転生天馬は乙女に寄り添う

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第一章

総合組合ゾディアカルト聖王国支部

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 少人数だが開催場所が城で主催者が一国の王女であり聖女候補の一人であるという盛大に豪華な送別会を開かれた翌日、俺はウルと一緒に城下町までやってきた。
 総合組合ギルドに身元登録して害のない魔物であると証明すると同時に、他国に足を踏み入れるために特殊な身分証を発行してもらうためだ。

 しかし、城下町に入る前からどこからか噂が流れたのだろう。聖女のパーティ──認めたわけじゃない──の一員である俺とウルが連れ立って町に来るとなっては、住民たちも浮き足が立つらしい。
 有名人を一目見ようと野次馬よろしく集まってきたってわけだ。

 にしても、集まりすぎだろう。
 好奇の目に晒されて変に疲れるわ、人混みで思うように進めないわで……。
 ただでさえ馬車に乗れない俺は王城の広い庭から2つの城門を抜けて城下町まで歩いてきたってのに……。



「少し予想外」

(「どうする? このままじゃギルドに辿り着けないぞ」)

「いつもはもっと少ない。これはペガサスの所為」

(「はいはい。それで? どうするかって聞いてるんだが?」)



 【念話】をウルだけに絞ってるから、はたから見れば独り言を話しているように見えるだろう。野次馬のざわめきが大きくなった。



(「【隠密】でも使うか?」)

「名案」



 ウルが腰に下げたポーチから小袋を取り出して、地面に思いっきり投げつけた。
 途端に辺りが真っ白な煙に覆われて視界がゼロになる。

 まあ、俺は【自動地図】があるし、ウルは盗賊として優秀だから気配を読むのが上手い。



(「乗れ」)



 ウルは俺の背中にヒラリと飛び乗り、俺はなるべく煙玉の効果を吹き飛ばさないよう注意しながら人混みを飛び越えるように跳躍した。

 【隠密】は発動条件があり、視覚的に認識されていると発動しないというものがある。だからこそウルは煙玉で視界を塞いだのだが、この群衆の中に感知・察知系スキルを持っている奴がいたら逃亡も無意味になりそうだ。



「ペガサスに乗りたかったから、嬉しい」

(「今回限りだぞ」)

「……今度は、景色を楽しみたい」

(「俺の話聞けよ」)



 俺の心配も杞憂に終わったらしく、無事に人混みから抜け出した俺たちはウルの案内のもと、【隠密】を維持したまま総合組合ギルドゾディアカルト聖王国支部へと駆けて行った。



   ♦︎   ♦︎   ♦︎



 第一印象は町役場みたいな市役所。
 クリーム色の壁に赤茶色の屋根に二階建てと高さはないがその分横に長く、見た感じ中は十分に広そうだった。
 どこか懐かしい雰囲気のある建物だが、剣と盾とドラゴンが描かれた看板に厳つい字でギルドと書かれていて、なんとも言えないアンバランス具合に心の中で苦笑した。

 【隠密】を解除して、再び野次馬に取り囲まれる前に建物の中へと入った。

 総合組合という名前と市役所感漂う建物に違わず、内部は想像した通りに限りなく近い間取りだった。

 入り口正面に受付のカウンター。
 統一感のある制服に身を包んだ男女が等間隔で並んでいて、その後ろにはパーテーションで区切られた一角がある。隙間から書類や何かの道具を抱えた職員が忙しなく行き交い、一言二言言葉を交わしては奥に引っ込んだり受付を飛び出して行く。

 左右に伸びる通路の右側には案内板と掲示板、ちょっとした休憩スペース。その奥に食堂。
 左側には2階に通じる階段と扉が4つ。
 【視覚強化】で確認したプレートには、資料室、会議室1、会議室2、職員休憩室と書いてあった。



「おい、あれ……」

「ああ。ウヌクアルハイだ」

「隣に連れてるのってもしかして……?」



 どうやらここでも注目の的だが、ギルドという枠組みが同じであるだけ外よりはウルの姿を見慣れているのだろう。小声で話すだけで好奇の視線を送り続けるわけでも、一定の距離をとって付いてくるわけでもなかった。

