41 / 109
39 入学試験・三次試験⑦
しおりを挟む「どうしよう……」
ティナは困ったままだった。
スーがサート草を吐き出したからといって、それで三次試験が終了したわけではない。
ハロルドとエリオットが、草のことで何か言い合いをしていたが、ティナには良くわからなかった。エリオットからステージから降りろと言われたが、いまだにティナはステージの上だ。
「よーし、次は俺の番だな。あのいけ好かない野郎の鼻の穴に石を詰め込んでやるぜ」
(やってこい、やってこい。出来るだけデカイ石を詰め込んでやれ)
スーの声援(?)を受けたちょうちょが、張り切ってティナの元から離れていこうとした。
その時……。
パリィィィィィ!!
いきなり何かが壊れるような音が響いた。
(何だっ、どうしたっ)
「向こうからだっ、ティナを護れっ」
試験会場は広く、AからDまで試験ごとに4つのブロックに区切られていた。
ただ区切りは同じ大きさというわけではなく、受験生の多いAブロックとBブロックは広く、その次にDブロック、受験生が5組しかいないCブロックは、一番狭い。
受験生の出入りなどを考え、A、Bブロックは入り口近くにあり、CブロックはAブロックに隣接しているが、位置的には一番奥になっていた。
そのAブロックとCブロックの境目から音が響いたのだ。
会場全体には試験中に魔力が暴走することや、的から外れてしまうことを考慮して、防御の結界が張られている。そして区切りの境目にも結界は張られていた。
その結界が壊れたのだ。
結界は魔力や能力の無い者には見えないし、壊れた時の音も聞こえない。
ただ、結界が壊れた時に魔力が膨張したのか、強い光が放たれ、魔力の無いティナにも感じられた。
「きゃああ」
いきなり強い光に襲われ、悲鳴を上げながらティナは頭を抱えてしゃがみ込む。
「ティナ!」
離れて行こうとしていたちょうちょが慌てて戻り、ティナの顔に飛びつく。
(させるかっ!)
スーの目には壊れた結界がガラスの破片のように辺りに飛び散り、こちらにまで降りかかってくるのがハッキリと見えた。
魔力が無いティナには、その状況が感じられないとしても、結界の欠片はティナの身体を傷つけるだろう。
逆に魔力が無い分、酷く傷つくかもしれない。
スーはとっさに身体を思い切り広げる。
スライムは物を食べる時、自分の身体を広げて対象へと貼りつき消化液を出して取り込む。
今のスーは、それとは比べものにならないほどに身体を大きく広げ、屈みこんだティナの前にまるで盾のようにして結界の欠片を弾く。
シルバーモンキーと戦った時には出来なかったことだ。
あの時に今のように身体を広げていたら、柔らかい膜にしかならず、シルバーモンキーの爪で簡単に引き裂かれていただろう。
だが、レベル5になったスーの盾は丈夫で固い。
結界の欠片は、高い金属音を立てながら弾かれていく。
(大丈夫か!?)
「ああ、ティナは無事だ。だが一体何があったんだ?」
ちょうちょの返答に、スーは広げた身体はそのままに辺りを見回す。
結界の欠片はAの区画からこちらに向かって飛び散っており、ステージにいたティナに一番多く降りかかってきたが、ステージの周りにいた者達にも届いていた。
「皆、大丈夫かっ!」
ステージ前の中央にいたハロルドが、受験者達の安否確認をしようと周りを見回している。
ハロルドとニックは、共に学園の3回生なので、実技や実戦経験がある。元々優秀な生徒ということもあり、とっさに防御魔法を使い、難を逃れていた。
他の試験官達も高い能力持ちばかりだから、これぐらいの事態では怪我を負うようなことはない。
グリファスとクライブは言わずもがなで、クライブは神獣により、しっかりと守られていた。
「痛ってぇー。トム大丈夫か」
「ワフッ」
素早いブルーウルフのトムは、とっさに主であるカイの上に覆いかぶさり、結界の欠片から主を護った。だが、大きな身体に押し倒されたカイは、後頭部を打ち付けたようで、頭を抱えて痛がっている。
「痛たたた。ああ、ランダー大丈夫だよ」
サラマンダーのランダーは、結界の欠片が降って来たことに気づいたが、動作が遅いために主を護ることは出来なかった。
タイリーは頬や腕など数カ所に切り傷を負ったが、ステージの一番奥側に座っていた為、欠片もそれほど多くは届かず、酷い傷を負うことはなかった。
タイリーは心配そうに寄り添うランダーを、優しく撫でている。
「ぎゃー、痛いっ、痛いぃ」
ハロルドに近づこうとしてなのか、ステージ前の中央近くにいたエリオットには、多くの結界の欠片が降り注いでいた。
そのまま浴びてしまい、多くの傷ができている。
「お前はっ。ご主人様が怪我をしたというのに、護ることすら出来ないのかっ!」
エリオットは自分の傍に控えていたカーバンクルをいきなり蹴り上げた。
「グフッ」
