海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

文字の大きさ
47 / 107
第四章 続・河東争奪

第四十三・五矢 父の死

しおりを挟む
わしは父上が大好きであった。
腕っぷしが強く、この世の誰よりも優しい。
わしはそんな父上を誇りにも思っていた。
だからこそ悔しくて悲しかった。
あの父上が討ち死にしてしまったことが。

北条との戦を終えた駿府館。
わしこと三浦犬丸は浮かない顔をして、その駿府館の一室で殿に届く様々な書状の処理を行っていた。
父上が亡くなったからと言って、わしが重臣に出世するわけではなく、わしは引き続き小姓として殿に仕えていた。

父上…

「…おい。」
「………」
「おい。」
「………」
「おいっ!」

わしが大声に驚いて我に返ると、藤三郎がふてぶてしい顔をしてわしを見ていた。

「手が止まっておるぞ。」
「ああ…」
「ふん、全くこの駄犬は…」

藤三郎はヤレヤレといった表情を浮かべながら、処理を続ける。
わしはそんな藤三郎にイラッとした。

確かに今のはわしが悪かった。しかし、もう少し言い方というものがあるじゃろ!
こいつはいつもそうじゃ!
わしより三カ月も後に生まれてきたくせに生意気な態度を取る。
わしはこいつが昔っから大嫌いじゃ!

しかし、わしは今や三浦家の当主。わしは気品ある大人として、そんな怒りをなるべく表に出すまいと堪えて引きつった笑みを向けた。

「すまぬのう。駄犬で。」

すると、藤三郎はわしに対してドン引きして、

「気持ちわるいわ。」

の一言。
その一言を聞いて、わしは堪忍袋かんにんぶくろの緒が切れた。

「人が下手に出ているのいいことに調子に乗りおって、今ここで叩きのめしてくれるわ!」
「やっといつもの調子に戻ってきたか。」
「なにを言う!」
「先ほどまで辛気くさい顔をして仕事の邪魔じゃったわ。」

藤三郎はそう言うとため息をつく。

「それに分かっていないようだが、範高殿は死んではおらぬ。」
「父上は討ち死にしたと言って…」
「そういう意味ではない。」
「では、何だと言うのじゃ。」

少し間を開けて藤三郎は答えた。

「範高殿の思いは生きておる。」

藤三郎は続ける。

「範高殿の思いを受け継ぎ、範高殿の分もお前が殿を支えていけばいいだろうが。」

犬丸は今まで死してしまえばそこで全て終わってしまうと、そう考えていた。
だが違う。
思い、それを紡いでいけば人はいつまでも心の中で生き続けるのだ。

「そう、だったのか…」

わしは霧が晴れたかのようにスッキリとした。

「…藤三郎、礼を言うぞ。」
「ん?なんじゃ?よく聞こえんのう。」

聞こえておるくせに…!

わしは少しイラッとしながらも、

「礼を言う!」

声を張り上げて言うと、

「おお、あの駄犬が礼を言うとは成長したのじゃなあ。」

藤三郎はいかにもわざとらしく感動をしている。

こやつ、やはり嫌いじゃ!

夕焼け空の下、二人は小姓の仕事をこなしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...