魯坊人外伝~魯坊丸日記~

牛一/冬星明

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第二章 魯坊丸と楽しい仲間達

百十夜 今川の調略(天文20年まで来迎寺城と重腹城が織田方だった件)

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 〔天文二十年 (一五五十一年)十二月〕
 夏7月に紆余曲折あったが幕府の仲介で織田家と今川家の和睦 (仮)がなった。
親父は今川家と和睦して尾張を統一する間を稼ぎたい。今川義元も三河を完全に平定して基盤を固めたい。双方の思惑が重なったからだ。
細かい点で妥協できず、本調印に至っていない。
 今川へ寝返った水野信近の刈谷、織田方の来迎寺城と重腹城を互いに放棄が合意されて、織田家と今川家の緩衝地帯となった。
 今川義元は中立の独立を認めると譲歩し、緩衝地帯とは中立の周辺も含むとした。
 仮調印をまとめた織田取次役山口やまぐち-左馬助さまのすけ-教継のりつぐが浮かれていると報告を聞いた。
だが、この仮調印の危うい。

「千代、其方はどう思う。この仮調印の写しには、織田家、および、今川家は双方に報復をしないと書かれているが、その範囲を中立地帯のみと定めず、国境付近と書かれている。俺はこの部分が危ういと思うぞ」
「私も同意見です。今川が内乱を起こさせても、水野家などに織田家が介入できません」
「教継は今川義元をそれほど信じている訳か?」
「教継殿は交渉の為に三河へ足を運び、鵜殿うどの-長持ながもちから大層な接待を受け、『流石、足利一門』と感服しているようでございます」
「何が足利一門だ。これまで朝廷の和睦を破ってきたのは義元だろう」
「まったくでございます。しかし、教継殿は足利一門という権威に弱いように思えます。長持の上座に座り、義元が教継殿を高く評していると吹き込んでおります」
「褒め殺しか」
「義元は大殿の病状を心配し、回復した後に互いの死力を尽くして、白黒を付けたいと申しているそうです。それに教継殿は感銘しております」
 
 尾張国内に無数の刺客を送っており、俺すら暗殺しようと企む義元が正々堂々と雌雄を決したいと思うのか。方便にしても酷い。
 親父、信光叔父上、俺などに賞金を掛けて、次々と刺客を今も送ってきている。
 依頼主は名無し権兵衛だが、伊賀者を使って依頼を続けている。
 そのお陰で加藤かとう-三郎左衛門さぶろうさえもんを頼ってやってきた中年不良ら、俺は『独立愚連隊』と呼んでいるが、彼らの遊び相手になっている。
 盗賊・盗人・暗殺などを請け負う裏家業の仲間内では、命が欲しい奴は今川と織田に関わるなと囁かれているらしい。
 逆も真であり、銭が欲しいなら今川か、織田へ行けという言葉も流れている。
 腕試し、銭に汚い連中が熱田湊に多く訪れている。
だから、俺が熱田で女を侍らせて巡っていると、イチャモンを付ける勇者が絶たない。
 さくらが意気揚々と始末している。
 ヤバい奴らが上陸すれば、三郎左衛門らの監視が付き、独立愚連隊の餌食となる。単なる盗賊紛いの傭兵には三河へ一攫千金の反乱仕事を斡旋している。
 また、仕官を希望する者は毎日のようにやってくる。
少し前まで中根北城 (牛山とりで)、中根中城 (菱池とりで)で対応していたが、最近はなおざりになり、村の子供らを指導する者から推薦を貰って来いと追い返している。
近所の子供らは、小さい頃からしっかり食べて鍛えている。師匠もいるので腕前のレベルは高く、特に黒鍬衆を目指す成人間近い子供らは並の武士より強くなっている。
 仕官を名乗りでる「やぁやぁやぁ、我こそは播州赤穂の侍、槍の○○とは、某の事だ」と名乗る武士らにあっさり勝ってしまう。
まぁ、乗馬と弓ができないのが玉に傷か。
 子供に負けるような連中の仕官など考える訳もなく、土木作業員からやり直すように奨める。土木作業員の百人長になれるほど仕事ができるなら黒鍬衆の見習いも考えなくもない。
 一方、一芸を持つ変わった人物は熱田神宮で随時募集中だ。
 西熱田、少し前に前田家から借りた土地に食客三千人が住む長屋が出来ている。俺は『お抱え芸人長屋』と呼んでいるが、物真似が得意な者、猿回し師、大道芸人、和歌の自称研究家などが住んでいる。
迎賓館に客が来た時、祭などの行事、事ある毎にその芸や研究発表を披露してもらっている。
豊かになると娯楽も必要になるからね。



脱線だ。今はそんな話をしていたのではない。
今川義元の事を考えたくないという意識が無意識に話の脱線させてしまう。
 今は山口-教継の動向だ。
 親父の強さに魅了されている教継は裏切らない。しかし、それは親父に対しての忠誠心であり、織田弾正忠家への忠誠ではない。
 信長兄ぃは『大うつけ者』と呼ばれ家臣団の受けが悪く、信勝兄上は初陣すら終えていない。
 そんな二人が義元に敵う訳もない。
信長兄ぃ、信勝兄上が頼りなしと思えば、山口家を存続させる為に今川家へ寝返る。
 俺でもそう考える。
史実で寝返っているが、この世界でも親父が亡くなれば寝返りそうな雰囲気だ。
 権威に弱いならば、足利一門の義元からの誘いを断れない。
 俺は山口家の動向を探る為に荷運びなどの仕事をする小者を入れている。
 教継が交渉の結末を親父に報告できない事を愚痴っている。
 教継の愚痴は三河に伝わり、尾びれが付いて親父は年内も持たないと広まっていた。
 千代女が噂を広めている者を教えてくれる。

「大殿の噂は駿河の伊賀者と末森の行商人が広めております」
「親父と義元の意図が重なったか」
「三河から流れる噂を聞いた清須の織田-信友が決起すれば大殿の勝ち。織田家を頼りとする三河武士の心が折れれば義元の勝ちとなります」
「どっちが勝つんだ?」
「判りません」
「千代が判らんなら、俺も判らん」
「ご冗談を。とっくにお知りのような顔をされております」
「知らん」
 
 俺が知っているのは史実であって、この先の話ではない。
 史実通りなら、あと十年くらいのんびりと準備しながら、ゴロゴロライフを楽しめる予定なんだ。
 親父が長生きするか、義元が信長兄ぃに油断してくれるといいな。
 希望的観測って、外れるんだよね。
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