転生天馬は乙女に寄り添う

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第一章

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 ゾディアカルト聖王国を出発してから3日。
 西に伸びる街道を進んで、目指す目的地は総合組合ギルドの総本山があるギャラクシア王国。

 大国であるゾディアカルトの総合組合はあくまで支部。
 世界のどこにいるのかも分からないあいつらの情報を得るためには、情報が集まる本部に行くのが手っ取り早いらしい。
 それに、転生初日に言っていた神様の言葉。

『ギルドマスターの元に送った』

 あの神様のことだから、最強のギルドマスターの元へと送っただろうと予想できる。
 この世界で最強と呼ばれるギルド『ギガ・インパクト』のギルドマスター、イクス・プラウド。『知識の明星』が知る限りで彼以上の強い人間と出会ったことはないと言う。

 ギャラクシア王国に行けば、確かめたいことがまとめて調べられる可能性があるからと説得され、道すがら他にも有益な情報をタダで教えるからと言われ……。

 今も街道を歩きながら、『知識の明星』のギルマスであるアルバートのガイドを聞いている。

 ちなみに呼び捨てになったのは、「魔物のくせに丁寧に扱ってんのが人間臭くて気持ち悪い」と『知識の明星』のメンバーから言われたから辞めた。
 元人間としては目上や年上の人を呼び捨てにするのに抵抗があるが、確かに納得できる部分もあったしこれ以上フラグを立てないためにもアドバイス(?)は聞き入れようと思った。



「──それで、僕らが見つけた新種の薬草がここをまっすぐ行ったところにある森にあるんだ」

(「薬草か……」)



 いつぞやのあの母娘おやこは今どうしてるだろう。



「ペガサスくんは薬草に興味あるかい? それなら──」

(「はぁ……。アルバート、おしゃべりはそれくらいにしよう」)

「ん? どうしたんだい?」

「ペガサス、何か…………! アルバートさん。殺気が近い」

「……【索敵】を習得したばかりのウルより探知範囲が広いということは、このペガサスくんには最初から【索敵】が付いてる? いや、人里まで降りてくるくらいだから自然と身に付いたのかな?」



 それどころじゃないっていう話をしているのに、アルバートはポケットから分厚い手帳を取り出して何事かを書き込み始めた。



「アルバート、いつもの悪い癖が出てるわよー」

「メイシェル氏。アルバート氏のメモ癖は死んでも治らないモノですぞ。良い加減諦めましょうぞ」



 『知識の明星』のメイシェルとガスパル。
 メイシェルは男勝りな姐御って感じの女性で、女傑っていうよりは女隊長って感じ。呼び捨て云々を言われたのもこの人。
 ガスパルは特徴的な口調だが知的な見た目そのままのイケオジで、知識武装タイプで相手の弱点を上手く突く参謀って感じだ。
 それぞれタンクとレンジャー。俺以外が判断してもしっくりきすぎてびっくりするだろう。



「みんな真面目にやって」

「ごめん。それで数は?」

「……」

(「5人だな。正面から3人、左右に一人ずつ。奇襲狙いってことは相手は人間かそれに近い知能を持つ魔物だろうな」)

「……ペガサスみたいに頭の良い魔物がゴロゴロいてたまるかってのよ」

「メイシェル殿に激しく同意しますぞ」



 ワイワイしつつもしっかり戦闘体勢を取るあたり、『知識の明星』が信頼できるギルドであるという証だろう。



「索敵は勘で充分。ペガサスが悪い」

(「俺のお陰で索敵の重要性が分かっただろ?」)

「……戦闘経験は私の方が上。だから……いい!」



 こちらに向かって放たれた矢をウルは苦無くないで叩き落としながら言った。

 かっこいいな。
 俺もいつかやりたい。

 なんて悠長に考えてる場合じゃなかったな。



(「来るぞ!」)

「盗賊? もう少しで大通りだって言うのに、空気の読めない奴らね!」

「先手を取られた分、きっちり取り返しますぞ!」



 ガスパルがショートボウを取り出して素早く左右の奇襲班を牽制ないし仕留めに入ると、既にカイトシールドを構えていたメイシェルが3人組に突っ込んでいった。

 俺もしっかり働かないとな。

 ウルがメイシェルのサポートに入ったから、俺はガスパルのサポートに回ろうと使い慣れた【雷属性魔法】を発動した。


(【雷弾ライトニングブレッド】)


