の家系で、遺伝なのだろう。男性だろうと女性だろうと家族全員が優れた体格をしていた。
家系を繋いでいくために、代々体格の良い女性を嫁に迎えていたのかもしれない。
母や姉さえも、女性とは思えない体格をしていた。
トリカの貴族令嬢として、可愛らしくて綺麗なドレスを着るという夢が、一瞬にして断たれてしまった。

それでも裕福な家庭に生まれ、何不自由ない生活だった。
それにトリカにはチートがあった。
冒険者でいうところのCランクの能力。
憑依した当時のトリカのレベルは10。低いレベルだが、子どもにしては高レベルといえる。
レベルが10しかないのに、能力はC。
チートだった。
弟どころか兄でさえトリカには敵わなかった。
この先、どれ程伸びるのかと、両親どころか親戚や使用人達からもこぞって期待された。
武門の家系だ、生まれた順番なんか関係無い。優れた能力の子どもが跡取りとなる。
トリカは四人兄弟の三番目。姉と兄がいたが、両親や兄姉も、トリカがサーリャ男爵家の跡継ぎになるだろうと思っていた。

この頃がトリカの幸せの絶頂だった。

段々とおかしくなっていったのは、討伐のために屋敷から出るようになってから。
サーリャ男爵家はそこそこ広い領地を持っており、その領地に出没する魔獣や害獣の討伐は領主が処理するのは当たり前のことだった。
それに近隣の領地や王宮からの依頼を受けて討伐に出ることも多かった。

トリカが憑依してから半年も経たないうちに、トリカは討伐に参加するようにと両親から言われた。
本来ならば討伐には14歳ぐらいから出るのだが、トリカは姉や兄よりも剣術や体力に優れており、両親は討伐に参加させてもいいと判断したのだった。

それにトリカも討伐に早く参加したいと思っていた。経験値を稼ぐために。
屋敷の中で剣術や体術の修練を積んでも、それは経験値にはならない。
経験値の獲得方法は色々あるが、魔獣の討伐が最短で経験値を稼げる。
トリカは早くレベルを上げたかった。
そして忌々しいCランクから抜け出したかった。

トリカにすれば、SSまではいけなくてもSには届くと思っていた。
前世では努力なんてしなくても可愛いければ、それでいいと思っていた。玉の輿に簡単に乗れると思っていたから。そのためにオシャレや化粧に力を入れていた。
だけど、今はランクアップのための努力は嫌じゃない。
ゆくゆくは、自分がサーリャ男爵家の跡取りになる。それだけじゃないサーリャ男爵家は王宮からのおえもいい、国王陛下の護衛騎士や騎士団長にすらなれるだろう。
トリカの将来は希望に満ちていた。

だが、最初の討伐に参加したことにより、その夢は全て壊れてしまうのだった。



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