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第一章
ギャラクシア王国
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王国を出てたった6日で到着してしまう隣国。
(まあ、情報ギルド独自の安全で──比較的という枕詞がつくが──素早く到着できるルートを通ってきたが)
現代に生きていた俺からすれば長い道のりだけど、異世界転生系のラノベや漫画を読んでいた知識からすると短い気もする。
ただ、それだけこのギャラクシア王国の敷地が広いだけなんじゃないかと思うくらい凄い光景が目の前に広がっていた。
なぜなら異世界あるあるの、国をぐるっと囲む巨大な塀(ウォールなんちゃらみたいなやつ)が建てられており、上空を守るように魔法の障壁みたいなものが張られているからだ。
ゾディアカルト聖王国も大きい国だと思ったが、ギャラクシア王国は更にでかい。例えるなら東京都と埼玉県くらい違う。大体2倍くらいだと思う。
そんな王国の検問所にいる俺は、改めて総合組合での身分証を発行して良かったと思う出来事の真っ最中だった。
「なるほど。『知識の明星』の召喚獣や使い魔というわけではなく、この……ペガサス、は個人……? での登録になるんですね」
右後脚にギルドの証を付けてるから、必然検問してたおっさんも俺の右後ろにしゃがみ込んでるわけで……。
早く退かないと蹴ってしまいそうである。
これが馬の習性か? 落ち着かない。
「はい。誘ったのに振られちゃいました」
「ペガサス、いつでも歓迎」
「同感ね」
「キリオス氏が加入してくれたのなら戦力的にも申し分ないですし、何より『知識の明星』として名声が上がるでしょうな」
(「何度も言うが却下だ。俺はどこかに所属するつもりは毛頭ない。ただ……」)
『知識の明星』は情報専門のギルドだ。
今後も何かと頼ることがあるだろうし、何かしらの繋がりは持っておくべきだろう。
そう思って提案だけはしておく。
(「アルバートたちには世話になったし、必要なら手を貸すのもやぶさかじゃない」)
「やぶさかってことは全面的に協力してくれるってことだよね? そこまで言うのに仲間になってくれないなんて、ペガサスはいけずだね」
嬉々として詰め寄ってくるアルバートにちょっとだけ身を引いた。
そのおかげなのか検問官のおっさんがようやく立ち上がって退いてくれたから、少しだけアルバートに感謝だな。
「はい。特に問題もないようなのでこのままお通りください」
「ありがとう」
(「どうも」)
門を通過すると、目の前に広がるのは整然とした街並みだった。
ゾディアカルト聖王国が白や金、クリーム色を基調としているなら、ギャラクシア王国はまさに西洋の街並みを模したような煉瓦造りの建物が多く、ところどころに黒や銀の差し色とでも言うのか──もしかするとギャラクシア王国の国色なのかも知れない。綺麗だけど綺麗だけじゃないそんな厳つい、キリッと整備された国だと感じた。
検問所近くは宿屋や土産屋がところどころに建てられているくらいで、あとは木造の検問官が寝泊まりする小屋と……収容所だろうか、木製の小屋の隣に不釣り合いな冷たい石造りの塀に囲まれた一角があった。
「あそこはペガサス君が思ってる通りの場所だよ」
ずっと見ていたわけじゃないのに、アルバートがそっと耳打ちしてきた。
「小さく思えるだろう? 実は地下に大きな牢屋があってね。出入りの際に悪いことしたらあそこの牢屋行きなんだよ。ちなみにこの国の地下には秘密の通路が張り巡らされていて、罪状によってはそのまま断頭台行きだから気を付けてね」
「実際、月に何件かは違法取引だのなんだので犯罪者が捕まって豚箱行きになるのよ」
悪いことはできないな……。いや、犯罪なんて犯したら天国の母さんに鉄拳制裁されそうで怖いからやらないけどな。
