婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱

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羽化・1

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※主人公は大将です。途中視点変わります。
シリアスです。苦手な方はご注意下さい。







テオと昼食を済ませた午後。
城の端っこにある騎士団専用の訓練場で、俺はじゃれ合いのような手合わせをしていた。

勢いよく踏み込んで来る騎士の剣を身を傾けて避ける。
ふわりと浮いた横髪がほんの少し掠った。
数本切れて散っていくのに随分と伸びたなあと思う。

(長いと邪魔なのに)

カーミルが時々整えてくれる髪は国にいた頃に比べたら全体的に長い。中でも襟足は特に長い。
毎回切らずに残されるせいで今では毛先が肩甲骨に届きそうになっている。
動いたことで揺れたのか、髪を結っている赤い組紐の端が視界に入った。

へら、と口許が綻ぶ。
結える長さになってからは毎朝テオがまとめてくれるけど、ちっとも上手くならなくて今朝もぷりぷり怒っていたのを思い出した。

(意外と不器用なんだよな)

「はぁッ!」

思い出してはへらへらと笑う俺にやる気の無さを感じたのかもしれない。
対峙した騎士は一度歯を食い縛り、勇ましい掛け声とともにまた踏み込んで来た。

戦っている時にあまり声を出さない俺とは大違いで負けないっていう強い意志をヒシヒシと感じる。
振り下ろされた刃を借り物の腕甲で受け止め、横へと流す。

対人戦そのまんまの訓練は苦手だ。
それなのになんでやってるのかっていうと、曲がりなりにも王太子配だっていうのにやれる仕事がないからだ。

本来王太子妃には妃教育があるし、教育を受けている間も茶会とかして情報収集したりデカデカと売り出したいモノを身につけて広告塔になったりするものらしい。
でも、俺は男だからとそのいずれもテオに却下されている。

広告塔なら幼馴染み達がいるよって言ってみたらテオにはヘンな顔されて、幼馴染み達からは総ブーイングを食らった。

この国は海に面していて良質な真珠が採れるし、鉱山まである。
宝石類は女の方がずっと似合うだろうけど、カーミルなら男でも似合う装飾とか思い付くんじゃないかと思ったんだ。男から見てもカッコいい幼馴染み達はキラキラジャラジャラしたのも似合うんじゃないかって。

大将がつけりゃいいって言い出した幼馴染み達とこれ以上目立たせるなって怒ったテオが一触即発状態になって、やっぱり却下されたけど。

(褐色肌の外国人な上に、男だもんな)

そりゃ悪目立ちさせたくないよなって、少し凹んだ。

でも、こんなんでも元々は隣国の姫のとこに婿入り予定だったんだ。
王太子妃の仕事は出来なくても周辺諸国の情勢とかはわかっているし、国内の事にはまだまだ疎いけれど外交関係なら多少なりとも役に立てることがあるんじゃないか。

暇を持て余してるくらいなら何かと忙しいテオを手伝うのはどうだろう。
そんなことを考えた俺は、いそいそと執務室に足を運ぼうとしたんだけど。

慌てたように駆け寄って来た文官達に部屋のずっと手前で止められた。

山ほど来るっていう色んな国からの手紙を訳せるしテオの護衛にもなるよってアピールしても、俺がいるとテオの集中力が落ちるからダメだって入れてもらえなかった。俺がいるくらいじゃ変わらないと思うんだけどって言ってみてもダメだった。

その時は結婚して間もなかったせいか、今は仕事なんかよりもこの国の主要な貴族とか領地のことを学んでみてと優しく勧められた。
そんなのは言われるまでもなく頭に入ってる。テオに万が一があったら大変だからだ。

貴族の顔と名前、領地や特産品。
王都の地図や国の地形に、テオ達王族や非戦闘員の避難経路。

王都まで敵が辿り着いたと仮定して、城の地下通路やその行き着く先も全て確認済みだ。老朽化して崩れそうだった何ヶ所かはこっそり補強しておいた。
通路は一応秘密扱いっぽいから、見つけたことは黙っておこうって幼馴染み達と頷きあったのももう随分と前。

結婚を機に大陸共通語からこの国、アルストリアの言葉に切り替えたらしこたま驚かれたくらいだ。
クルシュの民を身内の名前しか知らないような脳筋だと思っている節がある。
クルシュくににいた頃に度々やって来た侵略者や隣国と違って俺達を見下してる雰囲気じゃないから、単純に、戦闘狂のイメージが強すぎるんだろう。

