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第五章 今川と織田
第四十五矢 人質
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この日、駿府館の大広間では三河国に対する対応をめぐって評議が行われていた。
「松平さんと結束を強めるのは決定事項として、なんかいい案あります?」
俺が重臣たちに問いかけると、重臣たちは考え込む。
そんな中で崇孚は俺に提案を提示した。
「殿、拙僧に案がございます。」
「どんなの?」
「松平の嫡男を人質としてこちらで預かるのはいかがでしょう。」
松平竹千代。松平の嫡男とはいえ、彼はまだ齢六の幼子である。
「…一人の父としては賛成しがたい案なんですけど。」
俺がそう嫌悪感をあらわにすると、崇孚は俺を説得し始めた。
「殿、ですがそれ以上に今川が三河国において影響力を発揮する手はないと考えまする。」
確かにその通りだった。
武力行使は松平の要請がない限り不可能であるし、かと言って仲介というのも織田と今川の仲を考えると不可能だろう。
今のところ今川にできるのは、経済支援か松平との関係を強化することぐらいだ。
「まあ確かに、今俺たちができる最高の一手ではあるか。」
俺はある程度は納得した。
すると朝比奈泰能が発言した。
「しかしながら、殿が懐疑的であれば…」
「あくまで“父“としてはね。でも“今川義元“としてはその案をやらない手はない。」
評議を終え、大広間には俺と崇孚のみが残っていた。
(にしても、織田…どっかで聞いたことがあるような…)
俺がその名字に覚えがあって記憶を辿っていると、ふと日本史で習った時の記憶をぼんやりと思い出した。
「あーっ!」
俺は思わず立ち上がった。突然のことに崇孚は驚いた。
「どうしたのだ。」
「もしかして織田ってあの織田信長の実家なんじゃないの?」
「織田信長?はて、そのような人物は聞いたことがないが…」
「えぇー超有名人じゃん。何ちゃら寺で死んじゃった人だよ。」
「何ちゃら寺と言われてもなあ。」
崇孚は頭をかしげる。
「この時代にいるはずなんだけど、まだ生まれてないのかな?」
俺はそう疑問を抱きながらも、とりあえず今は目の前のことに専念することにした。
数日後、三河国にある松平家の本拠地・岡崎城の一室。松平広忠は義元からの書状を読み終え、目を瞑り厳格な顔つきをさらに険しくさせて長考していた。
その姿から滲み出る風格と威厳はそこらの若者とは一線を画していた。
広忠は、父が家臣に裏切られ死した齢十の頃から今に至るまで当主として三河国に君臨していた。しかも東は織田、西は今川と強大な勢力に挟まれており、常に警戒をしていかなければならなかった。
ゆえに当主の風格は備わっていたし、織田と渡りあっているだけ威厳も備わっている。
とはいえ、三河国の状況は芳しくなかった。
三河国における織田の影響力は日に日に大きくなっていた。このままいけば、いずれ三河国を織田に支配されることになる。
この状況を一刻も早く打開するには、まだ話し合いの余地がある今川とより親密になり、またそれを内外に示すことが早急に必要だった。
竹千代を今川に預けることはおそらく持ちうる手の中で最善であるだろう。
今川との関係を継続するために、織田方に寝返った家の娘であった愛する妻とも離縁した。
今までそうしてきたのだし、これからもその考え方を変えるつもりはない。
どのような手段を使ってでも当家を存続させる、それほどの気概がなければ織田や今川を相手取ることなどできなかったのだ。
広忠はフウーと長い息を吐くと、筆を持って書状に対する返答を書き始めた。
「松平さんと結束を強めるのは決定事項として、なんかいい案あります?」
俺が重臣たちに問いかけると、重臣たちは考え込む。
そんな中で崇孚は俺に提案を提示した。
「殿、拙僧に案がございます。」
「どんなの?」
「松平の嫡男を人質としてこちらで預かるのはいかがでしょう。」
松平竹千代。松平の嫡男とはいえ、彼はまだ齢六の幼子である。
「…一人の父としては賛成しがたい案なんですけど。」
俺がそう嫌悪感をあらわにすると、崇孚は俺を説得し始めた。
「殿、ですがそれ以上に今川が三河国において影響力を発揮する手はないと考えまする。」
確かにその通りだった。
武力行使は松平の要請がない限り不可能であるし、かと言って仲介というのも織田と今川の仲を考えると不可能だろう。
今のところ今川にできるのは、経済支援か松平との関係を強化することぐらいだ。
「まあ確かに、今俺たちができる最高の一手ではあるか。」
俺はある程度は納得した。
すると朝比奈泰能が発言した。
「しかしながら、殿が懐疑的であれば…」
「あくまで“父“としてはね。でも“今川義元“としてはその案をやらない手はない。」
評議を終え、大広間には俺と崇孚のみが残っていた。
(にしても、織田…どっかで聞いたことがあるような…)
俺がその名字に覚えがあって記憶を辿っていると、ふと日本史で習った時の記憶をぼんやりと思い出した。
「あーっ!」
俺は思わず立ち上がった。突然のことに崇孚は驚いた。
「どうしたのだ。」
「もしかして織田ってあの織田信長の実家なんじゃないの?」
「織田信長?はて、そのような人物は聞いたことがないが…」
「えぇー超有名人じゃん。何ちゃら寺で死んじゃった人だよ。」
「何ちゃら寺と言われてもなあ。」
崇孚は頭をかしげる。
「この時代にいるはずなんだけど、まだ生まれてないのかな?」
俺はそう疑問を抱きながらも、とりあえず今は目の前のことに専念することにした。
数日後、三河国にある松平家の本拠地・岡崎城の一室。松平広忠は義元からの書状を読み終え、目を瞑り厳格な顔つきをさらに険しくさせて長考していた。
その姿から滲み出る風格と威厳はそこらの若者とは一線を画していた。
広忠は、父が家臣に裏切られ死した齢十の頃から今に至るまで当主として三河国に君臨していた。しかも東は織田、西は今川と強大な勢力に挟まれており、常に警戒をしていかなければならなかった。
ゆえに当主の風格は備わっていたし、織田と渡りあっているだけ威厳も備わっている。
とはいえ、三河国の状況は芳しくなかった。
三河国における織田の影響力は日に日に大きくなっていた。このままいけば、いずれ三河国を織田に支配されることになる。
この状況を一刻も早く打開するには、まだ話し合いの余地がある今川とより親密になり、またそれを内外に示すことが早急に必要だった。
竹千代を今川に預けることはおそらく持ちうる手の中で最善であるだろう。
今川との関係を継続するために、織田方に寝返った家の娘であった愛する妻とも離縁した。
今までそうしてきたのだし、これからもその考え方を変えるつもりはない。
どのような手段を使ってでも当家を存続させる、それほどの気概がなければ織田や今川を相手取ることなどできなかったのだ。
広忠はフウーと長い息を吐くと、筆を持って書状に対する返答を書き始めた。
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