 俺的にそこそこ威力があって使いやすい【雷弾】はお気に入りの魔法だ。ただ、いつぞやの【風属性魔法Lv.2 風刃ウィンドカッター】と同じで盾や品質の高い鎧で防がれると途端に放電のように霧散してしまう。



 それでもしっかり足止めとヘイト稼ぎはできた。
 敵の意識が俺に向いた瞬間を見計らって、ガスパルがショートボウで次々に盗賊の手足を撃ち抜いていった。

 威力は無いが速射ができるのがショートボウの強みだよな。



「これでトドメだよ!」



 メイシェルが最後の一人にシールドアタックをかまして盗賊全員が戦闘不能になった。



「うんうん。みんな強いね。僕は安心してペガサスくんの勇姿を記録できて満足だよ」

「アルバートさんはもっと働くべき」

「そうですぞ。尊敬できるリーダーとはいえ、戦えないことは無いのですからせめて戦闘に参加するだけでも全員の負担は減るのですから」



 戦闘に一切関与しなかったアルバートに、方々ほうぼうから野次が飛んだ。

 俺も戦ってるところ見てみたかったんだけどな。
 調合師の立ち回りが知りたかったんだが、こればっかりは俺が口出しすることじゃないし、機会が訪れるまで大人しく待つとするか。



「明らかに余裕な相手に、なんでデバフやバフが必要になるんだい? 君たちだけで十分じゃないか。それに俺はこの道程で存分にペガサスくんを観察するんだから、むしろ観察の邪魔をしないで欲しいと言っておくよ」



 自分の興味のあることには他人が引くくらいのめり込み、興味のないことは冷徹にすっぱりと切り捨てることができる。
 アルバートは研究者気質に多い性格通りの人物らしい。
 ということは、興味を失った人間にも冷徹な判断が向けられることがあるのだろうか……。

 なんてな。



「あーわかったわかった。アルバートはそういうやつよね」

「アルバート氏の知識に助けられている部分が多々あるゆえ、あまり強く責められぬのも事実ですし。なればこそ、いざという時は頼りにしてますぞ」

「任せといて」

「メモ書きながら言っても説得力ない」

「せめてこいつらをふん縛るの手伝ってくれてもバチは当たらないのに……」

「いやいや、むしろこれぞアルバート氏と言えるでしょう」



 手早く盗賊たちを縄で縛り上げ、馬車の邪魔にならないように道の脇に転がしたメイシェルとガスパールと俺。
 戦闘中も感じたが、盗賊が俺の姿をまじまじと見てるのはペガサスという幻獣種が原因だからだろう。つまりは俺の姿が珍しくてしょうがないらしい。



「こいつら、ずっとあんたを見てるね」

「ペガサス、珍しい」

「キリオス氏が我らの仲間だと知って動きが止まりましたからな。お陰でとても楽に制圧できて感謝ですぞ」

「こいつらが弱いだけ。ペガサス……キリオス、まだ子供」



 俺に固有名がついてると知って更に驚く盗賊たち。

 ガスパルは俺のことを名前で呼んでくれてるが、ウルは"ペガサス"呼びが定着してるのかなかなか名前で呼ばない。
 呼び捨て云々言っていたメイシェルは今みたいに俺に固有名が付いていることをドッキリのネタにしたいらしく、普段はキリオス呼びだが外行きになるとペガサスと呼び、タイミングを見計らって名前で呼ぶというなんとも面倒な手順を踏んでいる。



「ペガサスくん、売ったら高そうだもんね」

(「真顔で言うのやめろ」)

「売らないよ。こんな貴重な人材」



 真顔から一転して良い笑顔でそう言ったアルバートはちょっと怖かった。研究者気質とでも言うのか、そのうち解剖でもされるんじゃないかと想像してしまった。



「アルバートさん、総合組合ギルドに連絡した」

「お、ありがとう! さすがウルは手際が良いね」

「……うん」

「嬉しそうにしちゃってまあ。良かったね、ウル」



 ウルのアルバートに対する感情はあからさまだ。
 想い人に対する恋慕の気持ちに近いものがありながらも、それは親鳥と雛鳥のようでもあり師匠と弟子のようでもある。実際は命の恩人らしいが、ウルからは恩を超えた恋慕の念が見え隠れしている。

