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第二章 魯坊丸と楽しい仲間達
五十三夜 帰ってきた交渉ブーメラン
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〔天文十七年 (一五四八年)十月〕
堀田正貞から手紙が届き、婚姻の仮署名まで進んだことを知らせてきた。
美濃の出発が二月二十四日となり、到着した那古野の家臣のみで歓迎式を行い、次の大安となる二十八日が婚儀の日と決まった。
式には、取次、取次代も出席するので、俺にも出席して欲しいと書いてあった。
俺より先に千秋季忠に相談したらしく、季忠の付き人としてならば、元服前の俺であっても出席できるらしい。
俺は先に千代女に手紙を回した。
「読んだならば、定季に回せ」
「はい」
「また、世話を頼む。もしかすると舞を所望する馬鹿がいるかも知れん」
「もう大丈夫です。基本の舞はすでに覚えました」
「そうか…………もう覚えたのか」
「用意した直垂が無駄にならないようですね」
「俺としては無駄になって欲しかった」
結婚式とか、行きたくない。
それにしても、千代女は優秀だ。
俺も祝詞と稚児舞の練習をしており、覚えるのに苦労しているのだが、千代女はもう基本を覚えたらしい。
覚えるスペックが違うのか?
俺に手紙を出した正貞は道空と末森城に報告に向かうらしい。
親父が了承すれば、同盟交渉の仕事は終わりだ。
何を考えているかわからない斎藤利政(後の道三)との腹の探り合い交渉なんて二度と嫌だな。
明快で一発回答が一番だ。
腹を探り合うより、有意義なことに時間を掛けたい。
なんて暢気に考えていた。
数日後、正貞が登城した日の夕方に信光叔父上から手紙が届き、中根南城に二日後に来るらしい。
総出の出迎えは不要と断ってきた。
二日後、信光叔父上は正貞と島田城の牧-長義を連れてやってきた。
信光叔父上が上座に座ると、横に長義と正貞は控えた。
長義の父は尾張守護斯波義統の弟の津川義長であり、母は斯波-義廉の四男牧左近義次の娘というサラブレッドな血筋だ。
しかも親父の妹、つまり、俺の叔母が嫁いでいる。
お隣の島田城を治めているので、何かとお世話になっている間柄だ。
「魯坊丸に伝えておく、長義は此度の婚儀の接待役を命じられた」
「長義様、おめでとうございます」
「大したことはござらん。信光殿の推薦あっての接待役です」
「しかし、長義様のご見識が広いことが知れているから、父上もお認めになったのでございましょう」
「これから世話になるというか、すでに世話になっております。これからもよろしくお願いいたします」
「はぁ? 何のことでしょう」
長義の言葉に俺は首を捻った。
信光叔父上が上座から降りてきた俺の胸ぐらをがしゃと掴むと、俺を目の前に引き寄せた。
顔が怒っているが、目が笑っている。
「この愚かモノめ。何をするにも周りに意見してから決めよと言ってきたであろう。接待役でもない者が勝手に決めておきましたで済むと思っておったのか」
「えっ、まさか、結納品の話ですか?」
「そうだ」
「あれは言葉の綾です。俺は提案しただけで決めるのは、親父と斎藤利政ですよ」
「そんな言い訳が通用するとでも思ったか」
「思いました。実際、目が怒っていませんよね」
「くくくっ、その通りだ。だが、肝に銘じておけ、其方の親父ほど器の大きな主はそうおらん。其方の越権行為は切腹を命じるのに十分な口実となる。もっと根回しにも気を付けて、先手を打てるようになれ。間違っても同じことをするな」
「肝に銘じます」
信光叔父上が手を緩めると、持ち上げられた体がズドンと落ちた。
