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106 その後①
しおりを挟むトリカは拘束された。
トリカはティナの護衛役だった。それなのに、なぜティナを監禁し、危害を加えたのか。
そしてカイとの関わり。
分からないことばかりだ。
トリカは黙秘を続け、取り調べに答えはしない。
ティナにも聞き取りはされたが、ティナは何も知らなかった。
トリカに恨まれるようなことをした憶えは無いと言っていたし、関わりは登下校の付き添いだけだった。
付き添いは学園の生徒や教師たちも目撃しており、二人の間に何かしらのトラブルがあったとは思えないと証言した。
個人的な繋がりは、一切無かったのだ。
このまま捜査には時間がかかるかと思われたが、一気に進展した。
カイの証言だ。
カイはガーナ薬の中毒になっており、症状は重かったが、気力を振り絞り詳しい証言を行った。
トリカの住んでいた職員用宿舎に家宅捜査が入り『栄養ドリンク』が押収された。
栄養ドリンクにはガーナ薬が混入されていた。
まさか寮母のトリカがガーナ薬に関わっているなど、誰も思ってはいなかった。
全生徒を対象とした薬物検査も実施され、カイを含む9名もの中毒者が発見された。
全ての生徒はトリカからの栄養ドリンクを受け取っており、自身が薬物中毒だということを薄々は感じていたが、恐ろしさに誰かに相談することができない状態だった。
生徒達の証言から、栄養ドリンクは、トリカが寮母になって、すぐから渡されていたようだ。
長い者では2年以上続けている者もいた。
症状の重い3名は緊急入院し、残りの6名は更生施設に送られることになった。
トリカの罪は重い。
未来ある若者たちの将来を潰した。そして、すでに亡くなってしまっている者もいる。
亡くなった者達から話を聞くことはできないが、学生自身がガーナ薬を入手するのは困難だ。トリカが栄養ドリンクを渡したと考えていいだろう。
なぜ、こんな怖ろしい犯罪に手を染めたのか。
取り調べでは黙秘を続けていたトリカだったが、目の前に栄養ドリンクを差し出され、己の部屋から押収されたと聞かされると、ポツポツと話をするようになった。
『自分が騎士として戻るための手駒にするため』だと。
トリカの余りにも自分勝手な考えに、捜査官ですらトリカを殴りたい衝動にかられ、なんとか止まっていた。
トリカの証言から、ガーナ薬をトリカに渡していた裏の者達も、次々と検挙されていった。
しかし、ティナを執拗に狙ったことが分からない。
最初に狙われたと思われる入学試験の時、ティナは田舎から出てきたばかりだった。王都で勤務していたトリカとは接点があるはずは無かった。
トリカにティナのことを聞くと、錯乱し、理解不能なことばかりを叫ぶ。
ティナのことを自分の『姉』だと思い込んでいる。
精神に異常をきたしているとしか思えない。
長い取り調べが行われたが、トリカの処罰を決めることは困難を極めた。
トリカの罰は、死を持っても軽すぎるのだ。
多くの若者の命と未来を奪ったのだから。
トリカを縁故採用で寮母にしたとして、学園長のシュザッハは学園から去ることになった。
全ての私財を被害生徒への手助けになればと自ら差し出した。その後、子どものいなかったシュザッハは夫人と二人王都を去った。
トリカの実家であるサーリャ男爵家は、家は取り潰され、財産は全て没収され、被害生徒達への賠償金に充てられた。
男爵と夫人は連座で処刑され、兄弟とその家族は国外追放になった。
だが、既婚者だった兄と姉は即座に離婚することにより、配偶者と子ども達は罪を負うことはなかった。
トリカだけは独房で、処罰を待つ日々を送ることになった。
カイはガーナ薬の中毒が重症として緊急入院となった。
病院は魔獣の立ち入りは禁止されており、従魔のトムは病院に連れて行くことはできなかった。
テイマーと離された従魔は弱っていき、命の危険に陥る。