 ただ、行動力はこちらの方が優れていた。



「ウヌクアルハイくん。隣に連れているのは噂のペガサスくんかい?」



 ウルという仲介役がいるのを是幸これさいわいと話しかけてくる人がいた。



「初めまして。僕はアルバート・タルフ。ギルド『知識の明星』のギルド長だよ」



 青み掛かった黒髪にインテリ眼鏡の優しそうな男性が俺に視線を合わせてにっこりと挨拶してきた。

 優しそうに見える本当に優しい人か、腹の中では何を考えているのかわからない悪人かまでは見分けがつかないな。



「ペガサスが驚いてる。アルバートさん、悪い癖」

「驚かせてごめんね。僕は興味があるものや未知のものがあるとつい体が動いちゃう質でね」



 【索敵】で反応はしないし、【自動地図】も緑色の接近だったからそこまで驚いてはいない。

 『知識の明星』。ウルが所属してる生態調査専門のギルド。ウルも心を許してる相手っぽいから悪い人物ではないのだろう。

 警戒は解かないけどな。



「改めまして、ペガサスくん。アルバート・タルフです。好きに呼んでくれて良いからね」

(「じゃあ、アルバートさん」)

「おお! 【念話】! しかも流暢に人間の言葉を話すんだね! 以前会ったことがあるペガサスはもっと傲慢でカタコトの言葉を話していたけど、ずいぶん頭のいい個体みたいだ!」



 圧が凄い……。
 若干早口だから推しについて語るオタクに近いかもしれない。



「あ、ねえ【鑑定】かけていいかな?」

(「は?」)

「最近やっとスキルレベルが3になって、相手の魔法適性がわかるようになったんだ。だからペガサスという種族をもっと知るため、君のことをよく知るために【鑑定】をしたいんだけど良い?」



 矢継ぎ早に言われたことは理解できた。理解できたが即座に「良い」と言うことはできなかった。


(とりあえず【思考加速】Lv.2を発動して……)


 異世界転生あるあるで、ステータスを見られる=転生者ということがバレる=どう頑張っても主人公になってろくなことがない。

 でも、アルバートさんは【鑑定】のレベルがようやく3になったって言ってたよな?


(アルバートさんを【鑑定】)



《名前:アルバート=ルナクア・B・タルフ
 種族:人族
 LV:33
 HP体力:188
 PW攻撃力:227
 DF防御力:201
 SP素早さ:104
 MP魔力:250
 称号:『調合師』
 スキル:【体術】Lv.1
     【調合術】Lv.5
     【回復魔法】Lv.3
     【身体】Lv.1
     【魔法師】Lv.1
     【魔力感知】Lv.3
     【鑑定】Lv.3
 スキルポイント:3300》



(【鑑定】のレベルは合ってるな。んで、そっから【鑑定】を【鑑定】して……)



《【鑑定】Lv.3=鑑定対象の魔法適性がわかる》



 全部正直に言ってたんだな。
 俺、性格悪い──いや。死ねない理由があるなら、人はどこまでも慎重で小賢しく疑り深くなきゃダメだろう。



「ペガサスくん? おーい」

「アルバートさん。無理やりはダメ」

「わかってるよ。だからこうして欲望を抑え付けてお願いしてるんじゃないか」



 【思考加速】が追いつかないほど考え込んでいたみたいだな。

 これ以上うだうだ考えてても仕方ないし、ここで断って変な勘繰りを受けるよりは良いだろうと判断して許可を出した。



「本当に良いのかい?!」

「断っても良い」

(「大丈夫だ。減るものでも……ないだろうしな」)

「じゃあ、お言葉に甘えて【鑑定】Lv.3!」



 まるで無邪気な子供のような笑顔でスキルを発動したアルバートさんは、すぐに研究者のような真剣な顔つきになった。



「へぇ。ペガサスなのに闇属性魔法に適性があるのは初めて知ったよ。文献では風、水、光属性魔法に適正があるって書いてあるんだけどな。僕が人伝に聞いた個体でも闇属性は持ってなかったし、君が特別なのかな? 数百年ぶりに改稿されるかも」