訓練から逃げ回っていた俺はむしろ本ばかり読んでいたんだけども。
恥ずかしいからナイショだ。

完全に親切心から提案してくれているのがわかったから、それ以上駄々を捏ねられなかった。
そしてトボトボと部屋へ戻る途中、一部始終を見ていたサジェドに笑いながら訓練場に引っ張り出された。

それ以来、騎士達と訓練に励むのが日課になっている。

部屋でゴロゴロしているとテオの専属侍女であるミーナとマリアが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれようとするし、城の中をウロウロするとどこからか現れる女達がペタペタと触ってくるんだ。
いつだかフラっと山に散歩に行った時には俺を探し回る大騒ぎになってしこたま怒られたし、そうなると屋根の上くらいしか居場所がない俺だ。

誰も不意をついてこない安全なごはん休憩もある上、時間になったらきっちり切り上げられる訓練は苦手な対人戦であっても随分と気楽だったんだけども。

(やっぱり様子がおかしい、よな?)

向かってくる騎士の剣をスイっと髪一重で躱しながら首を捻る。

(視線がなんか熱いっていうか……)

腕甲で受け止めた剣を軽く払った。
たたらを踏んだ騎士がギュッと歯を食い縛り、俺を鋭く睨み付けてくる。

いや、これは睨んでるんだろうか?
ものすごく熱心に見つめられてるだけのような気もするし、陽射しが眩しいだけのかんじもする。

「なぁ」
「ハイ!?」
「この季節のオススメの食べものとか教えて欲しいんだけど、何かあるかな?」
「食べ物ですか……」

他愛無い質問をすれば足を止めた騎士は真剣に考え込む。顎に片手を添えて首を捻り、うーとかあーとか唸りながら悩む姿はただの良い人だ。

(嫌われてるんじゃないみたいなんだけど)

大国アルストリアの王太子であるセオドア───テオに婿入りしてから、二年。
故郷を出てからだとそろそろ二年半になる。

男同士で結婚するのは俺達が初めてだっていうからさぞかし針のむしろなんだろうと覚悟していた俺は、予想外過ぎる大歓迎に拍子抜けした。

結婚のお披露目も兼ねての視察旅行じゃどこに行っても歓迎ムード。
いかにも頭の固そうな爺さん達に至っては、俺の手を取って涙を流しながらくれぐれも末長く幸せにと繰り返す。

初夜もすっかり済ませてしまったし反対されたらされたで困るんだけども、王太子の伴侶が本当に男の俺でいいの?と思わず聞きたくなるくらいには大歓迎されて混乱した。

侍従や護衛といった肩書きでついて来たくせに、全日自由行動で観光を目一杯楽しんでいた幼馴染み達はその度に爆笑していた。
歩き回れない俺に山ほど土産を抱えて帰って来てはアレコレと色んな話をしてくれたし、楽しそうだったからいいんだけども。

そんなこんなもきっと英雄フィーバーのおかげだろうと納得して、いつかは冷めてしまうに違いないそれに戦々恐々としていた俺。

だから違和感に気が付いた最初は、ついに来たかと思ったんだけど。

「果物とかは如何でしょうか?これから暑くなりますので、水分が多く糖度の高い物が出回り始めるかと思います」
「果物か」

丁寧な言葉遣いに真摯な態度。
こうして手合わせをするようになって本当は全然英雄なんかじゃない俺の実力を知って、フィーバーが終わって我に返った……と受け止めるには、どうにも好意的過ぎる気がする。

外国人で嫌われ者の王太子配なんて笑えないから、そうじゃないならそれに越したことはないんだけど。

「果物はなんでも好きだ。ありがとう」
「っ、いえ!別に!たいした情報ではございませんので!」

へらりと笑って礼を言うや否やまたギュッと深まった眉間の皺。
親の仇か何かのように睨みつけてくる姿は、大好きだって伝えた時のテオにちょっとだけ雰囲気が似ている。

(嫌いじゃないけど、馴れ合いたくないとか?)