俺が津島神社の帰り道で正貞に命じた策を聞いた定季は、手違いになっては拙いと思って、信光叔父上に長義を接待役に任じて頂けるようにお願いしたらしい。
長義が接待役ならば、後で融通が利くと考えたそうだ。
そして、信光叔父上の推薦で長義に内定した時点で、俺に結納品の選定を一任するという一筆をもらっていたと、信光叔父上が裏事情を話してくれた。
「すまん。面倒を掛けた」
「この程度は面倒ではございません。魯坊丸様は十分にお働きです。主が動き易いように努めるのが家臣の役目です。私は自分の仕事をしたに過ぎません」
「助かった」
「魯坊丸、本当に感謝しておけ。先んじて動いたので接待役を長義にできたが、もし佐久間の息がかかった者が接待役になっておったら、切腹までに行かなくとも相当の譲歩を要求されたと思え」
「嫌なことを言わないで下さい」
「嫌なことではない。俺より先に大学が推薦しておったら、間違いなくなっておったぞ」
マジですか。
面目を潰されたとかと騒がれたら面倒なことになっていたな。
中根家は佐久間家と仲が良くない。
まず、中根村の北にあるさくら山に中根家と佐久間家の境界線が存在していたが、鉄や鉄砲を造り出したので、さくら山を親父の直轄地とし、俺が管理することになった。
さくら山を中根家に奪われたと考えている。
さらに、御器所は佐久間家が鎌倉幕府より頂いた土地という自負が強い。
そこに隣接する森は熱田神宮の聖域で手が出せない。
佐久間家が手を出せずに指を咥えている間に、中根家は酒造所を建設して支配していることも気に入らないらしい。
酒造所も熱田神宮の持ち物であり、中根家のモノではない。
そんな建前など関係なく、中根家の者が実効支配していることを嫌がっている。
中でも、佐久間大学は俺のことを嫌っているようだ。
そんな佐久間家の者が接待役になっていたと考えると、ゾッとする。
定季、ナイスファインプレー。
そして、婚姻の報告は概ね了承された。
「儂が魯坊丸の案を聞いた斎藤利政の様子を聞くと、道空がいろいろと取り繕っておった」
「繕うとは」
「利政のことを聞いておるのにお前を褒めておった。嫌味な要求を斜め上の提案で避けたのは天晴れだ。兄者も織田家が造る町を記念して、十八本の桜を送ると言っておった」
「父上が十八本の桜を送ってくれるのですか」
「送るぞ。但し、町の建設費は貸しても良いが、すべてお前持ちだ」
「そういうと思っていました。借りる予定はありません」
「がははは、兄者は子供らしくないと拗ねるが魯坊丸のそういうところが面白いのぉ」
何が面白いがわからないが、信光叔父上は笑った。
終始、上機嫌なのが気味が悪い。
穏便に話が終わるかと思えたときに、信光叔父上から最後に爆弾の命令を落としてきた。
「魯坊丸、斉藤家の結納を提案したついでだ。すべて目録も其方が選べ」
「俺が選ぶのですか?」
「其方が造っている器や化粧箱、手鏡などは十分に通用する。一切合切を其方に任せる。すでに兄者に了承済みだ」
結納とは、両家が親類になって『結』びついたことを祝い、贈り物を「納」め合うことをいう。
斉藤家が『蝮土』と技術を納め、織田家は紙や器の『技術』を納め合ったことを提案した。
斎藤利政と親父が認めた時点で盟約は成立し、目に見えない技術なので互いに交わした誓約に署名した時点で結納が終わる。
この結納によって、正式に『結婚』が決まる。
それが終わると、婿方の家から嫁方の家へ酒肴(結納金)を持参し、相手はそれに見合う花嫁の衣装や帯など身の回り品一式を取り揃える。
ここで酒肴をケチるくらいなら同盟など結ばない方がいい。
接待役は、それら一切を仕切るらしい。
その接待役と商人の仲介役を俺にやれという。
「加えて、祝い品のお返しも其方に任せる。これも兄者に了承済みだ」