 体も感覚的にも違和感はないが、穴が開くほど真剣な表情で見られ続けると落ち着かない。

 しかも解説というか考察垂れ流しで……。



「名前は他のペガサスと違うところはないね。レベルは……うん。見た目通りまだまだ子供のままかな。もっと【鑑定】のレベルが上がればもっと色々分かるんだろうけどな。まあ、スキルレベルの打ち止めはまだ感じないから今後のお楽しみにしておこうかな」



 アルバートさんのいうスキルレベルの打ち止めとは、レベル上限までカンストしたっていうことじゃなく、それ以上成長が見込めないっていうこと。カウストさん曰く。

 魔物を鑑定すると時々見かける、スキルレベルの左上に付いてる"*"が打ち止めのしるし

 ちなみにレベル表記がないスキルはカンストしてるという意味らしい。
 事実確認の最中って言っていたけど、ここ数十年で進歩や新たな可能性がない限りほぼ確定事実とも言っていた。 



「アルバート。その辺にしておいたらどうだい?」



 しわがれてはいるがよく通る声と共に現れたのは、魔法使い然とした、ただならないオーラを持った老婆だった。

 一体どこから現れたのか……。
 【自動地図】は発動してたけど、アルバートさんに集中しすぎていた所為か視野が狭くなっていたらしい。
 この老婆の方が俺より強いだけっていうのもあるだろう。

 集中しすぎて周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。
 今後の課題だけど、18年生きていて治らなかったものが生まれ変わって物理的に視野が広くなったからといって簡単に治るものでもなさそうだ。



「っこれはレミー様! お身体の具合は大丈夫なんですか?!」

「ああ。昨日ウルから使いをもらってね、珍しい魔物を連れてくると知ってからは元気が有り余ってるよ」



 ギルド内の全員から尊敬の眼差しを向けられ、ところどころで頭を下げたり拝んだりしてる人もちらほら見かける。
 そんな中、ウルはレミーと呼ばれた老婆に頭を撫でられてご機嫌な様子だ。

 野良猫を手懐けるのが上手い婆さんみたいな感じだ。



「この状況でもしっかりアタシを観察してるね」



 鋭い中に面白いものを見たような眼差しを向けながら老婆は言った。



「良い判断だよ。総合組合ギルドに所属するモンはほとんど命懸けさ。注意力を失った瞬間にお陀仏なんてこともザラにある」

(「はぁ……」)



 何を当たり前なことをと思ったが、それは今の俺の状況がそうさせているんだと思い直した。

 もしもこれが現代で、野良猫を撫でる見知らぬ婆さんに同じような警戒心を抱くかと言われたら、答えは十中八九「NO」だろう。
 異世界転生をしてペガサスという魔物に生まれ変わり、離れ離れになってしまったあいつらを探し出して無事を確認するまでは死ねないからこその警戒心。



「ウルの言っていた以上に面白いやつみたいだね。落ち着ける場所でゆっくり話そうじゃないか」



 ローブを翻しながら「着いといで」と一言言い放った老婆は、流れるような足取りで受付左手の階段を上って行った。



「ペガサス。行って」

「そうだね。レミー様が呼んでるから早く行った方が良いよ」

(「あの人、そんなに偉い人なのか?」)

「知らないの?!」

「ペガサス、言葉とか歴史は学んだけどギルドの細かい情報は教えられてない。世間知らず」

(「間違いじゃないけど、世間知らずって言われると嫌な感じだな」)

「何をぐずぐずしてるんだい。さっさと来ないと置いてっちまうよ」

(「はいっ!」)



 反射的に返事をして姿勢を正した俺は、ここまで連れてきてくれたウルに感謝を言って小さく頭を下げた。



「うん。またあとで」

「ペガサスくん。また会おうね」



 アルバートさんもにこやかに手を振って送り出してくれた。

 「また」ということは、『知識の明星』とはこの後も行動をある程度は共にするんだろう。
 今はとにかくレミーと呼ばれた老婆に追い付くため、早足で階段を上った。
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