「さて、無事にギャラクシア王国に着いたわけだけど、このまま本部まで一緒に行くよね?」
(「そうだな。そうしてくれるとありがたい」)
「ついでに街案内もしてやったらどう? 本部でやることやったらすぐ出発ってわけでもないのよね?」
メイシェルがウルにウィンクしながら提案していた。
彼女のことを思って言ったのだろう。
そこそこ付き合いがあるウルは、俺との別れを名残惜しく感じているのかもしれない。そうだと嬉しいが、同時に少し照れ臭くもあり、あまり情を移すものじゃないと自分を戒めた。
俺としても街案内は素直に嬉しいから素直に了承したが、このままずるずると一緒にいると離れがたくなるのは向こうもこっちも同じことだし、あんまりゆっくり観光もしてられないからタイミングをみて別れを切り出してあっさりと一人旅することにしよう。
情報専門ギルドのギャラクシア王国についての説明はとても分かりやすかった。聞けば副業としてツアーコンダクターのようなことをしているとのこと。
「ギャラクシア王国はトラバント大陸最大の広さで、建国の歴史の年月と相まって始まりの王国とも呼ばれてるんだ。まあ、それくらいは知ってるよね?」
王城でカウストさんから習った歴史でそんなことが書いてあったのを思い出して頷いた。
「帝国と1、2を争う軍事国家でもあるから、行軍や騎馬隊が通りやすいように街道は広めに作ってあって、王城を中心に東西南北に道の整備がしてあるのも建物が建てられてるのもそういう理由なのは知ってた?」
(「それも聞いた」)
「あははは。まあそうだよね。あの王城で学んだんでしょ? 特に、君みたいな意欲のある生徒にはあの人優しいから」
(「生徒……ということは、カウストさんは何人も教え子がいるのか?」)
「教え子って……独特な言い回しを知ってるのね」
「ペガサス、昔から人間みたい」
「知能の高さといい、考え方といい、ペガサスとは……幻獣種とは不思議な種族ですな」
……なんかもう、色々誤魔化すのが面倒になってきた。
幸い、幻獣種っていうのは本当に個体数が少なくて『知識の明星』にもデータはほとんどないらしいから、幻獣種は総じて特殊であるという事実をここで作ってしまおうかと思った。
母馬さんには迷惑かかるかも知れないけど、父馬さんにはそれくらいの迷惑くらいはかけて良いだろう。誕生が歓迎されてないのか、ただの放任主義か、はたまた完全実力社会なのか……。
どちらにしてもこれくらいは息子のヤンチャとして許してほしい。
それに、男は少しヤンチャな方が良いんだろ? 母さん、父さん。
「あの人の話は置いといて、ギャラクシア王国の案内を続けようか」
アルバートはどうやらカウストさんが苦手としているように感じる。終始苦笑いのような表情だし、今も彼の話題から逃げるようにギャラクシア王国についての情報をリズム良く吐き出している。
「名産と呼べるほどの物はないけど、軍事力は世界でもトップクラスに高いね。総合組合の総本山ってだけじゃなく、交易も盛んだから武器も魔道具も揃うし、何より王国騎士団の強さも相当なものだよ」
「有名なのは騎士団だけじゃない。きちんと名産はある」
テンポの良かったガイドにすかさず反論したウルだったが、メイシェルからの反論が上がった。
「アレを名産って言い張るのはウルくらいよ」
彼女の横でガスパルもしっかりと首肯している。もちろんアルバートの顔も「もの好きだね」と言いたげな表情だが、口に出して否定することはしなかった。
そこまで匂わされるととても気になるもので、広い視野に頼らずしっかりとウルの方に顔を向けて素直に聞いてみた。
(「その名産ってなんなんだよ」)
「毒蜘蛛の姿焼き」
(「……それは置物か呪具なのか?」)
「食べ物。香ばしくて独特の苦味があって美味しい」
