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1 ご主人様はペットのレベルアップを知る
しおりを挟む「スーさぁん。スーさん何処に行ったのー? 帰っておいでぇ」
ティナはスーを探していた。
今までスーは、好き勝手に何処かに行くことがあったても、ほんの1、2時間もすればティナの元に戻って来ていた。こんなに長い間いなくなることはなかった。
スーは種族自体がか弱いスライムだから、カラスに突かれただけでも死んでしまう。
帰ることができなくなっていたらどうしよう……。
ティナはだんだんと心配になってきた。
スーはティナのペットだ。
いつも一緒にいるし、とても可愛がっている。
周りの皆は、スライムとはいえ魔獣を連れているティナのことを疎ましがっていたが、ティナにとってスーは大切な家族だ。スーと離れるなんて考えられない。
もしスーがいなくなってしまったら、ティナは一人ぼっちになってしまう。ティナにはスーしかいないのだから。
ティナの両親は事故で亡くなってしまった。
一人っ子だったティナには他に家族はおらず、親戚もいなかった。ティナは天涯孤独の身の上になってしまったのだ。
そして時期も悪かった。
この国の成人は15歳だが、ティナはまだ14歳と未成年だった。
未成年だと一人で暮らしていくことはできない。誰か保護者が必要になる。
村の皆や村長は親身になってくれ、ティナの代わりに両親の葬儀を執り行ってくれたし、ティナを引き取ろうとしてくれた。
村自体が、それほど裕福ではないが、家族に子どもが一人ぐらい増えたとしても、生活に困窮するほどではない。
それに村長には子どもがおらず、ティナのことを実の子どものように可愛がってくれていたから、一番に名乗り出てくれた。
しかし、それは許されることではなかった。
ティナの村があるタールの領地では、孤児が出ると親戚でなければ養子として引き取ることは許されておらず、領地の孤児院に入る決まりがある。
そこは領主が運営している孤児院で、生活環境はそれ程酷くはない。
古着だが着る物はあるし、二食だが食事も出る。酷い労働をさせられることもない。
教育を受けることはないが、生活していく分には困らない。
ただ問題が1つ有る。
それは一度孤児院に入ってしまうと、その先の人生は全てが領主のものになってしまうということだ。領主の持ち物に加えられてしまう。
成人を迎えると孤児院からでることになるのだが、そのまま領主の元で働くことになる。
支払われる賃金は最低、ほぼ無給と言っていい。他で働くことは許されず、逃げることさえままならない。
そして最悪なことに結婚すら領主の決めた相手としなければならない。
ティナは来年には成人するというのに、その短い期間孤児院に入所したがために、その先の長い人生を搾取されてしまうのだ。余りにも哀れだ。
村の皆が全員で考えてくれた。
そして、村長が知り合いの、これまた知り合いという伝手を頼って、なんとか王都にある住み込みの働き口を探してくれた。
就職先に連絡するには時間がなかったが、たぶん大丈夫だと村長が紹介状を書いて持たせてくれた。これを見せれば雇ってくれるだろう。
領主にティナが孤児になったことを知られる前に、村から出る必要があった。
両親が亡くなる前に、ティナは出稼ぎに行ったのだと村の全員で口裏を合わせた。
すぐに出発しなければならなかった。両親の死を悼む暇もなかった。
それでも皆がティナのことを思ってくれたことが嬉しかったしスーがいた。スーと一緒ならどこででも生きていける。
村から王都までは遠い道のりだが、ラッキーだったことに、ちょうど村に来ていたキャラバン隊に同行させてもらうことができ、安全に旅することができている。
キャラバン隊は王都までの道のりを、様々な村や町を経由しながら、仕入れや販売をする商売人の一団だ。
直行なら王都まで3週間程度の道のりらしい。
村を出て、とうに3週間は過ぎているが、まだ王都へは着いていない。
キャラバン隊は今、サノト村という小さな村に来ているのだが、この村が旅の途中で寄る最後の場所なのだそうだ。
サノト村は大きな森の手前にあり、この森に沿って進めば王都に着くのだと団長が教えてくれた。
ただこの森には魔獣が生息している。
本来、魔獣がいつ出てくるかも分からない、こんな危険な場所に村を作ることは考えられないが、魔獣が住む場所には魔素というエネルギーが溢れている。
魔素は獣を魔獣に変えてしまう厄介なものだが、薬草は魔素を吸収すると、効能が増す上に大きく成長する。
サノト村は薬草の産地として有名だし、その売り上げにより潤っているらしい。
キャラバン隊も薬草を仕入れるために、サノト村へと立ち寄ったのだ。
サノト村へ到着すると、ティナはすぐに働き出す。
いくら村長がキャラバン隊の隊長に頼んでくれたとはいえ、ただで乗せて貰うわけにはいかない。ティナは様々な雑用を手伝っているのだ。
今も村の近くに流れる川で洗濯をしている。
ティナに構ってもらえないスーが、どこかに行ってしまったが、すぐに帰って来るだろうと思って止めなかった。
悔やまれる。
スーが帰ってこない。いつもはすぐに帰って来ていたのに。
ティナはスーを探して、辺りに目を凝らす。
「スーさんっ!」
とうとうティナが泣きだしそうになってしまった時、いつの間にか足元にスーがいた。
嬉しくてスーを抱き上げようとして違和感に気づく。
「えええっ、スーさんが大きくなってる! どうしたの?」
外見は同じだ。
全体的に青色で、半透明で中心にいくほどに青が濃くなっている。
自分の周りを嬉しそうに飛び跳ねているのも変わらない。
変わらないのだが、今まではピョンピョンと可愛らしかったのが、今はビィョンビィョンと重量感がある。2倍、いや3倍はあるかもしれない。
スーは、身体を捻ったり震わせたりと忙しない。何かしらをティナに伝えたいようだが、言葉の喋れないスーの言いたいことはティナには伝わらない。
もしかしたら成長したことを褒めてもらいたいのかもしれない。
「スーさんはレベル2になっていたと思っていたけど、もしかしたら今レベル2になったの? それで大きくなったのかしら? きっとそうね」
ティナはこの世界のスライムはレベル2までしかないと思っている。
ティナがスーを拾ってから12年ほどが経っているから、すでに成獣になっていると思っていたが、いきなり成長したスーを見て、やっと成獣になったのだと思ったのだ。
「う、うんしょっ」
大きくなったスーを抱き上げようと試みる。
なんとか抱き上げることが出来たが、小柄なティナには厳しいようで、少しよろめいてしまう。
「ウフフフ、大きくなって良かったわねぇ。レベルアップおめでとう」
抱き上げたスーに頬ずりする。
スーは嬉しいのか、抱き上げられたまま小刻みに身体を震わせている。
「さあ、皆の元に戻りましょう。洗濯物も終わっているわ」
ティナはスーを降ろすと、今度は洗濯物の入った盥を持ち上げる。
濡れた洗濯物は重たいが、何とか持ち上げると、よたよたと歩き出す。
ご主人様にデカくなってしまった自分を変わらなく受け入れてもらえたスーは、ホッと無い胸を撫で下ろし、喜びに身体を震わせる。
そして、そっと触手を出すと、ご主人様には気づかれないように、たらいの底を支えると、嬉しくて飛び跳ねそうになるのを堪えながら、ご主人様に付いて行くのだった。
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