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第三章 河東争奪
第二十一矢 新年
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「新年、おめでとうございまする。」
「おめでとー。今年もよろしくね。」
蝉の声が消え、紅葉彩っていた富士の山が白雪に包まれた頃、駿府館では家臣一同が大広間で義元に新年の挨拶をしていた。
今川家にとって激動の一年が幕を下ろし、また新たな激動の年が幕を開けた。
新年を迎えてから十七日目、俺は今川家の正月恒例行事である流鏑馬を行うことになった。
流鏑馬―それは古の時代より武士の嗜みとして武家社会で盛んに行われてきた、疾走する馬の上から矢で的を射る武術である。
(テレビで見たことは何度かあったけど、まさか体験することになるとは…)
俺は流鏑馬の装束に着替えて、五ヶ月間ずっと共に練習してきた馬へと乗る。
この流鏑馬。今川家の一年を占う伝統的な神事であるため、どうしてもやらなければならなかった。
そして流鏑馬を習っていなかった俺は、本来なら数年の時間を要して身につけるのを、たった五ヶ月でできるように指導を受けた。
結構スパルタ指導で大変だったが個人的には蹴鞠同様、流鏑馬も面白かったので楽しんでやれた。しかし短期間で仕上げたため、成功率は高く見積もっても五分五分。
俺はぶっちゃけ成功できるか緊張していた。
そして、ついに本番が始まる。
俺は馬を走らせる。
馬はどんどんと加速していき、見る見るうちに的との距離が縮まっていく。
(今!!)
そう自分が思った瞬間、俺は矢を射た。
矢は速く真っ直ぐに的へ目がけて飛んでいく。
矢は見事に的を射た。
「おぉっ!」
見守っていた人々の歓声が響き渡った。
(成功した…)
矢を射た俺も成功したことにホッと胸をなで下ろして、
「よしっ!」
心の中でガッツポーズを決めた。
無事に今川家の伝統行事を終えた数日後、大広間では俺と重臣たちによる評議が行われていた。
俺は重臣たちにある提案をした。
「とりあえず、武田さんと仲直りしましょか。」
ざわっと重臣たちはざわつく。
武田と和議を結ぶ、すなわち今川氏親の代から続いていた甲斐攻めを諦めるということだ。
「それは何故ゆえにございますか。」
俺の提案に即座に反応して、瀬名氏貞が俺にそのわけを聞いてきた。
「だってこのまま甲斐攻めやってても俺たちが勝てるとは思えないし、勝ったとしても代償が大きそう。」
事実、先代当主・今川氏輝が再び甲斐攻めに乗り出していてから数年間というものの、福島正成を始めとして善戦はすれど武田軍に連敗続きで苦戦を強いられていた。
俺は話を続ける。
「だったら、まだ西方の三河国に進出した方が今川家に利益があると思うんだけど。」
「確かにそうでございますな……」
重臣たちが俺の考えに納得していると、朝比奈泰能が意見を述べた。
「ですが殿、我が家と武田家には深い溝がありまする。そう簡単に和議を結べましょうか?」
「そこなんだよ。だから、武田さんと確執がない人かつここにいる誰かが使者になってほしいんだけど…」
俺がそう言って重臣たちを見るが、誰も名乗り出ない。
(そりゃそうか、今まで何度も争ってきてたんだし。重臣の中にそんな人材は…)
すると黒装束の僧侶が手をスッと挙げた。
太原崇孚である。
俺はハッと気づいた。
(そうじゃん、俺と一緒に今川家に来た承菊なら…!)