カイがガーナ薬中毒のために、トムも影響を受け、身体が弱っていた。これ以上テイマーと離されると、トムの命が危ない状況だった。
薬の中毒の回復には長い時間がかかる。それに回復したとしても、いつフラッシュバックが起こるか分からない。
フラッシュバックで混乱し、従魔に命令をすれば、それがどんな命令だったとしても従魔はそれに従う。
テイマーは希少だが、カイはテイマーの資格を取り消され、トムは処分されることになった。
そしてトムは……。
「スライム、骨。骨を投げて!」
(じゃかあしいわ、毎回毎回、骨が出てくると思うな)
「毛玉のテンションが高くて、ウザいわ」
尻尾を振りながら期待の眼差しを向けるトムに、スーとちょうちょはウンザリとしている。
トムは従属の首輪を使ったテイムではなく、カイが術を使ってのテイムだった。
術は従魔の魂に刻まれる。従属の首輪を外せばテイムから解放されるのとは違い、術を解除するのは不可能といえる。
カイの従魔のままのトムは、生きて行くのが難しいと思われていた。
だが、今では護衛騎士に斬られた傷も良くなり、元気に暮らしている。
みかんのおかげだ。
グリファスの神から与えられた使命は国の設立と魔獣の住む場所の確保だった。
国の設立にあたり人族に加護を与えており、人族よりの神獣といえる。
だがみかんは違った。
使命のことをハッキリとは言わないが、魔獣よりの神獣であり、そのための能力を色々と授かっているらしい。
その一つが従属からの解放だ。
テイムされた魔獣を開放することができる。
ただこれには、いくつかの条件がある。
一つ目はテイマーが従魔を解放する意思があること。
次に従魔が解放を望んでいること。
そして、テイマーの魔力が弱まっている(術の威力が低下している)ことだ。
この3つ全てが揃っていないと、神獣みかんですら従属の解放はできない。
この話を聞いた時、カイは瞬時に同意した。それどころかトムを助けてくれと懇願した。
カイはガーナ薬中毒も重症だったため、身体は衰弱しており、魔力も弱まっていた。
ただ問題はトムであり、自分は斬りつけられ死にかけているというのに、カイから離されることを嫌がった。
「主と一緒、主と一緒」
病院に入ることを許されないトムは、病院の前で、ずっと鳴き続けていた。
(元気になれば病院に入って、カイに会うことができるぞ)
「ああそうだ、カイに会うために元気にならなきゃな。そのためには従魔じゃ駄目なんだ。それに従魔を辞めたって、元気になってカイから、また従魔にしてもらえばいいじゃないか」
「ほんと? 本当に主に会える?」
スーとちょうちょの言葉に、動くこともできないトムは潤んだ瞳を向けてくる。
(ああ、俺は嘘なんか言わないからな)
「そうだぜ、偉大な妖精様の言葉を信じろ」
二匹の優しい嘘に、トムは従魔の解除を受け入れた。
能力の修行をしていないみかんは、力の加減が出来ない。
素直に頭を下げ、グリファスの手を借りて、トムのテイムを解除したのだった。
そして、トムはただの魔獣になった。
ブルーウルフは低位の魔獣だが、回復力は凄まじい。獣用の薬を与えられ、見る見る回復していった。
そして、グリファス経由でクライブから話を聞き、ティナがトムを引き取った。
名目上はペットとして。
学園としては、スーやちょうちょ、みかんと同じ扱いだ。
だが、トムはティナのペットにはなっていない。
名前がすでに付けられているということもあるが、ティナとしては、トムがカイとの従属関係を解消したとはいっても、トムはあくまでカイの家族だと考えているからだ。
元気になったトムをティナは病院へと連れて行く。
病院の中に入ることはできないが、調子の良い時は、カイは窓からトムに手を振ってくれる。
もうすぐしたら、病院の前まで出て来て、トムを撫でてくれるだろう。
トムは、その時を、心待ちにしているのだった。
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