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第46話
しおりを挟む第46話 祈りと永遠の子
――世界は、静かに形を変えていた。
ハルが「祈りに頼らない世界を創る」と宣言してから、
人々の意識に微妙な変化が生まれた。
祈りに頼りすぎることへの不安、
そして、祈らずに“自ら創る”という覚悟。
それは新しい創造の形――**共鳴創造(レゾナンス・クリエイト)**の始まりだった。
⸻
アマギ中央塔・創造連盟本部。
リィナが報告を読み上げる。
「世界中で“共鳴層”が増えてる。
祈りを媒介しなくても、意識と意識が直接共鳴して、
新しい構造体を創ってるみたいだ。」
ゼオルが頷く。
「つまり、“心”と“祈り”の間に新たな道が生まれたんだ。
これは――“祈りの進化”だな。」
エリスはデータを見つめながら、
小さく微笑んだ。
「……ハルの影響ね。」
⸻
その頃、ハルは学院の丘の上にいた。
空を見上げ、掌を広げると、
空気そのものが微かに光を放つ。
祈らなくても、心を向けるだけで、
世界が応える。
「……これが、“共鳴”か。」
彼の目には、かつての創造者たちが見た“神の景色”が重なった。
だが、それはもっと柔らかく、温かい。
祈りが命令ではなく、対話になっていた。
⸻
そこへ、ひとりの少女が現れる。
薄い灰色の髪に、透き通るような瞳。
その存在は、まるで空気のように静かだった。
「ねぇ、あなたがハル?」
「うん。君は?」
「……ミラ。
アマギ北区の“共鳴試験区”で生まれた子。
でも、私は少し……変なんだって。」
「変?」
ミラは首を傾げる。
「私、祈れないの。
心を向けても、何も起きないの。
でも、人の“想い”が流れ込んでくるの。」
ハルは息をのんだ。
「それって……“受信者”の共鳴体質?」
ミラは悲しそうに笑う。
「たぶんね。
皆の祈りが聞こえるのに、私だけ何も返せない。
――私には、世界が“静か”に聞こえる。」
⸻
その瞬間、
ハルの胸が強く脈打った。
ミラの存在が、まるで自分の中の“欠片”に触れたような感覚。
「……君は、“祈りのない子”なんかじゃないよ。
君の静けさが、世界を落ち着かせてる。
祈りが溢れすぎると、世界が揺らぐから。」
ミラの瞳がわずかに揺れた。
「……本当に、そう思う?」
「うん。
祈りと永遠のバランスを取るために、
君みたいな存在が必要なんだ。」
ミラは、少し照れたように笑った。
「なんだか、あなたって変わってるね。」
「よく言われるよ。」
ハルも笑う。
⸻
しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。
アマギ全土に“祈りの共鳴過多”が発生。
街全体が微振動し、空が光を帯び始めた。
リィナの通信が入る。
『ハル、聞こえる!? 共鳴層が暴走してる!
“共鳴創造”を扱えない人の祈りが混ざってる!』
「つまり、無意識の祈りが干渉してるってこと?」
『ああ――! このままだと、
“心界”と“現実”が再び融合するぞ!』
ハルはミラに目を向ける。
「ミラ、君は“受け取る側”だよね?
なら、世界中の祈りを少しでも受け止められるはずだ。」
「……そんなこと、できるの?」
「できる。僕が“共鳴”を繋ぐから。」
⸻
二人は手を取り合った。
ハルの中から、金と白の光が溢れ出す。
ミラの瞳が淡く輝き、
彼女の身体を通して、世界の祈りが流れ込む。
それは膨大で、温かく、そして苦しいほどの想い。
「……こんなにたくさん……人の願いって、こんなに痛いのね……!」
「痛いから、生きるんだ。
でも、それを受け止められるのが“共鳴”だよ!」
光が二人を包み、
空に巨大な光輪が現れた。
祈りと静寂が重なり合い、
世界中の波が静まっていく。
風が戻り、空が青を取り戻した。
⸻
その直後。
ハルの意識が遠のく。
エリスが駆け寄り、彼を抱きかかえた。
「ハル! しっかり!」
少年は薄く目を開け、微笑む。
「先生……僕、見えたよ。
“祈りと永遠”は、争ってるんじゃない。
お互いを、完成させようとしてたんだ。」
エリスの瞳が潤む。
「……そうね。
祈りは永遠を恐れ、永遠は祈りを求める。
その狭間で生まれたあなたたちが――“未来”なのね。」
ハルは目を閉じた。
彼の体から淡い光が立ち昇り、
空の光輪とゆっくり融合していく。
⸻
翌朝。
ミラは丘の上で目を覚ました。
隣に座るエリスが微笑む。
「おはよう、ミラ。ハルは……休んでるわ。」
ミラが涙を流しながら空を見る。
そこには、夜の名残のように浮かぶ“金色の星”。
「……ハルの祈り?」
「ええ。
でも、もう祈りじゃない。
これは“永遠の鼓動”。
彼はもう、“祈りそのもの”になったの。」
⸻
エリスは立ち上がり、
朝日に向かって小さく祈った。
「祈りも、永遠も、どちらも命。
なら――私たちは、どこまでも生きて、創り続けるわ。」
ミラが手を握り返す。
「ハルの分も、ですね。」
エリスは微笑んだ。
「ええ。彼が見せた“共鳴の未来”を、私たちで繋げるの。」
風が吹く。
空の金色の星が、ゆっくりと輝きを増した。
それは“祈りと永遠の子”――ハルの証。
世界は、また新しい息を始めた。
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