最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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105 ペット達の元へ

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「残りの者は小屋に突入するぞっ」
クライブの声に、騎士達が緊張した面持ちで、小屋へと集まって来る。
一気に中に入ろうとした、その時。

バキィッ。
大きな音を立てると、扉に穴が開いた。

「中で何か暴れているぞっ」
「気をつけろっ」
「殿下っ、お下がり下さい」
騎士の一人がクライブの前に出てくる。

扉は何度も殴られているような音を立てると、こんどはパンッと、大きな音と共に扉が外側へと開いた。

「ティナッ」
扉からは、ティナが飛び出してきた。
なんと手には大きな木槌を持っている。もしかして扉を壊したのはティナなのか?

「スーさん、ちょうちょさん今行くわっ」
ティナには小屋の周りに何人もいる騎士達の姿は見えていないようだ。一直線に走り出す。
もちろんクライブのことも視界に入っていない。

「待ってくれ、ティナ」
ティナの後ろをクライブが追う。

「殿下、お待ちくださいっ」
周りの騎士達もクライブを追って行く。
残されたのは、小屋から少し離れた場所で気を失ったカイとトム。それを介抱する二人の騎士だけだ。

クライブ達は小屋の中にトリカがいることを知らない。

「何なのよ、ちくしょう……」
痛む腹を押さえ、トリカがヨロヨロと小屋から出てくる。
外が騒がしいのは分かっていた。
だから少し待ち、声が聞こえなくなってから出てきたのだ。

辺りを見回し、少し離れた所に数人の人がいるのが分かった。
ここでトリカの存在を知られるのは面倒だ。
見つからなければ、後でカイやティナが何かを言ったとしても、知らない、そんな場所にはいなかったとシラを切ればいいだけだ。
トリカは人のいない小屋の裏へと回ろうとする。

バサッバサッ!
頭上から大きな羽音が聞こえた。

「えっ」
音が近いことに驚き、視線を上げると、大きな茶色い塊が見えた。
余りに近くだったため、それが何かが分からない。

「ぐあっ!」
ガシッ。と、トリカは上から地面に押さえ付けられる。
鈎爪が身体に食い込む。

「孫が世話になったようだな」
トリカは騎士だったが、宮殿に入ることすらできない下っ端だった。
だから神獣の声を聞いたことはなかった。
それなのに、トリカはすぐに、自分の上から聞こえてきたのが神獣の声だと分かった。

神獣の声には怒気が含まれている。
だがトリカは神獣に恨まれるようなことをした覚えがない。

そういえば、ティナの部屋に人型になった神獣が来ていた。トリカは思い出す。
だがティナの窮地に駆け付ける程の仲だったのか?
それに孫とは?
トリカは動けないまま、どう言い逃れしようかと考える。
自分が小さな神獣とその友達に、どんなことをしたのか、気づかないままに。




「いやあぁ、スーさん、ちょうちょさんっ」
ティナは叫ぶ。
スー達が詰め込まれた馬車が燃えていたのだ。

「いまっ、今助けるわっ! みかんちゃん、ちょっと離れていて」
ティナはみかんを地面に降ろすと、またも大木槌を振りかざす。

「今助けるわっ、待っていて!」
バシィッ!
力の限り荷馬車に向かって大木槌を叩きつける。

小柄なティナの、どこにそんな力があるのか、何度も何度も荷馬車を壊すために大木槌をふるう。
追いついたクライブは、鬼気迫るティナに近づくことができず、戸惑いながら、ただ見ているしかできないでいる。

荷馬車は燃えて、脆くなっていたのだろう、すぐにベキベキと音を立てて、壁が壊れだす。
人が通れる程の穴が開いた途端、ティナは大木槌を放り投げ、燃え盛る荷馬車の中へと入って行く。
一切の躊躇ためらいは無い。

