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第三章 河東争奪
第三十三矢 追放
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同時刻、躑躅ヶ崎館―
武田晴信は自室にて重臣の甘利虎泰と将棋を指していた。
晴信はしばらく考え込んだ後、フウッと息をついた。
「…参った。やはり虎泰は強いな。」
「お褒めいただき光栄でございます。」
虎泰は律儀に頭を下げる。
「しかし若、本当によろしかったので?」
「よい。全てはこの甲斐国のためよ―」
晴信は将棋盤を片付け始めた。
「やはり孫は宝じゃの~」
上機嫌で帰路についていた信虎一行は、駿河国と甲斐国を結ぶ街道の関所に差しかかっていた。
すると、信虎はある異変に気づいた。
なぜか関所が封鎖されているのだ。
(おかしいのう。同盟を結んで以降、関所を閉ざさぬようにしておるはずじゃが…)
信虎がそう疑問に思いながらも、関所の前まで行く。信虎は関所の番人たちに命じる。
「門を開けよ。」
「お引き取りなされ。」
信虎はムッとしながらも、番人たちに自らの素性を明かして再び命じる。
「わしは武田の当主であるぞ。早う門を開けよ。」
「お断りいたす。」
関所の番人たちはまたしても信虎の命令を断った。
「わしの命が聞こえなかったか、門を開けよと言うておるのじゃ…!」
「貴殿を通すわけにはいきませぬ。」
信虎は自分なりに怒りを抑えて言うが、それでも番人たちは通そうとしない。
「ええい!もうよいわ!こうなれば押し通るまでよ!」
ついにブチ切れた信虎は強引に関所を通ろうとする。番人たちは阻止しようとするが、さすがは武勇に秀でる信虎。これをやすやすと破り、関所を強引に突破した。
しかし、その先には数十の兵が待ち構えていた。
「なっ…」
信虎が驚いていると、兵の中から一人の男が信虎の前に出てきた。
「おぬしは!」
信虎の前に立っていたのは、晴信の教育係であり重臣でもあった板垣信方であった。そして、信虎は確信した。
「これは晴信の仕業じゃな!なにゆえこのような蛮行を犯した!」
これに信方は冷静な声で答える。
「貴方様は外にしか目を向けていなさらなかった。だから、誰もついていけなかったのです。」
「領土を拡大することの何が悪い!」
「国は民がおってこそ成り立つもの…それを戦ばかりで民を疲弊させては元も子もありませぬ。」
「何じゃと!」
「なんにしても、貴方様はもはや当主ではありませぬ。そうそうに立ち去りなされ。」
信虎は信方とのやり取りでだいたいの状況が理解できた。
自分は重臣らと結託した晴信に追放されたのだ。
信虎の怒りは頂点に達した。
「おのれ晴信ぅー!!!」
信虎の怒声が辺りに響き渡った。
自分を嵌めた晴信も、それに与する家臣たちも、信虎にとってはとても憎たらしい存在でしかなかった。
「フーッ!フーッ!フーッ!」
怒りが収まらない信虎は鼻息を荒くするが、どうすることもできなかった。
信虎が追放されるということは、ほとんどの家臣が晴信を支持しているということだろう。
例え信虎が甲斐国に戻れど、もうそこに信虎の居場所などない。
「そのうち後悔することになるぞ…!」
信虎は歯を食いしばり、仕方がなく駿府館へと引き返した。
ちょうどその頃、駿府館には武田からの使者が来ていた。
使者が持ってきた文書を俺は見終わる。
「つまり、お義父さんをこっちで面倒見てねってこと?」
「ご迷惑をかけまするが…」
「まあいいよ。俺たちも武田さんと揉め事起こしている場合じゃないし。」
「かたじけのうございます。」
「どういたしまして。」
武田の使者を帰した後、俺はそばにいた吉田氏好に聞いた。
「それで氏ちゃん、あっちの方は進展あった?」
「はっ―少々手間取っておりまする。」
「まじかーこりゃまだまだ時間がかかりそうだなあ。」
俺は少し呆れ気味に頭をかいた。
それから数時間後、信虎は駿府館へと再び帰ってきた。
俺は大広間にて信虎を迎え入れる。
「災難でしたね。これからは駿府館で暮らしてもらいますけどいいっすか?」
「…義元はあの愚息と違って寛大じゃのう。あやつとはやはり器が違うわ。」
