海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

文字の大きさ
83 / 107
第七章 栄耀栄華

第七十七矢 出世

しおりを挟む
二人が座り終えるのを待って、俺は言い放った。

「単刀直入に言うね。犬丸君、藤三郎君には小姓から母衣ほろ衆になってもらいます!」

母衣衆とは馬廻うままわり衆の中の精鋭部隊のことである。
馬廻衆、それは現代で言うエリート集団である。
戦時には殿の親衛隊兼伝令の役割を果たし、平時には殿への取次や殿の警護を担っていた。
その馬廻衆の筆頭に俺は二人を選んだのだ。
その言葉を聞いた藤三郎は身を乗り出して、俺におそるおそる確認した。

「それは…真にございますか…!」
「うん、本当。」

よほど出世が嬉しかったのだろう。
俺がうなずくと、藤三郎は目を輝かせて頭をバッと下げた。

「有り難き幸せにございます!」

一方で、犬丸は浮かない顔をしていた。

「どしたの?犬丸君。」

俺がそう聞くと、犬丸は意を決したように言った。

「殿、それがしは殿の小姓としてそばにいとうございます。」
「何で?出世うれしくないの?」
「確かにそれは嬉しゅうございますが…」

犬丸はギュッと力強く手を握る。

「それがしは父上の代わりに殿をいつまでもそばで支えていきたいのでございまする。」
「そっかー。でも、いつまでも小姓っていうのも…」

俺がどうしようかと困っていると、ずっと犬丸の言い分を黙って聞いていた藤三郎が口を開いた。

「殿、こやつのわがままなど聞く必要ありませぬ。」
「なぬ?」

藤三郎の言葉に犬丸がピクッと反応した。

「おぬし今何と言った?もう一度申してみるがよい。」
「これ以上殿を困らすでない駄犬が、と言うとるのだ。」
「わしが殿を困らせておるわけなかろう。」
「現に今、殿のめいに逆らっておるではないか。これをわがままと言わずに何と言うのだ。」
「貴様…」

両者は俺がいることを忘れて睨み合う。
そこで、俺はパンッと手を叩いた。

「はいはい二人とも喧嘩はやめてねー」

両者はハッとして、ほぼ同時に俺に頭を下げた。

「すみませぬ。殿の御前でこのような見苦しいところを…」
「いやまあいいけど、あんまり喧嘩はしないでね。」

俺はそう言うと、少し黙考もっこうしてから犬丸に切り出した。

「俺なりに考えてみたんだけどさ、要は犬丸君はずっとそばで俺を支えていきたいってことだよね?」
「はい、その通りでございまする。」

俺の問いに犬丸はうなずく。

「それじゃあ小姓とかじゃなくて、範高さんみたいに重臣として俺を支えてよ。」

犬丸がキョトンとしている中、俺は話を進める。

「そっちの方が長い目で見れば、俺のそばにいられると思う。だから経験として母衣衆やってみなよ。犬丸君はちゃんと実力があるんだから。」

実力があるんだから、という言葉が犬丸の頭の中で繰り返された。

(実力がある…つまり、殿はわしに期待なさっておられるということ……)

犬丸の心はじわじわと喜びで満たされていき、ついに有頂天に達した。
犬丸は改まって、勢いよく俺に頭を下げた。

「殿!この三浦義就、母衣衆として殿の力になりますよう尽力いたしまする!」
「うん、その調子で頑張って。」
「そして、いつか殿の重臣として仕えられるような将になるため精進いたしまする!」

こうして、犬丸と藤三郎はそれぞれ新たな一歩を踏み出していったのだった。

*馬廻衆と小姓の階級は同格だったらしいです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...