海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

文字の大きさ
35 / 107
第三章 河東争奪

第三十三矢 追放

しおりを挟む
同時刻、躑躅ヶ崎館―

武田晴信は自室にて重臣の甘利虎泰とらやすと将棋を指していた。
晴信はしばらく考え込んだ後、フウッと息をついた。

「…参った。やはり虎泰は強いな。」
「お褒めいただき光栄でございます。」

虎泰は律儀に頭を下げる。

「しかし若、本当によろしかったので?」
「よい。全てはこの甲斐国のためよ―」

晴信は将棋盤を片付け始めた。

「やはり孫は宝じゃの~」

上機嫌で帰路についていた信虎一行は、駿河国と甲斐国を結ぶ街道の関所に差しかかっていた。
すると、信虎はある異変に気づいた。
なぜか関所が封鎖されているのだ。

(おかしいのう。同盟を結んで以降、関所を閉ざさぬようにしておるはずじゃが…)

信虎がそう疑問に思いながらも、関所の前まで行く。信虎は関所の番人たちに命じる。

「門を開けよ。」
「お引き取りなされ。」

信虎はムッとしながらも、番人たちに自らの素性を明かして再び命じる。

「わしは武田の当主であるぞ。早う門を開けよ。」
「お断りいたす。」

関所の番人たちはまたしても信虎の命令を断った。

「わしの命が聞こえなかったか、門を開けよと言うておるのじゃ…!」
「貴殿を通すわけにはいきませぬ。」

信虎は自分なりに怒りを抑えて言うが、それでも番人たちは通そうとしない。

「ええい!もうよいわ!こうなれば押し通るまでよ!」

ついにブチ切れた信虎は強引に関所を通ろうとする。番人たちは阻止しようとするが、さすがは武勇に秀でる信虎。これをやすやすと破り、関所を強引に突破した。
しかし、その先には数十の兵が待ち構えていた。

「なっ…」

信虎が驚いていると、兵の中から一人の男が信虎の前に出てきた。

「おぬしは!」

信虎の前に立っていたのは、晴信の教育係であり重臣でもあった板垣信方のぶかたであった。そして、信虎は確信した。

「これは晴信の仕業しわざじゃな!なにゆえこのような蛮行を犯した!」

これに信方は冷静な声で答える。

「貴方様は外にしか目を向けていなさらなかった。だから、誰もついていけなかったのです。」
「領土を拡大することの何が悪い!」
「国は民がおってこそ成り立つもの…それを戦ばかりで民を疲弊ひへいさせては元も子もありませぬ。」
「何じゃと!」
「なんにしても、貴方様はもはや当主ではありませぬ。そうそうに立ち去りなされ。」

信虎は信方とのやり取りでだいたいの状況が理解できた。
自分は重臣らと結託した晴信に追放されたのだ。
信虎の怒りは頂点に達した。

「おのれ晴信ぅー!!!」

信虎の怒声が辺りに響き渡った。
自分をめた晴信も、それに与する家臣たちも、信虎にとってはとても憎たらしい存在でしかなかった。

「フーッ!フーッ!フーッ!」

怒りが収まらない信虎は鼻息を荒くするが、どうすることもできなかった。
信虎が追放されるということは、ほとんどの家臣が晴信を支持しているということだろう。
例え信虎が甲斐国に戻れど、もうそこに信虎の居場所などない。

「そのうち後悔することになるぞ…!」

信虎は歯を食いしばり、仕方がなく駿府館へと引き返した。
ちょうどその頃、駿府館には武田からの使者が来ていた。
使者が持ってきた文書を俺は見終わる。

「つまり、お義父さんをこっちで面倒見てねってこと?」
「ご迷惑をかけまするが…」
「まあいいよ。俺たちも武田さんと揉め事起こしている場合じゃないし。」
「かたじけのうございます。」
「どういたしまして。」

武田の使者を帰した後、俺はそばにいた吉田氏好に聞いた。

「それで氏ちゃん、あっちの方は進展あった?」
「はっ―少々手間取っておりまする。」
「まじかーこりゃまだまだ時間がかかりそうだなあ。」

俺は少し呆れ気味に頭をかいた。

それから数時間後、信虎は駿府館へと再び帰ってきた。
俺は大広間にて信虎を迎え入れる。

「災難でしたね。これからは駿府館で暮らしてもらいますけどいいっすか?」
「…義元はあの愚息と違って寛大じゃのう。あやつとはやはり器が違うわ。」

信虎はすっかり晴信を嫌い、恨み節を炸裂させていた。

かくして信虎は今川家で預かることとなり、武田家で新たな当主が誕生したのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...