他の意見を求めることすら必要ないほど彼らの意見は分かっていたが、それでもウルの言ったことが事実なのか確かめたくて、ウルの顔を見たままアルバート達だけに念話を飛ばした。
無言で頷くガスパル。
姿焼きが売っている屋台がある方角をさりげなく指し示すメイシェル。
「味覚音痴」と言いかけるアルバート。しかし、しっかり聞き取られていて鳩尾を容赦なく殴られていた。
「ペガサス。私以外に念話飛ばした。仲間はずれはダメ」
(「……事実確認しただけだ」)
「私が美味しいって言ってる。信用ない?」
(「いやいや、信頼はしてるが毒蜘蛛だぞ? 他のヤツらの反応を見れば大体自分がどう思われてるか想像できるだろ」)
「……一度は食べるべき。食わず嫌いよくない」
(「いや、でも──」)
「食べる、べき」
変な圧をかけられて思わず頷いてしまった俺は、いそいそと毒蜘蛛の姿焼きを買いに行ったウルを見送ることしかできなかった。
女の子の頼みは断りにくいっていう俺の性格もあるんだろうがな……。
ちなみに、メイシェル以外は経験済みだという。
大衆受けはしないが、珍味好きやアルコール度数の高い酒には合うのだという理由で酒豪の間でも一定数人気があるらしい。
「買って来た。人数分」
「いや! アタシは要らないからっ! 見るのも嫌だから!!」
「僕も要らないかな」
「ウル殿とキリオス殿で分けていいですぞ」
6匹の毒蜘蛛の姿焼き。感情の起伏が薄いウルが笑顔だと分かるくらいニコニコして両手に持っている香ばしく焼けたソレを拒絶するメンバーに、彼女は少しだけがっかりしたような顔をしたあと気を取り直して俺に向かって差し出して来た。
(……一応【鑑定】)
《ケイブスパイダーの丸焼き=ステライト山脈に生息する蜘蛛型の魔物の丸焼き。特殊な製法でほぼ無毒化されている。独特な苦味があり度数の強い酒に合う》
(ケイブスパイダーを【鑑定】)
《ケイブスパイダー=ステライト山脈の山麓部から中腹部にかけて生息している強い毒性を持った蜘蛛型の魔物。昆虫種の中でも知能が高く、糸や毒を使った攻撃をする》
なんか説明が怖い気がするが、一応食べ物としては登録されているらしい。
しかし──。
(「本当にコレを食うのか?」)
「ペガサス、食べて」
ずいと口元に差し出されたソレの匂いを嗅いでみる。
料理に詳しいわけじゃないが、数種類のハーブが使われてそうな香りがした。
ただ、味付けはそれくらいっぽくてタレがかかってるとか何かに漬け込んだとかいう感じではなく、本当に塩胡椒と乾燥させて砕いたハーブがかかってるくらいだと思う。
毒蜘蛛らしく体を細かい毛っぽいのが覆っているから、それがハーブに見えるだけかもしれないが……。
「ん」
(「食うから! 分かったから、押し付けんな」)
無理やり口の中に突っ込みそうな強さで鼻先に押し付けてくるウルの手から、毒蜘蛛の姿焼きに向かって口を開けて……一口齧ってみせた。
(…………思ったほど苦くはないな。なんか口内がチクチクしてる気もするが、味は悪くない気がする)
何度か咀嚼し、飲み込む。
喉越しも焼き魚と大差なく、苦味も血合いだと思えば気にならない。むしろチクチクした食感も魚の鱗や鰭、小骨のようだと思えば全然食べられる気がする。
「どう?」
(「……悪くないな」)
早い段階でペガサスでも肉食が可能と分かってから、俺は結構ありとあらゆるものを食べてきたと思うが──ゾディアカルト聖王国で王城に住んでいた時に色々食べさせてもらった──昆虫食は初めてにしては悪くなかった。
だからと言って今後も食べたいとは思わない……はずだ。
異世界の食事なんて、行き当たりばったりが常だろうしな。
それより、【人化】の優先度が下がりつつあるのはどうしたもんか……。
「ペガサスが食べた……! やった!」
小さな声と動作で喜んだウルはに対して、『知識の明星』の仲間も珍しいものを見たように「おっ」という顔をしていた。