 まあ、だからどうしたっていう話だが、不用意にフラグは立てないに越したことはないという自戒の意味を込めてみる。



「さっさと回収してくれれば良いけど、どうする? アルバート」

「放置で良いんじゃないかな? 野犬なり魔獣なりに襲われたとしてもそれは自業自得だし。そこまで金銭に困ってるわけじゃないし……っと。できた」



 手帳に必要な情報を書き終えたんだろう。アルバートはホクホクとした顔で手帳を元の場所にしまいこみ、盗賊が襲ってきたという事実が無かったかのように先ほどまで話していた俺のレアリティの高さについて熱く語り始めた。
 メンバーはそんなアルバートには慣れっこなのか、こちらも盗賊に襲われた出来事を日常の一部として消化していた。


 ──これも異世界、か……。


 この世界に前世の日本や世界みたいに細かい法律があるわけじゃない。
 犯罪者は牢屋に入れられて、重罪を犯せば裁判もなく簡単に処刑される。疑わしきは罰せられる世界。



「ペガサス、ボーッとしてると置いてくよ」

(「ああ」)


 ──他のやつらも魔物に転生してるとしたら、どうか人間と敵対してるような種族じゃないことを祈るしかない。
 美貴、夏帆、辰巳……。俺が見つけるまで死ぬなよ!


 そう思って盗賊に振り返った。
 真正面から、幻の魔獣と呼ぶに相応しい佇まいを意識して睨みつける。

 盗賊という先入観の所為なのか、この世界の構造システムなのか知らないが、こいつらをじっと見てると嫌悪感が足元からジワジワ這い上がってくるような不快さに襲われる。

 もしかしたら俺が魔物という種族ゆえの感情なのか……。

 四足歩行や翼があること、視界の広さと感覚の鋭さ、魔力。
 人間だった頃との違いに戸惑っていた当初より、だいぶペガサスという新たな人生(馬生)に慣れてきていたが、まだまだ自分の知らないことも多い。

 魔法についてもそうだ。
 雷属性魔法が相手の武器・防具に弾かれたり、威力減衰したり……。

 『知識の明星』と行動を共にすると決まってからすぐにアルバートに魔法について聞いたが、どうやら人間でも時々威力が出ずに武器や防具に弾かれたりすることがあるらしい。しかし、魔物でそういう事例は聞いたことがないという。


 ──俺が元々人間だから?

 
 でも、威力が出ないのは個人の魔力保有量に影響を受けるらしく、物理より魔法が得意な俺としては腑に落ちない。それはここに居る『知識の明星』全員が思ったことだ。

 そんな中でいちばんの知識量を誇るのアルバートの見解としては、生後一年と経っていないから能力の使い方に慣れてないんじゃないかということだが、確かに色々やってる気がするが俺はまだ一年もペガサスとして生きていない。

 結局は、時間という経験が解決するだろう。という締まらない結果に落ち着いた。


 ──うん。死ななきゃ良い。時間はまだまだある。ゆっくり、俺の性能とこの世界について学んでいこう。



「あと少し歩いたら今日も野宿するから、みんな今のうちに食糧とか探しておいてね」

「今日こそペガサスに勝つ」

「ウル氏はまず【毒耐性】頼りになんでもかんでも味見するのを止めるべきですな」

「美味しければ良い」

(「毒入ってたら意味ないだろ」)

「ホントにね。何度ウルに殺されかけたか……」

「今日も解毒のポーション用意しておくね」

(「もう少し植物に詳しくなれよ」)

「「「ウル(氏)は無理」」」



 『知識の明星』全員からの"無理"という否定に、ウルはどこまで行っても戦闘特化だということだ。

 暗殺術や人体の構造については造詣が深いのに、学力的なことや家庭的なことについてはからっきし。魔物や魔獣、敵対する国や勢力には詳しいのに植物や細やかな地理、歴史や政治には疎い。

 敵に容赦がなく、急所を飛び道具で狙わせたらほぼ外さない。
 女の子らしく柔軟な体と小さい体を活かした速度で接近戦もこなす。
 血に濡れても気にしないが、アルバートが「仕方ないな」って拭ってたからもしかしたらそれを待ってるのかもしれない。そういう可愛らしい面もある。
 でも拭いてもらえない時は夜中に水浴びするまでそのままなのはやめてほしい。ちょっと怖い。

 レミーさんの秘蔵っ子ということで彼女に育てられたらしいが、どういう教育方針だったんだ……。
 まあ、戦争孤児らしいから色々と複雑な心境とかもあったんだろう。この辺は深掘りせずにあっさり流す。変に突っついてフラグ立ったら面倒だしな。

 そして……。
 メイシェル自慢のキャンプ飯を食べてから交代で寝ずの番をしてを繰り返すこと更に3日。
 ついにギャラクシア王国に辿り着いた。
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