信虎はすっかり晴信を嫌い、恨み節を炸裂させていた。
かくして信虎は今川家で預かることとなり、武田家で新たな当主が誕生したのだった。
武田晴信は自室にて重臣の甘利虎泰と将棋を指していた。
晴信はしばらく考え込んだ後、フウッと息をついた。
「…参った。やはり虎泰は強いな。」
「お褒めいただき光栄でございます。」
虎泰は律儀に頭を下げる。
「しかし若、本当によろしかったので?」
「よい。全てはこの甲斐国のためよ―」
晴信は将棋盤を片付け始めた。
「やはり孫は宝じゃの~」
上機嫌で帰路についていた信虎一行は、駿河国と甲斐国を結ぶ街道の関所に差しかかっていた。
すると、信虎はある異変に気づいた。
なぜか関所が封鎖されているのだ。
(おかしいのう。同盟を結んで以降、関所を閉ざさぬようにしておるはずじゃが…)
信虎がそう疑問に思いながらも、関所の前まで行く。信虎は関所の番人たちに命じる。
「門を開けよ。」
「お引き取りなされ。」
信虎はムッとしながらも、番人たちに自らの素性を明かして再び命じる。
「わしは武田の当主であるぞ。早う門を開けよ。」
「お断りいたす。」
関所の番人たちはまたしても信虎の命令を断った。
「わしの命が聞こえなかったか、門を開けよと言うておるのじゃ…!」
「貴殿を通すわけにはいきませぬ。」
信虎は自分なりに怒りを抑えて言うが、それでも番人たちは通そうとしない。
「ええい!もうよいわ!こうなれば押し通るまでよ!」
ついにブチ切れた信虎は強引に関所を通ろうとする。番人たちは阻止しようとするが、さすがは武勇に秀でる信虎。これをやすやすと破り、関所を強引に突破した。
しかし、その先には数十の兵が待ち構えていた。
「なっ…」
信虎が驚いていると、兵の中から一人の男が信虎の前に出てきた。
「おぬしは!」
信虎の前に立っていたのは、晴信の教育係であり重臣でもあった板垣信方であった。そして、信虎は確信した。
「これは晴信の仕業じゃな!なにゆえこのような蛮行を犯した!」
これに信方は冷静な声で答える。
「貴方様は外にしか目を向けていなさらなかった。だから、誰もついていけなかったのです。」
「領土を拡大することの何が悪い!」
「国は民がおってこそ成り立つもの…それを戦ばかりで民を疲弊させては元も子もありませぬ。」
「何じゃと!」
「なんにしても、貴方様はもはや当主ではありませぬ。そうそうに立ち去りなされ。」
信虎は信方とのやり取りでだいたいの状況が理解できた。
自分は重臣らと結託した晴信に追放されたのだ。
信虎の怒りは頂点に達した。
「おのれ晴信ぅー!!!」
信虎の怒声が辺りに響き渡った。
自分を嵌めた晴信も、それに与する家臣たちも、信虎にとってはとても憎たらしい存在でしかなかった。
「フーッ!フーッ!フーッ!」
怒りが収まらない信虎は鼻息を荒くするが、どうすることもできなかった。
信虎が追放されるということは、ほとんどの家臣が晴信を支持しているということだろう。
例え信虎が甲斐国に戻れど、もうそこに信虎の居場所などない。
「そのうち後悔することになるぞ…!」
信虎は歯を食いしばり、仕方がなく駿府館へと引き返した。
ちょうどその頃、駿府館には武田からの使者が来ていた。
使者が持ってきた文書を俺は見終わる。
「つまり、お義父さんをこっちで面倒見てねってこと?」
「ご迷惑をかけまするが…」
「まあいいよ。俺たちも武田さんと揉め事起こしている場合じゃないし。」
「かたじけのうございます。」
「どういたしまして。」
武田の使者を帰した後、俺はそばにいた吉田氏好に聞いた。
「それで氏ちゃん、あっちの方は進展あった?」
「はっ―少々手間取っておりまする。」
「まじかーこりゃまだまだ時間がかかりそうだなあ。」
俺は少し呆れ気味に頭をかいた。
それから数時間後、信虎は駿府館へと再び帰ってきた。
俺は大広間にて信虎を迎え入れる。
「災難でしたね。これからは駿府館で暮らしてもらいますけどいいっすか?」
「…義元はあの愚息と違って寛大じゃのう。あやつとはやはり器が違うわ。」
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