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38 入学試験・三次試験⑥
しおりを挟むどうしよう。
ステージに上がったものの、ティナは何をすればいいのか分からない。
自分の連れているのは従魔ではなくペット。スライムはカラスに突かれれば死んでしまう程にか弱いし、ちょうちょは風が吹けば飛んでいきそうなぐらい小さい。攻撃なんか出来るわけがない。
こうなったら自分が木偶を攻撃すべきか?
立ち尽くすティナの代わりにスーが動く。
ティナの足元からピョンピョンと前へ出る。
試験官はハロルドの他にも何人かおり、ステージの4カ所に分かれて監督している。
中央で監督しているハロルドの前まで来ると、スーはペッと何かを吐き出す。
辺りに嫌な臭いが漂いだす。
トムとランダーは慌てて逃げ出そうとするが、主から止められてもがいている。
人族には臭いは分からないようだ。
「これは……」
ハロルドはステージの上に落ちたそれを拾い上げる。
「それは何だ?」
「サート草だな」
ハロルドの隣で補佐をしていたニックの問いに、ハロルドが答える。
「薬草栽培で有名なサノト村の代表の品といえるものだ」
「ああ、聞いたことがある。たしか魔獣の毒素を中和できるって。希少な物だったよな」
魔獣は魔素を身体に取り込んでいるためか、獣と違い毒素を持っている。
それは牙だったり爪だったりにあるのだが、それで傷つけられると、通常の薬では治りづらい。先にサート草で毒素を中和しなければ、傷が悪化する時があるのだ。
魔獣のレベルが高ければ高いほど毒素は強くなると言われている。
実質は毒素ではなく変異した魔素なのだが、人族は、まだ気づいていない。
「なんでそんな草をスライムが持っているんだ?」
ニックが頭を捻っている。
「なんだなんだ。スライムが草を吐き出したからといって、それがパフォーマンスになるとでも思っているのか? お粗末すぎて呆れてしまう」
エリオットは笑いながら大声を出すとティナを指さす。
「おいお前、ふざけているのか? ステージに立つ資格など無い。さっさと降りろ」
「え、あの……」
ティナは怯えて困惑してしまった。
言われたことは本当のことだ。ステージを降りた方がいいのかもしれない。
「ワークス侯爵令息、何度言ったら分かるんだ、その口を閉じろ!」
「ですがヴェルダート小公爵様、スライムですよ。スライムなど連れたテイマーなど、テイマーとは言えません。テイマーを馬鹿にしているとしか」
ハロルドの強い口調にもエリオットは聞き入れようとはしない。
自分の価値観を押し付けるばかりだ。
「ワークス侯爵令息、それ以上中傷を続けるのなら、試験を妨害したとして失格とする」
「なっ、なぜですかっ。私は間違ったことは何一つ言ってはおりません。あんなスライムを試験するなど、時間の無駄ではないですかっ」
エリオットはスーを指さし喚く。
(痛い目を見せるか?)
「いいねぇ。だけど、あいつが連れているカーバンクルは強いんじゃないか?」
(あんなテイマーの従魔だ、実力なんか出せないだろう。楽勝だ)
「分かった。ここじゃあ不味いから、ステージから降りて、ティナに見つからないように殺るか」
(ああ)
スーの黒い瞳が暗く光り、ちょうちょの可愛らしい顔が残酷な表情を浮かべている。
「君はスライムが吐き出した草が目に入らないのか」
ハロルドは手にしたサート草を少し掲げて見せる。
「そんな草、どこかの森で拾ってきたのでしょう。そんな物が何になると言うのですか」
「知らないのか? サート草は魔素を吸収して成長する草だ。魔素の無い場所に生えることは無い。サート草を持っているということは、魔素の溢れる森の奥深くに行ったということだ」
魔素の溢れる森の奥深く、それはレベルの高い魔獣が住む場所ということだ。
そんな場所にスライムが行って、生きて帰ってきたという事実に、なぜ気づかない。
「わざわざ取ってきたわけではないでしょう。買えば済むことです」
貴族のエリオットにすれば、自分が危険なことをするという概念は無い。金で買えばいい。それが全てだ。
「まだ分からないのか。薬草を購入しようとするのなら、全てが乾燥された物か、薬に調合された物だ。そのままの状態の薬草は売ってはいない。それによく見ろ、このサート草は乾燥どころか萎れてすらいない。誰かに依頼して採ってこさせたとしても、これほどの鮮度のものを手に入れるのは無理だ」
スーの身体の中に収納した物は、その場で時が止まるらしい。
ワイバーンの死骸も腐ってはいないし、サート草も刈り取られたままの状態だ。
「で、ですが……」
どんなにハロルドが説明しても、エリオットは認めようとはしない。
エリオットにすれば、スライムの存在自体が劣っているのだ。認めるわけがない。
「ワークス侯爵令息、君はスライムのことに詳しいようだから聞くが。スライムとはどんな種族だ」
「ええ知っておりますとも。スライムとは何でも食らいつくす卑(いや)しい存在です。食べるだけしか能のない劣等種ですよ」
ハロルドの質問にエリオットは胸を張って答える。
スーの表情が、より険しくなっているとも知らずに。
「そうか、では分かるだろう。その食べるだけのスライムが、少しの損傷も無いサート草を吐き出した意味が」
「え……」
スライムが身体の中に何かを取り込むと、その時から消化が始まる。それが食べるということだ。
身体の中に取り込んだ物を消化しないスライムはいない。
「ティナ、試験を中断してしまって悪かった。ああ、そのまま居てくれ。少し質問してもいいか?」
「はい……」
ハロルドは、もうエリオットの相手は止めたようで、ステージを下りようとしていたティナへと声をかける。
「君達はサノト村に行ったことはあるの?」
「はい。王都に来るのにキャラバン隊に同行させてもらっていたのですが、その時に3日間滞在しました」
「そうか。王都まで、そのキャラバン隊と一緒に来たのかい」
「いいえ、途中で分かれて老夫婦に王都まで送ってもらいました」
「そうか……」
ティナと従魔のことは、色々と聞きたいことはある。
ティナのこともだが従魔との関係や従魔の能力。
だが、聞くよりも四次試験を見る方が早いだろうと思った。
気になったのはスライムが吐き出したサート草のことだ。
ただの薬草ではない。
野生に生えているものは、森の奥深くにしかなく採取困難だし、栽培しているのはサノト村が主で、他の薬草を栽培している所では、ほんの少量しか扱ってはいない。
そしてティナはサノト村にいたと言った……。
全滅したサノト村に滞在していたと。
サノト村が全滅したとギルドから連絡が入ってきた。
なぜ全滅したのか調査中だが、原因が分かることはないだろう。余りにも不可解なことが多すぎて。
魔獣に襲われることはないと言われていた村には、今では魔獣が我が物顔で闊歩している。調査員は近づくことができないでいる。
ティナはそのことを知っているのか?
元気にしているから、ティナ達が村を出た後に村は襲われたのだろう。
ティナの足元で大人しくしているスライムを見ながら、ハロルドは心がざわつくのだった。
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