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第36話
しおりを挟む第36話 創造の臨界点
――世界が、軋む音を立てていた。
現夢時代を包んでいた虹色の空が、
いま、金と紫に二分されている。
その中心で、二人の“エリス”が対峙していた。
一人は現実を創り続ける者。
一人は終わりを与え、永遠を固定しようとする者。
創造と停止。
運動と安定。
両者のぶつかり合いが、想界の法則を崩壊へと導いていた。
⸻
金の光を纏った“エリス”が叫ぶ。
「あなたの世界は、呼吸をしない!
それは永遠じゃない、ただの“閉じた箱”よ!」
黒く輝く“虚数のエリス”が微笑む。
「でも、箱の中には“痛み”がない。
争いも、喪失も、絶望も……もう誰も泣かないの。」
「それは“生きてない”!」
「違うわ。“完成している”の。」
虚数のエリスが両手を掲げると、
空が反転し、無数の“鏡世界”が展開された。
どれも異なる未来、異なる選択肢の世界――
だが、どれも完璧に“止まった”瞬間の記録。
「見て。
これはあなたが選ばなかった可能性たち。
戦いをやめたあなた、
蓮を救えたあなた、
誰も失わず笑い続けたあなた。」
エリスの胸が締めつけられる。
そこに映る“もしもの自分”たちは、確かに幸せそうだった。
「……こんな世界も、あったのね。」
「そう。
あなたは“動く”ことで、
無数の幸福を壊してきたのよ。」
その言葉が胸に突き刺さる。
だが、エリスは唇を噛みしめた。
「それでも、私は――“選び続ける”!」
光が弾けた。
エリスの背中から、再び金と紫の翼が広がる。
「痛みも、迷いも、悲しみも全部抱えて進む!
“動き続けること”が、生きるってことよ!」
虚数のエリスが目を細める。
「……やっぱり、あなたは愚かね。
でも、だからこそ――美しい。」
彼女の瞳に、わずかな哀しみが宿る。
そして、二人の間の空間が再び裂けた。
⸻
アマギ本部では、観測塔の警報が鳴り響いていた。
「創造エネルギー値、臨界突破!
想界と現実の境界が消滅し始めています!」
ゼオルが叫ぶ。
「このままでは、世界全体が“創造の臨界点”を越える!」
リィナがモニターを睨む。
「エリス……何してんだ、あんた……」
モニターに映るのは、
無数の光と闇が衝突する、想界の中心。
そこに立つ二人のエリスの姿。
だが、観測値はすでに“∞(無限)”を示していた。
⸻
想界・中枢。
光と闇が交錯し、時空が歪む。
空間そのものが“意識”となり、
過去・未来・可能性が同時に存在していた。
虚数のエリスが囁く。
「……このままじゃ、両方とも消える。
あなたも、私も、世界も。」
「それでも、止めない!」
エリスが叫ぶ。
「あなたは“完成”を望むけど、
私は“続き”を信じる!」
その瞬間、
虚数のエリスの表情がわずかに変わった。
「……続き、か。
私には、怖くて見られなかったものね。」
光が揺れる。
虚数のエリスが、ゆっくりと右手を差し出した。
「……だったら、見せて。
“動き続ける世界”が、どんな未来を描くのか。」
エリスもその手を取る。
指先が触れた瞬間、
二人の身体が金と黒の光に包まれ、
一つの軌跡へと融合していった。
⸻
――世界が、静まり返った。
音も、時間も、消えた一瞬。
だが、その沈黙の中で、
“何か新しい拍動”が生まれた。
それは創造でも破壊でもない。
ただ“存在を選び続ける力”。
光が弾け、
エリスの中に“もう一つの声”が響く。
――『ようやく、同じ場所に戻れたな。』
「……蓮……!」
――『お前が止まらなかったから、
世界はここまで来た。
でも、もう“創るだけ”じゃ足りない。
今度は、“理解する番”だ。』
「理解……?」
――『そうだ。
創造の臨界点を越えた今、
世界は“形”を選べるようになった。
お前の想いが、そのまま現実を決める。』
蓮の声が消える。
エリスは両手を胸に当て、静かに瞳を閉じた。
「……なら、私は“共に生きる世界”を選ぶ。」
その言葉とともに、
世界の構造が変わり始めた。
⸻
アマギ上空。
虹色の光が地平線まで走り、
想界と現実が完全に“共存”を始めた。
夢の風景が現実の街に溶け、
人々は自分の“想い”を形にすることができる。
それでも、世界は壊れない。
なぜなら、そこには――“選択”があるから。
リィナが空を見上げ、息を呑む。
「……エリス、お前……やったな。」
ゼオルが小さく笑う。
「これが、“創造の臨界超越”か。」
⸻
想界の中心。
エリスは静かに目を開けた。
彼女の瞳には金と黒の光が同時に宿っている。
そして、微笑む。
「虚数の私……ありがとう。
あなたがいたから、私は“終わらせない勇気”を持てた。」
風が吹く。
金と紫の花弁が舞い、
想界の空に一つの星が生まれる。
それは“創造の極点”――
すべての想いが交わり、永遠に動き続ける証。
エリスの声が、その星に響く。
「――創造は止まらない。
だって、私たちはまだ“想っている”から。」
そして、
“現夢時代”は真の意味で、始まりを迎えた。
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