「……早く総合組合本部に行くべき」
照れ隠しということが丸わかりな彼女の素っ気ない言葉と足取りに、俺たちは顔を見合わせて笑ったのだった。
(まあ、情報ギルド独自の安全で──比較的という枕詞がつくが──素早く到着できるルートを通ってきたが)
現代に生きていた俺からすれば長い道のりだけど、異世界転生系のラノベや漫画を読んでいた知識からすると短い気もする。
ただ、それだけこのギャラクシア王国の敷地が広いだけなんじゃないかと思うくらい凄い光景が目の前に広がっていた。
なぜなら異世界あるあるの、国をぐるっと囲む巨大な塀(ウォールなんちゃらみたいなやつ)が建てられており、上空を守るように魔法の障壁みたいなものが張られているからだ。
ゾディアカルト聖王国も大きい国だと思ったが、ギャラクシア王国は更にでかい。例えるなら東京都と埼玉県くらい違う。大体2倍くらいだと思う。
そんな王国の検問所にいる俺は、改めて総合組合での身分証を発行して良かったと思う出来事の真っ最中だった。
「なるほど。『知識の明星』の召喚獣や使い魔というわけではなく、この……ペガサス、は個人……? での登録になるんですね」
右後脚にギルドの証を付けてるから、必然検問してたおっさんも俺の右後ろにしゃがみ込んでるわけで……。
早く退かないと蹴ってしまいそうである。
これが馬の習性か? 落ち着かない。
「はい。誘ったのに振られちゃいました」
「ペガサス、いつでも歓迎」
「同感ね」
「キリオス氏が加入してくれたのなら戦力的にも申し分ないですし、何より『知識の明星』として名声が上がるでしょうな」
(「何度も言うが却下だ。俺はどこかに所属するつもりは毛頭ない。ただ……」)
『知識の明星』は情報専門のギルドだ。
今後も何かと頼ることがあるだろうし、何かしらの繋がりは持っておくべきだろう。
そう思って提案だけはしておく。
(「アルバートたちには世話になったし、必要なら手を貸すのもやぶさかじゃない」)
「やぶさかってことは全面的に協力してくれるってことだよね? そこまで言うのに仲間になってくれないなんて、ペガサスはいけずだね」
嬉々として詰め寄ってくるアルバートにちょっとだけ身を引いた。
そのおかげなのか検問官のおっさんがようやく立ち上がって退いてくれたから、少しだけアルバートに感謝だな。
「はい。特に問題もないようなのでこのままお通りください」
「ありがとう」
(「どうも」)
門を通過すると、目の前に広がるのは整然とした街並みだった。
ゾディアカルト聖王国が白や金、クリーム色を基調としているなら、ギャラクシア王国はまさに西洋の街並みを模したような煉瓦造りの建物が多く、ところどころに黒や銀の差し色とでも言うのか──もしかするとギャラクシア王国の国色なのかも知れない。綺麗だけど綺麗だけじゃないそんな厳つい、キリッと整備された国だと感じた。
検問所近くは宿屋や土産屋がところどころに建てられているくらいで、あとは木造の検問官が寝泊まりする小屋と……収容所だろうか、木製の小屋の隣に不釣り合いな冷たい石造りの塀に囲まれた一角があった。
「あそこはペガサス君が思ってる通りの場所だよ」
ずっと見ていたわけじゃないのに、アルバートがそっと耳打ちしてきた。
「小さく思えるだろう? 実は地下に大きな牢屋があってね。出入りの際に悪いことしたらあそこの牢屋行きなんだよ。ちなみにこの国の地下には秘密の通路が張り巡らされていて、罪状によってはそのまま断頭台行きだから気を付けてね」
「実際、月に何件かは違法取引だのなんだので犯罪者が捕まって豚箱行きになるのよ」
悪いことはできないな……。いや、犯罪なんて犯したら天国の母さんに鉄拳制裁されそうで怖いからやらないけどな。
「さて、無事にギャラクシア王国に着いたわけだけど、このまま本部まで一緒に行くよね?」