「ティナ、危ないっ」
みかんの念話はティナには聞こえない。
聞こえたとしても、ティナを止めることは出来なかっただろう。

「スーさん! ちょうちょさん! どこっ、どこにいるの!? ごほごほごほっ」
狭い荷馬車の中だ、ティナはスーとちょうちょをひと目で見つけることができた。

「スーさん、ちょうちょさんっ」
すぐに駆け寄る。
ぐったりしたスーとちょうちょを見て、ティナはグッと堪える。
ここで騒いだら駄目だ。
二匹をここから連れ出すのが先決だ。
スーとちょうちょを抱き上げると、荷馬車から飛び出す。

二匹を抱えたまま安全だと思える場所までくると、地面に崩れるように座り込む。
袋服から見えているスーの身体は焼けただれている。
ちょうちょの貫頭衣や髪はすすで汚れ、手や足には火傷が見える。

「ごめんね、ごめんね、来るのが遅くなって、ごめんね。熱かったよね、苦しかったよね」
ティナの瞳から、ボタボタと涙が流れる。

「パパ、ちょうちょ……」
ティナの肩へと飛び乗ったみかんも、二匹の姿を見て、驚き悲しんでいる。
小さな黒い瞳から次々と涙が溢れる。

「ティナ、みかん、なんで泣いてんだよ……」
ちょうちょの意識が戻ったのか、小さな手を濡れているティナの頬へと伸ばそうとする。
だが、その手はすぐに力を失い、ダラリと身体の横に投げ出される。

「ティナ……」
泣きじゃくるティナの元へクライブが近づいて来た。

なぜペット達が馬車にいたのか、その馬車が、なぜ燃えていたのか。
クライブには何一つ分からないが、目の前でペット達が死にかけているのは分かる。
スーもちょうちょも酷い火傷を負っている。
どんな治療をしても、もう助からないだろう。

「スーさん、ちょうちょさん……。ごめんね」
どうしてもっと早く駆け付けることが出来なかったのか。
スーとちょうちょが馬車に詰め込まれているのを知っていたのに。
トリカの話を、なぜ聞いていたのか。
剣を向けられて、怖かったなんて、そんなの言い訳にもならない。
何もならない後悔ばかりがグルグルと頭の中で繰り返される。

「気にすんな、すぐに元気になるって」
ちょうちょの言葉はティナには通じない。
それでもティナは、何とか笑顔を作ろうとしているちょうちょの言葉に頷く。

スリ。
スーの意識が戻ったのか、最後の力を振り絞るように、ティナへと身体を擦り付ける。

「スーさんっ、目を開けてっ」
「パパ、しっかりして」
声掛けにもスーの目は開かない。

ティナは痛いだろうからと、強く抱きしめるのを堪えていた。
撫でるのでさえ、躊躇われるほど、スーの身体は焼けただれている。
それでも、抱きしめないとスーの命がティナの手の届かない所へ行ってしまいそうだった。

ティナは二匹を抱きしめる。
涙が溢れるままに、いつものようにギュッと抱きしめ頬ずりする。

パアアアアッ!!
スーとちょうちょが光り出す。

「うわっ、なんだっ」
クライブが驚き、ティナの元から後退る。

ティナの持つ天恵ギフトの付属『無病息災』が発動したのだ。
そして、神獣みかんの『祈り』が相乗効果をもたらした。

みかんは神獣の力を修行していないし、自分がどんな力を使えるか、まだよく分かっていない。
だが、二匹をしたい、助かってほしいという強い思いが『祈り』となり二匹に届いた。

二匹の身体は、見る見る元へと戻って行く。
スーの焼けただれていた肌は、透明感のあるブルーになり、表面はツルリとなった。
ちょうちょの手足にあった火傷も全て無くなり、可愛らしい顔も元通りだ。

(え、あれっ)
「なんだ、なんだ!?」
二匹は何が起こったのか、訳が分からないのか、キョロキョロと辺りを見回している。

「スーさん、ちょうちょさんっ!!」
「パパ、ちょうちょっ!!」
ティナは二匹を抱き潰す勢いで抱きしめ、みかんは二匹の上で飛び跳ねる。

二匹の怪我は快癒かいゆしてしまったのだった。


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