「叔父上、俺への罰ですか?」
「褒美のつもりだったが、嫌だったか?」
「仕事を増やされて喜ぶような馬鹿じゃありません。他に回して下さい」
「良いのか? 仲介役は儲かるぞ。小遣いが入るぞ」
どの商品をお返しするか決める仲介役は、信長兄ぃの結婚を祝う品が届き、それに見合うお返しがいる。
どのような商品を送り返すかは仲介役の胸一つだ。
商人から「この商品は如何ですか?」とオファーがきて、袖の下を肥やしてくれる美味しいポジションらしい。
小遣いは魅力的だった。
帳簿上は金持ちの俺だが、織田家の借財を肩代わりしているので身入りが少ない。
その少ない身入りから造船などの投資にも回すので小遣いがまったくない。
また、宣伝の為に熱田で作らせている新しい焼物や漆塗りの器などをお返しの品に使うのもよい。
俺は信光叔父上の甘い誘いに乗ってしまった。
信光叔父上と長義の二人は用件が終わると帰ってゆく、正貞だけが残された。
「魯坊丸様、非常に申し上げ難いのですがよろしいでしょうか」
「なんだ、信光叔父上が上機嫌な理由のような気がするが、聞かぬ訳には行かないのであろうな」
「信光様の件は知りませんが、『結納』が終わっておりません」
「どういうことだ?」
「大殿は『肥料』について詳しくないので、斎藤利政様から追加で付けられた条件を魯坊丸様に委ねられました」
「どういう条件だ」
「斉藤家がもたらした技術で織田家が繁栄したなら、その繁栄の一部を娘の収入として欲しいとの願いです」
「技術料を払えということか。斉藤家に払えと言えば出来ぬと断るが、嫁いでくる姫ならば問題ない。いくら寄こせと言ってきた」
「はい。肥料の売り値の一割を頂きたいと」
阿呆か⁉
肥料を使うと、収穫量が二割から一割は増えると予想している。
最低でも増える一割から一割とした。
つまり、百石に対して一石、利率にして一厘が肥料の売り値である。
糞尿の輸送費をどちらが持つかで言い争いになったことを考えれば、それほど儲からないのは先の交渉でも察しただろう。
蝮め、わかっていて嫌がらせか。
もう、これからは非公式の場では、蝮としか呼んでやらん。
「正貞。一つ質問だが、『結納』は仮調印の儘で婚儀はできると思うか」
「無理でございます」
「今はまだ仮調印だな」
「はい、その通りございます。斎藤利政殿に約定を渡し、合意文章には署名しておりません。大殿も私に一任されました」
「どこまで粘ると思うか?」
「まったく、予想も付きません」
「だよな…………しかたない。明日、熱田神宮に行く。道空を呼び出しておけ」
「承知しました」
どこまで粘るつもりだ。
交渉は終わったと思ったのに、斉藤家との同盟交渉は延長戦に持ち込まれた。
蝮、しつこいぞ。
堀田正貞から手紙が届き、婚姻の仮署名まで進んだことを知らせてきた。
美濃の出発が二月二十四日となり、到着した那古野の家臣のみで歓迎式を行い、次の大安となる二十八日が婚儀の日と決まった。
式には、取次、取次代も出席するので、俺にも出席して欲しいと書いてあった。
俺より先に千秋季忠に相談したらしく、季忠の付き人としてならば、元服前の俺であっても出席できるらしい。
俺は先に千代女に手紙を回した。
「読んだならば、定季に回せ」
「はい」
「また、世話を頼む。もしかすると舞を所望する馬鹿がいるかも知れん」
「もう大丈夫です。基本の舞はすでに覚えました」
「そうか…………もう覚えたのか」
「用意した直垂が無駄にならないようですね」
「俺としては無駄になって欲しかった」
結婚式とか、行きたくない。
それにしても、千代女は優秀だ。
俺も祝詞と稚児舞の練習をしており、覚えるのに苦労しているのだが、千代女はもう基本を覚えたらしい。
覚えるスペックが違うのか?
