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45 入学試験・最終試験前⑥
しおりを挟む「だからここに留まって、人族に復讐する!」
カーバンクルは宣言する。
「母さんを殺した人族を皆殺しにしてやる!!」
魔獣の念話は人族には聞き取れない。
だからと言って、人族に食事介助されながら、物騒なことは言わない方がいいのではと、ちょうちょは思ってしまう。
クライブは、今もせっせと肉をカットし、カーバンクルの口元へと運んでいるのだから。
「そなたの無念は分かる。だが、それは不可能だ」
「なんでだよ。俺は元気になったから、人族なんて簡単にやっつけられる!」
「ああそうだな、カーバンクルは強い魔獣だ、人族を始末するのは容易いだろう。だがな、全ての人族を殺して回るわけにもいくまいて。人族は数が多い、いくら強いお前でも、人族から駆除されてしまうぞ」
「そんなこと分かってるよ。ちゃんと母さんを殺したヤツを探し出す!」
グリファスは諭すが、カーバンクルは聞き入れない。
「憎い相手を探したいのは分かる。だがお前は相手の顔を憶えておるのか? 人数すらあやふやであったではないか」
グリファスからの指摘に、カーバンクルは悔しそうに下を向く。
カーバンクルはテイムされた時のことを聞かれ、相手の人数をハッキリとは答えられなかった。
巣にいた所をいきなり襲われ、すぐに暴力を振われた。自分を殴った男や首輪を嵌めた老人は憶えているが、巣に何人の人族が押しかけてきたのか分からないし、母親に手をかけた男達のことを、ハッキリとは憶えていない。
もし今、目の前にその人族が現れたとしても、自分が探している相手なのか見分けがつかないだろう。
「それにさぁ、人族は数も多いけど、じっと同じ場所にはいないんだよな。どこに居るのか探し出すのは無理だよ。そうだな、お前の主になっていた貴族のボンボンがいるじゃねぇか、そいつを嬲り殺せば、いいんじゃね」
可愛い顔を少し傾げて、ちょうちょが恐ろしい提案をする。
グリファスは、このザイバガイト王国を守護する立場にある。
その中には国民も一応は入っている。まあ、だからと言って全ての国民を守る義務も意思も無いのだが。
それでも目の前で殺処分の相談をされるのを一応は止めておく。
「簡単にいうが相手は侯爵家の者だ、簡単な相手じゃない」
現在救護室で寝込んでいるエリオットは、ワークス侯爵家の息子だ。
三男の息子に金でカーバンクルを買い与えるぐらいには金も持っている。屋敷の警備も厳重だろう。
幼いカーバンクルでは、返り討ちされてしまうのがオチだ。
(そうだな。お前が少しは気が済んで、それで森に帰るというのなら、俺が手伝ってもいいぜ)
今まで黙って話を聞いていたスーがカーバンクルへと視線を向ける。
ちゃんとやり遂げる意思はるのか。それを見極めるように。
「俺は母さんを目の前で殺されたのに、何もできなかった。それが悔しいし情けない。このまま森に帰ったら、ただ逃げ帰るだけになる。何もできない俺のままだ。そんなのは嫌だ。俺は母さんに顔向けできないようなカーバンクルにはなりたくない」
瞳に強い力を宿しながらカーバンクルはスーを見る。
「どんなことがあってもいい。どうせあの時に死ぬって思ったんだ。今更命を惜しいとは思わない。母さんの敵を打ちたい。だけど俺一人じゃ何もできないことは分かっている」
カーバンクルはスーに向かって頭を下げる。
「スライム、俺に力を貸してくれ」
(ふん、あいつはご主人様に暴言を吐きやがったからな、いつかは絞めてやろうと思っていたんだ。チビ助が頭を下げる必要はないぜ)
スーは片頬を上げてニヒルに笑う。
ここでスーの片頬が分かったのは、同じペット仲間のちょうちょだけだった。
「まあな、スーだけじゃあ頼りないから、俺も手伝ってやるぜ。俺は優秀な妖精だからな、一匹だろうが二匹だろうが、能力を爆上げしてやる。思う存分嬲り殺せぱいい!」
ちょうちょもスーに倣って片頬を上げて笑う。
可愛らしい系のちょうちょでは、ニヒルな笑いというよりも愛らしい笑顔になってしまっている。
「お前達……」
勝手に事が進んで行き、グリファスは呆れてしまう。
どうせ止めたって無理だろう。
チラリと隣に座るクライブを見る。
魔獣の話は人族には分からない。だが神獣の加護を持つクライブには、グリファスの言葉は分かる。
グリファスの言葉から魔獣達が何を話しているのか、おおよその見当がつくだろう。
自由な神獣とは違い、王家は国民もだが、貴族も守る義務がある。
「ほら、こっちを向いて、ちゃんと食べないと」
クライブは、グリファスの視線に気づかないのか、カーバンクルに肉の刺さったフォークを向けている。
「カーバンクルが森に帰るのは、とても寂しい。だが止めることが出来ないことは分かっています。それでも少しでも憂いが晴れて森へ帰ることが出来るのなら……。だから私には魔獣の言葉は分からないのです」
魔獣達の考えや、やろうとしていることに、自分は何も気づいていないし知らない。そうクライブはグリファスへと伝えた。
いつもは王家の一員として、そうあるべきだと自分を律してきたクライブが、魔獣達の思惑をワークス侯爵家に知らせることも、手を貸すこともしないと言ったのだ。
関わることをしない。それがクライブにできる唯一のカーバンクルへの手助けだった。
「よーし、じゃあ今からあいつをやっつけに行こうぜっ!」
カーバンクルはクライブの隣の椅子に座らされていたが、おもむろに立ち上がる。
今すぐにカチコミに行く気まんまんだ。
(いや、それは無い)
「どうしてだよー。今だったら学園に、あいつは居るんだろう。今行かないと、逃げちゃうじゃないか」
スーから即却下され、カーバンクルは不満を訴える。
「ほら、ちゃんと座って食べないと」
クライブがカーバンクルを座るように促すと、肉の刺さったフォークを差し出す。
「だから肉を小さく切りすぎなんだよっ。デカいまま寄越しやがれっ!」
シャーと歯をむき出してカーバンクルは威嚇するが、クライブは動じるどころかニコニコと笑顔だ。
どんなカーバンクルでも可愛いらしい。
クライブは15歳のはずだが、その表情は孫を見つめる好々爺だ。
(今動けばご主人様を巻き込んでしまう。ご主人様に気づかれないように動く)
ご主人様に迷惑をかけない。そして怖い思いをさせない。
それが大前提だ。
スーは愛らしくて愛されるペットを目指しているのだから。
「そういやティナは」
ちょうちょが呟く。
今まで話に気を取られていた。
皆で一斉にティナを見る。そこには……。
「やだ、これも美味しい。幸せぇ」
ティナは落ちそうなホッペを左手で押さえ、右手で忙しなくフォークを動かして夢中で料理を食べていた。
生まれて初めての豪華な料理に、感動ひとしおだ。
周りのことは何一つ目にも耳にも入ってはいない。ただただ料理に夢中だった。
「それは良かったね」
ちょうちょがポツリと呟いたのだった。
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