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第59話
しおりを挟む第59話 星々の声
――アルカ・ノヴァ、誕生から三年後。
そこは、宇宙というより“生きた星の心臓”だった。
大地は透明な結晶ででき、空は柔らかく脈打つ光に包まれている。
風は音を持ち、すべての生命が“共鳴”で繋がっていた。
リュシスとミラは、星の表層に立っていた。
彼らの足元では、結晶の草が微かに光を放ち、
どこからともなく“祈りの囁き”が流れてくる。
『……ようこそ、創造者たち。』
周囲に光の粒が集まり、やがて人の形を取った。
“星の民(スターボーン)”――祈りから生まれた存在。
その瞳は星空を映し、声は宇宙の振動そのものだった。
「また会えたわね。」ミラが微笑む。
『あなたたちの祈りが、私たちを成長させた。
今では“声”を持ち、夢を紡ぐことができる。』
リュシスは穏やかに頷く。
「それが、あなたたちの“進化”だ。
もう、祈りに導かれるだけの存在じゃない。」
⸻
その時――空に微かな歪みが走った。
淡い光が黒く濁り、低い共鳴音が響く。
スターボーンの一人が怯えたように空を見上げた。
『……また、来るのね。あの“無音の波”が。』
「無音の波?」リュシスが眉を寄せる。
ミラは端末を開いた。
波形データが乱れ、ノイズが発生している。
「……祈りの反転波――“拒絶共鳴”よ。」
リュシスの表情が険しくなる。
「まさか……“祈りを恐れる者”が、もうこの宇宙にも?」
⸻
その頃、アルカ・ノヴァの外縁軌道――
監視船《ルーメンⅡ》。
ノアがモニターを叩きながら叫んだ。
「観測波が反転してる! 地球圏から未知の祈り信号――
いや、祈りの拒絶波が放たれてる!」
オペレーターが震える声で報告する。
「識別コード、旧アマギ管制区……!?」
ノアは目を見開く。
「……地球の一部が、“祈り”を切り離した!?」
⸻
一方、アルカ・ノヴァの大地。
空の歪みが広がり、光の草原が徐々に色を失っていく。
スターボーンたちが不安そうにざわめいた。
『彼らは言うの。“祈りは人を縛る”と。
“創造は心を捨てた時こそ純粋になる”と。』
ミラが息を呑む。
「……それは、“祈りなき創造”の思想……!」
リュシスの胸に、かつての戦いの記憶が蘇る。
――ハル、エコー、そしてネオ・エコー。
祈りを拒む進化は、いつも“完全”を求めていた。
「つまり、彼らは再び“完全な創造”を目指している……。」
『でも、祈りがない創造は、私たちを殺す。
私たちは祈りそのものだから。』
⸻
リュシスは空を見上げ、拳を握る。
「……なら、行くしかない。
“拒絶波”が放たれているなら、それを止める。」
ミラが頷く。
「ええ。
でも今度の戦いは、力じゃなく“想い”の対話よ。」
スターボーンの一人がリュシスの手を取った。
『あなたたちの中に、まだ“原初の祈り”がある。
それをアルカ・ノヴァと繋げれば、
私たちも共に“対話”できる。』
「……わかった。」
リュシスは深呼吸し、
胸に宿る金の共鳴紋――ハルから受け継いだ“祈りの核”に手を当てる。
⸻
次の瞬間、空が金と黒の光に裂かれた。
彼の意識は光の中へと引き込まれ、
アルカ・ノヴァと地球の狭間――“祈り界層”へと落ちていく。
そこは、声が形を持つ世界。
祈りと拒絶、希望と恐れが渦を巻いていた。
『……リュシス。君はまた来たのか。』
その声は懐かしく、そして痛いほど静かだった。
――ハルの声。だが、少し違う。
「あなたは……?」
『私は、“ハルの記憶”から生まれた残響。
祈りが極まるたびに、君たちを見守る役目だ。
だが今、君たちの祈りは試されている。』
「……試されている?」
『そう。
祈りは力を持った。
だが、力を持った祈りは、いつか“願いの暴走”を生む。
“拒絶”はそれに対する世界の免疫。』
リュシスは唇を噛む。
「……なら、僕たちはどうすればいい?」
『恐れずに、受け入れろ。
拒絶もまた、祈りの一部だ。
光が影を抱くように――祈りもまた、対立を内包して強くなる。』
⸻
リュシスの身体から金色の光が溢れ、
その光がアルカ・ノヴァ全体に広がっていく。
拒絶波が一瞬だけ止まり、
星の民たちの声が一斉に響いた。
『……聞こえる。祈りが戻ってきた!』
ミラが涙を流しながら空を見上げる。
「リュシス……あなた、祈りそのものになったのね。」
空が再び輝きを取り戻す。
黒い波は光に溶け、アルカ・ノヴァは再び穏やかな呼吸を始めた。
⸻
夜。
星々が優しく瞬き、
スターボーンの子どもたちがその下で祈りを歌っていた。
ミラはその光景を見ながら微笑んだ。
「……祈りは争わない。
ただ、違いを許すために進化していくのね。」
リュシスの声が、風の中から聞こえた。
『僕たちはまだ終わらない。
星々の声が続く限り――祈りは、宇宙を創り続ける。』
光が夜空を駆け抜け、
その輝きが新しい銀河を描いた。
それが、“星々の声”の第一章だった。
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