俺に手紙を出した正貞は道空と末森城に報告に向かうらしい。
親父が了承すれば、同盟交渉の仕事は終わりだ。
何を考えているかわからない斎藤利政(後の道三)との腹の探り合い交渉なんて二度と嫌だな。
明快で一発回答が一番だ。
腹を探り合うより、有意義なことに時間を掛けたい。
なんて暢気に考えていた。
数日後、正貞が登城した日の夕方に信光叔父上から手紙が届き、中根南城に二日後に来るらしい。
総出の出迎えは不要と断ってきた。
二日後、信光叔父上は正貞と島田城の牧-長義を連れてやってきた。
信光叔父上が上座に座ると、横に長義と正貞は控えた。
長義の父は尾張守護斯波義統の弟の津川義長であり、母は斯波-義廉の四男牧左近義次の娘というサラブレッドな血筋だ。
しかも親父の妹、つまり、俺の叔母が嫁いでいる。
お隣の島田城を治めているので、何かとお世話になっている間柄だ。
「魯坊丸に伝えておく、長義は此度の婚儀の接待役を命じられた」
「長義様、おめでとうございます」
「大したことはござらん。信光殿の推薦あっての接待役です」
「しかし、長義様のご見識が広いことが知れているから、父上もお認めになったのでございましょう」
「これから世話になるというか、すでに世話になっております。これからもよろしくお願いいたします」
「はぁ? 何のことでしょう」
長義の言葉に俺は首を捻った。
信光叔父上が上座から降りてきた俺の胸ぐらをがしゃと掴むと、俺を目の前に引き寄せた。
顔が怒っているが、目が笑っている。
「この愚かモノめ。何をするにも周りに意見してから決めよと言ってきたであろう。接待役でもない者が勝手に決めておきましたで済むと思っておったのか」
「えっ、まさか、結納品の話ですか?」
「そうだ」
「あれは言葉の綾です。俺は提案しただけで決めるのは、親父と斎藤利政ですよ」
「そんな言い訳が通用するとでも思ったか」
「思いました。実際、目が怒っていませんよね」
「くくくっ、その通りだ。だが、肝に銘じておけ、其方の親父ほど器の大きな主はそうおらん。其方の越権行為は切腹を命じるのに十分な口実となる。もっと根回しにも気を付けて、先手を打てるようになれ。間違っても同じことをするな」
「肝に銘じます」
信光叔父上が手を緩めると、持ち上げられた体がズドンと落ちた。
俺が津島神社の帰り道で正貞に命じた策を聞いた定季は、手違いになっては拙いと思って、信光叔父上に長義を接待役に任じて頂けるようにお願いしたらしい。
長義が接待役ならば、後で融通が利くと考えたそうだ。
そして、信光叔父上の推薦で長義に内定した時点で、俺に結納品の選定を一任するという一筆をもらっていたと、信光叔父上が裏事情を話してくれた。
「すまん。面倒を掛けた」
「この程度は面倒ではございません。魯坊丸様は十分にお働きです。主が動き易いように努めるのが家臣の役目です。私は自分の仕事をしたに過ぎません」
「助かった」
「魯坊丸、本当に感謝しておけ。先んじて動いたので接待役を長義にできたが、もし佐久間の息がかかった者が接待役になっておったら、切腹までに行かなくとも相当の譲歩を要求されたと思え」
「嫌なことを言わないで下さい」
「嫌なことではない。俺より先に大学が推薦しておったら、間違いなくなっておったぞ」
マジですか。
面目を潰されたとかと騒がれたら面倒なことになっていたな。
中根家は佐久間家と仲が良くない。
まず、中根村の北にあるさくら山に中根家と佐久間家の境界線が存在していたが、鉄や鉄砲を造り出したので、さくら山を親父の直轄地とし、俺が管理することになった。
さくら山を中根家に奪われたと考えている。
さらに、御器所は佐久間家が鎌倉幕府より頂いた土地という自負が強い。
そこに隣接する森は熱田神宮の聖域で手が出せない。
佐久間家が手を出せずに指を咥えている間に、中根家は酒造所を建設して支配していることも気に入らないらしい。
酒造所も熱田神宮の持ち物であり、中根家のモノではない。
そんな建前など関係なく、中根家の者が実効支配していることを嫌がっている。
中でも、佐久間大学は俺のことを嫌っているようだ。
そんな佐久間家の者が接待役になっていたと考えると、ゾッとする。
定季、ナイスファインプレー。
そして、婚姻の報告は概ね了承された。
「儂が魯坊丸の案を聞いた斎藤利政の様子を聞くと、道空がいろいろと取り繕っておった」
「繕うとは」
