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13 冒険者ギルド
しおりを挟む「どういうことだ……」
王都にある冒険者ギルドのギルドマスターであるリッガルト=ハイターは、報告書を手に困惑していた。
リッガルトは40代前半の巨体な男だ。
数年前まで副ギルドマスターをしながら現役の冒険者をしていた。だが40代に突入すると、思った以上に無理がきかなくなり、現役を引退せざるをえなくなった。
丁度先代のギルドマスターが王宮の師範へと招聘され、ギルドを辞めることになったため、そのままギルドマスターへと繰り上げ就任した。
長年現場を経験してきたし、副ギルドマスター歴も長いリッガルトにすれば、ギルドマスターになったからといって、それほど難しいことは無かった。
無かったのだが、今は報告書を握りしめ途方に暮れていた。
報告書はギルドの依頼を受け、魔物の討伐へと向かっていた冒険者からもたらされたものだ。
報告書には王都から馬車で2日ほどの場所で、キャラバン隊が全滅していると記されていた。
キャラバン隊や商人の一団などが全滅することは珍しいことだが騒ぐほどではない。あることはあるからだ。
だが、報告書の内容は不可解な点が多かった。
隊員の死因が謎だと記されている。
そして詳しいことは書かれていない。なぜなら発見した冒険者はキャラバン隊を遠くから観察しただけだからだ。
キャラバン隊は王都からサノト村へと続く道の途中で休憩をしていたようだ。
道から少し離れた場所が開けた広場になっており、そこで食事をしていたらしく、煮炊きの跡や手に食器を持ったままで息絶えていた隊員もいた。
この道は王都に繋がる大きな道のために整備されているし、サノト村を通りすぎて進めば隣国であるシースズ国へと行くことができる。そのため交通量もそこそこある。
魔獣の住む森に近いが、馬車などの通りが多く、騒がしいため、今まで魔獣の被害に遭ったという話は聞いたことがなかった。
それでも発見した冒険者も最初は、隊員達は魔獣に襲われたのだろうと思った。
だが違った。
隊員に近づこうとした冒険者は死体の皮膚に謎の斑点のようなものが浮かび上がっていることに気づき、慌てて近づくのを止めた。
そして最大の謎は、死体がゴロゴロしているのに、1匹の魔獣も近くにはいないということだ。
死体の様子から、死語数時間から半日以上が経っていると思われるのに……。
魔獣は鼻が利く、いくらいつもは出没しない場所だとしても、長時間滞在すれば人の匂いにつられて魔獣は寄って来る。
そのために休憩や宿泊をする場合は、火を焚き魔獣除けは欠かさない。
この場所では焚火はしていたのだろうが、随分と前に火は消えていたようだ。魔獣除けをしていたとしても時間と共に効力は落ちてくる。すでに効果は無くなっていたはずだ。
それなのに魔獣がいない。こんなことはあり得ない。
死体は異常だし、魔獣達の動きもおかしい。もしかしたら伝染病が発生したのかもしれない。
冒険者はすぐにギルドへと通報するために来た道を引き返したのだった。
リッガルトは焦る。
報告をした冒険者に対し、報告書ではなく直接報告して欲しかったと恨みがましく思ってしまう。
少しでも早く知れば、それだけ早く対策がとれるのだから。
だが、ただの冒険者は簡単にギルドマスターに会うことはできない。リッガルトが忙しいということもあるが、いちいち冒険者の話を聞くこともしていなかった。
ギルドマスターに会うためには、まずアポイントを取る必要があるし、どうして会いたいのか、詳しく聞かれるので、面倒くさくて会うのを止める者も多い。
冒険者にすれば、依頼された仕事を後回しにしてまで、ギルドに戻って報告をしたのだ。恨み言よりも、ありがたいと思わなければならない。
どうする?
謎の病気が発生したとなれば一刻の猶予も無い。
王都に病気が入って来るのを、なんとしても阻止しなければならない。
すぐに国に連絡して、医師や治療師、薬師などを集めて対策しなければ。
もし病気でないとしても、キャラバン隊がなぜ全滅したのか原因を調べる必要がある。
「おいっ、手紙をっ……。いや待て、俺が直接王宮に行く方が早い!」
「そんなに慌ててどうしたんだ。報告書に何が書いてあったんだ?」
リッガルトの慌てように、同じ部屋で事務仕事をしていた副ギルドマスターのサイアスが不思議そうな顔をしている。
「もしかしたら伝染病が発生したかもしれない」
「なんだって! 場所はどこだっ」
「リールの森の近くで「大変ですっ!!」」
リッガルトの話を、部屋に入って来た誰かが邪魔をした。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
部屋に入って来たのは冒険者のルノンだった。急いで来たのか息を切らしている。
ルノンはサイアスの甥にあたり、サイアスの仕事の助手のようなこともしている。
ギルドマスターの部屋にも出入りしているが、サイアスが礼儀に煩いので、ノックも無しに部屋へ入ることなど、今まで無かった。
だが、慌てた様子のルノンを見て、そのことを注意することはない。
「サ、サノト村が全滅しています」
「「なんだって!!」」
リッガルトとサイアスの声はハモる。
「どういうことだ、報告しろ」
「は、はいっ。俺は依頼を受けて商人の護衛でサノト村に向かっていたのですが、着いてみたらサノト村が全滅していました」
「全滅……。死因は何だ? もしや死体に斑点がなかったか」
「いえ、死体は見ておりません」
「なぜ死体を見ていないのに村人が全滅したなんて言えるんだ?」
「村は魔獣に襲われていました。考えられないぐらい多くの魔獣が村にいて、村に近づくことができませんでした」
「魔獣が? サノト村は魔獣に襲われないんじゃなかったのか……」
サイアスの疑問は、リッガルトも感じたことだった。
サノト村は質のいい薬草を多く栽培しており有名な村だったが、それ以上に有名なのは、魔獣の住む森に隣接しているのに、魔獣に襲われないということだった。
村は百年以上魔獣には襲われていない。
どんな秘策があるのか、村長や村の者達に話を聞こうとするのだが、誰一人として話をする者はいなかった。
魔獣から襲われない村。それがサノト村の定説だったのに……。
「生存者はいないのか?」
「村の中には多くの魔獣がいて、近づくことすらできませんでした。もし村人が村から逃げ出したとしても、魔獣は鼻が利きますし、逃げるには魔獣の住む森しかありません。村人が生きている可能性は無いでしょう」
「そうか……」
リッガルトは首を傾げる。
村が魔獣に襲われたとしても、多くの魔獣が一度に村を襲うだろうか?
それにいくら魔獣が村を襲わないとしても、魔獣対策を村はしていなかったのだろうか?
もしや誰かが魔獣を村へとけしかけたのか? いや、魔獣に命令することなんて出来ない。誘導することすら難しい。
それとも村人が怪我か何かをして、血の匂いが辺りに漂った? だが魔獣のいる森に隣接した村に長年住んでいる村人達が、そんなヘマをすることは無いはずだ。
分からない……。
「ルノン、報告をありがとう。詳しいことはこちらで調査する。ルノンは依頼の遂行はできなかっただろうがペナルティーは発生しない。報告報酬を受け取ってくれ」
「はい」
サイアスの言葉にルノンは頷くと部屋を出ていった。
「伝染病の発生の疑いに村の全滅。一体何が起こっているんだ……。サイアス、俺は王宮に行ってくる。すまないが後は任せる」
「分かった。あの道は一旦閉鎖するほうがいいだろう。関所に連絡する」
「頼む」
何が起こっているのか、調べなければならない。
リッガルトはそのまま部屋を飛び出したのだった。
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