でもそれにしては挨拶とか世間話とかノってくれるしとますます混乱し、内心でしきりに首を捻った。

この騎士だけならいいんだ。
訓練の途中なんかじゃなく、落ち着いた場所で二人で腹を割って話せばいい。
それが出来ずに悶々とする理由は騎士団丸ごとこんなかんじなせい。

(俺、なんかしたかな)

ううんと唸りながら目に掛かった前髪を指先で払う。
途中でチラッと盗み見た騎士はなんでかビシリと固まっていて、真っ赤な顔で歯を食い縛り両手で剣を握り締めた。

「殿下、参ります!」
「うん」

暑いのかなと空を見上げる。
確かに一番陽の高い時間だ。
終わったらよく水分を摂るように言っておこう。

そんなことを考える俺を他所に、騎士は実に隙だらけな大振りで踏み込んできた。

「ダメだよ」

いくら俺が弱々だっていってもだ。
これはれっきとした訓練で、騎士が扱うのは本物の武器。

「感情任せはケガの元だから」
「ッ、あ……!?」

剣を握る手を片手で包んで押さえ込み、鎧の隙間から覗く喉をもう片手でそっと掴む。
今だからこの程度の脅しで済むけれど本当の戦場だったら喉をブスっとやられてるところだ。危なすぎる。

「ほら、意外と鎧は万能じゃないんだ」

それにしてもこの国の人間は男でも細身だな、なんて。
喉を掴んだついで、首にスイと指を這わせたのが良くなかったのかもしれない。

無意識に頚動脈の場所を探るのは戦場で染みついたクセなんだ。
戦闘民族として生まれ育てられた弊害だ。

「でん……ッ!?」
「あ、動かないで」
「ひ!?」

騎士の手から落ちかけた剣を代わりに掴み、喉から離した手で背中を支えながら腰元にある鞘へ戻す。
途端にもの凄い勢いで離れていった。
突き飛ばされはしなかったけどドン引きってヤツだ。

「あの、」
「アリガトウゴザイマシタ!!」

戸惑う俺に騎士は思い切り顔を背け形ばかりの礼をとり、どこか投げやりな言葉を残して足早に去って行く。

(そんなに嫌がらなくても……)

「大将やってんなァ!!」
「今のはアウトだろ!」

少し離れたところからゲラ笑いするのは、サジェドとディルガムとカーミルだ。
もしいきなり襲撃されたらってソワソワする俺を見兼ねてテオの護衛をしてくれてるイザームはいない。俺が入れない執務室の隣で有事に備えてくれてる。
正直な話、隣の部屋があるなら俺もそこにいたいと思ったけど我慢だ。あんまりワガママを言って困らせるのはダメだ。

「日増しにセクハラ悪化してんなー」
「年がら年中王太子とイチャついてるせいだよな」

そんなことを考える俺の耳にゲラゲラと笑い声が届く。
嫌がられて落ち込んでる幼馴染みを笑うなんてひどすぎるし、二部隊相手に乱戦訓練中だっていうのになんでコッチ見てるんだ。
セクハラセクハラと言いながら笑うのに少しだけイラっとした。

「このままだとイザームのお株取られんじゃねぇか、コレ」
「や、アレはアレでまた違ぇっつーか」
「大将はセクハラだけどイザームは落としにかかってるもんなァ」
「天然コエー!」

向かってくる騎士達をちぎっては投げちぎっては投げしつつ笑う幼馴染み達。
どことなく気まずそうな騎士達に顔を向けたらぐるんっと身体ごと逸らされた。どうやら騎士達からもセクハラ判定されたようだ。つらい。

「……誰も来ないし……」

足元につけたバツ印を爪先でちょいちょいと弄る。
俺が担当しているはずの第一部隊は訓練場の端の方で恐々とコチラを伺うばかりで、手合わせにやって来る様子はなかった。

どの辺がセクハラなのか聞いてみた方がいいだろうか。
俺にはそんなつもり全くないんだと釈明して、不愉快なことしてたんだったらちゃんと謝って。

いつもなら何かあると真っ先に幼馴染み達に相談するんだけど、戦場では頼もしいヤツらは対人関係になると全くアテにならない。少し前に相談した時は案の定腹を抱えて笑われて終わった。
それならとテオに話してみたらとんでもなく不機嫌になって黙り込んでしまうし。

わざわざ王太子配に迎えた男がフィーバー過ぎたらただのヒト、どころか、セクハラ疑惑が浮上してるだなんて知ったらそりゃ機嫌も悪くなるだろうけれど。

このまま放置したら本格的に嫌われて爪弾きにされてしまうんじゃないか?
騎士に嫌われるってことは貴族に嫌われるってことだ。この国の騎士には平民もいるにはいるけど大半が貴族の息子なんだ。

つまりだ。
そうなったら今のまま王太子配でいることも許されなくなって、テオにちゃんとした女の嫁をとかってなるかもしれない。それ以前にセクハラ三昧らしい夫に愛想を尽かされたりでもしたら。