「利政のことを聞いておるのにお前を褒めておった。嫌味な要求を斜め上の提案で避けたのは天晴れだ。兄者も織田家が造る町を記念して、十八本の桜を送ると言っておった」
「父上が十八本の桜を送ってくれるのですか」
「送るぞ。但し、町の建設費は貸しても良いが、すべてお前持ちだ」
「そういうと思っていました。借りる予定はありません」
「がははは、兄者は子供らしくないと拗ねるが魯坊丸のそういうところが面白いのぉ」
何が面白いがわからないが、信光叔父上は笑った。
終始、上機嫌なのが気味が悪い。
穏便に話が終わるかと思えたときに、信光叔父上から最後に爆弾の命令を落としてきた。
「魯坊丸、斉藤家の結納を提案したついでだ。すべて目録も其方が選べ」
「俺が選ぶのですか?」
「其方が造っている器や化粧箱、手鏡などは十分に通用する。一切合切を其方に任せる。すでに兄者に了承済みだ」
結納とは、両家が親類になって『結』びついたことを祝い、贈り物を「納」め合うことをいう。
斉藤家が『蝮土』と技術を納め、織田家は紙や器の『技術』を納め合ったことを提案した。
斎藤利政と親父が認めた時点で盟約は成立し、目に見えない技術なので互いに交わした誓約に署名した時点で結納が終わる。
この結納によって、正式に『結婚』が決まる。
それが終わると、婿方の家から嫁方の家へ酒肴(結納金)を持参し、相手はそれに見合う花嫁の衣装や帯など身の回り品一式を取り揃える。
ここで酒肴をケチるくらいなら同盟など結ばない方がいい。
接待役は、それら一切を仕切るらしい。
その接待役と商人の仲介役を俺にやれという。
「加えて、祝い品のお返しも其方に任せる。これも兄者に了承済みだ」
「叔父上、俺への罰ですか?」
「褒美のつもりだったが、嫌だったか?」
「仕事を増やされて喜ぶような馬鹿じゃありません。他に回して下さい」
「良いのか? 仲介役は儲かるぞ。小遣いが入るぞ」
どの商品をお返しするか決める仲介役は、信長兄ぃの結婚を祝う品が届き、それに見合うお返しがいる。
どのような商品を送り返すかは仲介役の胸一つだ。
商人から「この商品は如何ですか?」とオファーがきて、袖の下を肥やしてくれる美味しいポジションらしい。
小遣いは魅力的だった。
帳簿上は金持ちの俺だが、織田家の借財を肩代わりしているので身入りが少ない。
その少ない身入りから造船などの投資にも回すので小遣いがまったくない。
また、宣伝の為に熱田で作らせている新しい焼物や漆塗りの器などをお返しの品に使うのもよい。
俺は信光叔父上の甘い誘いに乗ってしまった。
信光叔父上と長義の二人は用件が終わると帰ってゆく、正貞だけが残された。
「魯坊丸様、非常に申し上げ難いのですがよろしいでしょうか」
「なんだ、信光叔父上が上機嫌な理由のような気がするが、聞かぬ訳には行かないのであろうな」
「信光様の件は知りませんが、『結納』が終わっておりません」
「どういうことだ?」
「大殿は『肥料』について詳しくないので、斎藤利政様から追加で付けられた条件を魯坊丸様に委ねられました」
「どういう条件だ」
「斉藤家がもたらした技術で織田家が繁栄したなら、その繁栄の一部を娘の収入として欲しいとの願いです」
「技術料を払えということか。斉藤家に払えと言えば出来ぬと断るが、嫁いでくる姫ならば問題ない。いくら寄こせと言ってきた」
「はい。肥料の売り値の一割を頂きたいと」
阿呆か⁉
肥料を使うと、収穫量が二割から一割は増えると予想している。
最低でも増える一割から一割とした。
つまり、百石に対して一石、利率にして一厘が肥料の売り値である。
糞尿の輸送費をどちらが持つかで言い争いになったことを考えれば、それほど儲からないのは先の交渉でも察しただろう。
蝮め、わかっていて嫌がらせか。
もう、これからは非公式の場では、蝮としか呼んでやらん。
「正貞。一つ質問だが、『結納』は仮調印の儘で婚儀はできると思うか」
「無理でございます」
「今はまだ仮調印だな」
「はい、その通りございます。斎藤利政殿に約定を渡し、合意文章には署名しておりません。大殿も私に一任されました」
「どこまで粘ると思うか?」
「まったく、予想も付きません」
「だよな…………しかたない。明日、熱田神宮に行く。道空を呼び出しておけ」
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どこまで粘るつもりだ。
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