「拙僧が使者として甲斐に出向きまする。拙僧は武田との確執はございませぬから、円滑に交渉を進めることができましょう。」
「確かに崇孚殿ならば…」
重臣たちも崇孚が使者になることに賛同した。
「じゃ、承菊よろしくね。」
「はっ。」
(あとは…)
重臣たちはかつて甲斐攻めを主導した寿桂尼の方を見やる。
重臣たちの視線に気づいた寿桂尼は口を開いた。
「私は義元の決定に従います。」
ということで、崇孚は今川家の使者として甲斐国へと向かった。
「おめでとー。今年もよろしくね。」
蝉の声が消え、紅葉彩っていた富士の山が白雪に包まれた頃、駿府館では家臣一同が大広間で義元に新年の挨拶をしていた。
今川家にとって激動の一年が幕を下ろし、また新たな激動の年が幕を開けた。
新年を迎えてから十七日目、俺は今川家の正月恒例行事である流鏑馬を行うことになった。
流鏑馬―それは古の時代より武士の嗜みとして武家社会で盛んに行われてきた、疾走する馬の上から矢で的を射る武術である。
(テレビで見たことは何度かあったけど、まさか体験することになるとは…)
俺は流鏑馬の装束に着替えて、五ヶ月間ずっと共に練習してきた馬へと乗る。
この流鏑馬。今川家の一年を占う伝統的な神事であるため、どうしてもやらなければならなかった。
そして流鏑馬を習っていなかった俺は、本来なら数年の時間を要して身につけるのを、たった五ヶ月でできるように指導を受けた。
結構スパルタ指導で大変だったが個人的には蹴鞠同様、流鏑馬も面白かったので楽しんでやれた。しかし短期間で仕上げたため、成功率は高く見積もっても五分五分。
俺はぶっちゃけ成功できるか緊張していた。
そして、ついに本番が始まる。
俺は馬を走らせる。
馬はどんどんと加速していき、見る見るうちに的との距離が縮まっていく。
(今!!)
そう自分が思った瞬間、俺は矢を射た。
矢は速く真っ直ぐに的へ目がけて飛んでいく。
矢は見事に的を射た。
「おぉっ!」
見守っていた人々の歓声が響き渡った。
(成功した…)
矢を射た俺も成功したことにホッと胸をなで下ろして、
「よしっ!」
心の中でガッツポーズを決めた。
無事に今川家の伝統行事を終えた数日後、大広間では俺と重臣たちによる評議が行われていた。
俺は重臣たちにある提案をした。
「とりあえず、武田さんと仲直りしましょか。」
ざわっと重臣たちはざわつく。
武田と和議を結ぶ、すなわち今川氏親の代から続いていた甲斐攻めを諦めるということだ。
「それは何故ゆえにございますか。」
俺の提案に即座に反応して、瀬名氏貞が俺にそのわけを聞いてきた。
「だってこのまま甲斐攻めやってても俺たちが勝てるとは思えないし、勝ったとしても代償が大きそう。」
事実、先代当主・今川氏輝が再び甲斐攻めに乗り出していてから数年間というものの、福島正成を始めとして善戦はすれど武田軍に連敗続きで苦戦を強いられていた。
俺は話を続ける。
「だったら、まだ西方の三河国に進出した方が今川家に利益があると思うんだけど。」
「確かにそうでございますな……」
重臣たちが俺の考えに納得していると、朝比奈泰能が意見を述べた。
「ですが殿、我が家と武田家には深い溝がありまする。そう簡単に和議を結べましょうか?」
「そこなんだよ。だから、武田さんと確執がない人かつここにいる誰かが使者になってほしいんだけど…」
俺がそう言って重臣たちを見るが、誰も名乗り出ない。
(そりゃそうか、今まで何度も争ってきてたんだし。重臣の中にそんな人材は…)
すると黒装束の僧侶が手をスッと挙げた。
太原崇孚である。
俺はハッと気づいた。
(そうじゃん、俺と一緒に今川家に来た承菊なら…!)
「拙僧が使者として甲斐に出向きまする。拙僧は武田との確執はございませぬから、円滑に交渉を進めることができましょう。」
「確かに崇孚殿ならば…」
重臣たちも崇孚が使者になることに賛同した。
「じゃ、承菊よろしくね。」
「はっ。」
(あとは…)
重臣たちはかつて甲斐攻めを主導した寿桂尼の方を見やる。
重臣たちの視線に気づいた寿桂尼は口を開いた。
「私は義元の決定に従います。」
ということで、崇孚は今川家の使者として甲斐国へと向かった。
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