離婚の二文字が脳裏を過ぎる。
さぁっと青くなる顔。

これはマズイ。
非常にまずい。

テオと並んでも見劣りしない美人なんてのはそうそういないだろうけど、王太子妃なら本来するべき女達との茶会とかエライ人間達の持て成しとか。
そういうのがちゃんと出来て、子どもも産める女。

この国の女達は気を抜くとすぐにペタペタ触ってくるけれど、明るくて愛嬌があって物知りだ。
美醜は人の好みだから置いておくとしても、イイ女なんて山ほどいる。

(テオに、女の嫁)

改めて考えて、首を傾げる。
テオが女の手を取って仲良く笑い合う姿はびっくりするくらいに想像出来なかった。

それもそのはず、基本的に怒っているか良くて不機嫌かのどちらかなテオは女どころか男にすら笑顔を見せない。
元々は婚約者候補だったという公爵家のお姫様にすらニコリともしない。鉄面皮って言われてるのも納得した。
ちなみにそのお姫様は初めて会った時に両手を握って真顔で感謝して来た。

結婚なんてとっくにしていてもおかしくない二十五のテオに対して、お姫様は二十という貴族の女だと嫁ぎ遅れといわれる年齢で。

ギリギリ助かりましたわ、と大きく頷いた彼女に、「候補」のままだった理由をなんとなく察した。

母親の王妃に対しては仲が悪いのかなって心配になるくらい口喧嘩ばかりだし、対応が穏やかなのなんて子どもの頃から世話になってるっていう熟練の専属侍女のミーナとマリアくらい。

でも、テオがその気になったら嫁なんてあっという間に見つかるに決まってる。
頭も良くて剣の腕前だって騎士より上で、なんでも出来るどちゃくそ美人な上にめちゃくちゃかっこいい。オマケに、たまに笑うととんでもなく可愛いんだ。

そうなったら俺以外の人間にもぷりぷり怒りながら甘えたりするんだろうか。
腹の中がモヤっとして、また首を傾げた。

「暑いからか?」

食べ過ぎたつもりはないんだけど胃もたれしてるのかもしれない。
まだ午前中なのに、木々に囲まれたクルシュと比べてこの国の陽射しは強い。騎士の顔が赤くなったのも頷けた。

滲む汗に張り付いたシャツを引っ張る。
風を通すためにパタパタと煽いで、雲一つない空を見上げてもう一度、今度は細く息を吐き出す。

ふだんはこの国の紳士服スーツを着ている俺だけど、訓練となると少し動きにくい。
だから下だけズボンを穿いて上は長袖の黒いシャツを着て、足元は素足に布を巻き補強したクルシュスタイルだ。

本当は幼馴染みと同じ民族服がいいんだけど半裸はダメだって言われてる。誰にってテオにだ。

テオは俺がモテモテだと思い込んでるからアレコレ言うし、このシャツすら不満だったみたいでやたらと上着を着せようとしてきて困った。
邪魔なもの着せたらケガの元だってイザームが言ってくれなきゃスーツで訓練するハメになっていたに違いない。

モテてるくらいならセクハラなんて言われないだろうし、大体の人間は男の半裸になんか興味ないと思うんだけど。言ってもらえているうちが花なのかもしれない。

「揃いも揃って腰抜けかぁ?逃げてんじゃねぇぞコラ」
「おうおうお姫サマ方、腰退けてんぞー」

ポツンと佇む俺の周りは静かなものなのに、幼馴染み達のいる方は随分と賑やかだ。ひっきりなしに上がる悲鳴が不穏過ぎる。

「おまえらによそ見するヨユーなんかねぇんだよ!集中しろ!」
「そりゃムリだ!大将が悪ィ!」

ゲラ笑いしては騎士を煽るサジェドとカーミルに、やたらとキレてるディルガム。
俺を揶揄うのに飽きたのかと思ったけど違った。名指しで悪者にして更に爆笑するカーミルに肩を落とす。

(俺ボッチなだけなんだけど……)

幼馴染みたちのことは大好きだけど正直意味がわからないし、訓練なのかなんなのかもわからない惨状だ。
色んな意味で指導に向かない人間をこんなところに連れて来たらダメだと思う。それを言ったら避けられまくってる俺もかと自分からのブーメランを食らってしょんぼりした。