カーバンクルは、側頭部を蹴られ、そのまま後ろに倒れこむ。
「この役立たずがっ。私が従魔にしてやったというのに、怪我してしまったではないかっ!」
「ガッ、グハッ」
従魔は主に抵抗することはできない。エリオットは倒れたカーバンクルを何度も何度も踏みつける。
カーバンクルは、されるがままだ。
「止めないかっ!」
慌ててハロルドが止めに入るが、エリオットは頭に血が上っているのか止めようとはしない。
「いつもいつも言うことを聞かないで、思いしれっ」
「ギャンッ」
ひときわ大きく蹴り上げられ、カーバンクルはのけ反り、反対側へと倒れこんだ。そのまま起き上がることができない。
「止めろっ! ワークス侯爵令息、君は自分の従魔にいつもこんな仕打ちをしているのか。テイマーとしてあるまじき行為だ!」
ハロルドはエリオットへと怒鳴りつける。
テイマーの数は少ない。
その原因は、従魔を御せないテイマーが多いからだ。
己の従魔から襲われテイマーを続けられなくなるものや、最悪殺されてしまうテイマーが後を絶たない。
主に逆らうと、命を削るような激痛を受けてしまうというのに。
だが、それは仕方が無いことかもしれない。テイムされる時、魔獣は生きるか死ぬかの選択を強いられる。
死にたくなければ従魔になれという呪いをかけられるのだ。
レベルが高い魔獣は知能も高い。プライドもあり屈辱という感情もある。
従魔になったからといって、テイマーを許すことはないし、ましてや好意を持つことなどあり得ないのだ。
だからこそレベルが高い従魔を持つテイマーは、従魔に寄り添う必要がある。
従魔を労わり、その荒んだ心をなだめる必要があるのだ。
それなのに……。
「自分の従魔を躾けるのは、当たり前のことだっ」
頭に血が上っているのか、エリオットには制止の言葉が届かない。
まだカーバンクルを蹴ろうと足をあげるのを、ニックから羽交い絞めされて阻止される。
「ワークス侯爵令息、怪我をしたのなら早く救護室に行きたまえ」
「自分の従魔に八つ当たりしなけりゃならないほどの重傷なら、さっさと救護室に行けよ」
ニックから逃れようともがくエリオットに、ハロルドはこれ以上口も利きたくもないと言わんばかりに背を向ける。
ニックは、今まで口を挟まなかったが、エリオットの余りの態度に我慢できなくなった。エリオットを駆け付けて来た係員へと渡すと、皮肉を投げつける。
エリオットは、何かを喚いていたが、そのまま係員に救護室へと連れられて行かれてしまった。
本当ならテイマーと従魔は離さない方がいい。
そのほうが従魔の体力、魔力の回復が早くなるからだ。
だが、このままエリオットをカーバンクルの傍に置いておけば、また虐待をしかねない。
それにカーバンクルの様子がおかしい。
人族が何度蹴ろうと、それぐらいならレベルの高いカーバンクルはダメージを受けないはずなのだが、カーバンクルは荒い息のまま起き上がろうとはしない。
エリオットのテイマーレベルはいくつなんだ? もしかしたら最低なのかもしれない。従魔の回復は、テイマーによって左右されるのだから。
「皆さん落ち着いて下さい。事故が発生しましたが終息しています。会場修復のため三次試験は一旦中止としますが、このことが試験に影響することはありません。試験は午後から再開しますので、皆さんは休憩を取って下さい」
魔道具を使った係員の声が聞こえてくる。
「ティナ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
ハロルドが、いまだステージの上にいるティナの元へと駆け付ける。
自分に防御魔法をかけるために、ステージから目をそらしてしまったが、ティナには擦り傷一つないようだ。
ティナが自分で防御したのだろうか?
それともティナの足元にいるスライムとスライムの頭上にいる妖精が助けたのか?
「あの、もうステージから降りてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。怪我は見当たらないが、念のために救護室に行ってくれないか」
「え、救護室。なぜですか?」
やはりティナには結界の欠片は見えておらず、音も聞こえなかったようで、キョトンと不思議そうな顔をしている。
「念のために全員救護室に行ってもらっているんだ」
「そうなんですか、分かりました」
カイとタイリーがニックに救護室に連れて行かれているのが見えたのか、ティナは頷くとステージから降り、カイ達の後を付いて行った。
ティナの試験はここまでだ。
エリオットも救護室から出てくるかどうか分からない。
Cブロックは、午後からは四次試験に進むしかないだろう。
ハロルドは試験監督として、そう考えたのだった。
166
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる