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104 ティナ、キレる
しおりを挟む「もう、このスライムなんなの? 邪魔よっ」
トリカが剣でティナへと斬りかかる。
バシィッ!
みかんが剣を弾く。
ティナを護ってみせる。
トリカが剣を振うたびに、剣の先にみかんは先回りする。
いくら神獣だとはいえ、みかんは小さい。
振り下ろされる剣先を弾くのがせいぜいだ。
「パパ、パパ!」
みかんが何度スーに念話を飛ばしても、返事が無い。
みかんとスーは同じスライム同士だからなのか、念話が通じやすい。少しぐらい離れていても、届くはずなのに。
どうして……。
スーはちょうちょと一緒に馬車に詰め込まれた。
みかんだけがティナのポケットに入っていたため、ティナと一緒に小屋に連れて来られた。
スーが詰め込まれたのは、なんてことのない木で出来た荷馬車。スーがぶつかれば、すぐにバラバラに壊れてしまうだろう。
スーは、すぐにここに来てくれるとみかんは思っていた。
それなのに……。
どうして来てくれないの?
どうして返事がないの?
どうして?
みかんは嫌な胸騒ぎがする。
そして神獣の予感は当たる。
パパ……。
「じいちゃーん。じいちゃん、助けてぇ!」
みかんは叫ぶ。
グリファスは王宮にいるだろうが、神獣同士の念話は、どんなに離れていても通じる。
幼くとも神獣としての矜持を持っているみかんだが、とうとう堪えきれずに助けを呼んでしまった。
「ふぎゃ!」
みかんは衝撃に小屋の奥へと吹き飛ばされる。
念話に気を取られて、トリカの剣を避けきれなかった。
「みかんちゃんっ!」
トリカのことなど怖がる暇はない。
慌てて扉を離れ、ティナはみかんの元へと駆け付けると、みかんをすくい上げ、怪我をしていないか確認する。
「許せない。許せないわ……」
みかんをそっと下へと降ろすと、ティナは壁に立てかけてあった大木槌を手に取る。
「こんな小さなみかんちゃんに、なんて酷いことをするのっ」
全長1メートルほどもある大木槌は、小柄なティナが持つには大きすぎる。
それなのにティナは、ブンッと大木槌をスイングする。
ティナが激怒している。
みかんは驚きにティナを仰ぎ見ることしかできない。
今までのティナは大人しくて、おっとりしていた。だって、ティナが怒っている所なんて見たことがなかった。
驚きに固まったり遠慮したり、嫌だと泣いたことはあった。でも、怒ったことはなかったのだ。
「よくもよくも、私の家族に何てことをしてくれたのっ!」
ティナは大木槌を振り回す。
ブンッ、ブンッと風を切る音が唸る。
ティナは心底怒っていた。
今までトリカが持つ剣に怯え、何もできないでいた。
みかんが剣を弾いてくれていたというのに、ただただ怖くて震えていた。
みかんが弾き飛ばされて、怯えも一緒に吹き飛んだ。こんな小さなみかんが必死に自分を護ってくれていたのに、自分が情けない。そしてトリカに怒りが湧き上がった。
トリカが言っていることは丸で理解できない。
ティナが何かを奪ったとか、半分しかくれなかったとか。
一体何が言いたいのか。
分かっているのは、甘ったれだということ。
だいたいゴッキーナを討伐できないって、なんだ?
虫退治を討伐とは言わない。
ティナだって虫は嫌いだ。見ただけでゾッとする。
だけど、ゴッキーナが家に出たのに、そのままにしておけるわけがない。
食料を食い荒らされる。
ゴッキーナは大きい、今日どころか明日の分、冬の蓄えの食料まで被害にあう。
臭いがどうの、飛ぶのがどうのなんて、言っていられない。
自分どころか、家族が皆飢えることになってしまう。
生きて行くためには、ゴッキーナは見つけ次第退治する。それが当たり前のことだ。
それなのに、討伐できないのが私のせい?
笑わせないで!
ティナにすれば、トリカの言い分は因縁以外のなにものでもない。
そのせいで、みかんに危害が加えられた。
許せない。
絶対に許せない。
ティナはキレた。
ティナは我を忘れている。
人に対して、殴りかかることはもちろん、刃物を向けることなんて以ての外のティナが、大木槌を振り回しながら、トリカへと向かっていく。
「ちょ、ちょっと何よ、お姉ちゃんのくせに生意気だわっ」
トリカは向かって来るティナに剣を振り下ろす。
ティナは素人の上に筋力も無い。遠心力だけで大木槌を振り回している状態だ。逆に大木槌からティナが振り回されている。
それに比べ、トリカはしっかりと鍛えた筋肉を持ち、剣も正式に習ってきている。
ティナに勝ち目はない。一太刀でティナは斬り殺されてしまうだろう。
だがティナにはみかんがいる。
バシィ!
「きゃあっ」
トリカの剣をみかんが弾く。
両手で剣を持つトリカは、剣を弾かれれば、ティナの大木槌を防ぎようがない。
慌てて身体を捻って大木槌を躱す。
バキィ。
勢い余った大木槌は、トリカの背後にあった扉にめり込む。
「うーん、うぅん、外れないぃ」
めり込んだ大木槌を何とか外そうと、ティナは大木槌を引っ張っている。
「さっさと死ねばいいのよっ。何が許さないよっ。それは私のセリフだわっ」
トリカは背を向けたままのティナへと、再度斬りつける。
「させるかっ!」
今までみかんはティナを背中に庇い、剣を弾くことに集中していたため、トリカに攻撃することができなかった。
だが今は、トリカとティナは離れている。
魔法で攻撃できなくても、肉弾戦ならできる。みかんはトリカに体当たりを食らわせる。
「ぐはぁっ」
みかんは弾丸のようにトリカの腹にめり込む。
トリカはそのまま吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。
「外れたわっ!」
大木槌は扉を半分壊した状態でティナの手元へ戻った。
「まあっ、扉が開きそうだわっ」
扉には大きな穴が開いている。
バキィッ、バキィッ!
ティナは穴に向かって、大木槌を何度も打ち付ける。
「やったわ開いたっ。みかんちゃん行くわよっ」
開かなかった扉が開いた。
トリカのことなんかに構ってなんかいられない。
「スーさん、ちょうちょさん待っていてっ」
ティナは左手でみかんをすくい上げると、右手に大木槌を持ったまま、扉から外へと飛び出すのだった。
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