最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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3 馬車を降りた場所

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「あれ、停まった? もう休憩?」
いきなりティナ達の乗った荷馬車が止まった。

休憩だとすれば、いつもよりも随分と早い。
馬車を引く馬のために定期的に休憩は取るのだが、それでも数時間ごとだ。まだ出発して1時間も経ってはいない。
それでもティナはホッと息を吐くと、スーに回していた手を離す。
走っている馬車は揺れるものだが、それにしても酷い揺れだった。まるで道ではない場所を進んでいるかのようだ。
スーが転がって行かないか、ティナはハラハラし通しだったのだ。

「おいっ、降りろっ」
いきなり荷台に声がかけられた。御者をしていた男の声だ。

ティナはすぐに馬車から降りる。
移動中に休憩を取る際、ティナは水汲みだったり軽食の準備だったりと、しなければならない仕事が山ほどある。
キャラバン隊には女性も多く同行していて、モタモタしていたら、お姉さん達から怒られてしまう。

「あれ?」
ティナはキョロキョロと辺りを見回す。

自分の乗っていた馬車以外が見当たらない。
場所も変だ。ここは森の中なのだろうか、周りは木だらけだ。木と木の間にかろうじて道のようなものがあるが、それもここで行き止まりになっている。
荷馬車はこの道を進んで来たのだろう。こんな細い道をキャラバン隊の大きな馬車は入ってはこられない。
他の馬車は何処に行ってしまったのだろうか?

「あの、ここは何処ですか? 他の皆は?」
「煩い。いいからこっちに来い」
男はティナの質問に答える気は無いようで無視すると、手招きをする。

男が立っているのは、生い茂った木と木の間にポッカリとできている空間で、土が盛り上がっている。
円形なうえに、上部が平らになっているために、まるでステージのように見える。

「は、はい」
なぜこんな不気味な場所にいるのか訳が分からない。そのうえ誰もいない。思わず逃げたくなってしまったが、高圧的な男の言葉に従うしかない。
慌てたように男の元に向かう。

「まったく。毎回毎回俺が貧乏くじだぜ。まあ、その分手当を付けてもらえるから文句はいわねぇけどよ。おいティナ、お前は何にも知らないから教えてやるよ。キャラバン隊っていうのは色々な町や村に行商するために、毎回行くコースは変えるもんなんだ。だがな、サノト村にだけは毎回立ち寄る。品質の良い薬草を仕入れるためってこともあるが、それだけじゃない。もう1つ大事な仕事があるからなんだ」
ブツブツと独り言を言っていた男は、ティナが近寄って来ると、秘密の話を教えてやると言わんばかりにニヤニヤとした顔を向けてくる。

「サノト村の奴らは魔獣が生息する森の近くだっていうのに、村を移転しようとはしない。薬草を栽培するには、魔素の溢れているここは最適だからな。ここでなら放っておいても高品質な薬草が育つんだ。そのおかげで薬草はバカ高い値段で売れてウハウハだ。こんなちっぽけな村なのに大金持ちらしいぜ。そりゃあここから離れたくはないよな。だがいくら金があったって、魔獣から襲われて死んでしまえばお終いだ。恐ろしいよなぁ、じゃあどうすると思う?」
男は楽しそうにティナに質問する。
ティナは、男が何を話しているのか見当もつかない。ただ困惑するだけだ。

「村の奴らは考えたのさ。自分達の代わりに他の奴が食われればいいってね。先代の村長が魔獣と約束をしたんだそうだ。生贄を差し出すから村を襲わないでくれってさ。人の言うことを理解したうえに、約束を守る魔獣がいるのか俺には信じられないが、生贄を毎年差し出すようになったら村は襲われなくなったんだ」
「い、生贄?」
「そうさ、生贄だ。だがな、年に一人ずつ生贄を出していたら、小さな村じゃ、すぐに全員生贄になっちまう。自分達は魔獣に喰われたくないからって契約したのに本末転倒だよな。じゃあどうするか? 簡単なことだ、金は有るんだ。金で生贄を買えばいい。生贄の外部委託ってことだ。すぐにキャラバン隊に依頼が来たぜ。生贄を見繕ってくれってな。破格の報酬に隊長はすぐに飛びついた。子どもを見繕うのは簡単だぜ。貧しい村に行って、都会で丁稚奉公させるとか、娼館で働かせるとか言えば、親はすぐに子どもを売るからな。だが今回はもっと楽だったぜぇ、村長が向こうから子どもを差し出してきたんだからな」
男はケラケラと笑う。

「村長って、まさか……」
ティナの顔色はどんどんと悪くなる。
男が言う村長とはソノイ村の村長のことだろうか。もしかして差し出された子どもとは自分のことだろうか。

「生贄を置くのがこの場所だ。魔獣はここで生贄をバリバリ食べるっていうわけだ。足元の色が違うのが分かるか?」
男は足元を指さす。
周りは茂った草で地面は見えていないのに、この高くなった場所には草は生えておらず、薄茶色い土肌がさらけ出されている。その一部分が赤黒く変色している。血の染みの跡なのか。
ティナは慌てて足元の染みから逃げようとすると、男から腕を掴まれてしまった。

「ウハハハッ、なーんてな。驚いたか? 冗談だぜ冗談。連れてきた奴は皆驚くんだ。その顔が見たかったんだ」
男は声を上げて笑い出した。
ティナの怖がった顔がよほど面白かったのか、腹を抱えている。

「冗談……、だったの?」
ティナは心底怖かったのだ。
男はティナを驚かせるためだけに、こんな場所に連れてきたのだろうか? 冗談にも質が悪すぎる。
ティナは気が抜けて、へたり込みそうになる。

「おっと時間をくっちまった。いつ魔獣が出てくるかもしれないな。ここから早く退散しないと。馬車に戻らないとな。と、その前に」
男はティナの腕を放すと、ズボンに下げている皮の袋から何か布のような物を取り出した。

「ティナ」
やっと皆の元に戻れるのだとホッとして、馬車の方へと向かおうとしていたティナは、男から呼ばれ振り返る。
そして意識を失ったのだった。


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