(「そうだな。そうしてくれるとありがたい」)
「ついでに街案内もしてやったらどう? 本部でやることやったらすぐ出発ってわけでもないのよね?」
メイシェルがウルにウィンクしながら提案していた。
彼女のことを思って言ったのだろう。
そこそこ付き合いがあるウルは、俺との別れを名残惜しく感じているのかもしれない。そうだと嬉しいが、同時に少し照れ臭くもあり、あまり情を移すものじゃないと自分を戒めた。
俺としても街案内は素直に嬉しいから素直に了承したが、このままずるずると一緒にいると離れがたくなるのは向こうもこっちも同じことだし、あんまりゆっくり観光もしてられないからタイミングをみて別れを切り出してあっさりと一人旅することにしよう。
情報専門ギルドのギャラクシア王国についての説明はとても分かりやすかった。聞けば副業としてツアーコンダクターのようなことをしているとのこと。
「ギャラクシア王国はトラバント大陸最大の広さで、建国の歴史の年月と相まって始まりの王国とも呼ばれてるんだ。まあ、それくらいは知ってるよね?」
王城でカウストさんから習った歴史でそんなことが書いてあったのを思い出して頷いた。
「帝国と1、2を争う軍事国家でもあるから、行軍や騎馬隊が通りやすいように街道は広めに作ってあって、王城を中心に東西南北に道の整備がしてあるのも建物が建てられてるのもそういう理由なのは知ってた?」
(「それも聞いた」)
「あははは。まあそうだよね。あの王城で学んだんでしょ? 特に、君みたいな意欲のある生徒にはあの人優しいから」
(「生徒……ということは、カウストさんは何人も教え子がいるのか?」)
「教え子って……独特な言い回しを知ってるのね」
「ペガサス、昔から人間みたい」
「知能の高さといい、考え方といい、ペガサスとは……幻獣種とは不思議な種族ですな」
……なんかもう、色々誤魔化すのが面倒になってきた。
幸い、幻獣種っていうのは本当に個体数が少なくて『知識の明星』にもデータはほとんどないらしいから、幻獣種は総じて特殊であるという事実をここで作ってしまおうかと思った。
母馬さんには迷惑かかるかも知れないけど、父馬さんにはそれくらいの迷惑くらいはかけて良いだろう。誕生が歓迎されてないのか、ただの放任主義か、はたまた完全実力社会なのか……。
どちらにしてもこれくらいは息子のヤンチャとして許してほしい。
それに、男は少しヤンチャな方が良いんだろ? 母さん、父さん。
「あの人の話は置いといて、ギャラクシア王国の案内を続けようか」
アルバートはどうやらカウストさんが苦手としているように感じる。終始苦笑いのような表情だし、今も彼の話題から逃げるようにギャラクシア王国についての情報をリズム良く吐き出している。
「名産と呼べるほどの物はないけど、軍事力は世界でもトップクラスに高いね。総合組合の総本山ってだけじゃなく、交易も盛んだから武器も魔道具も揃うし、何より王国騎士団の強さも相当なものだよ」
「有名なのは騎士団だけじゃない。きちんと名産はある」
テンポの良かったガイドにすかさず反論したウルだったが、メイシェルからの反論が上がった。
「アレを名産って言い張るのはウルくらいよ」
彼女の横でガスパルもしっかりと首肯している。もちろんアルバートの顔も「もの好きだね」と言いたげな表情だが、口に出して否定することはしなかった。
そこまで匂わされるととても気になるもので、広い視野に頼らずしっかりとウルの方に顔を向けて素直に聞いてみた。
(「その名産ってなんなんだよ」)
「毒蜘蛛の姿焼き」
(「……それは置物か呪具なのか?」)
「食べ物。香ばしくて独特の苦味があって美味しい」
他の意見を求めることすら必要ないほど彼らの意見は分かっていたが、それでもウルの言ったことが事実なのか確かめたくて、ウルの顔を見たままアルバート達だけに念話を飛ばした。