「連携を意識するんだ!」
「固まれ!盾を構えろ!」
「目を逸らすな!そっちを見るんじゃない!!」

幼馴染み達と相対している騎士は必死の形相だ。
チラチラとこっちを向く顔には無害アピールのつもりで笑顔を返す。
そうすると思い切り目を逸らされ、逸らしたそばからキレてるディルガムに吹っ飛ばされていた。

(なんか、戦場よりひどい……)

戦場じゃないからもちろん死人なんて出ないんだけれども、果たしてコレは訓練と呼べるんだろうか。

そんな感じだというのに、鼓舞し合い、吹っ飛ばされては立ち上がり、呻きながらも果敢に挑む騎士たち。
俺との手合わせが敬遠される理由がセクハラにしても、アッチの方がずっとひどいと思うんだけど。

(え?みんな厳しいのが好き?)

だとしたら確かに俺はヌルいかもと唸る。
受け流したり腕掴んで攻撃封じたり、地面にそうっと押し倒して拘束したりとかばかりだ。敵でもない騎士達を遠慮なくぶっ飛ばせるような幼馴染み達とは全く違う。

(でもなぁ、みんなと違って加減とか、わからないし……)

幼馴染み達は自由気ままな暴れん坊だけど、ちゃんと力の加減ていうものをわかってるんだ。そうじゃなかったら何度も立ち上がれるわけがない。一発くらったら骨がいく。

身体の使い方を熟知している彼らの本気の一撃は、鋭く、重いから。

俺もそうやって調整出来ればいいんだろうけど、元が弱いんだ。どのくらい加減すればちょうどいいのかさっぱりだ。

「はぁ……」

しばらく待っても次の騎士は来なさそうだった。
溜め息を吐いて幼馴染みの方へ足先を変える。
シャツの上から嵌めた腕甲が邪魔で、途中で外し、前屈みになって地面に置く。

動きを妨げないようにピッタリしたシャツを選んでいるけど、動きやすい代わりに汗をかいたら張り付いてくるのが難点だ。
袖を捲りながらどこからか飛んできた剣を顔横で掴み取って、それもそっと置いた。

文字通り真剣が飛び交う訓練に様子を見守っている隊長達は半泣きだ。そりゃそうだ。ただの訓練で大怪我なんてされたらたまったものじゃないだろう。

「お、大将!」

暴れるディルガムの肩をポンと叩くと、さっきまでのキレっぷりから一転して嬉しそうに破顔した。
最年少の幼馴染みは一番大柄だけど一番甘えん坊で、俺も釣られてへらりと笑う。

「大将ヒマなんか」
「やべ、騎士達のあのツラ。ウケるんだけど」

サジェドとカーミルも寄って来て四対二部隊の図の出来上がりだ。
俺を見て愕然としている騎士達には申し訳ないけれども、一応、訓練をするっていう仕事なわけだからやらないわけにもいかない。

「テンション上がって来た!」
「おまえら全員来いよ!こんだけじゃ話になんねぇって」
「弓も全部アリアリなー」

目に見えてウキウキする三人にささくれた心が少し和んでいく。
気心の知れた幼馴染み達といるとやっぱり落ち着くし、安心した。

騒めき盾まで持ち出して本格的な陣形を組み始める、総勢五十人余りの騎士達。
三人は刃を潰した剣を手に持つけれど、加減がわからない俺は獲物は無しの身体一つ。

幼馴染み達の暴れっぷりに青褪めていた隊長達に顔を向ける。
慌てたように武器を手に取り兜を被り、参戦しようとするのを首を振って押し留めた。

「何か、参考になればいいけど」

幼馴染み達と共闘する時、一応、俺が司令塔で盾だ。誰がやってもいいとは思うんだけど何となくそうなってる。
部下を指揮する隊長にとって何かしら得るものがあればいいなあとか図々しいことを考えての言葉だった。

答えは待たずに視線を戻す。
隊長達はテオを慕い国に忠誠を誓う騎士だから、俺みたいな男の言葉にも黙って従ってくれる。

(なるべく触らないようにしよう)

腹の中で決意しつつ、後ろ髪を背中へ払う。
テオが結ってくれたそれを思うとまた少し気分が浮上した。

「いつも通りに」

低く囁けば空気が変わる。
訓練場に緊張感が走り、騎士達が顔を強張らせた。

「おう。左任せろ」
「俺右な」
「イザームいねぇから俺が正面か」
「後ろは?」
「大将いんだろ。問題ねぇよ」

俺の声を合図に三人は獰猛に笑う。
なんだか実践さながらだけども、コレあくまで訓練だからな?と念を押すのは忘れなかった。





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