無言で頷くガスパル。
姿焼きが売っている屋台がある方角をさりげなく指し示すメイシェル。
「味覚音痴」と言いかけるアルバート。しかし、しっかり聞き取られていて鳩尾を容赦なく殴られていた。
「ペガサス。私以外に念話飛ばした。仲間はずれはダメ」
(「……事実確認しただけだ」)
「私が美味しいって言ってる。信用ない?」
(「いやいや、信頼はしてるが毒蜘蛛だぞ? 他のヤツらの反応を見れば大体自分がどう思われてるか想像できるだろ」)
「……一度は食べるべき。食わず嫌いよくない」
(「いや、でも──」)
「食べる、べき」
変な圧をかけられて思わず頷いてしまった俺は、いそいそと毒蜘蛛の姿焼きを買いに行ったウルを見送ることしかできなかった。
女の子の頼みは断りにくいっていう俺の性格もあるんだろうがな……。
ちなみに、メイシェル以外は経験済みだという。
大衆受けはしないが、珍味好きやアルコール度数の高い酒には合うのだという理由で酒豪の間でも一定数人気があるらしい。
「買って来た。人数分」
「いや! アタシは要らないからっ! 見るのも嫌だから!!」
「僕も要らないかな」
「ウル殿とキリオス殿で分けていいですぞ」
6匹の毒蜘蛛の姿焼き。感情の起伏が薄いウルが笑顔だと分かるくらいニコニコして両手に持っている香ばしく焼けたソレを拒絶するメンバーに、彼女は少しだけがっかりしたような顔をしたあと気を取り直して俺に向かって差し出して来た。
(……一応【鑑定】)
《ケイブスパイダーの丸焼き=ステライト山脈に生息する蜘蛛型の魔物の丸焼き。特殊な製法でほぼ無毒化されている。独特な苦味があり度数の強い酒に合う》
(ケイブスパイダーを【鑑定】)
《ケイブスパイダー=ステライト山脈の山麓部から中腹部にかけて生息している強い毒性を持った蜘蛛型の魔物。昆虫種の中でも知能が高く、糸や毒を使った攻撃をする》
なんか説明が怖い気がするが、一応食べ物としては登録されているらしい。
しかし──。
(「本当にコレを食うのか?」)
「ペガサス、食べて」
ずいと口元に差し出されたソレの匂いを嗅いでみる。
料理に詳しいわけじゃないが、数種類のハーブが使われてそうな香りがした。
ただ、味付けはそれくらいっぽくてタレがかかってるとか何かに漬け込んだとかいう感じではなく、本当に塩胡椒と乾燥させて砕いたハーブがかかってるくらいだと思う。
毒蜘蛛らしく体を細かい毛っぽいのが覆っているから、それがハーブに見えるだけかもしれないが……。
「ん」
(「食うから! 分かったから、押し付けんな」)
無理やり口の中に突っ込みそうな強さで鼻先に押し付けてくるウルの手から、毒蜘蛛の姿焼きに向かって口を開けて……一口齧ってみせた。
(…………思ったほど苦くはないな。なんか口内がチクチクしてる気もするが、味は悪くない気がする)
何度か咀嚼し、飲み込む。
喉越しも焼き魚と大差なく、苦味も血合いだと思えば気にならない。むしろチクチクした食感も魚の鱗や鰭、小骨のようだと思えば全然食べられる気がする。
「どう?」
(「……悪くないな」)
早い段階でペガサスでも肉食が可能と分かってから、俺は結構ありとあらゆるものを食べてきたと思うが──ゾディアカルト聖王国で王城に住んでいた時に色々食べさせてもらった──昆虫食は初めてにしては悪くなかった。
だからと言って今後も食べたいとは思わない……はずだ。
異世界の食事なんて、行き当たりばったりが常だろうしな。
それより、【人化】の優先度が下がりつつあるのはどうしたもんか……。
「ペガサスが食べた……! やった!」
小さな声と動作で喜んだウルはに対して、『知識の明星』の仲間も珍しいものを見たように「おっ」という顔をしていた。
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